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    panda_otete

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    panda_otete

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    海灯祭を終えて思ったことは鍾離先生がモテモテだったこと。

    俺の可愛い嫁がモテすぎる!旅人は、依頼の道中で居合わせたタルタリヤと共にヒルチャール狩りをしていた。
    報酬はいらないというし、仕事は楽になるので特に拒否しなかったが、また何か面倒なことに巻き込まれそうな予感がした。

    「先生のネガティブキャンペーンを行いたいと思います」
    「解散」
    「集合!」

    休憩がてらの腹ごしらえにタルタリヤが射ったイノシシを炙っていると、突然そんなことを切り出された。
    逃げ出したい。しかしよく焼けた猪肉は捨てがたい。

    「俺のお嫁さんがそりゃもう大層可愛いのは相棒も知っての通りなんだけど」
    「公子の頭がおかしいことは知っての通りだよ」
    「可愛いのは見た目だけじゃなくて中身も可愛いんだ。全方位隙なく可愛い」
    「相変わらず話を聞きやしない」
    「だから俺は困り果ててるんだ!助けてくれ!」
    「そのまま息絶えてもらって構わないよ」

    猪肉の串を抱えていち早く離れてしまった最高の友達(と書いて非常食)を恨みがましく見つめる。
    隙を伺っている旅人に気づいたタルタリヤがとるべき行動は決まっていた。
    にっこりと笑って璃月港の方を指差す。

    「場所を変えようか。瑠璃亭の個室で食べ放題」
    「行きます」
    「行くぞ!」

    ちょろ旅人とちょろパイモンであることは否定しない。


    こうして三ヶ月待ちの瑠璃亭の個室を愛しの妻のために年中押さえているタルタリヤに誘われ、旅人たちは席に着いてしまった。
    テーブルいっぱいに並んだ食事を片っ端から口に入れていく。

    「鍾離先生って凡人を名乗ってるくせに色々隠しきれてないだろ?数十年生きただけの人間が持ちえない知識があるし、目も舌も肥えすぎてる」
    「それは、まあ、あるね」
    「璃月には職人と商人、それから学者が多いけど、先生はその全てに大人気なんだ」
    「そう、だろう、ね」

    職人は自らの腕に誇りを持つ。鍾離は職人の細部へのこだわりを余すことなく見つけて褒め称える。
    商人は自らの目に誇りを持つ。良い品を並べれば、鍾離はそれを正しく見初めてくれる。
    学者は自らの頭に誇りを持つ。どんな持論でも鍾離は己の意見と知識を交えて語り合ってくれる。

    街を歩けば鍾離はあちらこちらからひっきりなしに声をかけられるのだ。
    最近では璃月港一の演者と言われる雲菫まで鍾離に意見を聞きに来るというではないか。

    「仕方ないよ、鍾離先生が魅力的なのは俺が一番よく分かってる。でもさぁ、嫉妬しないわけじゃないんだ。むしろしまくってる」
    「だからネガティブキャンペーン?」
    「そう。せめて俺と一緒にいる時くらいは近寄ってこないで欲しい」
    「公子」
    「何?」

    ごくん、と口の中にあった食べ物を飲み下し、旅人は言った。


    「子持ちと結婚したんだから受け入れなよ」
    「そりゃそうなんだけどさァ!!!」


    璃月の全てが鍾離にとっては子供に等しい。
    民から話しかけられるのは子供たちにじゃれつかれているようなもの。邪険にできるはずがない。
    今のタルタリヤの心境は子持ちのシングルマザーと再婚した男と同じだ。

    「璃月の人から嫌われたら悲しむのは先生じゃない?」
    「うぅ……」

    それは、分かっていた。
    鍾離が傷つくのは絶対に嫌だ。かと言ってこれ以上人気になってしまうのも嫌だ。
    複雑な夫心である。

    「つまり公子の方が嫌われればいい」
    「これ以上?もう底辺だと思うよ?」
    「穴を掘って埋まるレベルで嫌われるしかない」
    「でも……先生は俺のこと大好きだから、俺が嫌われると悲しむと思うな」
    「解散」
    「集合!」

    強制的作戦会議は、大変不毛であったと報告しておこう。


    ところで。
    良妻であろうと日々努力している鍾離がタルタリヤの悩みに気が付かないなどということがあるだろうか。いやない。(反語)

    タルタリヤは仕事ではともかくプライベート、特に鍾離の前では感情を素直に表に出す。
    格好つけたいことはあれど隠しごとをするつもりはない。
    だからタルタリヤの表情だけで彼がなにかに悩んでいることを察し、どうやら自分が他人から声をかけられていると不愉快なようだと結論を出した。
    文句無しに百点満点の回答である。

    解決方法は、ぬるぬるべとべとの海洋生物の駆逐に比べたら容易いものだった。


    タルタリヤと共に日課である散歩をしていた際、またしても石商の一人が鍾離に声をかけてきた。
    曰く入荷したばかりの夜泊石を見て欲しいのだという。

    いつもならば快く頷くところだが、今日は違った。

    タルタリヤの腕にそっと手を添えて身を寄せる。
    首を傾けて微笑み、努めて穏やかに、相手を傷つけないような声色で言った。

    「すまないが、今は夫との逢瀬の最中だ。話はまた後日でも構わないだろうか」

    申し訳なさと幸せそうな感情が混じり合う顔でそう言われれば、是と返す他ない。
    顔を赤らめて引っ込んだ石商を見送り、タルタリヤへ向き直る。

    「さて次へ向かおうか公子殿。……公子殿?」

    タルタリヤは目を開いたまま気絶していた。
    ちょっと、もう、あまりにも己の伴侶が可愛いので。


    旅人は妻に横抱きされながら朝の賑わう璃月港を運ばれていく情けない男を見て呟いた。

    「……だいぶ捨て身のセルフネガティブキャンペーンだなぁ」
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