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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    4/23ワンライ
    お題【心筋梗塞/依存症/いっぱい】
    世話になった呪術師の寝ずの番をする五条と夏油のお話です。微糖。

    #夏五
    GeGo
    ##夏五版ワンライ

    寝ずの番 呪術界の大家が死んだ。それは御三家にも影響が及ぶほどで、もちろん俺たち高専生も、幸せに心筋梗塞で死んだ彼の実家に通夜に行くことになった。そしてどういうわけか俺は、いや、俺と傑は寝ずの番の一人に選ばれることとなったのだった。
     寝ずの番をすると言っても、いっぱいの花に囲まれた彼を見つめる以外にはすることはなかった。あとは輝く刀に自分の顔を映し出したりとか遊ぶくらいだ。葬儀で刀を置くのは、猫を避けるためだそうだ。猫は古代より悪と描かれていて、ちょっとした隙に故人の身体を奪ってしまうのだという。でも、この人の命はまた奪われる。自然死をした呪術師は、身体の一部を奪われたら呪詛師に呼び出される可能性があるため、自然死ではない方法で二度死ぬよう、今は忙しく御三家の呪術師たちが走り回っている。滑稽だ、馬鹿らしい。でも、俺も世話になった人だった、さまざまな呪法に通じたあの人が、誰かに利用されては困る。
    「酒は持ったか?」
    「そもそも酒は効くのか? あの人はほとんど依存症だったじゃないか」
    「信じねば呪術ではないぞ」
     こそこそと話して呪術師たちが襖の向こうを走り回る。夜中の儀式に俺は参列するんだろうか? 俺はそれを望むのだろうか? 御三家にいて腐っていた自分を高専に送り出してくれた人。そんな人の最期を見るのは、辛いような、誇らしいような不思議な気分だった。
    「悟、大丈夫?」
    「へ?」
    「顔、青いよ」
     傑から声がかかった。彼は下女に出された日本酒を嗜んで、つまみも口にしていた。それで俺を心配しているのだから結構適当だ。そう思ったけれど、優しくされるのはまぁ嬉しいといえば嬉しい。
    「寒いからだよ」
    「それじゃあ私と温まることする?」
    「酔っ払いの相手をする暇はないんでね」
     俺はそんなふうに傑と言葉を交わして、彼の背中に自分のそれでもたれかかった。傑は重いとも、苦しいとも言わなかった。彼は今回死んだ呪術師とは関係がない。関係があるのは俺で、けれど一人で相対するのは少しばかり辛かった。
    「……やっぱり、酔っ払いに相手をしてもらおうかな」
    「大切な人をほっぽって?」
    「お前って本当に嫌な奴」
     俺は酒も飲めずに故人の写真を見て、整えられた顔を見た。それはまるで生きているようで、実際のところ、俺が生きかえさせたければそれは本物でなくて良いのなら可能なのだった。禁断の呪法を使えば、それは可能なのだ。
    「いつ始まるんだろうね」
    「夜はまだ早いよ、悟」
    「うん……」
     傑が死んだら、俺は寝ずの番が出来るだろうか? 彼を墓に埋葬出来るだろうか? 傑はきちんと自然に死ねるだろうか? そうしたらまた俺が殺さなくてはならない。だったら彼は任務のせいで死ぬのか? そんなの家族が悲しむじゃないか。面倒な呪法を執り行う、今回みたいな死にようが尊い人には似合っているのだから。
     それから俺たちはほとんど何も喋らず、儀式を執り行い朝を迎えた。本当に呪術師として死んでしまったあの人は、どこか穏やかに見えた。俺は傑もこうであれと思って、俺は不幸に死んでしまえと思った。そうしたらきっと、傑はずっと俺のことを思って生きていってくれるだろうから。
     そう、この時は、俺より先に恋人が逝ってしまうなんて、俺は考えてもいなかったのだった。それが俺という人間だった。そして夏油傑という男の俺の愛し方だった。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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