Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    16natuki_mirm

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 52

    16natuki_mirm

    ☆quiet follow

    さとうくんとあすのみや先生が、某遊園地併設の水族館レジャーランドでデートをするお話、BBQ編。

    #イルアズ
    iluaz.
    #さとあす
    #IF人間界

    【イルアズ/さとあす】キミは天然 空は晴天。絶好のデート日和である。
    「先生!」
     待ち合わせ場所に指定されていた駅の改札を出ると、改札の外で待ち構えていたらしい入間が手を振りながら有栖の方へと駆けてきた。
     入間は、白いTシャツの上にネイビーのシャツを羽織り、リゾート感のある綿麻の、ライトベージュのパンツを膝下あたりまで軽くロールアップしている。そんな垢抜けた――実年齢の割にはやや子どもっぽい着こなしにも見えるが、童顔故かよく似合っている――格好をしているところを見るのは初めてだったものだから、アリスは不覚にもどきりとした。
     今日はあくまでも、取材ではなく完全なオフのつもりだということが、その服装からも伝わってくる。
    「……すまない、待たせたか」
    「いえ! あの、その、先にチケット買っておこうと思って、少し早く来てたんです」
     どこか緊張している様子で、入間は少し俯いて照れ隠しのように笑った。落ち着きのない様子で両手を胸の前に持ってくると、左手に持っていた名札ケースのようなものを、両手で持ってみたり、右手に持ち替えたり、くっついている紐を指に絡めてみたりと弄んでいる。
    「それは、手間を掛けたな」
    「いえいえ! 今日は僕がエスコートする約束ですから」
     アリスがねぎらいの言葉を掛けると、入間はパッと顔を上げて楽しげに、しかしどこか得意気にも見える表情で答える。それから、手にしていた名札ケースのようなものを改めて持ち変えると、二つあるらしいそれのうち、一つをこちらに向かって差し出した。クリアケースにヒモが取り付けてあり、中には、パスポートと書かれ、今日の日付が刻印された紙がぺろりと一枚入っている。どうやらこれがチケットらしい。
    「さっ、行きましょう!」
     元気よく行く手を指さす入間に促され、チケットケースを首にぶら下げながら、有栖は目の前に伸びる大きな橋の方へと歩き始めた。



     作家である有栖と、その担当編集者である入間が、なぜ二人でこんなところ――つまり、一つの島まるごとが水族館と遊園地が合体したようなレジャー施設になっている、一大観光スポット――に来ているのかと言えば、取材、ではなく、純粋に、二人で遊びに来ているのだった。
     本来の有栖は、仕事上の取引相手と仲良く遊びに行くような性質ではない。が、相手が入間となれば話は別だ。
     他の編集者とは違い、有栖の心の内側へとぐいぐい入ってきては、ニコニコと嬉しそうに作品を褒め、次が楽しみだと笑う一方で、出来が悪ければ容赦なくイマイチだと言い切る、そんな態度にいつの間にかすっかり気を許した有栖は、しかし、自分の抱いている好意に名前を付けあぐね、どころか、「君ともっと仲良くなりたいのだ」ということすら素直に伝えられないまま、せっせと食事を奢ったり、取材を言い訳に二人で出掛けたりしていた。
     ところが、当の入間の方から、「一緒に遊びに行きませんか」と誘われ――たということに、有栖の中ではなっている――、棚からぼた餅渡りに船、ということで、入間が編集長に秘密で締切を融通してくれて予定を空けたこの土曜日、晴れてデートにこぎ着けたと言うわけだ。


    ………


     やや急ぎ足に水族館を見終えて出てきてみれば、時刻はちょうど昼時だった。
     二人は狙いを付けていた食べ放題海鮮バイキングの店へと真っ直ぐ向かう。
     園内のレストランが集まる一角にその店はあった。小さな建物を中心にして、屋外にバーベキューグリルを備えた机がいくつも並んでいる。数え切れないほど机があるのにも関わらず、その机の殆どに人が居るか、予約済みの札が付いていた。
     これは並ぶだろうかと懸念しながら、受付があるらしい中央の建物に入ってみれば、カウンターに出来た列は存外スムーズに流れていた。
     列になってはいたが、一組レジが終われば次の組がすぐに案内されていき、いつまで経っても列が進まないということはなく、十数分程度の待ち時間でレジの順番が回ってきた。どうやら、入ってきた方角からは見えなかった建物の裏手にも机は山ほどあるらしく、席にはまだまだ余裕があるらしい。
     食べ放題を注文して、通されたのはオーシャンビューのテラス席。大きな机を挟むようにベンチシートが二つ用意されて、その横には一抱えほどあるバーベキューグリルが据え付けてある。簡易な屋根が付けてあるので日差しも遮られ、海風が心地よい。
     二人は各々、手近な方のベンチシートを己の席と定めて、鞄を下ろした。
     やれやれ、と、水族館を歩き回り、受付で暫く立ちっぱなしになっていた疲れを吐き出すように有栖がため息交じりに呟く一方。
    「じゃあ、先生は荷物見ててください!」
     入間の方は一息吐く間もなく元気にそう言って、有栖の返事も聞かずにレストランの建物の方へと取って返して行った。どうやら具材は先程の建物から取ってこなければならなかったらしく、ここからだといささか距離がある。多分、その距離を有栖に歩かせるのを避けようとしたのだろう。
     しかし、二人の荷物など幾ばくも無い。席には使用中の札を置いたのだから、二人で荷物を持ったまま取りに行ったって何も問題ないというのに。
    ――律儀というか、気が利かないというか――
     ベンチに腰を下ろした有栖は一人、海を眺めながら唇を尖らせる。一人で待たされるのは、体力こそ使わずに済むかもしれないが、そう楽しいものではない。どうせなら、二人で一緒にどれを取ろうかだの、どれが美味しそうだの、そんな話をする方が余程楽しいだろうに。
     しかし、元気よくレストランの方へ駆けていく入間の背中に声を掛けて引き留め、私も行く、と言うだけの度胸――或いは素直さ――を、有栖は生憎と持ち合わせていなかった。
     係の人がやってきて、グリルに炭を足してくれる。ぱちぱちと炭火の立てる音を聞きながら、凪いだ海の向こうに霞んで見える対岸に目を遣っていた。薄らと四角い建物が建ち並んでいるように見える。あれはどこの建物が見えて居るのだろうか。目の前の海は湾になっているはずだから対岸のどこかなのだろうが、具体的にどの地域のどの辺りの景色が見えているのか、地図上で知り得ていることを、実際の景色に当てはめて考えるのはいまいち苦手だった。
     そんな詮無いことを考えて時間を潰していると、そのうちに、視界の端に肉の山がこちらに近づいてくるのが見えた。……もとい、山盛りの肉やら魚やらを載せたトレイを手にした入間が戻ってくるのが見えた。
    「……全部食べる気か?」
     どすん、という音すら聞こえそうな物量が乗ったトレイが机の上に置かれるのを見ながら、呆れ交じりの声で聞いた。すると、入間はきょとんとした表情を浮かべた顔を有栖の方へと向ける。
    「えっ、残ったら困るから、少し控えめにしたつもりなんですけど……」
    「……まあ、食べきれるなら構わんが……」
     信じがたい入間の言葉に、返す言葉を失いかけながらも辛うじてなんとか答える間に、入間は上機嫌な様子でトレイに乗せてきたタレの入った紙皿やら割り箸やらを自分の分と有栖の分とに取り分け、金属製のトングをカチカチと鳴らしてみせる。
    「ささ、焼きましょう焼きましょう!」
     生ものを触るときはこっちのトングで、焼けたものを引き上げる時はこっちの形のトングだそうですよ、とハウスルールを教えてくれながら、入間は手にした生もの用らしいトングで、皿の上に大盛りになっている肉やら魚介類やらをぽんぽんグリルの網の上に載せていく。
     十分に熱されていた網の上に置かれた食材は、すぐにジュウッと美味しそうな音と香りを立てて、あっという間に色を変え始める。しばらく様子を見てから、ひっくり返して、焼けたもの用のトングに持ち替えて、自分の皿と有栖の皿に均等になるように取り分けてくれた。
     そして、食べている間に焼けるようにと、次の食材をグリルへ載せる。
     有栖は一度手を合わせてから、取り分けて貰った分の肉やら魚やらを口に運んだ。
    ――これは、彼の手料理、ということになるのだろうか……
     「料理」と呼ぶには、入間が担当しているのはあまりにもシンプルな工程だけなのだが、「デート」というシチュエーションに浮かれている有栖は、すっかり自分の妄想に夢中である。
     手料理、の三文字を脳裏に浮かべながら、皿の上に取り分けられている食材を頬張る。ほどよい焼き加減に仕上がった肉に、サーモンの切り身、ホタテ貝に、肉に、魚、海老、肉、肉、にく――
     ――多い。
    「……そんなにバカスカ食べられるか。半分で良い」
     流石に我に返った有栖は、まだ大量の食材の残る皿にさらに肉を載せようとしていた入間を制した。入間の皿にもまだ食材は載っているが、食材を焼く合間に上手く食べているのだろう、有栖の皿よりは随分と少ない。
    「えっ、そんなちょっとで大丈夫ですか?」
    「……半分でもまだ多いが?」
     ホラ見ろまだこんなに皿に載っているのだぞ、と言わんばかりに皿の上を箸の先で示して見せながらそう言うと、入間は、う、と言葉に詰まった様子で有栖の皿に載せかけていた肉を自分の皿へと載せた。
     それから、肩を落として、言い出しにくそうに口籠もってから、おずおずと口を開く。
    「……あの、薄々思ってたんですけど、僕って食いしん坊ですか?」
    「……薄々だったのか……」
     短い沈黙のあと、有栖はため息交じりに答えた。
     入間と仲良くなるために「餌付け」という手段を取ろうと有栖が判断する程度には、入間はわかりやすくよく食べる。美味しそうに、幸せそうに。……それを「食いしん坊」と言わずに何と言おうか。
    「いや! だって! 学生の頃はみんな同じくらい食べてたから!」
    「この歳になっても学生と同じだけ食べていたら、それは大食漢だ。……ほら」
     呆れた様に言ってやりながら、有栖は自分の皿の中身を入間の皿へと幾ばくか移して、食べきれそうな程度に皿の上を減らす。
     流石に入間も、皿の上を片付けてから次を焼こうという気になったらしく、生もの用のトングを手放した。
     しかし、まだまだ焼いていない食材はトレイの上に残っている。ずっと入間にグリルを任せていた引け目もあり、有栖は机の上に投げ出されたトングを手に取った。
    「あっ、す、すみません、僕焼きますよ!」
     入間が慌てた様にトングに向かって手を伸ばすが、有栖はひょいと腕を持ち上げてそれを躱した。
    「君は大人しく食べていろ。一々君が食べ終わってから焼いていたら時間までに片付かん」
    「あっあっ……はい……」
     まだ山盛り残っている食材にチラリと目を遣りながらそういうと、入間は反論できないという様子で箸を手に取る。
     おそらく、有栖が自分と同じくらいは食べるだろうという前提で持ってきてしまったのであろう食材は、食べても食べても無くならない。多少は減ってきているが。
     黙々と食べている入間の皿に、焼き上がった肉を載せてやる。ありがとうございます、と言いたいのだろうが、口にものが入っているから喋れない、という感じで入間はひょこりと頭を下げた。
     入間の皿に三枚の肉を載せたら、自分の皿に一枚載せる程度のペースで自分の分も多少は確保しながら、次々食材をグリルへと載せていく。薄くスライスされた肉はものの数十秒で火が通ってしまうので、焼きすぎず、かと言って生焼けにならないように、タイミングを見計らいながら、二本のトングを駆使して食材をあっちにやりこっちにやりしているうちに、少しずつ効率の良い手順が分かってくる。すると今度はそれを崩したくなくて、せっせと食材をグリルに載せては引き上げることを繰り返す。どうにも根が凝り性なのだ。
     しかも、そうやってテンポ良くやっていると、なんとなく、焼き上がるそばから入間の口に消えていくリズムが出来てくる。それが愉快で、有栖は一層焼くのに熱心になる。
    「あっ、先生、さっきから焼いてばっかりで食べてないじゃないですか!」
     どれほどそうしていただろうか、いつの間にか、控えめに取り分けていたはずの有栖の皿にも、ある程度まとまった量の肉やら野菜やらが載っていた。
     すっかり入間に食べさせることに夢中になっていた有栖は、やっと自分の皿の状況に気がついた。しかし、既にある程度の量は食べているし、焼いている、というか、入間が食べているのを見ている方が楽しいし、このペースで焼かないと制限時間内に到底食べきれない、となれば、自分が食べるのは後回しである。
    「構わん、適当に摘まむ」
     良いから食べていろ、と言いながら、ルーチンを崩さないよう、焼き上がった食材をグリルから取り上げ、入間の皿に載せ、次の食材をグリルへ置く。
    「えっ、でもほら、冷めちゃいますし……あ、じゃあこうしましょう!」
     と、やおら入間が立ち上がった、かと思うと、テーブルをぐるりと回り込み、有栖の隣に座り直す。
     突然すぐ横に座られた有栖は動揺に目を白黒させるけれど、入間はお構いなしに、もぞもぞと座る位置を調整した。
     そして。
    「はい、どうぞ!」
     有栖の皿の上の肉を一切れ摘まむと、それを有栖の口元に向けて差し出してくる。
     所謂、「あーん」の態勢である。
    ――は?
     有栖の脳内は至ってシンプルに真っ白になった。
     何が起こっているのか分からないまま呆然としていると、入間は箸で摘まんだ焼き肉を強調するように、さらに有栖の方へと近づけてくる。
    「ほらほら、冷めちゃいます! 熱いうちに!」
    「……?!」
     すぐ唇の目の前まで持ってこられるに至っては、もう受け入れるしかなく、有栖は間抜けに口を開けた。
     すると、そこに香ばしくジューシーな塊が放り込まれる。
     口を閉じる。咀嚼する。飲み下す。肉だ。
     ――味はよく分からなかったが。
    「い、いいから、食べろ!」
     未だに混乱が収まらないまま、有栖は乱暴に言い捨て、視線を逸らすようにしてグリルの方に意識を集中させた。そうでもしなければ卒倒しそうだ。
    「はーい!」
     入間は素直に返事をして、再びもぐもぐと自分の皿の分に取りかかったらしかった。
     しかし、しばらくするとまた、有栖の皿の上のものを取り上げて、口元へと運んでくる。
    「じ、自分で食べられる……!」
     だから止めろ、という意図を込めて入間を睨むようにしながら言うけれど、入間は至って平然と、ニコニコとした表情を崩さない。
    「だって、食べてないじゃないですか。ほらほら、食べないと無くならないんですよね!」
    「……っ……!」
     そう言われてしまえば、有栖には反論できない。
     黙って口を開く。食材を受け入れる。咀嚼して、飲み下す。
     こうなれば、入間に食べさせられる前に自分で、と思うのだが、しかし、一度真っ白になってしまった有栖の脳味噌では、焼きのルーチンを崩さないようにしつつ、入間を牽制しつつ、自分の分の料理を摘まむなんて高度なことは到底できない。上に、焼き続け無ければ制限時間内には到底食べきれそうにない。
     有栖は、自分の皿の上が空になるまでの辛抱、これ以上自分の皿には何も載せなければ良い、と、入間に差し出される食べものを受け入れながら、無心にグリルと向き合った。
     しばらくすれば自分の皿の上はすっかり空になり、これでやっと緊張から解放される、と思ったのもつかの間。
     抜かりなく、有栖が自分の分を取り分けなくなったことに気付いた入間は、今度は自分の皿に盛り付けられた分の一部を、有栖に分け与え始める。
    「美味しいですね!」
    「……あ……ああ……」
     にっこりと笑う入間に、絞り出す様な声で辛うじて答える。
     しかし。
    ――味なんて、わかるか!!
     有栖は声にならない悲鳴を上げた。



     有栖の頑張りの甲斐あって、なんとか二人は時間内に、持って来た全ての食材を完食することに成功した。
     ――ちなみに、時間内に食べきれなかったとしても、追加料金を払えば延長ができたのだ、ということを有栖が知るのは、食器類を片付けに、受付のある建物へと戻ったときのことだった――
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖👏👏👏👏👏💙💖💙💖💙💖☺☺☺💞💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    16natuki_mirm

    DONE1/28の悪学で無配にしたセパソイです。イルアズしてるイルマくんに片思い?しているソイソイと、そんなソイソイに片思いしているセパくんによる、いつかセパソイになるセパソイ。
    【セパソイ】あなたと、あなたのすきなひとのために「先輩」
    「ぅわっ!」
     突然後ろから声を掛けられて、ソイは思わず羽を羽ばたかせた。
     ちょっぴり地面から離れた両足が地面に戻って来てから振り向くと、そこには後輩であるセパータの姿があった。いや、振り向く前からその影の大きさと声でなんとなく正体は察していたのだけれど。
    「……驚かせましたか」
    「……うん、結構」
    「すみません。先輩、自分が消えるのは上手いのに、僕の気配には気づかないんですね」
     セパータが意外そうな顔を浮かべる。それに少しばかり矜持を傷付けられたソイは、ふいっと顔を背けると、手にしていた品物へと視線を戻した。
    「……自分の気配消せるのと、他人の気配に気づくが上手いのは別でしょ。……いやまあ、確かにね、気配消してる相手を見付けるのも上手くないと、家族誰も見つからなくなるけどうち。だから普通の悪魔よりは上手いつもりだけど、今はちょっと、こっちに集中しすぎてただけ」
    5097

    related works

    recommended works