シン・ヤマトになりました!(笑)「キラさん!明日エイプリルフールだしネタ仕込みましょう!」
そう言って、シンにおもちゃの指輪を差し出されたキラは首を傾げる。
「……この指輪でどうするの?」
「こうやって、薬指にはめて『結婚しました!』って写真撮るんですよ!」
芸能人が結婚発表などでよくしているように、シンが指輪をはめた手を見せびらかす。自信満々なシンに苦笑しながら、キラも同じように薬指に指輪をはめた。
「いいけど、こんなの誰も信じないよ」
「だから良いんじゃないですか!」
安っぽいおもちゃの指輪に男同士。誰も信じる訳がない。シンもキラもそう思って気楽に笑っている。
「ルナマリアに怒られても知らないよ?」
「大丈夫ですって!だってエイプリルフールですよ?」
「それもそうだね」
可愛い部下が楽しそうにしてるし、少しぐらい悪ふざけに付き合ってあげても良いかな?とキラは軽い気持ちで引き受けてしまった。
『俺達結婚しました!今日からはシン・ヤマトでお願いします!』
翌日、4月1日の午前中にシンが友人達に写真を添えたそのメッセージを一斉送信した途端、キラとシンの端末にはぞくぞくと驚きとお祝いのメッセージが届いた。
『キラ!?これは一体どういうことだ!?何故ラクスではなくシンと!?いや、それより結婚などと重要な事を姉である私に一言の相談もなく……』
「カ、カガリ落ち着いて!それエイプリルフールの冗談だから!」
シンがメッセージを送信してから数分とたたずに、オーブにいるカガリが時差をものともせずにキラに電話をかけてきた。その剣幕にたじたじになりながら、キラは何とか弁明する。
『何?エイプリルフール?』
「そうだよ。今日は4月1日でしょ?写真もよく見てよ。指輪だっておもちゃなんだし!」
『……言われてみれば、安っぽいな、コレ。……なんだ。そんなことか!すまんな!だがお前も紛らわしい真似をするな!』
「ご、ごめん」
『まあいい。たまにはオーブに帰って来いよ?おばさま達も心配してるんだからな!』
「うん、わかった。ありがとう」
カガリからの電話を切り、深くため息をつくキラの端末には今も未読のメッセージが溜まっていく。
「……ねぇ、どうしよう、シン。なんか、すごい信じられちゃってるんだけど……」
シンの元にも「お前、とうとう婿入りしたのか!?おめでとう!!」とメッセージが入っており、シンもなんで信じてんの?と頭を抱えていた。
「キラさんがちょっと照れ笑いしてるのが、真実味増しちゃったみたいッスね……」
「だって、なんか恥ずかしかったし」
キラの肩を抱いて満面の笑みを浮かべているシンと、はにかみながら薬指にはまった指輪を見せているキラの写真はとてもそれっぽかった。
「キラ!!結婚ってどういうことだ!!それもシンとだなんて!!」
「アスラン!?なんでいるの!?」
ターミナルで諜報活動をしていて、連絡すらままならないことも多いアスランが、いきなり部屋に駆け込んで来た。
真っ先にキラに電話をしてきてもおかしくないと思ってはいたが、直接怒鳴り込みに来たらしい。
「ちょっとシン!私は遊びだったの!?」
「ルナ!?待てって!誤解だって!!」
そんなアスランを押し退けるように休暇で実家に帰っていたルナマリアが私服で駆け付けて来た。
「……お二人とも、もちろんわたくしにもご説明いただけますよね?」
「ラクスまで……」
そのルナマリアすら押し退けて、コンパス本部で仕事をしているはずのラクスが静かな怒りを漂わせながら微笑んでいる。
「ねえ、みんな落ち着いて。ただのエイプリルフールの冗談だよ?」
怒りをあらわにしている三人をなだめようと、キラがそう言ってみるも、三人の怒りはおさまらず、鋭い視線をキラとシンに向けている。
「言って良い冗談と、悪い冗談があるだろう!?」
「私だって信じたくなかったけど!あんたがいっつも隊長ばっかり優先するから!もしかしたらって思っちゃうじゃない!」
「エイプリルフールの嘘とは、誰も傷付けてはいけないのです。わたくしは傷付きました」
「ご、ごめんなさいっ!」
「すみませんでした!!」
アスランとルナマリアとラクスのそれぞれの迫力に押されて、キラとシンは仲良く謝った。
「怒られちゃったね?」
「……はい。来年は怒られないネタ考えます!」
「ふふ、頑張って」
「シン!良いから早く訂正しろ!」
「あんたに言われなくってもわかってるよ!」
懲りないシンはアスランに怒鳴られて、反射で怒鳴り返しながらポチポチと訂正のメッセージを打ち込んだ。
『俺とキラさんが結婚したのはエイプリルフールの冗談です。これからもシン・アスカでよろしくお願いします』
そう一斉送信されたシンのメッセージに、大半は「なんだ、やっぱり」と笑っていたが、何故か一部ではただの照れ隠しと思われて、いつまでたっても冗談だと信じて貰えなかった。
冗談か本気かはわからないが、時々シン・ヤマトと呼ばれたシンは、口では「アスカですよ!」と言いながら正直悪い気がしなかった。