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    PoisonOakUrushi

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    きじあまで好きと愛してるの違いとは

    #NG
    #鬼島空良
    onijimaKora
    #天生目聖司
    born-eyeSeiji
    #きじあま
    brownBear

    好愛 一般的に休日は休みの日だが、天生目にとっては家業に関わる仕事を熟す仕事日である。まだ未成年なせいで、自分が起こした興行や情報収集だけでは有るが、使える組員に指示を出していくだけでも時間はあっという間に過ぎ去った。
     今日も朝から働いて、一息ついでに親友の様子でも見に行こうかと、古く狭く汚いアパートの一室へ足を向けた。
    「僕だよ、空良」
     ドア越しに声を掛けると、天生目?、と呼ばれた後に、開いてるぞ、と声が続く。
    「空良、こんなボロアパートとは言え、鍵も掛けないのはちょっと不用心じゃないのか? まぁ、キミなら泥棒の一人や二人、どうとでもなるんだろうけどさ」
     遠慮無く上がりつつ、揶揄い混じりに小言を言うも、部屋の主人たる鬼島はテーブルに肘を突いて、何処か上の空で生返事をするだけだった。物珍しい親友の姿に、天生目が首を傾げる。
    「どうしたんだい、空良? ガラにもなく、考えごとかい?」
     向かいに座りながら心配半分、好奇心半分の天生目が問い掛けると、真剣な鬼島の目にじっと見詰められた。その雰囲気に只事では無い何かが起きたのかと過り、天生目も表情も次第に固くなる。
     緊張する空気の中で、鬼島が厳かに口を開いた。
    「天生目、〝好き〟と〝愛してる〟の違いって何だ?」
    「…………は?」
     神妙な面持ちで発せられた質問を天生目は理解出来ず、一言疑問符を返すのがやっとだった。鬼島の方は既にまた長考に戻ったのか、眉を顰めて口を噤んでいる。
     天生目の脳内をぐるぐると言葉が回り、思考を邪魔する。無理矢理頭を動かそうとするが、次は何故鬼島がそんな事を言ったのかと言う懸念だけが膨らんでいった。
    「……驚いたな、君がそんなことを言うなんて。堅物の男にも、ようやく春が来たのかな?」
     引き攣りそうになる顔を必死に繕って、何処の誰だかを聞き出そうとするも、腹の底から沸く苛立ちで言葉を荒らげそうになる。だが、鬼島は天生目の予想と違い、眉間の皺を更に深くして嫌そうな表情を浮かべた。
    「くだらん馬鹿を言うな」
     鬼島の台詞に天生目の怒りが飛散する。様子を見ても誤魔化しでは無く本気のようで、想定した事態は起きていないらしかった。
    「怒るなよ、親友」
     安心した天生目はホッと胸を撫で下ろして、へらりと笑う。だが、話の全貌が見えない限りは油断出来ず、困った振りをして眉を下げた。
    「急に聞かれても話についていけないさ。最初から説明してくれよ」
     しおらしく言えば鬼島は、はたと気がついた表情を浮かべた。
    「愛海に聞かれてな」
    「おおっと」
     驚きで思わず呟きが大きくなる。愛海は鬼島の義妹。人付き合いの悪い鬼島でさえ義妹は可愛いらしく、甘やかしてよく面倒を見ている。まだ小学生とは言え、高学年ともなれば初恋の一つや二つはあっても可笑しくは無い年齢だ。兄バカの素質が有るのに、直接質問された鬼島は結構な衝撃を受けたんじゃないかと、天生目は少しばかり同情した。
    「友達と英会話教室の体験に行ったらしい」
    「へぇ。駅前留学とか、ちょと前から流行ってるもんな。キミより愛海ちゃんの方が、どんどん賢くなる」
    「うるせぇ」
     天生目のガヤに反応はするも、鬼島はバツが悪そうに顔を顰めた。
    「で、簡単に物の名前とかだけじゃなく、歌に使われやすい言葉も習ったらしい」
    「なるほど。子供相手だから、実用性より親しみやすい単語を選んだのか」
    「それで、昨日クラスで他の友達とその話になったとき、一緒に行ったヤツが別の友達に言ったんだと」
    「なんて言ったんだい?」
     なんとなく先の読めてきた天生目だったが、邪魔はせずに鬼島の続きを促した。
    「〝アイ ラブ ユー〟ってさ」
     一瞬、天生目の心臓が強く脈打つ。誰宛でも無い、唯の文脈だと分かっていても、妙な緊張に拳を握る。
    「そしたらクラスの男子が〝女同士で告白してる〟って騒ぎだしたんだと」
    「男子がからかってきたって訳だ」
     まだ続く胸のドキドキから目を背けようとして、天生目も言葉を挟む。気が付いていない鬼島は、会った事もない小学生男児に対する若干の苛つきに、眉を吊り上げている。
    「どうも、愛海達は〝物ならライク〟〝人ならラブ〟って習ったらしくってな。喧嘩にはならなかったらしいが……」
    「かわりに〝ライク〟と〝ラブ〟つまり〝好き〟と〝愛してる〟の違いは何か、ってなったのか」
    「ああ」
     鬼島が困り顔で大きな溜息を吐く。真面目な彼の事だから、質問されてからずっと考えているのだろう。自慢の腕っ節では役に立たず、途方に暮れていたのが目に浮かび、天生目の口角が緩む。
    「とんだことに巻き込まれたな、空良」
     他人事の天生目から笑みが滲み出る。それを見た鬼島は苦々しく顔を歪めた。
    「天生目。笑ってないで、おまえも考えろ」
     最早、白旗状態の鬼島が不貞腐れた様に頬杖を突く。懸念には擦りもしない出来事に、心から安堵した天生目は余裕を持って微笑んだ。
    「仕方ないなぁ。借り一つだよ、親友」
     僅かに皺を深めただけで変わらずに考え続ける鬼島に倣って、天生目も考え始める。しかし早々に、小学生には難しい哲学的話題では?、と気が付いた。何より、学力で愛海に負ける鬼島が上手く説明出来るのか、も心配になる。
     どう説明するか、より、どう説明させるか、を考えながら鬼島へと視線を移した。頬杖で俯き加減に軽く目を伏せた表情は学校で見た事も無く、賭け試合中とも違う真剣さを帯びていて、整った顔と相まり目が離せなくなる。暫く眺めていると、視線を感じたらしい鬼島が不意に天生目へ横目を寄越す。流し目みたいな仕草に、一度胸が高鳴った。
     鬼島が何かを言うより先に、天生目が慌てて口を開いた。
    「ありきたりだけど、〝好き〟よりも深い? 重い? まあ、進んだとか、次の感情ってところじゃないか?」
    「……次?」
     ぽかんと目を瞬く鬼島が、繰り返して首を傾げる。それに釣られて天生目も首を傾げた。
    「君の〝好き〟なものと〝愛してる〟ものを当てはめれば、わかりやすいんじゃないか? どちらも、一緒に過ごしたら楽しいけど、〝愛してる〟方は触れたいとか、声を聞きたいとか思うだろ? 例えば那津美さんに呼ばれれば嬉しいし、愛海ちゃんなら頭を撫でてあげたい、みたいな」
    「なるほど?」
     今一理解しきれていない声色だったが、納得したらしい鬼島は何かを考え始める。おそらく、少ない交友関係を振り分け始めたであろう、と天生目は当たりをつけた。
    「ちなみに、僕は君のことを〝愛してる〟よ、親友」
    「あ?」
     思考を中断させた鬼島が不思議そうに動きを止めたが、直ぐに眉を寄せた。
    「こんがらがるようなことを、言うんじゃねぇよ」
    「つれないなぁ」
     笑顔のまま大袈裟に肩を竦めて見せるも、鬼島は目を閉じて集中し始めた。その様に安堵と虚しさが混ざり合う。冗談としてでしか伝えられない自分の弱さに天生目が溜息を吐くと、ぱちりと鬼島が目を開いた。
    「ダメだ天生目。その考えだと、俺もおまえのことを〝愛してる〟ことになる」
    「……え?」
     突然の返しに天生目は反応出来ず、呆然としていると鬼島は疲れ切った様子で、腕を枕にテーブルに突っ伏してしまった。諦めずに唸ってはいるものの、発言を気にする素振りもない。言われた天生目は耳から消えない鬼島の声のせいで、徐々に心拍数が上がり体が熱くなる。
     最早何も言えずに、絶対に赤くなっている顔を隠そうと、両手で覆う事しか出来なかった。
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    PoisonOakUrushi

    PASTきじあまでホワイトデー
    我儘 ペラペラと捲る雑誌は格闘技の記事ばかり。そもそもが、そう言う雑誌だけを買っているのだから当たり前なのだが、求める答えやヒントの無さに、がっかりと溜息を溢す。
    「って」
     後頭部への軽い衝撃に振り向けば、ベッドの上を陣取る天生目に、蹴飛ばされたらしい。本で顔を隠しつつも隠れない不機嫌な気配に、言いたい事は山とあれど、撤退を余儀なくされる。
     どうやら溜息がお気に召さなかったのだろうと見当は付くが、そもそもの不機嫌の理由には心当たりが無く、鬼島は眉を潜めて雑誌へ向き直ると、読んでるフリをしながら必死にこれ迄を振り返った。
     今日の朝は、ホワイトデーとは男性が女性に菓子を贈る日ではなかったかと、なけなしの知識で鬼島は首を傾げていた。とは言え、鬼島に手作りのクッキーをくれたのは、義母の那津美と義妹の愛海である。何くれとなく心配をして世話を焼こうとする那津美から、何かに付けても付けなくても、差し入れをされる事は多々あるので、礼を言いながら受け取った。その量が若干多い気がしたが、クッキーを見る愛海の目の輝きで、理由は直ぐに理解した。元々、甘い物は得意で無い事も有り、食後のデザートとして活用される事が決まった瞬間である。
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