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    まめだぬき

    @mamedanuki__hp

    書いてはみたけど支部に投げるのは考えちゃうものを置いておきます。

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    まめだぬき

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    ※派生、トルペの不調、キャラ崩壊注意

    団トルです。不穏にしたかったのですが、団トルトラップに引っかかり見事にいちゃいちゃしだしました。
    派生、トルペの耳が片方聞こえない描写がございます。苦手な方はご注意ください。

    長いことお待たせしてしまい申し訳ございませんでした。マシュマロでも依頼をいただいていたので、申し訳ございませんがこちらのお話で回答とさせてください。

    団トル子供の頃、高熱で倒れたことがあった。心の底からピアノを楽しめていて、まだ世の中の残酷さを知らない無垢な生き物だった。夜中にもかかわらず両親が必死に駆けずり回り、大金を叩いて医者を呼んでくれたおかげで、トルペは一命を取り留めた。
    しかし、代償は大きかった。ピアノを弾くために必要な聴力を、半分失った。左耳が聞こえなくなったトルペは、呆然とこちらを見つめる両親のありありと絶望を読み取れる顔を見て、泣けなかった。悲しい気持ちもあったし、この先片側では何も聞き取れない一生を、神様を、恨んだ。だが、自分以上に悲しそうな顔をする両親を前にすると、自分にはそんな風に泣く資格は無いと思った。お金を払って医者を呼んでくれたのは彼らであって、自分ではない。それからトルペは泣くのをやめた。

    トントン、と軽い音が響く。指揮棒で譜面台を叩いた団長は、周りの様子を見て慌てて鍵盤に指を乗せるトルペを見て小さくため息をついた。彼の事情は知っている。それで苦労したことも、心ない言葉を吐かれたことも、人間関係に悩んだことも、本人から何となく聞いている。トルペに対して悪い感情を抱いたことは無いし、むしろ恋愛的な意味での面倒な想いを抱えている団長は、若干居心地の悪そうなトルペの様子を密かに心配していた。
    耳にハンデを持ったまま楽団で演奏を続けるトルペの根性は、純粋に尊敬している。誰に泣き言を言うでもなく黙々と練習を重ねるトルペは、楽団員たちからも気に入られて弟のように面倒を見てもらっていた。楽団員たちに見せる申し訳なさそうな笑顔が多少引っかかるが、彼の性格を考えるとそれも仕方ないだろう。
    普通より大きな声で話しかけられてようやく、トルペは聞き取ることができる。団長もなるべくトルペの左耳、彼の聞こえる方の耳側から話しかけるようにしていた。「耳が片方聞こえなくても、入団試験は受けられますか」と涙目で問われたので、合格を伝えた際にどちらの耳が聞こえないのかを教えてもらったのだ。彼を気遣うことができる大人の余裕を見せたかったのと、少しでも優しくすればあわよくば楽団の中で一番懐いてもらえるのでは、という拾ってきたばかりの猫に接するような下心があった。
    団長はタクトを構えて、それを優しく振り上げた。誰よりもその細い棒を凝視してタイミングを窺っているのは、いつもトルペだった。
    ユーフォニアムの柔らかい中音と、トランペットの力強い高音が響き渡る。軽快にタクトを振る団長は、スコアを見て少しだけ表情を固くした。八小節後にはパートがフルートとピアノに引き継がれる。この曲を合奏するのは今日が初めてで、フルートの澄んだ音はホールに反響して拍を掴みにくい、とトルペが以前漏らした言葉も思い出される。
    ペラリ、とページを捲る。瞬間飛び込んできたのは、小鳥の鳴き声のように繊細な横笛の音と、それに絡み合うように、子を寝かしつける母親の歌声を思わせるピアノの演奏だった。
    やはりトルペくんはやってくれるね、と団長の顔が安堵で微笑む。いつだって、トルペはピアノを完璧に仕上げてきていた。人より部品が足りない分頑張らないといけないんです、とあの日はにかんだ彼の顔は、ピアノと向き合う強い意志と信念を感じた。
    無事に自分の役目を終えたトルペを確認して、ようやく団長は他の団員たちに目を向けることができるのだった。
    ***
    「愛しているよ、トルペくん」

    右耳に飛び込んできたのは、蕩けそうなほど甘い愛の囁きだった。トルペは紅く色づきそうになるのをグッと堪えて、その言葉を無視した。素知らぬ顔で隣を歩いているのは、人として尊敬し、トルペが初めて恋心を抱いてしまった相手、団長だった。
    トルペは初対面の相手に、聞こえる耳と聞こえない耳を逆に教えるようにしていた。子供の頃は正しい方を教えていたし、実際その方がコミュニケーションは取りやすい。聞こえやすいことに越したことはないと、思っていた。
    しかし、現実はトルペを突き放した。歳を重ねるにつれ、周囲の子供たちは悪知恵を身につけていった。聞こえないのをいいことに、トルペの左耳に向かって酷い言葉を吐きかける連中が増えたのだ。いくら聞こえないといえど、声量によっては右耳まで届く声もある。「馬鹿」「ノロマ」「泣き虫」そんなのは慣れっこだった。しかし、「死ね」と聞こえてきた時は驚き、絶望した。自分には生きている価値が無いと知り、それから数日間トルペは物を口にできなかった。
    そんなことがあると知ってから、トルペはわざと「右耳が聞こえない」と言うようになった。右耳に悪口を吹き込んでくる輩からすぐに距離を置けるように、必死に考えた策だった。結果それが功を奏して、トルペは比較的快適な人間関係を築くことができていた。自分を気遣って左耳の方に話しかけてくれる友人には、ひたすら申し訳ないと感じていたが。
    そんなトルペの行動が裏目に出たのは、いつからだったか。ピアノの練習を見てもらっている時に突然団長の顔が近付いてきたかと思うと、右耳の側でいきなり「大好きだよ、トルペくん」と囁かれたのだ。驚きのあまり反応すらできなかったことが唯一の救いだったが、その後団長は何事も無かったかのように「髪に埃が付いていたよ」と微笑んでいた。トルペにとって、謎でしかなかった。
    意味が、分からなかった。揶揄いたい、罰ゲームか何かでイタズラをしたいなら、わざわざ聞こえない方の耳に言う意味が無い。まさかバレている?しかし、団員の誰にもそんなこと疑われたことがない。結局その日、トルペは「あれは誰か他の人への告白の練習だったんだ」と結論づけた。相手はクラリネットのあの人だろうか。それともホルンのあの人だろうか。もしかして別の場所での知り合いだろうか。団長さんはお酒も嗜むらしいし、行きつけのバーで出会った誰かかもしれない。でも、団長さんならきっとどの女性ともお似合いだ。トルペはそう考えて心を落ち着けた反面、好かれているのが自分ではないことにほんのりと寂しさを感じていた。
    しかし、その気持ちもすぐに裏切られるようになる。数日後、またしても団長はトルペの右耳に向かって「トルペくん、愛している」と吹き込んだのだ。信じられなかった。まだこの人は告白の練習をしているのか、と呆れる気持ちすらあった。だがそんな余裕は、その日の午後には打ち砕かれた。なんと二度目の「愛してる」をいただいてしまったのだ。もう認めるしかなかった。
    団長さんから、好意を寄せられている。その事実だけでトルペは思わず家で泣き出してしまうほど嬉しかった。いわゆる両想いだ。告白の成功率は限りなく高い。
    それでも、トルペは本当のことを打ち明けられなかった。一つは、あれだけ好きだと言われても一向に紅くならない自分の顔。心は喜びに震えるのに、酷い言葉を言われても聞こえないフリをしていたせいで顔色を変えない癖が無意識についてしまっていた。二つ、過去に言われた「お前のことなんて誰が好きなんだよ」という言葉。子供が言ったことなんて気にする必要はないと分かっていても、気持ちが追いつかなかった。確かにそうだと納得してしまっているのかもしれない。自分は決して明るい性格ではないし、友達だって多くない。根暗だと思われても仕方ないだろう。話すことだって得意じゃない。自分より面白い人は山ほどいる。そう思うと、団長からの気持ちを素直に受け入れることができなかった。騙しているという罪悪感も、トルペの心に絡みついていた。

    間違いであってほしいと願うが、団長は懲りずに何度もトルペに好きだと伝えていた。もちろん団長はトルペの隠し事には気付いていない。本気で、抑えきれなくなった恋心をこっそり本人に囁くスリルを味わっていた。まさか全てトルペに聞こえているとは、夢にも思わなかった。
    事態が動いたのは、このおかしな告白ごっこが始まってから3ヶ月が経った頃だった。その日も団長はいつも通り、なんでもない顔をしてトルペに告白した。台詞は普段と変わらない。表情一つ変えずにその言葉を伝えた瞬間、団長はハッと息を呑んだ。

    「……うぅ……ごめんなさい……」

    ぽわぽわとトルペの頬が真っ赤に染まっていく。練習終わりに、荷物を置いてある部屋まで一緒に歩いている時だった。トルペは手に持っていた楽譜をバサリと落とすと、少しして慌てて拾い集めていた。

    「えっと……?」

    「騙しててごめんなさい……悪気はなかったんです……」

    さながら盗みが発覚した子供のように、トルペはぐすぐすと泣き始めてしまった。もちろん団長はトルペを責めているつもりはない。

    「騙しているって、一体どういうことだい?」

    「っ、実は、ずっと聞こえてるんですっ、……」

    「聞こえている……?」

    トルペは恐る恐る左耳に手を当てた。

    「ほん、とは、っ、こっちが聞こえないんです……」

    「…………えっ!?」

    今度は団長が赤くなる番だった。だって、トルペは左耳が聞こえない。それなら自分は今までずっと、聞こえている方に声をかけ続けていたんだ。そう理解して、団長は大きなため息をついた後顔を両手で覆った。

    「…………いつも、ごめんね……」

    恥ずかしい。消えてしまいたい。何回か、格好つけてキザなセリフを吐いたこともあった。死にたい。
    顔から火が出ているのではと思わせるほど、頬が熱い。背中にじっとりと汗をかきながら、団長は俯いた。末代までの恥だ、よし、死のう。

    「今まで驚かせてしまってすまなかったね、トルペくん。今晩の内に私は舌を噛み切って死ぬから、もう安心していいよ」

    「えっ!?団長さん、っ、死なないでください……!僕、団長さんのこと、大好きっ、なんです、!」

    「……え、え、?ぁ、えっと、え?」

    「大好きだから、死ぬなんて悲しいこと言わないでくださいっ!」

    涙で顔をぐしゃぐしゃにしたトルペは、逃がさないと言いたげに団長にぎゅっと抱きついた。団長は咄嗟に両手を上げて、絶対にトルペに触れないよう万歳をし続けた。気が動転しているので、トルペには痴漢を働かないという謎の使命感に駆られている。もちろん団長が痴漢をしたことなど一度も無い。

    「と、トルペくん……一旦離れてくれるかい……?」

    「嫌です!離したら、団長さん死んじゃうじゃないですか!」

    「分かった!分かったから!死なないよ!」

    「ほんとですか!?」

    「本当!うん!絶対死なない!」

    団長の勢いに納得したのか、トルペはゆっくりと離れていった。ようやく腕を下ろせた団長は、ホッと息をつく。

    「……同じ楽団だからいけないことだとは分かっていてね。だから気付かれないように君に告白をして、気を紛らわそうとしていたんだ。返事が無ければ、振られたと思い込むこともできるだろう?」

    「それで、あんなことを」

    「うん。まさか聞こえている方に話しかけていたとはね。こんなタイミングだから聞くけど、一番印象的だった告白はなんだい?」

    「んー……一番印象的だったのは、やっぱり『君の瞳を食べちゃいたいな……。私だけを見つめ続けてくれないかい?』ですかね!」

    「うぐっ……待って……」

    団長は心臓の辺りを押さえたままズルズルとその場に座り込んだ。持病は無いはずだが、ギリギリと胸が痛む。ついでに熱まで出てきたようで、身体中が熱く冷や汗が止まらない。

    「あれはちょっと笑っちゃいそうになりました!」

    死にたい。切実に、死にたい。自分で蒔いた種だが、大好きな子からこんなことを聞かされるのは我ながらイタすぎて涙が出てくる。

    「……次からは、もっとまともな告白をするよ……」

    「はい。そうしてもらえるとありがたいです!」

    トルペからの容赦ない攻撃に、団長は苦笑いを浮かべるしかなかった。過去の自分を恨むばかりだ。

    「じゃあ団長さん、一緒に帰りませんか?」

    「……うん、よろしくね」

    トルペに助け起こされながら、団長は弱々しく笑った。家に帰ったら一人反省会だな、と考えてキュッと胸が痛む。そっとトルペの右側に立った団長は、ついさっきまで見ていた左側からほんの少し横にずれた景色を心地よく感じるのだった。
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    まめだぬき

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    長いことお待たせしてしまい申し訳ございませんでした。マシュマロでも依頼をいただいていたので、申し訳ございませんがこちらのお話で回答とさせてください。
    団トル子供の頃、高熱で倒れたことがあった。心の底からピアノを楽しめていて、まだ世の中の残酷さを知らない無垢な生き物だった。夜中にもかかわらず両親が必死に駆けずり回り、大金を叩いて医者を呼んでくれたおかげで、トルペは一命を取り留めた。
    しかし、代償は大きかった。ピアノを弾くために必要な聴力を、半分失った。左耳が聞こえなくなったトルペは、呆然とこちらを見つめる両親のありありと絶望を読み取れる顔を見て、泣けなかった。悲しい気持ちもあったし、この先片側では何も聞き取れない一生を、神様を、恨んだ。だが、自分以上に悲しそうな顔をする両親を前にすると、自分にはそんな風に泣く資格は無いと思った。お金を払って医者を呼んでくれたのは彼らであって、自分ではない。それからトルペは泣くのをやめた。
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