Perfection「はぁあ?」
久々に『頭に血が上る』という感覚を味わった。
いや、頭だけじゃなくて、身体全体が反応をするくらいだったかもしれない。
「ふー……」
妙に俯瞰気味にそんなことを考えながら、細く息を吐いてキーボードからゆっくりと手を放す。普通に冷静だけど、別にそんなことしないけど——でも、衝動がないわけじゃないのも、自覚はしていた。何かを叩く前に席を立ってキッチンに向かう。どこかのクソビッチのせいで自分のものを壊したくなんてないし。
ほら、これってすごく冷静に判断できてない?まぁ、俺は大人だからね。
「……」
ドアを開ける勢いや、廊下を下る足音は、ちょっとだけいつもよりも乱雑だったかもしれないけど。
ケトルでお湯を沸かしてる間に、甘いものを口に入れたくて冷蔵庫をのぞく。なにか、ちょうど良いものはないかな。気分があがるような、癒やしてくれるようなものは…………なにもないや。
「ん……」
変な頭痛がし始めたと思ったら息を止めていたのに気がついて、冷蔵庫を開けたまま、大きく息をする。
なにかを食べるのは諦めて、オレンジジュースのパックを取って、グラスに注ぐ。
グラスの半分までいれてから、手に取る。口元に持って行くと、思考が途切れたせいか、抑えていた怒りがふつふつと沸いてくる。
いや、別にあんなことでキレたりしないけど。でもなんなの、さっきの奴。pvpじゃあ失礼なクソガキの煽りなんて慣れてるつもりだけどさぁ、
「――完璧だな」
「え?」
グツグツと頭の中で言葉を煮込んでいると、ふぅふぅちゃんの声が少し離れたところで聞こえた。
顔をあげると、キッチンの入り口のところに手をかけて、空いた手で胸を抑えながら、ふぅふぅちゃんが大げさにため息をついてた。
「……なに?」
「そうとしか言いようがない。なんでそんなに完璧なんだ」
「は?」
意味がわからなくて、ついそっけない言い方になってしまったけど、ふぅふぅちゃんは気にするでもなく、ほら、と俺を指して少しだけ身体を横に傾ける。
「見てみろ、そのつり上がった眉の角度!鋭い目尻……拗ねているときとはまた違って……あっその角度!いいな、めちゃくちゃいい。拗ねてるときは可愛いけど、ブチ切れている時の浮奇は最高に美しいな。完璧だ」
もう一度、首を振りながらそう言われて、思わず口元を押さえる。なにそれ。さっきとは全然違う、熱いっていうよりも、暖かいものが身体の真ん中からじわりと手脚まで広がっていく。
「……ふぅふぅちゃんに対して怒ってたとしても、そう思うの?」
「うん?んー」
ふぅふぅちゃんの頭が傾いて、目が斜め上を向く。
「……思うだろうな。うん。
浮奇がそこまでキレていて、俺にその顔を見る余裕があったら、多分一発で膝をつくな。そうなったら思う存分踏みつけてくれ」
「ぶっ……」
顔の筋肉が変に動いて、いま自分がどんな顔をしてるかわからなくなる。
「っ……な、にいってんの」
次に出た声は、自分で聞いてもわかるくらいに笑いが混じっていた。
「いやあ良いものを見た。でも一瞬だったなぁ。諸行無常ってやつだな。わかるぞ」
演技がかった話し方をやめて、ふぅふぅちゃんがニコニコしたまま近づいてきて、もう我慢できなくなって吹き出した。
「ぶーっ……くく……ふふ……なに、なんなの?まじで意味わかんないんだけど」
「えぇ?そうか?聞いたことないか、諸行無常」
「そっちじゃないよ……!」
しばらくの間、お湯が沸いたのも忘れて、目が潤むくらい笑い転げて、
で?何をそんなに怒っていたんだ?と聞かれる頃には、もうどうでもよくなっていた。