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    barechun

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    barechun

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    ヘル光♀
    いつもの弊光 ムンキメスッテ
    事後とかではなく二人で寝る前とかにゴロゴロしている時の会話
    原初世界についてきたヘルメスとメーティオンと同棲してる光

    きみをたべたかった ふと湧き上がる衝動に、自分でも驚いて戸惑う。
     それは破壊的で、自己中心的で、暴力的で、どうしようもない苛立ちを燻らせていた時を思い出す。静かな中に黒い焔のようなドロドロとした何かが自分の中で膨れ上がり、叫び出しそうになる。

    「怖い顔してる」

     そう言って彼女はベッドに共に寝転んでいる恋人の顔を両手で包み、親指で撫でると最後に頬を摘んだ。どこか鋭かった瞳はハッとしたように見開かれて、緩い頬の痛みに表情は崩れた。

    「なにを考えていたの?」

     摘んだ頬を解放するとそのまま彼の顔を優しく撫でる。長い深緑の睫毛に縁取られた瞳は、自分とはまた違う仄光る虹彩をしていて美しい。穏やかな人であるけれども、内に激情を秘めている事はよくわかっていた。その瞳に暗い影が落ち、顔を撫でていた手に彼の大きな手が重なってそっと上から握られた。そうして幾度か口を開きかけては閉じ、迷った末に口から言葉が溢れた。

    「……きみを、たべたいとおもった」

     その告白に目を瞬かせる。

    「珍しく、素直だね」

     この人は、思った事があったとしてもなかなかに言葉にしない。今まで幾度も言葉にした想いを手折られてきたからなのか、それとも想いを押し込められてきたからか、言葉にはしてくれなんだ。だから言われた内容よりも素直に言葉にしてくれた事が嬉しかった。

    「はぐらかさないでちゃんと言ってくれるの、嬉しい」
    「内容には、触れないのか?」

     到底喜ばれるような事を言ったつもりのないヘルメスは困惑混じりで重ねた彼女の手を撫でる。

    「食べたいのなら、まぁ、あなたなら部位によってはいいけど」
    「全く良くない」

     真剣に考えて答えたのだが願望を出した本人が即座に否定する。どうやら彼女は物理的に肉体を食べたいと言われたのだと思っているのだ。まさかそんな事する訳が無いのに。そしてあっさりと良いだなんて言わないでくれ。

    「そういう意味ではなくて、ただ、君の…君を構成するエーテルが……いつかどこかに消えてしまうくらいなら、自分の中におさめてしまいたいと、そう、思ってしまった」

    ヘルメスの片手がコレーの頬に伸びた。ミコッテ族特有の頬の模様をそっとなぞるように撫でる。

    「きみの魂も、自分の中におさめて、ずっと一緒にいられたら、なんて」

     いつかは終わりが来る命。その命は、魂は、星の内海に沈めば全てが溶けて消えていく。記憶も見た目も何もかも、そうして再び新しい命として生まれたとしても、それはもう同じ人間にはなり得ない。もう、君には、逢えない。

    「それは…悪くないけれど、でもそうしたらヘルメスは一人になるよ。メーティオンもいるかもしれないけれど、私の魂ごと食べて一つになって、それで私とはもう話す事もできないまま生き続けるの?」

     悪くない、ではないのだが。
     どうしてこうも彼女はあっさりと自分を手放してしまえるのだろうか。望んだのは自分だけれども。

    「呆れるような、これは、独占欲なんだ。君が君じゃない誰かになって……またあのアモンという男や、エメトセルクやヒュトロダエウス達と新しく始まる事すら嫌だと感じている。そうなるくらいなら、君をずっと自分の中に閉じ込めておきたい」

     悍ましい、嫉妬だ。
     自由である事が何よりも美しい人なのに、奪いたくてしょうがない。こんな感情、知らなかった。自分がこんなにも醜い想いを抱くなんて思いもしなかった。底の無い恐怖を知った。君に出会ってから初めて知る想いばかりが胸を埋めていく。
     するとコレーはヘルメスの瞳にかかりそうな前髪を指ですくい、自分の頬に添えられた彼の大きな掌に顔を擦り寄せる。

    「素直に話してくれたから、私の願望も話してみようかな」

     そう呟けばヘルメスは俯いていた視線を上げて、少し目を見開きコレーの顔を見つめる。
     彼女はヘルメスが自分の想いを口にしたがらないと思っているが、それは彼女自身も同じだった。いつしか英雄、解放者と肩書きが重ねられて、自分自身の本当の願いを言葉にはしなくなった。そのコレーが自分の内に秘めている願望を吐露すると言うものだから、ヘルメスは嬉しさに目を細めて彼女の頭を抱き寄せ、柔らかな耳元に顔を埋めた。ヘルメスが嬉しいと思う時はこうしてコレーを強く抱きしめる。それを彼女は理解しているから耳元のこそばゆさに小さく笑った。

    「あのね、それがいつになるのかはわからないけれど、私が終わる……死んで星に還る時、本当は……ヘルメスと一緒がいい。ヘルメスと、私のこの想いは、私達だけのものでいたい。新しく始まる次の命に何も渡したくない」

     ヘルメスの大きな背中に手を回し、そっと抱き締める。
     望んではいけないことだと理解をしているけれど、それでも望んでしまった。自分が果てた後でも生きていて欲しかったはずだったのに、いつしか共に終わって欲しいと願う程に愛してしまった。その願いも隠し通して口には出さないでいるつもりだった。伝えないでいようと思っていたのに。
     ああ、駄目だ、どうにも、この人の前では弱くなってしまった。自分の心の奥底の一番柔らかい部分を曝け出してしまうようになってしまったのだ。

    「言わないつもりだった、のに、だめだな」

     自分の弱さに、不甲斐なさに。
     甘えている。どこまでも彼の優しさに、甘えている。困らせたいわけじゃない、でも、彼が心の中を見せてくれると自分の願いも口に出したくなってしまった。彼自身が醜いと考えて苦しみながらも抱える想いを曝け出してくれたのだから自分もそれに応えたかったのかもしれない。
     決して他人に願うことのない想いを彼だけに抱いてしまった。

    (君が、君がそれを望むなんて)

     誰にだって生きる事を望む人が、生きて欲しいと願う人が、終わりを願うなど。ヘルメスは彼女の告白に心臓が耳元にあるかのように音を立てていた。それ程に彼女が自分を特別だと思ってくれていたのだと。初めてこの世界にやってきた時、彼女は自分に言った事を今でも覚えている。
    「ここまで来たのだから、沢山の命を、世界を見てほしい。私は先に死ぬだろうけれど、あなたはその先まで沢山見てほしい」
     自分は先にいなくなるものとして彼女は語ったのに。それなのに、共に終わって欲しいと願われた事が、ああ、間違っているのかもしれない、それでも嬉しくて泣きたくなる。一人で還るのは嫌だと彼女の口から言われたのだ。嬉しくて、愛おしくて胸が灼ける。小さな身体を二度と手放したくないと言うようにヘルメスは抱きしめ返した。

    「生きるってむずかしいね」

     生きる永さも、命の強さも、何もかも違うからこそ永遠に答えを探し続けるのだろう。どちらかが先にいなくなるのか、それとも二人で共に終わるのか、それはまだ先の話でどうなるのかはわからないけれど。
     二人とメーティオンと、共に探し続ける。観測をする者ではなく、自分もその流れの中に生きる者として。
     今はただ、抱きしめ合った温かさを感じていたい。


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