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    ゆき📚

    ひっそりと文字書きしてる

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    ゆき📚

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    【血界】【On the party On the party】Ⅲ 僕らの五日間奮闘・前編
    今回既存キャラとか、名前だけのモブとか出ています。
    全体的に好きなように書いています。キャラが崩れている感じは相も変わらずです。
    ストレートな発言してたり後半ちょっとキスしてたりしてます。諸々の雑さ相も変わらず!
    大丈夫どんなものでもどんとこい!という方がよかったら読んでやってください

    ##BBB
    ##STLO
    #雰囲気小説
    atmosphericNovel

    【On the party On the party】Ⅲ 僕らの五日間奮闘・前編 風が撫でていた頬を
     今度は君に撫でてもらいたい
     
     【On the party On the party】僕らの五日間奮闘・前編
     
     「うん、潜伏期間ですね」
     「はぁ」
     
     某月某日、朝十時
     ブラッドベリ病院、診察室にて
     大きな眼鏡越しに手に持っているカルテを見ながらドクタールシアナは自分と対峙するように座っているレオナルド・ウォッチの生返事に「改めて説明するわね」と話を始めた。
     「貴方が今回貼られた札は深層心理にある願望を体現するものだという事は聞いたと思いますが」
     「はい」
     「貴方は今その願望が体現され、そしてその願望が叶う可能性があると判断された状態にあります」
     「はぁ」
     「なので五日間は何の症状も現れません。日常生活を送れます。でも五日を過ぎて願望が叶っていなかったら再び同じ症状が出てきます」
     「そうしない為には」
     「術師に解いてもらうっていう選択肢もありますが、願望が叶う可能性が高いならそれを達成させたほうがいいですね」
     「……そうですか」
     「立ち入った事を聞きますが、この術の事と貴方の願望内容は貴方の想い人はご存じで?」
     「え?知らずに潜伏させる事もできるんですか?」
     「まぁ、やりようによってはって感じね。でもその場合だと願望を叶えられる可能性が著しく低くなるわ」
     「そう、ですか」
     「もしかして相手に知ってほしくはなかった?」
     ルシアナはそう聞いた後「答えたくなかったらいいわ。ごめんなさい」と付け足した。
     「いえ、そういう事では無くて…いや、なんていうのかな」
     レオナルドは笑みを見せようとしながらも困ったような表情が増してしまって、誤魔化すように頭を掻いた後
     「僕が、こんな風に思う事で相手は内心迷惑だと思っていたら、申し訳ないなって」
     そう言ってもう一度、誤魔化すように笑って見せるレオナルドにルシアナは小さく首を傾げた後
     「本来、って言っていいのかわからないんだけど、可能なら相手の方も一緒に話を聞いてもらえたらよかったのよね」
     「え?どうしてですか?」
     「そのほうがいろいろと手間が省けるでしょう?この術はかかった人間だけが、その人の思い人だけが、という話じゃないの。個々の話だけど二人でひとつの話だから」
     ルシアナの言葉にレオナルドは間を開けて「はぁ」と声を出した。
     「わかってないわね」
     「すいません」
     「いえ、私も言いながらわからないだろうなって思っちゃった」
     「すいません…」
     「貴方の事を責めているわけじゃないわ」
     「はは…」
     「レオナルド君」
     「はい」
     「私がもし貴方の願望が何だったのか私に教えてほしいと言ったら言える?」
     ルシアナの問いかけにレオナルドは「それは、えっと」と戸惑って
     「まぁ予想内のリアクションね。聞き方を変えるわ。貴方の願望が五日以内に叶えられる可能性はあるかしら?」
     「それは…」
     
     ※
     
     目が覚めてゆっくりと開けた瞳に映った自分を覗き込むように見ている顔に寝起きの反射とは思えぬ速さで仰け反ったレオナルドに相手も驚いたように体を仰け反らせた。
     「おはよう」
     「おはよう、ございます…」
     「すごいな寝起きにそんなに動けるなんて」
     そう言って微笑む男―スティーブン・A・スターフェイズにレオナルドは周りを見渡して昨日の出来事を思い出した。
     「あ、あの…」
     「気分はどうかな?よく眠ってたみたいだけど」
     言いながらベッドサイドに座ったかと思うとそのままベッドに乗り込んでレオナルドの隣にきたスティーブンはそのまま「失礼」と言うと前髪を上げてレオナルドの額を確認した。
     「あぁうっすら見えるね…これは潜伏期間に入ったって事なのかな?」
     独り言のように呟きながら額に貼られた札の様子を観察するように眺めていたが
     「あの、スティーブンさん」
     「ん?」
     声をかけられそこで初めて自分の行いに戸惑って動くことのできない様子のレオナルドに気づいてスティーブンは「あっ」と声を出した。
     「ごめん、急に」
     「いえ、大丈夫です…あの」
     額から手を離し少しだけ距離を開けて座りなおしたスティーブンにレオナルドは深呼吸をした後、勢いよく頭を下げた。
     「すいませんでしたぁッ」
     「え?」
     急な出来事にスティーブンはぽかんとして
     「昨日の事、俺がアリギュラさんの落とし穴に落ちちゃったばっかりにスティーブンさんに余計な手間かけさせちゃって、昨日の事も本当にせっかく介抱してくれてたのに。あの、なんて言ったらいいのかわかんないんですけど、本当に」
     レオナルドは恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいだった。
     自分がこの人とどんな事をしたいかずっと思っていた事を口に出してしまった事、その事でパニックになって泣いてしまった自分を抱きしめてあやしてくれた事。
     「本当すいませんっしたッ」
     「…えっと、とりあえず顔をあげてくれないか」
     スティーブンの言葉になれどレオナルドは素直に上げる事ができず
     「あのさ。もしかして、昨日の記憶結構曖昧だったりする?」
     「いえ、覚えてます…ちゃんと覚えてます」
     「だったら謝る必要なくない?」
     「え?」
     スティーブンの言葉にレオナルドはやっと顔を上げた。
     「君を抱きしめながら僕が昨日言った事覚えてたら」
     「…何か言ってましたっけ」
     「ほらぁやっぱ覚えてない」
     「いや、抱きしめてくれてた事は覚えてますよッ?」
     「でも何言ったか覚えてないんだろ?」
     「なんか、こうあやしてくれてたような事は覚えています」
     「曖昧じゃんッ記憶曖昧じゃん!」
     スティーブンはそう言うとため息をはきながらがっくりと肩を落とし顔を覆った。
     「す、すいません」
     謝ってばかりのレオナルドにスティーブンは指の間からちらりとレオナルドを見た後
     「君にキスしたいって思ったって言った」
     「え?」
     「その後、君の体に触りたいって言った。全身、頭のてっぺんから足の先まで君の体に触れたいって言った。許されるなら全身愛で尽くしたいって言った」
     まぁ多少誇張してるけど嘘は言ってないとスティーブンは思いながら顔を覆っていた手を外してレオナルドを見てみると彼の顔がみるみる赤くなっていって
     「…そんなに照れるなよ」
     今度はつられるように赤くなった顔を隠すようにスティーブンはもう一度手のひらで顔を隠した。
     
     ※
     
     「あのルシアナ先生」
     「何かしら?」
     「この五日の間はその、たとえば願望が叶ってる時とかに何かしら症状が出たりとかあるんでしょうか?」
     「今の所そう言った例を聞いた事は無いわ。ただ願望が叶うと術が解けた証拠に花が一輪出現するらしいわよ」
     「花、ですか」
     「人によって種類は違うみたい」
     「そうっすか」
     「レオナルド君」
     「はい」
     「貴方は術のせいで己の願望が叶う事をなんだか嫌がっているように見えるけど」
     ルシアナの言葉にレオナルドはぴくりと小さく体を震わした。
     「潜伏状態になったのならその間、変な言い方だけど術は関係ないと言ってもいいの。つまりは決めるのは貴方の意思」
     「決める…」
     「むしろその五日を過ぎてしまったら貴方の意思は関係なく願望が形となって現れる、最初よりも強くね。だからこの五日間で決めるの」
     ルシアナは続けて「もしその願望を叶える事が嫌ならば私から術師を何人か紹介する事もできるわ」と言うといくつかの連絡先を書いたメモ用紙をレオナルドの前に差し出した。
     目の前に出されたメモを見つめながらルシアナの言葉にレオナルドは膝の上で拳を作っていた手をほどいて静かにそのメモを受け取ったがありありと動揺を見せていて
     「五日間って、そう考えると短いわよね」
     ルシアナの言葉にレオナルドは「そうっすね」と小さく返した。
     
     ※
     
     パーティで告白したあの日から三日後の某日、HL某場所ゴミ捨て場にて
     何があったかは知らないができたばかりであろうザップ・レンフロの頬に残るくっきりとした手のひらの形を見たレオナルドは「わお」と短く呟いた後
     「ビンタってこんなにくっきり残るもんなんですね」
     「うるせぇ陰毛頭」
     「何があったか聞きませんが」
     「むしろ聞いてくれ」
     「いやです」
     「マリアがよぉ今日に限って私の所に来いなんて言ってきてよぉ、でもな今日はジュリアと約束してたんだよ。どうっすかなぁって考えてたらそこで出会ったロザンナがまぁ機嫌悪い機嫌悪い」
     「あんた、本当に…」
     レオナルドは呆れたという感情を隠さずにため息を吐いた。
     「もう少し落ち着いたらどうですか」
     「なんだよ落ち着くって」
     「そんなに何人も愛人作ってそのうち本当に身がもたなくなっちゃいますよ」
     「うっせーな。俺は好きでやってるし向こうもそれをわかって俺と付き合ってくれてんだ」
     「ビンタされてるじゃないっすか」
     「いざこざは避けられん、愛されてる証拠だ」
     「なんなんすかソレ」
     「しっかしなぁ今日誰の家で寝よう」
     「本当節操ないっすね」
     「失礼な言い方だな、俺だってなぁ一応決まり持って動いてんだぞ」
     「なんすか決まりって」
     「決まりそのいーちッ!バージンとは寝ない」
     思ってもみなかった発言にレオナルドは驚いて「なんですかそれ」と言葉をこぼした。
     「バージンはなぁ重みが違うんだよ。初めてっちゅーのはそいつの基準になる。ひどくすればそれが。優しくすればそれが。そいつの基準になる。それって正直面倒なんだよ」
     「なんか、すごいひどい事言ってるような気がするのは間違いでしょうか」
     「童貞君にはわかんねーだろうから教えてやろう。セックスってのは互いの合意があってのスタートなんだ」
     「そんなのちゃんとわかってますよ」
     「一応言っておくけどオレは無理矢理女を抱いた事なんてねぇからな。互いの気持ちを確かめ合って合意があっての気持ちのいい行為なんだ。どうしたいかどうされたいか、経験がある程度ある者同士だとそこまでの過程が早いし互いに楽しくそして盛り上がる」
     「…つまりは早くやりたいと言ってるようにしか聞こえないんですけど」
     「本心だ」
     「なんだろう、結果クズに聞こえる」
     ドン引きしたような表情のレオナルドにザップはふんっと鼻を鳴らすと
     「初めてのやつにはなぁいろいろ気を遣わなきゃいけねーんだよ。相手に知識がない分こっちがリードして安心させなきゃいけねぇし、雰囲気とか気を遣わなきゃいけねぇし、ぶっちゃけそういうの面倒なんだよッ単純にセックスを楽しみたいんだよッそういうもんなのッ」
     
     
     診察室を出て病院の廊下を歩きながらレオナルドは誰もいない場所で立ち止まると壁に寄りかかった。
     「あー、なんで思い出しちゃうかなぁ」
     レオナルドはぼそりと呟くとしばらくそこから動けなかった。
     
     ※

     「おかえり」
     駐車場で自分の車に寄りかかるようにして待っていたスティーブンはレオナルドの姿を確認すると手に持っていたスマートフォンをしまって微笑んだ。
     「スティーブンさん」
     「どうだった?ルシアナ先生とはちゃんと話せた?」
     「はい、あの」
     「ん?」
     「仕事、大丈夫なんですか?」
     レオナルドの問いかけにスティーブンは驚いた表情を見せた後困ったように笑って
     「大丈夫だよ、てか今そこ心配する?」
     「いやだって、送ってもらっただけでも充分なのに今まで俺の事ずっとここで待ってたんですか?仕事に行ってもらってかまわないって言ったじゃないですか」
     そう言うレオナルドにスティーブンは少し上を見るようにして思考を巡らせた後
     「まぁその辺はうまい事やるから君が心配する事は無いよ。とりあえず送るから」
     そう言って助手席の扉を開けるとレオナルドに車に乗るよう促した。

     「レオナルド」
     「はい」
     助手席でシートベルトを締めるのにもたついていたレオナルドはその間に運転席へと座っていたスティーブンの呼びかけに返事と同時にかちんとシートベルトがはまって
     「単刀直入に聞くけど僕は君と恋人同士だと思ってたんだけど君は僕の事恋人だと思ってくれてる?」
     急な問いかけにレオナルドは「えっ」と言ったきり言葉が出てこず
     「一度ちゃんと確認しておかないとなんか変なすれちがい起こしちゃ嫌だなって思ったから」
     そう言って自分に向ける優しくもどこかすがるようなスティーブンの視線をレオナルドはずっと見ている事ができず逸らして
     「急っすね」
     「そうかな、むしろ…いや、そうかもね。聞くタイミングを逃してた」
     スティーブンはそう言いながらふぅと息を静かにはいて運転席に重心をかける。
     「俺は―」
     ふとレオナルドの頭の中にあの日の言葉が浮かんでぐるぐると巡る。

     「……あの俺、スティーブンさんに言っておかなきゃいけない事があって」
     「なに?」
     「あの…最初にちゃんと言っておけよって事なんですけど、本当に、なんていうかあの、その…経験がないんです」
     「うん?」
     「だから、俺…誰とも付き合った事なくて…だから」
     「あーっと、もしかしてセックスの事言ってる?」
     スティーブンの口から出たストレートな言葉になんだか耳が熱くなってレオナルドは無意識に自分の耳を指で挟むように触れた。
     「いやなんていうか、興味は、まぁ人並みにあったんすけどまぁいろいろあって、ここに来る前もなんだかんだ忙しかったりしましたし」
     なんでこんな事を言っているんだろう。
     レオナルドは自分自身に戸惑いながらもなんだか黙ってしまうのが怖くて言葉を続けた。
     「正直まだそんなに焦る事は無いと思ってここまで生きてきたんすけど、そんでまぁ今、その経験なしっていう…自分はいいと思ってるんです。そんな焦る事もないし、でもスティーブンさんはそのやっぱイヤだろうなって」
     「イヤって何が?」
     「えっ?あの、だから―」
     唇の端がひくりと震える。
     明るく振舞っていれば相手も軽く受け取ってくれる。
     大丈夫。
     そう思えば思う程レオナルドの目には何故か涙が滲んできて
     「経験が無いから。だから僕とは恋人になれない?経験ない事がどう繋がってそうなるのか僕には正直理解できないんだけど」
     どこか不機嫌そうにも感じ取れるスティーブンの言葉にレオナルドはなんと返そうか考えていると
     「君の言いようでは、自分がどこかでひと通り経験してきたら僕と恋人になってもいいって言ってるように聞こえるんだけど」
     「ッ!そんなつもりは」
     「じゃあどういうつもり?」
     そう言って自分を見つめる強い視線がレオナルドの背筋をぞくりと震わせた。
     「なんで、スティーブンさんなんか怒って―」
     「そうだね怒りもするよ」
     静かにそう言ったスティーブンの視線に耐え切れずレオナルドは視線を自分の足元へと落として
     「君が好きだって言ってくれたあの日僕もそれに真面目に答えたつもりだ。翌日の君に確認したら記憶があったし両想いになれたんだって。そこで確かめればよかったのかもしれないね。僕は早とちりして君と恋人同士になれたって勝手に思ってた」

     だからあの日アリギュラの言葉を聞いて自分が真っ暗な穴に落とされたような気分だった。
     
     「付き合ってないと他人に言いながら、君は僕を求めてた。その気持ちだって聞いた時僕は同じ思いだと嬉しかった。それなのに今なお君が僕を拒否する理由がわからない」
     そう言うとスティーブンは「レオ」と優しく名前を呼んだ。
     「何が、何がそんなに僕から君を遠ざける?」
     そう言って小刻みに震えているレオナルドの手に優しく触れると怯えたようにびくりと肩を跳ねさせて
     それでも触れた手を拒否しない彼の様子にスティーブンはじっと彼の言葉を待ち続けた。

     「だって…本当になんにも、わかんないんですよ?」
     震える声がそう言うとそれが合図とばかりに堰を切ったかのように言葉が続いた。
     「どうすればいいのか、どんな風にすればいいのか、わかんないんです。なのに気持ちだけはいっちょまえにスティーブンとセックスしたいなんて思ってるんです。やりかたなんてちゃんとわかってないのに、そんなんでスティーブンさんが気持ちよくなれるわけないじゃないですか。こんなんでやったって俺…俺、スティーブンさんに気持ち良くなかったって思われたら全部自分がしなきゃいけないから面倒だって思われたら、今回は術の事があるからしょうがなくって思われたら、それでもう終わりだって思われたら」
     溜まっていた思いがここぞとばかりに、ぶちまけろといわんばかりに溢れ出て
     そこまで言うとレオナルドは言葉の代わりに本格的に涙が止まらくなってしまいぼろぼろとそのまま泣き始めた。
     「俺…俺だってぇスティーブンさんと恋人同士になりたいって思ったし、おんなじ思いだって知れて嬉しかった。だけど、現実見てくださいよ。セクシーのかけらもないこれといって特徴もないその辺の、男で、しかも何もできない知識が乏しいヤツが何スティーブンさんみたいな色男相手にとんだ願望抱いてんだって話ですよ…でも、でも…俺やっぱり…好きなんです…それでも…好きなん…」
     言いながらヒートアップしてしまったレオナルドは言葉の途中で遠吠えのように声を上げて泣き始めスティーブンはそんなレオナルドを自分のほうへと寄せるように腕を伸ばし頭を包み込んだ。
     「ごめんなざいぃ」
     「君は今日謝ってばっかりだな」
     いや、昨日からか。とスティーブンは内心思いながらふわふわとした髪の毛に唇を寄せると柔らかいキスをひとつ落とした。
     「なんとなく君が躊躇している理由がわかった」
     「うぅ…」
     「レオナルド、もしよければこれから君と話し合う時間を僕にくれないか」
     「じごどが」
     「あのなぁ、好きな子がこんなに大泣きしてるの放っておいて仕事なんかできるか。とにかく今から僕の家に戻るから、な?」
     「…あい」
     涙が止まらない様子のレオナルドにハンカチを差し出すとスティーブンはエンジンをかけて車を発進させた。
     
     ※
     
     広いリビングに設置してあるL字型ソファは人ひとり横になるには充分な大きさで
     まさにそのソファでレオナルドは横になって目元には冷えたタオルを乗せた状態で休んでいた。
     そんなレオナルドの姿を時折確認しながらスティーブンはキッチンでコーヒーを淹れていて
     
     車がスティーブンの自宅に到着する頃にはレオナルドは泣き止んで落ち着いていたが目元も鼻も真っ赤になっていて
     それでも今まで溜め込んでいたものが出きったようにレオナルドはどこかさっぱりとした気分になっていた。
     
     スティーブンはコーヒーを淹れたマグカップをひとつ手に持つとレオナルドが横になっているソファへと歩いて
     「レオナルド、気分はどう?」
     「タオル冷たくて気持ちいーっす」
     「そう、良かった。コーヒー淹れてみたからよかったら後で飲んで」
     「ありがとうございます」
     呼吸でわずかに動く胸の上下運動を見てあぁ生きてるとスティーブンはぼんやり思いながら隣に座ってその姿をじっと見る。

     「スティーブンさん」
     「ん?どした?」
     「俺のどこを好きになったんですか?」
     突然の問いかけにスティーブンは思わずふはッと噴き出して
     「突拍子もなく問いかけてきたね」
     「すいません」
     「全然構わないよ。むしろどんどん聞いて。そうだなぁ君の好きな所かぁ…いやぁいざ聞かれるとぱっと出てこないもんだな」
     「出てこないんすか」
     「気が付いたら好きになってたっていうのが素直な気持ちだから、でもそういう風に思ったのは君の、まっすぐな情熱かな。素直で、己の人生を悲観していない所とか、言うならば君の中にある光に惹かれたって感じ?」
     「…抽象的」
     「手厳しいな」
     スティーブンはそう言うとくすくすと笑って
     「じゃあ君はどうして僕を好きになったの?」
     お返しだと言わんばかりの問いかけにレオナルドはしばし間を開けて
     「ふとした瞬間に寂しそうにしている姿に最初は目が留まりました」
     静かな声にスティーブンは黙ったまま、内心少し驚いていた。
     「どこか、心のすみっこに穴が開いてるような時があるなって思ってて、それを強さで隠してる貴方はちゃんと息抜きができてるんだろうかって」

     気になって、追いかけて、伸ばした手の先に気づいた貴方は立ち止まって自分を見てくれた。
     
     『レオナルド』
     
     自分を一人の人間として見てくれる。
     その瞳を、好きになった。
     
     「思えば最初から無理ゲーに挑んでるようなもんだったんすよ俺。スティーブンさんの弱い所ちょっとでも支えてあげられたらなんて思ったんですもん」
     そう言ってレオナルドは何の反応も無いスティーブンが気になってタオルを目元からどけて様子をうかがうと顔を手で覆って自分の横に座っているスティーブンが見えた。
     「スティーブンさん、どうか、しましたか―」
     上体を起こして近くで見ると耳が真っ赤になっていて
     「え?…えッ?もしかして照れてるんですか?」
     「あのなぁ君はずるいぞ」
     顔を覆ったまま喋るスティーブンの意外な反応にレオナルドは赤い耳をじっと見つめたまま
     「こんな事言っちゃうのも何だと思うけど、君めっちゃ僕の事好きだね」
     「…そう、ですね」
     「まぁ僕のほうがより好きだけどッ」
     張り合うように言ったスティーブンの言葉にレオナルドは状況をうまく理解できないまま「ありがとうございます」と一言
     「だったら、迷う事なんて無いんじゃない」
     スティーブンはそう言うとごほんと咳ばらいをして気持ちを切り替えるとすっとまっすぐにレオナルドを見た。
     「レオナルド」
     「はい」
     「僕は君が好きだ」
     「‥‥」
     「未経験な事を君は卑屈になるほど気にしていたけれど、僕だって全部わかってるわけじゃないんだ。二人でゆっくり学んでいこう。面倒だなんて全然思わないよ」
     スティーブンの言葉にレオナルドは手に持っていたタオルをテーブルの上に置くと改まるようにスティーブンに向かい合った。

     「あの、失礼を承知で聞いてもいいですか」
     「かまわないよ、何かな?」
     「スティーブンさんは俺に…その、欲情できるんですかッ?!」
     「できる!」
     「まさかの即答」
     「むしろ抑えてるくらいだ」
     「そしてまさかのぶっちゃけッ!?」
     レオナルドは思わずそう叫んだ後「え、俺っすよ?俺にっすよ?」ともう一度聞いた。
     「しつこいなレオナルド。僕は昨日から言ってるんだ。君を抱きたいと、納得できないならできるまで何度も言うぞ、なんなら証拠を見せてもいい」
     「証拠って」
     「男だったらすぐわかる部分があるだろう興奮してるかどうか」
     「なんだろう、この急に下ネタぶっこまれた気がするこの感覚は」
     「君にはもう押していくしかないなって思ってね、なりふり構ってられないって思って」
     スティーブンはそう言うと手を伸ばしてレオナルドの手を強く握りしめた。
     「大人だからスマートにとかリードしなきゃって思ってたけどそんなのもう捨てる。かなぐり捨てる。縋ってでも言葉にする。君が好きだ。恋人になりたい。僕は君の恋人になりたいです」
     スティーブンの言葉に表情にレオナルドは最初に告白した瞬間の事を思い出していた。
     
     『僕も好き…です』
     
     あぁそっか
     あの時、本当にスティーブンさん
     緊張してたんだ
     レオナルドはそんな風に気づいて、とてつもなく嬉しくてむず痒い気持ちが心の中にあふれてきた。
     
     「俺も、俺もスティーブンさんと恋人同士になりたいです」
     そう言って「よろしくお願いします」と頭を下げたレオナルドはぐいっと重心が揺れる感覚になんだと思った瞬間スティーブンに抱きしめられていて
     自分を抱きしめる腕の力を感じながらレオナルドも返すようにつたないながら腕を伸ばしてスティーブンを抱きしめた。
     「あったかい」
     こぼれるように出たレオナルドの言葉にスティーブンも小さく笑って「本当だな」と囁いて
     「これからスタートだな、晴れて恋人同士になった君と僕と」
     「はい」
     「まずは五日の間に君の願望を叶えないといけないわけだけど」
     スティーブンの言葉にレオナルドは「あッ」と声を出してスティーブンから体を離すと
     「しょっぱなから高いハードルが」
     どこか他人事のように言ったレオナルドにスティーブンはさっきまであんなに動揺して泣いてたのにと思いながらくしゃりと笑った。
     「確かに、でも物は考えようってな。今日入れて五日もあるんだ。その間にお互い勉強して術を解けるよう頑張ろう」
     「はい、頑張りますッ!」
     「そんなに緊張しないで、なんなら今ここで序盤としてキスしておくかい?」
     スティーブンはリラックスさせようと軽い冗談のつもりで言ったがレオナルドは「スティーブンさんがいいなら是非」と乗ってきて
     「え?いいの?」
     「は、はい」
     うなづいて見せる顔が赤くなってきてますけど。と思いながらスティーブンは「本当にするぞ」ともう一度確認した。
     「どうぞッ」
     そう言ってぎゅっと目を閉じるレオナルドにスティーブンは「じゃあ」と言うと
     緊張で固く閉じているのが丸わかりな唇にゆっくりと自分の唇を重ねて
     触れた瞬間驚いたように肩を跳ねさせながらもその後はじっと固まったままで

     初々しい反応だな…

     スティーブンはそう思いながら薄目を開けて様子を見ながら唇を離すと舌先でぺろっと力の入った唇を舐めた。
     「ッ!」
     驚いたように目を見開いたレオナルドの真っ青な瞳が丸見えになる。
     「あ、あの」
     「うん…ちょっと唇きつく閉じすぎだからもうちょっと力抜いてみて?」
     そう言って親指で下唇を優しくなぞるように触れる。
     レオナルドはそう言われてこういう事だろうかと自分なりに力を抜いてみて
     柔らかくなった感触にスティーブンは「そう。いい感じ」と囁いてもう一度キスをすると軽く吸い付いてみせた。
     離れて、もう一度、今度は小さく音を立ててみて、自分のするキスを頑張って受け止める姿にスティーブンは静かに興奮しながらそれでも今はまだがっつきすぎてはいけないと己の気持ちを抑え込む。
     あぁもっと、もうちょっとだけ深いキスをしてみたい。
     思いながら食むようなキスを何度もして耳に触れるとくすぐったそうに身を捩らせる姿に口角を上げながら
     「かわいいね…もっとキスしたい」
     「ん…はい…」
     無意識にこぼれた言葉にスティーブンの首に手をまわしながら返事をしたレオナルドにそれは卑怯だろとスティーブンは思いながらそれまでとは違う深い口づけをした。
     「んッ」
     開いた唇の隙間から舌先を進入させて
     ちょんと自分の舌に触れてきたものに気づくとレオナルドは驚いて
     どうか逃げないでとスティーブンは思いながら優しく自分の舌で撫で誘うようにレオナルドの舌に触れてみれば逃げようとしていた舌がおずおずと差し出されて
     いい子だと褒めるように髪の毛を撫でながら舌を絡ませた後上あごをべろりと舐める。
     「ッふぁ、ァ」
     隙間からこぼれた声ももったいないというように食んで頬の内側の柔らかさを確かめる。
     「ス、ティ…ブンしゃ…」
     首に回していた手がいつの間にか縋るように腕を掴んでいる感触と合間に自分を呼ぶ声にスティーブンはうっとりしながら「もう少しだけ」と呟くと何度か上あごを優しく舐めて
     「ん…んッ…ぷはッ」
     名残惜しさが半端なかったがこれ以上はとそこはぐっと抑えて
     スティーブンが唇を離すとレオナルドは足りなくなっていた酸素を取り込むように濡れた唇を半開きにしてはぁはぁと呼吸をした。
     「大丈夫か?」
     「…ひゃい」
     先程自分の舌と戯れていた舌先がちらりと覗き見えスティーブンは腰にクるものを感じたがぐっと耐えて
     「なんか、すごかった」
     「苦しかったかな」
     スティーブンの言葉にレオナルドは大丈夫というようにふるふると首を振って
     「…キスだけでこんなに気持ちよくなっちゃうんだ」
     ぼんやりとした口調で呟いたレオナルドの言葉に

     いろんな意味でやばい五日間が始まったなとスティーブンは気合を入れた。
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