RECALL②俺は今、目の前の若者、コイトオトノシンに振り回されている。
住み込みの家事代行を提案され、記憶喪失の上に無一文な俺に拒否権はなかった。
それから「お前」のままでは落ち着かないと、俺は「ツキシマ」と名付けられた。
そして半強制的な交渉成立後、新宿の有名デパートに強引に連れ出された。
「かわいい」「かっこいい」「これが似合っている」と、着せ替え人形のようにとっかえひっかえ服や靴を試着させられている。
試着室で服の値札を見て眩暈がした。0の数が多い。
俺は自分の記憶だけが抜け落ちているだけで、物の価値観は変わっていないような気がする。服一着に何万円も使ったことはない。多分。
要りません、と震えながら返却してもコイトさんは一切聞かず勝手に会計を済ませている。
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