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    mekoneko69

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    月鯉SS
    現パロ(転生)

    記憶なし月島と記憶ありの鯉登が同棲する話
    記憶が無い月島は訳ありで…


    続編あります(現在執筆中)

    #月鯉
    Tsukishima/Koito
    #月鯉SS
    gekigoiSs

    RECALL①11月後半の雨が降る肌寒い日の夜、自分の住むマンション近くのゴミ捨て場にずっと探している男に似た男が倒れていた。


    私、鯉登音之進は、明治時代、大日本帝国陸軍第七師団に所属していた前世の記憶がある。
    生まれつき記憶があるわけではなく、16歳の時、社会人である兄の鯉登平之丞が中国への海外出張がきっかけでフラッシュバックを起こしてしまった。当初は、記憶と現実の区別がつかなく混乱し、ふさぎ込んでしまったが、兄が無事に帰国して落ち着きを取り戻した。
    ただ、前世の記憶もすべて残っているわけでない。
    アイヌが隠した黄金争奪戦の中、五稜郭で私は鶴見中尉と決別した。
    函館行きの列車で新撰組の土方歳三と対峙した後、手投げ弾で自爆しようとする月島軍曹を阻止すべく駆け寄り、牛山に投げ飛ばされてしまった。
    戦う力も残っていない満身創痍の月島軍曹はそれでも鶴見中尉のもとへ行こうとするので、私は地を這い、月島軍曹の背中に必死に手を伸ばして引き留めた。
    倒したはずの土方が車両を移動するのを目撃してしまい、自分も車両に戻ろうとして、そこからの記憶が無くなった。
    私はあそこで力尽きてしまったのだろうか。その後大勢の部下たちは、月島軍曹がどうなったのか…、今更知ったところで今の私のはどうしようもない。
    どうしようもないのだが、特に月島軍曹のことがずっと気がかりだったーー。


    倒れている男に声をかけ揺さぶると呻き声のような返事はするので呼吸はあるようだが、意識ははっきりしていない。
    熱は無さそうだが、男の格好は白のロングTシャツとジャージのパンツとこの時期にしてはかなり薄着だ。このまま放っておくと低体温症か肺炎になりかねない。とりあえず自分の部屋へ男を運び様子を見ることにした。
    ほぼ意識の無い人間を、ましてや筋骨隆々とした男を運ぶのは容易くなく、形振り構わず自分も雨に濡れながらマンションのエントランスまでたどり着いた。常駐しているコンシェルジュが駆け寄り事情を聴いてきたので、「知り合いの男が酔っ払って寝てしまった」とその場しのぎで誤魔化した。訝しげな視線に誤魔化きれていないと感じたが、手助けをしようとしてくれたのでやんわりと断り、やっとの思いで男を部屋に運びこんだ。
    いつから倒れていたのか、服は汚れ、ゴミの臭いも移っていた。この状態で自分のベッドに寝かせるのは避けたかったが、そのまま床に放置する訳にもいかないので、着ていた服を脱がせ、下着1枚の状態でベッドに寝かしつけた。
    外傷は無さそうだ。男は傷一つもないきれいな身体だった。月島軍曹が日露戦争であの方をかばった時にできた腹の傷もこの男には無かった。
    だが頭部を打っている可能性がある。救急車を呼ぼうかと考えたが、男は財布はおろか携帯端末すら持っていない。もしかしたら貴重品が入っていた上着が盗まれたのかもしれない。所持品はジャージのポケットに入っていた家の鍵と思しきものだけだった。
    意識の無い身分不明の相手はただの他人だ。病院に搬送されてしまったら、このご時世柄、個人情報保護だの何だので連絡の取りようも探しようもなくなってしまう。もう二度と会えないかもしれない。
    男の体調も心配だが自分のエゴだと判りつつも救急車を呼ぶのを憚ってしまった。
    一晩様子を見て意識が戻らなかったら救急要請しよう。
    私は寝室の床に腰を下ろし、ベッドに肘をついて寝ている男の顔をまじまじと眺めた。
    背格好はもちろん、坊主頭、精悍な眉の形、特徴的な鼻の低さ、くっきりとついたほうれい線、見れば見るほど月島軍曹に似ている。早く目覚めてくれと願いながらそのまま意識を手放した。


    「あの…すみません…」
    明け方、声をかけられ体を揺さぶられ、意識が浮上してきた。
    目の前には寝ていたはずの男が身体を起こしていた。
    「あ、あの…」
    男の姿を捉えた瞬間、一気に頭が覚醒し、私は勢いよく立ち上がり男に詰め寄った。
    「お前、大丈夫か?どこか痛いところとか苦しい所はないか?何であんなところにいたんだ!何で財布もスマホも持ってないんだ!」
    「あの!」
    矢継ぎ早に捲し立ててしまった自分の言葉を男が遮った。
    「あの、すみません…ここはどこでしょうか?」
    目が覚めて見知らぬ天井だったら驚くのは無理もない。
    「え?あ、ここは私の部屋だ」
    「えっと…、現在地は…」
    男の目が泳ぐ。様子がおかしい。いや当然か。
    「○○区△△町」
    「○○区…」
    居住区を伝えてもどこか腑に落ちないような表情をしている。
    「お前どこに住んでいるんだ?ここから帰られる距離なのか?なんなら交通費を貸してやってもいいぞ」
    「すみません…わからないです」
    「は?」
    こんな時に何の冗談かと、思わず眉間にしわを寄せ男を睨みつけた。
    「あ…、なぜ自分がここにいるのか全く記憶がなくて…そもそも自分が誰なのかわからなくて…、すみません…何を言っているんだと思いますが、本当にわからなくて…。あの、俺は一体…」
    この男は一体何を言っているんだ?自分が誰かもわからないとはどういうことだ?唐突過ぎて事情が飲み込めない。しかし男の心もとない表情を見て変に頭が冴えた。
    「それより!」
    無理やり話を別の方向へ変えた。
    「その恰好のままだと風邪をひいてしまう。」
    男ははっと自分の格好を確認する。昨夜、本人の許可なく汚れた服を脱がせたままだ。
    「とりあえずお前は風呂に入って汚れを落としてこい!汚い顔をしよってからに。」
    男の腕を引っ張り、返事の有無を聞かずにバスルームへ押し込んだ。
    「え?ちょっ…!」
    「腹も減っているだろう?その間に飯の用意をしといてやる。話はそれからだ」
    「あ、はい…」
    私の強引さに圧倒された男は返事をするしかなかった。


    月島ではない?
    あまりにも顔が似すぎている、いや他人の空似の可能性だってある。
    前世はおろか、今世の記憶が全て欠落しているとはどういうことだ。
    事故か?事件か?
    病院よりもまずは警察か?
    でも警察に行ってどうする?
    「この男は誰ですか?」と聞くのか?
    怪しすぎる。
    どれだけ考えても答えのかけらも浮かんでこない。
    考えるほど頭の中は収拾がつかなくなり、思考がパンクしそうになる。
    不安になる男の気持ちもわかる。
    私はこの感覚に覚えがある。16歳の時だ。
    自分は一体誰なのか。なぜ自分がここにいるのか。混乱し、ふさぎ込んでしまった私を両親は心配し、カウンセリングや心療内科への受診など手を尽くし、様々な心のケアをしてくれた。それでも状態は改善されなかったが、帰国した兄の姿を確認したとたん、落ち着きを取り戻した。
    もしかしたらこの男も何かがきっかけで思い出すかもしれない。
    今は考えがまとまらないが、男が風呂に入っている間、言った手前、朝食の支度をすることにした。
    たしか月島は白米が好きだったな。とふと思い出した。


    「簡単なものだけどちょうど飯ができたぞ。」
    ダイニングテーブルに握り飯と味噌汁を並べたタイミングで男がバスルームから出てきた。
    普段、自分はほぼ自炊はしないが、常備していたパックの白米と即席の味噌汁が役に立った。
    長風呂になるだろうと思っていたが、案外早く出てきた。着用しているスウェットは鯉登のもので男には着丈が長すぎるが、胸や腕周りはジャストサイズだ。
    湯に浸かり、血行が良くなったため顔色もいい。ダイニングテーブルに並んだ飯の香りが食欲をそそったのか、男から腹の虫が鳴った。
    「うふふ。さぁ、遠慮せず食べろ。」
    申し訳なさそうに「いただきます」と挨拶をし、飯を食べ始めた。
    いつから飯を食べていないのか、よほど腹が減っていたのか、目の前の飯を勢いよく食べ出した。良い食べっぷりだ。見ていて気持ちがいい。月島軍曹も山盛りの白飯をかきこんでいたな。
    男が飯を平らげたので、いよいよ本題に入る。
    「着ていた服は、あまりにも汚れていたから悪いが捨てさせてもらった。」
    「あ、はい。大丈夫です。多分…」
    「あと、これは家の鍵か?」
    パンツのポケットに入っていた鍵を男に差し出した。男は鍵を受け取りしばらく眺めていたが頭を横に振り、鍵を差し戻した。
    気まずい沈黙がしばし流れる。
    「あの、赤の他人にここまでしていただいて、本当にありがとうございます。」
    男は沈黙を破り、礼を述べてきた。
    赤の他人か…
    深々と頭を下げる男の坊主頭をぼんやり眺めた。胸の奥がかすかに痛んだのは気のせいか。
    「何とお礼を申し上げればよいか…、とは言っても今の自分にはどうすることもできませんが…」
    確かに今のこの男には謝礼のしようもない。
    さて、これからどうしようかと思っていたら、私にもこの男にもいい妙案が浮かんだ。
    「お前に提案があるんだ。」
    「…提案ですか?」
    「私は学生なんだが」
    「えっ?」
    私の顔を見て目を丸くした。
    「あ、すみません…、落ち着いてらっしゃるのでてっきり社会人かと…」
    またか、と内心腹立たしく感じた。明治時代の記憶があるせいか、妙な落ち着きがあり年相応に見られず、実年齢よりも上に見られることが多かった。
    私は咳払いを一つして話を続けた。
    「私は学生なんだが!」
    わざと「学生」を強調して言ってやった。
    「何かと忙しくてどうしても家事が疎かになってしまいがちなんだ。」
    大学の授業はもちろん、それ以外に資格取得やインターンシップの参加など積極的に行っていて、それなりに忙しくしていた。
    「はぁ…」
    「この部屋に住み込んで、家事諸々をお前にやってほしい。」
    「……え?…は?」
    見開いた男の目を真っすぐに見る。
    予想外の提案に状況が読み込めず、心底驚いている様子だった。助けた代償に住み込みの家事代行を依頼されるなんて誰だって驚く。
    普段の私だったらそんな依頼は絶対にしないが、よく見知ったこの顔に絆されてしまったのだろう。行くあてのない男を引き留めるのには妙案だと思う。
    「私を助けてくれないか?」
    もちろん無理強いはしない、と保険もかけた。
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