「ゔぇ〜、そんな笑わないでよぉ」
「ああ、すまないな……くっ」
「だから笑うなってば〜」
愉快な心地のまま新しくティッシュを数枚渡してやる。大体、全裸で鼻血を垂らしてべそべそ泣いている姿を前にして笑うなと言われても無理な話である。
「悪いが、傍から見れば随分と滑稽な景色だぞ」
じわじわと喉奥までこみあげる笑い声をできる限り抑え込もうとするが、口角は不随意に上がっていく。哀れなフェリシアーノは不貞腐れた顔で面白くなさそうに血を拭う。
「せっかくいい雰囲気だったのに」
「文句なら自分自身に言うことだ」
俺の服を勝手に脱がし始めて勝手に鼻血を噴いたのは他でもない彼である。どう考えても俺に非はない。すっかりしょげかえって背中を丸めて不憫なオーラを纏っているのを見て、まだ収まらない笑いを含みながらその体を抱き寄せて頭を撫でてやる。
「そう落ち込むんじゃない、笑ってしまって悪かったな」
「言いながら笑ってるじゃんかよー! どうせ俺なんて……俺なんてぇ……うっうっ」
「ああもう、そんなに泣くんじゃない。血は止まったのか」
「うん、多分」
腕の中でフェリシアーノがぐすぐすと涙ぐみながら鼻を軽く啜ってみせた。擦れて赤くなった鼻先を指でつついてやる。
「ならばさっさと立ち直ることだ。このままお前をあやして夜を明かすつもりはない」
「ゔぇ」
「名誉挽回したいなら早くした方が良いぞ」
そう言うとつい先程まで情けなくべそべそしていたフェリシアーノは慌てて腕の中から這い出て、俺の唇に自分のものを押し当てた。その瞬間、薄い鉄の匂いが鼻をつく。肩に体重を掛けられているのを感じて、大人しく背を倒してベッドに身を預ける。
「こ、今度の俺は絶対かっこいいから! よく見ててよ!」
そう宣言する声がさっそく震えてしまっていることに指摘はしないでやろう。精々頑張れよ、とだけ口にする。
先程のやり直しのように、震える手がシャツの端を持ち上げる。今度は血は落ちてこなかった。