薄暗い部屋の中で、液晶の光に目を細めながら早朝5:00を告げる起床のアラームを止る。布団から差し出した腕にひやりと冷気がかかる。もうそんな時期かと思いながら体を起こしてベッドから降りると、腰の動きに付随して何かがずるりと布団からはみ出てきた。
「さぶっ……」
か弱い悲鳴のような掠れ声が上がる。念のため振り返ると、それは予想通りにイタリアだった。なぜここにいるんだ、いつからいたんだ、それになぜ下着姿なんだ。脳内に幾つもの質問が一斉に浮かぶが、とりあえずため息だけ吐いて腰に回された腕をはたく。どうせ何を聞いたところで明瞭な答えは与えられないことを俺はよくよく知っている。こいつはそういう奴だ。
「起きろ。邪魔だ」
「さむいんだよぉ」
寒いというなら服を着ればいいだろう、と言いかけた口を閉じる。イタリアとのコミュニケーションにはある程度の諦めは必須だ。
「俺が起きるまで湯たんぽ係しててよ〜」
「さっさと降りて暖炉で温まればいいだろ」
「降りるまでがさむいじゃん」
「ならそのまま寝てろ。じゃあな」
「ゔぇっ待って待って!」
まだ色々言っているイタリアを置いてベッドを離れようと足を踏み出す。
「てゆか今日休日だしちょっとくらい一緒に寝坊したっていいじゃんか」
「お前は規則正しい生活というものを知らんのか」
「知ってるよ〜、だって俺毎日きっかり2時からシエスタしてるもんね!」
「それだけだろ」
「一個できれば十分!」
得意そうににやにやと笑うのを諌めるように頬を摘んで引っ張る。温かく柔らかい肉がみにょんと伸びる。
「いひゃいよぉ」
悲痛そうな声を無視してしばらく弄んでから手を離す。
「……とにかく、邪魔だから離れてくれないか」
「やだ〜さむい〜〜」
「その意志の強さを仕事の時に使えないのか」
「俺のアモーレに関係ないことは無理かな〜、お前と一緒にいたいんだ〜」
思わず胸が跳ねる。いや、こいつは別に大した意味を込めて言った訳ではないだろうし、大体俺をおだてて良いように扱うためだろうし、というかそもそもこんなことですぐに浮かれる俺がおかしいんだけじゃないか。動揺を誤魔化すように慌ててイタリアの腕を引き剥がす。
「いい加減にしろ、俺はもう行くからな」
「えっ一緒に寝ようよ〜寒いよ〜寂しいよ〜」
ゔぇええと泣きべその混じった声を上げられる。今すぐに部屋を出ていこうとしていたはずだったが、どうも俺の体はこの声に弱いようだ。舌打ちをして、ベッドへ向かって踵を返す。
「少しだけだぞ」
「わ〜い!」
ベッドに入ると同時に抱きつかれた。あったけ〜と安堵したようの呟く顔があまりにも幸せそうで、満更でもなくなってしまう。これからも俺はなんだかんだでこいつの願いを聞いてしまうのだろう。重いため息が出る。まあ、今まで数十年間ずっとそう出会ったことを思えば今更悩んでも仕方のないことだろう。
気を紛らわすように、イタリアを抱き寄せる。とりあえず、今は寝ることに集中しよう。既に寝始めているイタリアの寝息を聞きながら目を閉じた。