幸福を祈りなれない「神波くん、私と不倫して!」
「………。は?」
神波誠二が副牧師として務める教会に、和泉花――もとい石野花がやって来たのは、午後二時を回った頃だった。
その日はいやに天気が良くて、これは嵐の前触れではないかと神波が冗談半分に考えていたところ、本当に嵐のような女がやって来てしまったわけである。
「ちょっと待って……。石野さん、なんでまた……」
抱きついてこようとする花を神波が必死で押し留めていると、花は教会内に反響するような大声で、こう叫んだのだった。
「あんな男と結婚するんじゃなかったわ!」
◇
然してその日、神波は無理を言って早上がりをさせてもらい、自分にひっつく花を連れて、牧師舎へと帰宅した。
教会は相談を受ける場ではあるけれど、自分と不倫すると言ってきかない女を上手く説得するのは、いくら神波でも骨が折れたのだ。
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