Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    Hyiot_kbuch

    @Hyiot_kbuch

    スタンプありがとうございます。めちゃくちゃ励みになります。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 🍻 ☺ 🐾
    POIPOI 50

    Hyiot_kbuch

    ☆quiet follow

    門南

    #門南
    menan

    出来たての朝食をあなたと 閑散とした部屋にピピピピピと携帯のアラームの音が鳴り渡る。電子的なその音が浅く眠る南方の意識を覚醒させた。布団の中から手探りで携帯を取れば薄目で時間を確認する。寝起きには眩しい画面はちょうど十一時を表示していた。
     幸いにも今日は非番だが、流石に二度寝するのはマズいと南方は起き上がる。昨晩の飲酒のせいで頭が酷く重い。
    「いかん……完全に飲みすぎた……」
     とりあえず水を飲んで糖分でも取らねばとは思うも、むかつく胃は食料を受け付けてくれそうにない。こういう時は一度吐いた方が楽になるのだが吐くほど胃に残ってもいない。とりあえず冷蔵庫にスポーツ飲料があったはずだからそれを飲むかとベッドから出ようとした所でようやく違和感に気付いた。
    「え……?」
     ベッド横の床に門倉雄大が落ちている。一体どうしてそうなったのかと昨晩のことを思い出すも全くわからない。昨日は一人家で飲んでいたはずだ。何故門倉が床に落ちているのか。付き合っているとはいえ合鍵等も渡してもいないのに。
     そもそも昨日は門倉と夜を過ごす予定が急な立ち会いが入りキャンセルになった。それで共に飲もうと思っていた酒を一人で空けてしまったという経緯だったのだが、途中からだいぶ記憶が怪しい。そういえばベッドに入った覚えもない。
     何かやらかしている気がしないでもないが、覚えてないものは仕方ない。とりあえず床で大の字になって眠る門倉を起こすかどうかを南方は考える。やや悩んだ結果起こさない方が面倒なことになると踏んだ南方は隣にしゃがむと軽く肩を揺さぶった。
    「門倉、起きろ。こがいなとこで寝てんな」
     数回揺さぶると眉間にシワがより門倉の目が薄らと開かれる。幾度が瞬いたあとに意識が覚醒したのかゆっくりと起き上がった。
    「……おはよ」
    「おん、おはよ」
     寝起き特有の掠れた声での挨拶が聞こえれば南方も挨拶を返す。そして1番気になったことを単刀直入に門倉へ尋ねた。
    「なんでここで寝とったん?」
    「ベッドから落ちとった……」
     床で寝ていたことについての答えが返ってきた。確かに体格のいい男性二人で寝るには少し狭いダブルベッドは寝返りを打てばうっかり落ちてしまうこともあるだろう。しかし南方が聞きたいことはそこではない。
    「そうじゃのうて、なんで家におるん?」
    「……南方が呼んだんやないか。覚えとらんの?」
    「覚えとらんわ……」
     全く覚えていない。咄嗟に携帯の履歴をみると確かに深夜門倉に電話をした形跡があった。
    「立ち会い終わりに電話来たと思うたら鍵開けとるから来いって」
    「まじか……」
    「着いたらでろでろに酔うとるし」
    「……すまん」
    「すぐ寝落ちたからベッドに運んでやったわ。感謝せぇ」
     そう言われれば南方は重い頭を抱えるしかなかった。

     事情を聞いた後しばらく現実逃避していた南方だが、門倉に朝食を強請られ二日酔いの身体に鞭打ちダイニングへと移動する。
     ダイニングを見ると昨晩飲んでいた形跡はあるにはあるも違和感を覚える。ゴミはまとめられ、食器類は洗ってはないもののキッチンのシンクに、食べ残したツマミも冷蔵庫に入れてあったり乾き物はまとめて置いてあったりと粗方片付いていた。
     片付けた覚えはないと門倉の方を見れば片付けてやったと返ってきてますます頭が上がらない。これは詫びにちゃんとした朝食を用意してやる他ない。
     まずは飲み物かと門倉に何を飲みたいか聞けば、コーヒーとのことで必要なものをコーヒーメーカーにセットしスイッチを入れる。ミル付きのそれからはゴリゴリと豆を挽く音と香ばしい匂いが漂ってくる。
     自分はコーヒーを飲む気にはなれず冷蔵庫からスポーツ飲料を取り出し一気飲みする。胃に染み渡る水分と適度な糖分が二日酔いの身体にありがたい。
     胃が空の時より少しはマシになった気分で何か簡単に用意できるものがあるかと再度冷蔵庫を見れば、昨日ツマミとしていたデパ地下のポテトサラダが目についた。冷蔵庫の横にはストックしてあった八枚切り食パン、ホットサンドサンドでも作るか。南方は作るものを決めると冷蔵庫からバターとポテトサラダ、これも昨日ツマミとしていたパストラミと裂けるチーズを取り出す。
     パンを二枚皿に置くと冷蔵庫から出したばかりだというのに夏の気温で早くも柔らかくなり始めているバターを片面に薄く塗り伸ばしていく。もう一枚も同様にバターを塗るとパストラミをパンの上へと広げる。満遍なく肉を敷き詰めたその上にポテトサラダを軽く盛り、チーズを適当に裂いて散らしパンで挟んだ。
     そこまで終わると南方はホットサンドサンドメーカーをキッチンの収納から取り出す。コンロで調理するタイプのソレはホットサンド以外にもあらゆるものが焼けるとのことでネットで話題となり買ったはいいがあまり活用は出来ていない。それでも手入れはちゃんとしているのもあってホコリを被っているなんてことはなく、キッチンペーパーで軽く油を塗ってやればすぐに使える状態となる。そこに先程作ったサンドウィッチをセットしてやればホットサンドメーカーを閉じてコンロへと置いた。
     焦がしてはいけないと弱火で時折中を確認しながらパンの表面がカリカリになるよう焼き上げていく。途中で中を確認するとバターを吸ったパンの香りが鼻をくすぐる。二日酔いで食欲がないと思っていた南方の腹がぐうと鳴った。門倉の分が焼きあがったら自分の分も作ろうと思いながらもう片面を焼くためにひっくり返した。

     両面が綺麗に焼きあがったホットサンドを皿に載せると食べやすいように斜めに半分に切る。コーヒーメーカーを確認すればドリップがちょうど終わったらしくタイミング良さに少し嬉しくなる。そうして上機嫌でマグカップにコーヒーを注げばホットサンドの載った皿と共に門倉の元へと運んだ。
    「二日酔いの割にちゃんとしたもん出すやないか」
    「有り合わせやけどな。昨日の詫びじゃけぇこんくらいはするわ」
    「にしても美味そうやな」
    「おん、熱いうちに食え」
     南方の言葉に従った門倉が早速ホットサンドに手を伸ばした。サクリという軽い音がしてパンが噛みちぎられる。軽く伸びるチーズをおさめつつ咀嚼する門倉の口元についつい目を奪われる。口端から零れたチーズをぺろりと舐めるその舌が艶かしい。
    「なんやそんな見て、食いたいなら作れ」
     視線に気付いた門倉は南方が見ている先がホットサンドだと勘違いしたのか貰ったものは渡さないとばかりに主張する。
    「そがぁに言わんでも取らんわ」
     思わず笑ってしまった南方に機嫌を悪くしたのか小さく舌打ちが聞こえる。それでも食べる手が止まらないあたりどうやら口にあったようだ。
    「わしの分作ってくるけぇ、なんかあったら呼んで」
     そう一言断ると南方はすぐそこのキッチンへと戻る。胃もたれが辛いので門倉のよりはだいぶ軽めに作る予定だ。
     パンを手に取ると気温ですっかり柔らかくなったバターを軽く塗った。パストラミ載せる所までは同じだが先程より量は控えめだ。ポテトサラダを今度は土手を作るように盛ると、冷蔵庫から卵をひとつとって真ん中に割落とした。チーズは気分じゃないので入れずにパンで挟む。
     油を塗り直したホットサンドメーカーへと自分の分を入れてしっかり閉じるとまたも弱火で丁寧に焼いていく。二回目ともなると余裕が出てきたのもあり焼いている待ち時間に余った材料を冷蔵庫へとしまう。最初に飲んだスポーツ飲料のおかげか二日酔いの頭痛はだいぶ楽になった。

     途中ひっくり返し中の卵に火が通ったかを確認しつつ、焼き終えると皿に載せ同じく斜めに半分に切る。程よく焼けた卵の黄身がとろりと断面から零れた。まずまずの出来に満足気に頷くと門倉が居るダイニングへと戻る。
     テーブルに皿を置くと目ざとい門倉が先程のと中身がやや違うことに気がついた。
    「そっちのも美味そうじゃの」
    「チーズやのうて卵いれたわ」
    「ほーん。なぁ半分ちょーだい?」
     小首を傾げ強請ってくる門倉の皿を見ると最初に焼いたものは既に無くなっている。簡単なものとはいえ手料理を完食されたことに胸を撫で下ろす。南方が安心していたのも束の間、返事がないことを了承と見なした門倉が南方の皿からホットサンドを手に取っていた。
    「ありがとー」
    「あっ……ええて言うとらんぞ」
    「すぐ言わん方が悪い」
     なかなかの暴論だがそこまで気に入ってくれたのであれば悪い気分ではない。早速口へ運ぶ門倉の反応が気になりついつい見てしまう。
    「ん、こっちも美味いわ」
     なんて門倉が言うのを見れば口角が上がりそうになるのを止められない。そんな口元を誤魔化すように自分の分のホットサンドを手に取ると真ん中からかぶりついた。
     さくりとしたパンの下には少しだけ火が通ったとろとろの黄身。さらに下のぷりぷりとした白身と相まって歯触りがいい。パンの香ばしさを味わいながら咀嚼すれば濃厚な黄身の味わいがパストラミの塩気と合わさりちょうどいい塩梅だ。端の方まで食べればポテトサラダが出てくるためまた印象が変わるだろう。
     家にあったものでこれ程のものが出来るとはわしすごない?とついつい自画自賛したくなるも、咀嚼したパンと一緒にその言葉を飲み込んだ。

     もたれ気味で食欲のなかった胃であったがあっという間にホットサンド半分を食べきってしまった。それでも卵のおかげかそれともパンにポテトサラダという炭水化物同士の組み合わせのせいか半分でもそれなりに満足感がある。まだ多少入りそうだが本調子じゃない腹具合だ、この程度で留めておくべきだろう。
     南方の分まで半分食べた門倉はあらかた満足したのかコーヒーを飲んでいた。南方が食べ終えたのを確認すると口を開く。
    「ご馳走さん。また今度作って」
     相当お気に召したらしい。
    「ええけど有り合わせやけぇ次もこんだけ豪華とは限らんぞ」
    「それでもええよ」
     南方の承諾の言葉に門倉は嬉しげに笑みを浮かべる。そんな門倉を見て南方も思わず口元をゆるめた。

     その後、合鍵を渡された門倉が呼ばれてもないのに夜中訪れては朝食を強請るようになるのはまた別のお話。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺☺☺💕💕💕💕💕💕💕🍞🍞🍞😍😍😍😍❤❤❤❤❤🍞🍞🍞🍞🍞😍😍😇☺💖💗💗💗💗💗
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works