Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    Hyiot_kbuch

    @Hyiot_kbuch

    スタンプありがとうございます。めちゃくちゃ励みになります。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 🍻 ☺ 🐾
    POIPOI 50

    Hyiot_kbuch

    ☆quiet follow

    門南
    12/18のライアジで無配だったものです。

    #門南
    menan

    逢瀬の現場に居合わせて 今日の立ち会いもなんとか無事に終わった。後始末まで終え、俺は安堵で小さく息を吐く。会員同士で行われた賭けは、互いに武力を誇示した状態で行われたこともあり一触即発と言う表現がぴったりだった。しかし、幸いにも武力が使われることはなく、最後まで均衡を保ったまま勝敗が決した。
     その均衡を保たせていたのは俺が黒服としてついてる弍號の門倉雄大立会人と、俺や雄大くんと同郷でもあり拾陸號を継いだ南方恭次立会人の二人だ。そんな二人は少し離れたところで何やら話しているようだ。
     俺の位置からは会話の内容は聞こえない。だけど表情から読み取ると立ち会いの話でなさそうだ。きっとこの後の予定の話でもしているのだろう。自分たちと話す時よりも幾分気安さの混じる表情に少しばかり嫉妬を覚えてしまうのも仕方ない。
     だが、その背を追うだけで並び立つことをしなかった俺が、同じ土俵に立てと言う方が無理なのだ。それに公言はしていないがあの二人、所謂恋人なのだ。南方の方は隠しているつもりであろうが、酔うと彼の話ばかりする雄大くんのせいで俺たちは二人がそういう関係であることだけではなく食事の好みや些細な喧嘩の内容まで知っていた。そのことに少しだけ溜飲を下げる間に二人がこちらへと歩いてくる。きっと帰りの車に乗せろということだろう。
    「これも一緒に頼む」
     予想通りそう雄大くんが南方を指さすと、俺は黙って頷いた。

     俺が運転席に乗り込むと定位置である真後ろの席に雄大くんが座る。いつもと違うのはその隣に南方が座っていることだ。南方が家の場所を知らない俺に道を教える以外に特に会話という会話もない。
    「下道でいいか?この道を北上してくれ」
     適格なタイミングで南方の指示が飛ぶ。南方の指示に従うのはなんとなく癪だが、雄大くんの頼みである。
    「その先のふたつ目の信号を右だ…っ」
     指示を出す南方の語尾がよく聞かないとわからない程度に小さく跳ねた。何事かとバックミラーに目をやれば南方の目に僅かばかり焦りの様な色がみえる。本人は平静を装っているつもりなのだろうが、わかるものはわかる。南方が隠すのが下手なのでなく、俺がわりとそういうのに敏い方なのだ。伊達に雄大くんの元で黒服をやっていない。
     運転に支障をきたさない程度にミラー越しに観察すると南方の腕の角度が不自然に伸ばされていた。その手がある先は雄大くんの膝の上のあたり、といったところだろうか。
     そう思い雄大くんの方へと視線を向ければ、俺がこちらを見ていたことがばれていたらしくバッチリ目があった。雄大くんの悪戯の共犯者になれと言わんばかりの愉しそうなに目に俺は小さく頷くと指示が来ないのに焦れたふりをして南方へ声をかけた。
    「この先Y字路みたいなんですが、どちらへ行けばいいです?」
    「……左方向だ」
     声だけを聞けばいつもと変わらない調子で答えがかえってきた。だがバレない様に顔を伺えば南方の耳が赤く染まっている。その手は変わらず雄大くんの膝の上のようだ。
    「その次の交差点は?」
    「えっと……」
     Y字路を曲がった先の次の交差点はすぐそこだ。あまりにも近い場所で余裕がない南方が一瞬言い淀む。
    「直進じゃ」
     すぐに後ろから助け舟を出すように雄大くんの声がした。どうやら少し意地悪しすぎたらしい。自分以外の言葉で焦る南方が気に食わないのかミラー越しに咎めるような視線に小さく会釈して謝る。それとなぜ雄大くんが南方の家への道を知っているのかは聞かない。俺が知っているのは先日の飲みの席で家に呼ばれたと上機嫌で話す雄大くんの姿くらいだ。
     
     あれから雄大くんの道案内のもと南方の自宅へと到着した。なんの変哲もない高級住宅街のマンションで、警視正ともなるとこういう所に住めるんだななんて思ってしまう。人のいないエントランスの前へ車をつければ、後部座席から二人して降り立つ。どうやら雄大くんは南方の家に泊まるつもりらしい。外でいくらか話す声がした後、雄大くんがエントランスの中へと入っていくのを見送る。
     見送りも済んだし車を出そうかといったところでコンコンと窓を叩く音が聞こえた。音の方を向くとそこには南方がまだいて、窓を開けろと指で示している。俺は仕方なく南方がいる方の窓を開けた。
    「送ってくれてありがとうな」
    「……いえ」
     南方が言ってきた感謝の言葉に俺は一瞬固まってしまった。正確には言葉に驚いて固まったのではない。その時見せた笑みのせいだ。
     南方の見せた笑みは立会いで見せるような綺麗なものでなく存外人懐こいもので、これが素なのだろうかといった驚きと、これで雄大くんはほだされたのかといった納得で固まってしまったのだ。そんなことを考えて俺が動けない間に、言いたいことを言った南方は雄大くんを追ってエントランスへと入っていく。それを見て我に返った俺はアクセルをふかせ、その場を後にした。

     後日、あの時何をしていたか酔った雄大くんに聞いたところ「特になにもしとらん。ただ手握っとっただけじゃ」とのことだそうだ。そのせいで俺たち黒服の間では見かけに寄らず初心だとまことしやかに囁かれていることを南方は知らない。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😍😍😍😍😍☺☺☺☺☺🌋🌋🌋😍😍😍😍😍💴💴☺☺☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works