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    yukuri

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    yukuri

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    🦁🖋
    ボスになりたての🦁くんが🖋くんと一緒に「大切なもの」を探すお話です。
    ※捏造注意(🦁くんのお父さんが登場します)

    #Lucake

    題名は、愛について。「うーーん」
    「どうしたの。さっきから深く考えてるみたいだけど」
     木陰に入り混じる春の光がアイクの髪に反射した。二人して腰掛ける木の根元には、涼しい風がそよいでいる。
    「ボスとしての自覚が足りないって父さんに言われて」
    「仕事で何か失敗でも?」
    「特に何かあったとかではないんだけど。それがいけない?みたいな」
     ピンと来ていない様子のアイクに説明を付け加えた。
     ルカがマフィアのボスに就任してから数ヶ月が経った。父から受け継いだファミリーのメンバー達とは小さい頃から仲良くしていたし、ボスになったからといって彼らとの関係に特別何かが変化することもない。もちろん、ファミリーを背負うものとして自分の行動に伴う責任が何倍にも重くなったことは理解しているつもりである。しかし実の父親、先代ボスの指摘によると「お前はまだボスとしての自覚が足りていない」らしい。「平和な毎日に胡座を描いていてはいつか足元を掬われる」と。説明を求めると、さらに混乱を招く言葉が返って来た。

    『ルカ、お前は自分にとって本当に大切なものが何か分かってない』
    『時間が掛かってもいいからしっかりと答えを見つけなさい』

     ルカは助言の理解に苦しんだ。大切なものたちは空で言えるくらい沢山心の中に詰まっている。家族、マフィアのファミリー、高校時代の友人、思い出、その他諸々。自分を支えてくれる人たちとその人たちとの思い出、それが自分にとって大切なもの。自覚していると反論したが、「そういうことではない」と一蹴されてしまった。

    「なるほど。ルカのお父さん、難しいこと言うね」
    「うーん。大切なものがどうボスとしての自覚に繋がるのかもいまいち分かんないし」
    「ルカのペースで見つけていったらいいよ。気負わずゆっくりね」
     ふわり。アイクの微笑みは花のように咲いて、ルカの胸を温める。いつだって、アイクの優しく寄り添った言葉はルカの胸の奥底に届いて触れた。
    「アイク〜」
     いつものように彼の首元に自分の頭を擦り付ける。犬が主人にするような仕草でぐりぐりと甘えると、アイクが髪を指で梳いてくれるのが心地よかった。
    「あはは、ルカくすぐったい」
     機嫌を良くしてアイクに体重を掛けて甘え続けた。バランスを崩したアイクが仰向けになり、その上に重なるようにルカも寝転んだ。
     天使が通り、どちらからともなく笑い合う。起き上がるまで髪を撫でるアイクの手の感触を堪能する。
    「こういうの」
    「うん?」
    「こういうのも俺にとって大切な時間のひとつ」
     アイクと過ごす穏やかなひとときもルカの心の中を大きく占めている。
    「ふふ、そうだね。僕にとっても大切な時間だよ」
     再び吹いた風は二人の頬を撫でて過ぎ去っていく。ポピーの花を揺らして、どこまでも駆け抜けた。



    「ルカ、お前今恋人はいるのか」
     ミーティングの後、父に呼び止められて問われた。いつも唐突なんだよなと思いながら答える。
    「いないけど」
    「そうか」
    「それってこの間の話と何か関係あったりする?」
    「無理にでも恋をしろとは言わない。心を揺さぶる何かがあればいいんだ。それが揺るぎないものになればこの間の言葉の意味もきっと分かる」
     揺るぎない心揺さぶる何か。また広い迷路の中で迷子になった気分だ。
    「心揺さぶるって自分がときめくものを探せってこと?」
    「まぁ、そうだな」
     これってなんの話だったっけ。ボスの自覚についてだよな、と思い返す。マフィアのボスにときめきが必要だって言ってるのかこの人は。言葉の意味が理解できない内は無闇に否定もできない。何より、この人のボスとしての器量の凄さは背中を見てきて知っている。

     百聞は一見にしかず。そのときめきとやらを感じてみればいいのだろうとルカは早速隣町に出掛けた。
    「アイクー!」
    「ルカ、いらっしゃい」
     アイクの商っている雑貨屋の扉を引いた。ルカのホームタウン、マフィアの縄張りであるエリアの隣に位置する賑わい豊かな街。そこにアイクのお店兼自宅があった。
     学生の頃、日課である散歩で気まぐれにこの街に辿り着きアイクと出会った。今は亡き祖父母の店を受け継いで、半分趣味でやっている執筆業と両立して生計を立てている。当時高校生だったルカには、歳はあまり変わらないはずのアイクが自立して仕事に励む姿が尊敬の対象として映った。本好きのルカと話も合う。足繁くアイクの店に通っては他愛もない話をした。たまには場所を公園やカフェに移して気分も変えながら、交流が深まっていった。
     ルカが20歳の誕生日を迎え、マフィアのボスになった日もアイクがサプライズで用意してくれたクラッカーとケーキを二人で楽しんだ。
     ボスに就任してから滞在時間は短くなったものの、頻度は変わらずにアイクのもとを訪れている。見聞の広いアイクの話は面白いし穏やかな人柄に触れている時間がルカにとって癒しなのだ。

     自分より物知りなアイクに「『一見』に付き合ってくれないか」と切り出す。
    「この間のお父さんのお話?」
    「そう。ときめきがヒントらしくて」
     うんうんと頷くアイクに目を合わせて尋ねる。
    「今夜一緒に遊びに行かない?」
    「今夜?」
     随分と急だね、と驚くアイクに「善は急げだよ」とプッシュする。
    「最近、ことわざとか慣用句使うのハマってる?」
     と微笑むアイクは案の定ルカの誘いに乗ってくれた。

    「ここ?」
    「そう!ここ!」
     湖に観覧車が逆さに浮かぶ夜の遊園地。この時間帯は人が少ないので、少人数で楽しむにはもってこいの場所である。幼い頃からアミューズメント施設に目がないルカは、ときめくならまずはここだろうとアイクの手を引いてやって来た。昼の活気ある雰囲気とは一転し、アトラクションの看板はネオンに縁取られロマンある空気を演出している。
     まずは定番のジェットコースターから。カートにはアイクとルカの二人以外に数名だけ。シートベルトを確認した店員さんに「夜空の旅にいってらっしゃい〜」と元気に見送られる。
    「うわぁ!結構な高さだね」
    「ルカ、これからあのレールに沿って行くんだよね?」
    「綺麗だけど、結構怖い!」
     頂上に行くまでのスリルを味わうアイクがいつもより饒舌で可愛い。
    「手!手握ってて!」
     と叫ぶので、絶叫ポイントでアイクと手を繋いで頭上にあげた。手を上げると浮遊感をより感じるのでアイクは余計に叫んでいた。走行が終わるまで手を離さずに、笑いと震えを含んだ悲鳴を上げて楽しんだ。一つめの乗り物を終えて爽快な気分になった二人は次々と乗り物をハシゴした。閉店時間が近づいてやっと我に帰り、観覧車に乗り込んで落ち着いた。
    「アイク見て!あれが俺の家!」
    「そんなにここから綺麗に見える?」
     眼鏡の奥で細まった瞳が緩く解けた。瞳に映った街全体が煌めく。

    「ときめきの相手は僕で良かったのかな」
     今更だけどね。と付け加えたアイクはどこか気まずそうに下を向いた。
    「なんで?アイクがいいよ。こういう楽しいところへ来るならアイクとがいいなって一番に思い浮かんだんだ」
    「そっか」
     今度は恥ずかしそうに視線を窓の外に逃すアイク。胸の奥が搾られるようなドキドキとわくわくと。こんな気持ちが一生続けばいい。アイクも同じ気持ちでいてくれてたらいいなと空に浮かんだ月に微笑んだ。



    「はい、ビール二つお待たせ!」
     店の看板娘が勢いよく置いたビールジョッキ、表面の泡が弾けて踊る。
     この日アイクとルカは街の小さな酒場に来ていた。規模は大きくないもののカラオケパブとしては人気の店で、今日も多くの人で賑わっている。
    「アイク何か歌ってよ!」
    「でも結構お客さんいるし」
    「俺最前列で応援するから!」
    「じゃあもう少し飲んでからね」
     そう言ってジョッキを空にする。机の上が空のコップやらおつまみやらでいっぱいになってきた頃、アイクは徐に立ち上がって小上がりになっているステージへ向かった。
     アルコールが入り機嫌の良さそうなアイクは伴奏者と小声で打ち合わせる。軽やかな鍵盤が響いてアイクは歌い出した。中低音から始まりハイトーンが気持ち良く伸びた。痒い所に手が届くような歌声はテンポが上がっていき、グロウルに変わった。
     カラオケパブが一瞬にしてライブ会場に変わったのが分かる。客の目を惹いて離さないアイクは安っぽいライトに照らされてスーパースターのように輝いた。
    「ルカ〜」
     歌い終えてテーブルに戻ってきたアイクは雪崩れるようにルカにもたれかかった。先程のスーパースターはどこへやら。今はただのふにゃふにゃ酔っぱらいアイクだ。
    「アイクすっっごい格好良かったよ!」
    「ほんとぉ?」
    「アイクの歌ってる姿にときめいた」
    「えへへ」
     飲み物を水に変えて、酔いが覚めるまでただ隣で時間を過ごした。鼓動が速くなる胸のときめきは、この日一晩アイクを家に送って自宅に帰ってからも続いた。



    「〜〜♪」
    「その曲最近よく歌ってるね」
    「だってほんとに格好良かったんだ」
    「あはは。ありがとう」
     ルカが口ずさむのはアイクがパブで歌っていた曲。頭に残って離れないメロディーとアイクのシルエット。
     公園で気持ちい風を浴びながら、隣町のマップを指で辿りどこか遊べそうな場所はないか探す。
    「またときめき探し?」
    「んー」
     アイクはどこが楽しいだろう。どんな場所だったらアイクの新しい表情が見られるだろう。ボスの自覚という本来の目的はとっくにどこかへ追いやられ、アイクと遊ぶことが選定の基準になっていた。
     ルカが芝の上に寝転がるとアイクも真似るようにした。
    「アイキーワイキー」
    「なぁに?」
    「ふ…ふふっ…」
    「うん?」
    「ふはは」
    「もう、人の顔見て笑わないでよ」
     アイクにつねられた頬は熱を持って、ふんわり風に攫われたアイクの前髪が揺れる。シャンプーの香りが鼻に乗り、アイクへ対する凪いだ恋心を自覚する。
    「ふふ」
    「ははは」
     二人の声は木の根元でこだまする。
    「アイク、どんなところに行きたい?」
    「ルカは?」
    「今はアイクの話」
    「うーん、そうだな…」
     芝生の上で顔を寄せ合って地図を覗き込む。息が届いてしまいそうなその距離に心拍数が上がっていく。示し合わせるかのようにルカの腹の虫が鳴き声を上げた。
    「ご飯、食べに行こうか」
     立ち上がったアイクの後ろをついて歩く。自分が犬だったら元気の良く尻尾を振っているんだろう。

    「おかわりする?」
     焼きたてのピザはすっかり腹の中に収まってアイクと空になった皿を見つめた。
    「ううん。もういいや」
     アイクの目尻が緩い弧を描いた。その微笑みにいつも癒される。ドリンクを飲み干したアイクが徐に口を開く。
    「平和だなぁ」
    「幸せだね」
    「こんな日がずっと続いたらいいのに」
    「続くよ。きっと」
    「本当?」
    「うん」
    「ルカが言うならそうなのかも」



    「ルカ最近どうだ」
    「まぁまぁかな」
    「近頃隣町まで行って夜遊びしてるみたいじゃないか」
    「夜遊びっていうかお出掛け?好きな人の所に通ってるだけ」
    「好きな人ができたのか」
    「うん」
    「隣町なら気を付けろよ。あそこはまだうちの縄張りではない」
    「わかった」
    「それと……覚悟ができたら今度その人を家に連れて来なさい」
    「まだ恋人ってわけじゃないけど」
    「本気ならいずれそうなる」
    「まぁ、うん。覚えとくよ」
     父の言う「覚悟」の意味をまだ見出せていない。直接答えを求めるのは負けを認めるみたいで嫌だからしないけど。いくら思考を働かせても靄は消えない。まだ自分の中に正解のピースはそろっていないのだろうか。高難易度のパズルは完成までに途方もない時間が掛かるような気がした。

    「ルカ、そろそろ日が落ちるよ。家に戻ろう」
     アイクの呼びかけで意識を微睡の中から引き戻す。いつもの公園、いつもの木陰。足を伸ばして座るアイクの腿に頭を預けて気がついたら昼寝をしてしまったらしい。
     覚醒していない頭の中、夕日に照らされたアイクの頬に手を伸ばした。
    「ルカ?」
     このまま角度を変えて起き上がれば、口と口が触れてしまいそうな距離。アイクはどんな反応をするだろうか。一抹の不安がルカの自制心を繋ぎ止めていた。
     アイクの手がルカの頬に伸び、耳朶を優しく揉んだ。理性という名の細い糸がぷつんと切れ、夕日に照らされた二つの影が重なった。
     一瞬、目を開いて驚いたアイクは腕をルカの首に回して受け入れた。何度か啄むようなキスを楽しんで、ルカはアイクの背に手を当てながら押し倒した。上がる息を整えるように一言、アイクが言った。
    「お家、帰ろっか」



     すやすやと小鳥の寝息を立てるアイクはルカの腕の中。アイクを起こさないようにそっとベッドから出て窓を開ける。新鮮な空気を部屋に取り入れて、またアイクの隣に戻った。
    「るか?」
     もぞもぞと布団を潜ってアイクはルカに体をくっつけた。お互い上は裸で心臓の音が直に伝わる。心地よいその音に耳を澄ませて、二人の呼吸だけが部屋に響く。
     一つになった心が幸せの形を囁く。自分の手で守りたい大切なものは、今ルカの腕の中にある。この幸せは両手から溢れ落ちないでほしい。切に願う心の中、ただ今は温かい日差しを享受したい。



     アイクと結ばれてから数日間、アイクの部屋でハネムーンのような日々を過ごした。
     「そろそろ仕事をしに戻らないとかも」と零したルカの言葉を聞き逃さなかったアイクは「ちゃんと仕事はしてこなきゃ」と駄々を捏ねる背中を押した。
     仕事中もアイクとの時間に想いを馳せて、ケーキを買ってからアイクの部屋に戻ろうかなどと考えて口が緩む。そういえば、恋人になったら連れて来いと父さんが言っていた。今日あたりで話をしてみようか。照れ臭そうに笑うアイクの瞳を想った。

     ケーキを手にアイクの店にやって来ると、これまで感じたことのないほど不吉な予感がした。openのままになっている店のサインとうっすら空いた扉。音を立てて開かれた戸は月明かりを店の中に通した。
     照らされて明らかになった店内は酷い有様。まるで泥棒が入ったかのような形跡。綺麗に陳列されていたショーウィンドウの商品もまばらに床へ散らばっている。
    「アイク…?いるの?」
     2階のアイクの部屋に向かって呼びかけても帰ってくるのは静寂だけ。
     嫌な予感は密度を増して迫ってくる。部屋に行くとハンガーに掛かっているはずのスカーフは床に落ち、そこにも争った跡があった。
    『こんな日がずっと続いたらいいのに』
     頭の中に響いたアイクの言葉に歯を食いしばり、裏庭にあったタイヤの跡を追って走り出した。



     海辺に面する倉庫。隣街のギャングたちのアジトになっているその場所に車が数台止まっている。
     父からの警告も忘れ、完全に油断していた。縄張りではない場所にマフィアが入り浸ってその土地の者がどう感じるかなど考えなくても分かる。自責の念とアイクを思う気持ちでルカの胸はいっぱいになった。
     倉庫の戸はどこも鍵が閉められていて開かない。薄いトタンの後ろから話し声が聞こえた。
    「本当にこいつか?」
    「間違いないっすよ」
    「お前名前は?」
    「……」
    「おい聞こえてんのか」
    「…っ」
     スラップ音の後に微かに聞こえたアイクの息遣い。
     アイクがそこにいる。
     そう認識してから後の記憶は曖昧で、気がついたら獲物を威嚇するような荒い息でアイクを抱き締めていた。周りには数人の男が意識を無くして寝そべって、自分の拳は赤黒く染まっている。
    「ルカ。どうして君が泣いてるの」
    「アイクが…」
    「僕は大丈夫だよ。ルカが来てくれたから」
     慰めるように微笑むアイクの口元が切れていて、先程顔を打たれた事実を目の当たりにすると涙は止まらなかった。
     ぽろぽろ流れる頬の滴をアイクは袖で拭いとる。
    「ルカ泣かないで」
    「ごめん。ごめんね」
     自分の立場を理解できていなかった。マフィアの組織を取り仕切るボスが大切なものを持つというのはどういうことか。それが周囲にとって何を意味するのか。立場が大きければ大きいほど、大切なものが大切であればあるほど、その宝物はその人にとって弱点になる。
     ルカの大切な人が望む日常。ルカの望む平和なひととき。全ては神ではなく自分自身の手に委ねられていた。その責任の重さをいま一度思い知る。

     ほろ苦い夜は二人を包んでただ密やかに三日月が海に浮かんで揺れた。

    **

     ここ最近で一番の早起きをしたアイクは、寝起きに踊り出してしまいそうなほど気分が良かった。なんたって今日は一年ぶりに彼に会える。

     数年前に出会った彼、ルカ・カネシロは年下の愛らしい友人だった。出会った頃ルカはまだ高校生で恐ろしいほど純粋な彼の性格は、約束されている将来のポジションとはちぐはぐに映った。20歳という節目を迎えて無事にボスとしてファミリーから迎えられた後も、実の父親からの承認は得られていないようだった。
     何でも信じることから入るルカの優しさが危うくて、半ば保護者のような気持ちで隣にいた。それがいつしか情に変わり、恋情へと色付いた。自分でも不思議なほど自然な感情の変化が擽ったくて、心地よかった。
     ルカと恋人になって間も無く起こった事件。街のギャングに襲われて誘拐された日。
     ルカは自分を責めて泣いた。子供のようにしゃくりあげる彼の隣で夜を明かした。そして朝日が顔を出した頃、ルカの顔つきは何かを悟ったように精悍に、そしてアイクにこう告げた。
    『一年間だけ、俺のこと待っていてくれる?』
     信じるより他なかった。誰よりも愛おしいルカの言葉を。

     それから一年間、ルカに言われたのであろう護衛の人がたまに様子を伺いに来る以外はなんの変哲もない日々を過ごした。
     変化がなさすぎてつまらない。意訳すればルカがいない日々は退屈だった。暇つぶしにと筆をとってルカと過ごした日々に想いを馳せた。
     頁が山を成す書斎の窓を開いて、朝の空気を肺いっぱいに取り込む。
     小鳥の囀りを遮るように気持ちよく響いた声。
    「アイク!」
     一年間思い焦がれた日々が、考えるよりも先に足を動かした。
    「ルカ!」
     扉を開いた先には一年越しの彼の姿。胸に飛び込むと以前より逞しくなった腕に包まれた。
    「ん〜アイクだ」
     首元に擦り付いてくる人懐っこさと愛くるしさは変わらない。むしろパワーアップしている気がする。
    「待っててくれてありがとう」
    「迎えに来てくれてありがとう」
     ルカが手にしていた一輪の薔薇は綺麗にラッピングされていて、朝から花屋に寄って来てくれたルカの姿を思い浮かべると口が綻ぶ。
    「アイク、大好きだよ」
     応える数文字もままならずに唇を押し付けた。朝日は砂埃をも輝かせ、小鳥たちが囀りの祝福をあげた。



    「はじめまして。アイク・イーヴランドと申します」
    「よく来たね。さぁ上がって上がって」
     一年越しの再会を果たしてから数週間。
     ルカはアイクを実家へと招いた。
     先代ボスの風格はどこへやら、父親は緊張と興奮が入り混じった声でアイクを中へ招き入れた。
     あまり人数が多いとアイクが怖がるかもしれないと思い、付き人以外の組員には休みを取ってもらった。
     家族との挨拶ということもあり、アイクも最初はぎこちない様子だったが、談笑の中で全員の緊張が少しずつ解れていくのが分かった。

     昼過ぎから酒を交えての交流は穏やかに順調に進み、いつもより早いペースで飲む父親の頬は気が付けば紅潮していた。
    「アイクさんには感謝してもしきれません」
    「と言いますと?」
    「ボスになりたての頃は自覚があるのかないのか、ふわふわしてたんですがね。ここ一年でまさか隣町だけでなくこの地域一帯をまとめあげるまでに成長するとは私も予想していなくて。ひとえに貴方の存在が大きかったのだと理解しています。本当にありがとう」
     大きく首を振りかぶって、アイクの方からも頭を下げた。
    「僕は何にも。全てルカくんの力です。今日は皆さんに温かく迎え入れていただいて、嬉しいです」

     顔を上げた2人の瞳は優しく笑う。これが自分が求めていた平和だとルカはしみじみと感じ入った。大切な人を守るために自分はこの責任を背負っている。



    「優しい方だったね」
    「アイクの前だからいい顔してたよ。あの人」
    「ふふ、そうなの?」
     父親との挨拶後、ルカがアイクを家まで送る運びになった。川沿いの道を2人で寄り添って歩く。

    「そういえば、書いてた本はもう出来上がった?」
    「もうすぐ完成だよ」
    「楽しみだなぁ。アイクの本を読むの久しぶりだ」
     ルカと離れていた期間にアイクが執筆していた小説が出来上がる。読書が好きなルカは完成を心待ちにしていたのだ。
    「どんな本なの?」
     わくわくしたときめきを抑えきれずにアイクに尋ねた。秘密を共有するように手招きをして、アイクはルカに耳打ちで伝える。
    「題名は、ーーー。」

     二人の話し声は美しいハーモニーを奏でて、どこまでも続く先の未来までその音色を響かせた。
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    「ボスとしての自覚が足りないって父さんに言われて」
    「仕事で何か失敗でも?」
    「特に何かあったとかではないんだけど。それがいけない?みたいな」
     ピンと来ていない様子のアイクに説明を付け加えた。
     ルカがマフィアのボスに就任してから数ヶ月が経った。父から受け継いだファミリーのメンバー達とは小さい頃から仲良くしていたし、ボスになったからといって彼らとの関係に特別何かが変化することもない。もちろん、ファミリーを背負うものとして自分の行動に伴う責任が何倍にも重くなったことは理解しているつもりである。しかし実の父親、先代ボスの指摘によると「お前はまだボスとしての自覚が足りていない」らしい。「平和な毎日に胡座を描いていてはいつか足元を掬われる」と。説明を求めると、さらに混乱を招く言葉が返って来た。
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