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    ちゃちゃ

    @X5tmy

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    ちゃちゃ

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    フラれた🌸と、フッた🎰からはじまるこは燐の冒頭。
    供養
    タイトルは作業用BGMから

    #こは燐
    ammoniumPhosphate

    恋は戦争 初恋は実らないらしい。以前藍良が教えてくれた言葉が、こはくの脳裏を掠める。あの時はジンクスも色々あるものだと感心したが、まさか己が身をもってジンクスが正しいと証明することになるとは思わなかった。
     思わず俯きそうになるのを堪えて、グッと男の顔を見上げる。どんな状況であれ、目の前にいるのは好いた相手。ここで格好悪いところを見せるのは、こはくの矜持が許さない。例えその相手が、珍しく少し困惑した瞳をしていたとしても、だ。

    「こはくちゃん、多分それは年上に対する憧れを勘違いしてるだけっしょ。」

     口を噤んだままだった男が、無慈悲にも言葉を紡ぐ。口調はいつも通りだが、普段の茶化すような雰囲気はそこには無い。あくまで冷静に、諭すような響きを持って告げられた言葉が、こはくへの答えだった。
     年上から年下へ。明確な意図をもって告げられた言葉に、一歩大きく踏み出す。こはくの動きによって生み出された風が、男の前髪を揺らす。食って掛かる程の勢いだと言うのに、怯むどころか身動き一つしない男が、心底恨めしくもあった。
     
    「勘違いやあらへん!わしは…」
    「そうやってムキになるところが、何よりの証拠だろォ?」

     聞き分けのない子供へ言い聞かせるような声色に、思わず言葉を重ねる。けれど、遮るように重ねられた言葉は取り付く島もない。どこか一本線を引かれたような心地に、ズンと胸が重くなる。掌に食い込む爪の痛みだけが、情けなくも目を逸らそうとするこはくを律していた。
     せめていつものように、悪戯っ子のような顔でいてくれれば、こはくも強く言い返すことが出来たかもしれない。だがこの男は、こはくが真剣な話をするときは、言葉ではふざけていても芯の部分ではしっかり聞いてくれている。そんな男だからこそ、こはくは好きになったのだ。
     そんなことない。
     そう反論したいのに、上手い言葉が出てこない。男の教えの通り、思考を止めずに考えるも、口から出るのは噛み殺したうめき声だけ。もどかしさに歯噛みしようと、状況はなにも変わらなかった。

    「一過性の熱病みたいなもんだ。今はちょっと気まずいかもしれねえけど、そのうち『なんでこんな奴好きだったんだろう』って嫌になると思うぜ?」

     黙り込んでしまったこはくに、男は淡々と言葉を重ねる。一瞬だけ緩められた眼差しは、どこか遠くを見ているようだ。過去を懐かしむような仕草は直ぐに身を潜める。けれど、確かに捉えたその表情に、心臓の裏を掴まれているような痛みがこはくを苛んだ。

    (これが恋じゃないっちゅうんなら、一体何が恋になんねん…!)

     まるで自分は恋を知っているかのような口ぶりに、未だ発展途上の胸が痛む。この痛みが恋慕ではないと言うのなら、一体何と名付けるのか。こはくには分からない。唯一教えてくれそうな大人も、このありさまだ。
     過去の熱病の相手とやらが、憎らしくて、羨ましくて仕方がないのに。自分には向けられることのない表情が、感情が、欲しくて欲しくてたまらないのに。こんな醜い嫉妬と独占欲を抱く原因が恋ではないのなら、大人として教えて欲しい。そう言って地団駄を踏めれば楽だ。けれど、今それをしたところで、ますます目の前の男に子ども扱いされるのも癪だった。
     おそらく男は、こはくの告白を真剣に考えたうえで、思春期特有のアレソレだと本気で思っているのだろう。そこに更なる裏付けを与えるわけにはいかない。本気なのだと証明するには、あくまで毅然とした態度をとるべきである。そう判断して、こはくは一度大きく深呼吸した。コレは、今からはじまる戦争への儀式だ。

    「わし、それでも首を縦に振ってもらうまで諦めんよ。」
    「おうおう、せいぜい『はい』って言わせてみろ。」
    「覚悟しいや、燐音はん。」

     宣戦布告して、ジッと空色の瞳を見つめる。生憎、誰かさんに育てられたせいで、諦めが悪いのだ。絶対に逃がさないから覚悟しろ。そんな想いを込めたそんなこはくの言葉に、燐音もようやくいつも通りの笑みを浮かべる。「せいぜい頑張れ」なんて呟く声色は、もういつも通りに戻っていた。

    (それでこそ燐音はんやな。その方が、わしもやりがいがあるわ。)

     心の中で呟くと、にっこりと微笑んで燐音の手を取る。少し体温の低い指先が、ほんの少し強張った。僅かでも意識されている。そんな実感に、思わず掌が熱くなった。けれど、誤魔化さずに、ぎゅっと握り締める。じわじわと熱を持つ指先が、居心地悪そうに動いた。
     今は握り返されることの無い指先を、絶対に自分から絡めさせてやる。そう誓って、唇だけで「覚悟せえ」と呟く。これは、こはくの大失敗に終わった初恋の話だ。
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