目を瞑ったまま手探りでスマホのアラームを止めて、僕は体から力を抜いた。いま何時だろう。というか、何日? 今日の予定は……。まだぼやけた思考でゆるゆると疑問を浮かべ、答えに辿り着けずに「んん〜」と小さく唸った。起きなきゃいけない気がした。何も思い出せないけどそれだけは分かる。
膝を抱き抱えるようにして体を丸め、眉間に皺を寄せながら薄く目を開いた。カーテンがしっかり閉まっていて部屋の中は薄暗い。そこらへんに放り投げたスマホを探して布団をぱしぱし叩き、指先が硬いものを捉える。手繰り寄せてディスプレイをつけるととても眩しくてギュッと目を閉じた。
一瞬見えた時計はまだ早朝と言っていい時間で、んん?と頭をひねる。こんな時間にアラームをかけているってことは絶対に何か予定があるんだろう。
いまだ思いつかないその答えは、僕が自分で思い出すより先に部屋の扉から飛び込んできた。
「おはよう〜! シュウ、朝だよ〜!」
「ぅえ……? なに……ルカ……?」
「あれ、まだ寝てたの? おーきーてー」
廊下から部屋の中に光が差し込む。でも電気の明かりよりなによりルカの明るさが眩しかった。僕は目を細めてルカを見上げ、ベッドに近づいてきた彼から逃げるように布団に潜り込む。ルカの笑い声が上から降ってきて、寝起きの心を簡単に揺らした。
「シュウ、朝だよ。今日はちゃんと起きてくれないと」
「……」
「約束覚えてる? まだ寝ぼけてるかなぁ」
「約束……」
「そう、約束!」
そろそろと布団から頭を覗かせると、予想外に近い位置にルカの顔があってパッと目を見開いた。僕と反対にルカは優しく目を細める。ベッドの横にしゃがみ込んで僕と目線の高さを合わせたルカが口角を上げた。
「朝ごはん、一緒に食べに行くんでしょ?」
「……ルカの、ランニングコースの」
「そうそう。目覚めてきた? 早くしないと売り切れちゃうかも」
「んん……おきる……おきるから……もうちょっと」
「あはは、だぁめ。それ起きないやつじゃん」
楽しそうに笑ってルカは僕の頬を撫でた。大きな手のひらは朝から気持ち良い温かさで、僕は首を動かして自分からその手に擦り寄った。ルカはくすくす笑って僕の頬をふにっとつまむ。少しも痛くないけれどポーズとして唇を尖らせるとちゅっとルカのそれが触れた。
「……おきる」
「ん、いいこ」
ぽんぽん頭を撫でられて僕は体を起こした。ルカって時々お兄ちゃんっぽさがあるんだよね。お兄ちゃんにこんなふうに起こしてもらったのかな? ルカも弟のこともこうやって起こした? ……キスはしてないだろうけど。
ベッドの上で座った僕を見てルカが立ち上がったから、僕は「ん」と両手を伸ばした。ほら、だって、僕はまだ起きたばかりで寝惚けてるから、いつもよりわがままに甘えてもいいでしょう?
「そんな可愛いことしてると抱き抱えて俺の部屋に連れて帰っちゃうよ」
「……朝ごはんは?」
「シュウ」
「おなかには溜まらなそうだね」
「どうかな。甘くておいしいと思うけど」
くだらないことを話しながら、ルカは僕の手を掴んで引っ張ってくれて、僕は体の力を抜いたままベッドから立ち上がった。勢いのままルカの胸にぶつかってそのままぎゅっと抱きしめる。
「シュウ、本当に俺の部屋に連れてっちゃうかも」
「二度寝できる?」
「もしかしたら」
顔を上げるとちゅっと唇がくっついた。目を瞑ればさらに数回キスが降ってくる。早く行かないと売り切れちゃうってルカが言ったのになぁ。止められるはずもないそれをひたすらに受け止めて、僕はルカの首に腕を回した。
今日は僕が寝坊したことにして、一緒に二度寝しない?