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    ラーヒュン ワンライ 「レクイエム」 2023.10.15.

    #ラーヒュン
    rahun

     想定外だ。
     かつては荘厳であったろう庭園の真ん中で、ラーハルトは苛立たしく槍を振るいバリイドドッグを分断した。夜の闇に腐肉が舞い散る。入れ替わり立ち替わり、骸骨剣士やらグールやらが飛びかかってくる。
    「キリがない。引くかっ」
    「既に囲まれている!」
    「チッ!」
     古の魔王の居城とやらは廃墟であると聞き及んでいた。話の通りにみすぼらしく崩れ落ちてはいた。
     しかし、ヒュンケルとラーハルトを待ち受けていたのは、魔王そのものであったようだ。
    ──ゴアアアアア!
     地の底からのおぞましい叫びに敵も味方も動きを止め、一時シンと静まった。
     僅かな壁のみを残す広大な建築物、その夜空のひらけた野外にも等しい敷地内で、鳴動と共に床が内側から裂かれて巨躯が立ち上がってゆく。周囲にひしめくアンデッドたちが音の無い歓声を上げている。
     警戒の視線を前方へ置いたまま、ラーハルトは戦友に問うた。
    「なぜあれは動いている」
     ラーハルトとヒュンケルは、近隣からの要請により雑魚どもを蹴散らしに来ただけだった。事前の報告では強力な魔物など確認されていなかったのに。
     かつて不死者の長を務めた男は油断なく剣を構えつつ謝罪した。
    「……すまん」
    「なにがだ」
    「数百年に及び積もった怨念が瘴気となっていたのだ。それと感応できるオレは、謂わば大量の火薬の側に現れた火種……少々探りを入れただけだったのだが、吹き出してきた」
    「おまえの仕業か!」
    「意図してではない!」
    「当然だ!」
     腐った豚のような魔王がドシンと重い一歩をこちらに踏み出してきた。
    ──オオオ……勇者よぉぉおお! わしと戦えぇぇぇ……。
     運が悪いだけならまだしも、こういうオカルト関係の切った張ったにも事欠かないとは、まったくこの男と居ると退屈しない。
    「来るぞ!」
     振り下ろされる巨大な拳が石床を割り、飛びすさった二人は礫を浴びた。同時に唸りをあげて腐肉と骨の群れが踊りかかってくる。一匹ずつは弱いがまとわりつかれては邪魔だ。そこに魔王の両腕が振り下ろされた。
    ──イオナズン
    「ぐっ!」
     まさか溜めも無しで極大呪文を放って来るとは。
     物理攻撃を想定していた回避では距離が足りず、爆風に吹っ飛ばされるが息を吐く暇は無い。足に噛みつこうとしてきた腐犬を突き刺して立ち上がる。
    「ヒュンケル! 離れるな!」
     大魔王戦で体を痛めてからは防御力が格段に落ちたヒュンケルだ。いざとなれば魔槍の鎧を身につけた己が盾とならねばならない。
     睨みを利かせ、しばしの膠着状態。
     ひそひそと作戦を練る。
    「勝手に魔王を復活させおって。かなり手強いぞ」
    「自らの闇の力で動くアンデッドだ。粉々にしても怨念のある限り復活する」
    「最悪だな。専門家として打開策は?」
    「光……グランドクルス」
    「おまえ自分の体力を考えろよ」
    「ならば、一芝居うつか」
    「芝居?」
     ラーハルトの疑問に答えるよりも早く、ヒュンケルはスッと一歩下がって声を張り上げた。
    「オレは剣士ヒュンケル! 復活せし闇の魔王よ! ここにいる勇者ラーハルトがおまえを倒し、この世の暗雲を払うだろう!」
    「はああぁっ」
     いきなり勇者呼ばわりされたラーハルトが上げた素っ頓狂な声は、魔王の激昂にかき消された。
    ──ゴォオオアアアー! そこに居たか勇者よぉぉぉお! うぬを引き裂き世界を暗闇に閉ざしてくれるわっ!
    「よし、周りの奴等は引き受ける。ボスは頼んだぞ!」
     ヒュンケルは後ろから斬りかかってきた骸骨どもと切り結ぶ。
     そして前のデカブツはにわかにヤル気を出したようで、狂ったように火球を吐き出し始めた。アレに突っ込んで行けというのか。
    「くそっ! 覚えてろよ貴様!」
     おかげでラーハルトは、いまいち決まらない捨て台詞を吐きながら単身で魔王に突撃する羽目になったのだった。



     朝日が昇るころ。
     満身創痍の二人は鎮まった廃墟に立ち尽くしていた。
     この地を埋め尽くす程に居たアンデッドたちは、ラーハルトの必殺技で魔王が沈むと、土に染み込むように溶けて消えた。
    「瘴気とやらは?」
    「晴れたな」
     ラーハルトのみならず、乱戦を乗り切ったヒュンケルの体にも傷跡が無数に出来ていた。実際よく背後を守ってくれたので、もう文句を言うつもりもない。
    「で。なんだったんだ? あの猿芝居」
    「復活してからの第一声が"勇者"だったからな」
    「世界を暗闇に閉ざす、とやらが奴の心残りではなかったということか」
    「ああ。おそらくは不完全燃焼というやつだ。たかだか数百年前ならばこいつもバーンの手の平で踊ったろう魔王にすぎん。死にきれないと輪廻には戻れないが、今度こそ勇者との死闘で力尽きたのだ。満足だろう」
     人間の身で平然と魔族の時間や生死の境を語るヒュンケルに、ラーハルトは処置無しと肩を竦めた。
    「気軽に魔王と一騎打ちの死闘をさせてくるのはおまえくらいだぞ」
    「気軽に魔王と一騎打ちの死闘をしてくれるのはおまえくらいだからな」
     この男に常識を求める方が愚かだった。
     朝焼けの光が射してくると、壁だけ残ったガラクタのような遺跡は長い影を引いて、朽ちた墓標のようだ。不死の長だった男はうるわしそうにそれを見上げた。
    「昼と生は苦行、夜と死は安息。だが、戦い抜いて倒れねば安息を得られん者が、この世には居るんだ」
    「経験者は語る、か?」
     曖昧に微笑んだヒュンケルは光に向かって歩き始める。鎧化を解いたラーハルトは槍を担いで追う。
     宿敵の一撃だけが魂を解き放つなら。
    「やれやれ。オレはおまえに引導を渡しそびれたようだな」
     戦士としての生命を断ってやったつもりが、今日も今日とて元気なことだ。
     ヒュンケルは傷だらけの顔で可笑しそうに振り返った。
    「まだ安息は要らんよ。おまえに新たな燃焼を与えられてしまったからな」
    「ほう。どんな?」
    「さて?」
     探り合うように視線を交わし、ふいと逸らし。
     また軽口を叩き合いながら二人で昼の世界へと帰ってゆく。








    2023.10.15. 15:45~16:45 +α



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