drive our differences注意
一人称は設定のままです。
ファ⇨文芸部/骨ウェ、ネ⇨水泳部/骨ナチュ
それは偶然の出会いだった。
休みの日の部活動。校内はいつもと違って生徒の活気も慌ただしさもない。
部活動で登校している運動部の声が入道雲の広がる青空に響き渡る。
そんな夏も佳境に入った残暑の厳しいある日、先生と出会った。
「先生」なんて言ってるけど彼女・ファウストは自分と同じ学校の生徒である。
夏休みに課された億劫な宿題を終わらせるため、普段は滅多に向かわない図書館へネロは足を運んでいた。
慣れない図書館で居心地がなんとなく悪い。本なんて借りたこともなくて目当ての物を探してキョロキョロとしているところにファウストが声を掛けてきたのだ。
「きみ、何かさがしてるの?」
不意に声をかけられてネロは無条件に振り向いた。
声をかけてきたファウストを見てネロは目を奪われる。
華奢な体つきは服の上からでもわかった。
それでいて柔らかそうな色白の肌。
ふわふわのオリーブブラウンの髪の毛は上品な猫の様に柔らかそうで、一見気だるげな目元の中心にある美しい紫の瞳は鋭く、眼鏡越しでもその美しさがわかってしまう。そしてそれは今自分を捉えている。
自分とは何もかも違う姿形の女の子。
水泳部のネロは部活終わりでシャワーこそ浴びていたがカルキの匂いを漂わせていた。
首に巻かれた汗と水滴を拭ったタオルは骨張った両手で握られて、鍛えられ引き締まった足がウエストで何回にも曲げられて短くなったスカートからすらりと伸びていた。
なんとなく気恥ずかしい気がして思わずタオルを顔に寄せた。
「あ、いや、ちょっと、宿題の資料を探してて・・・」
タオル越しにボソボソと返事をした。
ネロは自分と違う次元にいる様な容姿の彼女を目の前にして変に緊張してしまっている。
「そう。何が必要なの?僕は文芸部でよく利用しているから答えられると思うけど。よかったら一緒にさがそうか?」
彼女は思いの外、積極的だった。気恥ずかしさから断ろうかとも思ったけど宿題を終わらせるには今この申し出を断るのは得策ではないと判断して申し出を受け入れることにした。
彼女の言う通り、目的の物はすぐに見つかって借りることができた。
「あ、ありがとう、助かったよ。」
「どういたしまして。」
簡単にお礼を言って図書館を立ち去ろうとしたがついでにちょっと宿題を終わらせて帰ろうか。などと思っているとファウストは図書館の奥にある窓際の席に座って読書を始めていた。
奥の席は校舎のすぐ近くに大きく樹木が生えていて陰になっている。
わずかに風があってそよそよとファウストの髪が揺いでいた。
その風は半乾きのネロの髪の毛も一緒に靡かせる。
心地のよい風だった。
図書館は他にまばらに利用者がいたがファウストがいる席の辺りは奥まっていて誰もいない。
静寂の中に二人きり。外の部活動の声が遠くに聞こえている。
「・・・何?まだ足りない物があったの?」
「え、あ、えーっと・・・」
読書を始めていたファウストはネロの視線に気づいて声をかける。
じっとファストを見つめていた事に気付かされてハッとしてしどろもどろになった。
「い、いつもここにいるの?」
ネロは手持ち無沙汰になってたわいものない話題を振る。
「うん。そう。だいたい、ここで本を読んでる。」
一瞬ネロをみた瞳は直ぐに本に戻り視線はそのままでファウストは返答する。
「そっか。本とか好きそうだもんね」
「そう?君も運動とか好きそうだよね」
見た目で判断したんだと思われてしまった様で多少棘がある返しをされれてしまった。
「あ、いや、ごめん、そう言うつもりじゃなくて・・」
「・・・・ふふ、かわいい。」
「・・え?」
言い淀むネロの態度に予想外の反応が返ってきた。
(かわいい?俺が?)
想定外の形容にそれが己に向けられたものだとネロは一瞬理解が及ばなかった。
いつの間にか立ち上がっていたファウストはネロに近づいて来てきて小声で言った。
「ここは図書館。私語は慎まないと。」
ネロの口元に人差し指を近づけて「静かに」というジェスチャーをする。
「宿題。ちゃんと終わらせてね。」
見た目にそぐわない堂々としてちょっとお茶目なその仕草と言動はネロの思考を混乱させる。上の空にさせてただ目の前いる彼女だけを考えることしか出来なくさせた。
グラグラとして自分が自分じゃ無い形容をされて、そんなこと今までなくて、体験したことのない気持ちが身体中を巡っている。
「か、かわいい訳ないじゃん!!俺が!」
やっと言えた言葉は先ほどの注意を無視する形になってしまって顔面が焼けるように熱い。
「静かに。」
今度はジェスチャーではなくてその薄い桃色の唇から小さくでも鋭く発せられた。
ネロは思わず飛び上がってタオルで強く口元を押さえ込む。
そんなネロの背中をファウストは押して足早に図書館を後にする。
ネロより少しだけ背が低いファウストの細くてしなやかで色白な指がネロのシャツに皺を刻んでいる。
廊下に出て少し行った先の踊り場で立ち止まってファウストはネロの背中と腕に添えていた手を離した。
「ごめん・・」
「いいよ。なれてないんだから。次、ちゃんとすればいい」
「うん」
怒られるとおもったけどファウストは決して怒らなかった。
注意はするけど理にかなっていて心地が悪くない。
「あと、なんて言うか、軽率に、見た目で判断しちゃってごめん。おもったよりあんたが積極的でその、行動力があるっていうか。生徒どうしで注意なんて、出来ないっておもうし、その、なんか先生みたい。」
「ファウスト」
「え」
「あんたじゃない。僕はファウスト。君は?」
「・・・ネロ」
「ネロ。君も見た目よりずっと素直でかわいいじゃない」
「・・!だから・・!!」
「見た目で判断してないよ。僕がそう思ったんだから。」
(慣れない場所でキョロキョロして、道に迷って困ってる猫みたいで可愛かった。)
ファウストはそうネロに言って図書館に足を向けた。
「また何かあったら声をかけてくれてもいいよ。」
「あ、あの・・・」
ーまた図書館に行くからー
かけたネロの声はファウストには届かず、グラウンドに響く部活動の生徒の声にかき消されて消えた。
それが俺と先生との出会い。
そんな「先生」は今、自分の腕の中ですやすやと寝息を立てている。