分かってない。 侑さんは時々すごく無神経だ。
侑さんが読んでる週刊漫画雑誌。毎週読んだ後俺が読んでる漫画のページをドックイヤーして置いてリビングに置いてくれてる。お目当てのそれを読んだ後ペラペラと捲っていたら丁度グラビアアイドルのページを開いたところで横に座ってた侑さんと目があった。
「翔陽くんそういうんがええん?」
「別にただ開いてただけっス」
人を見た目だけで好きになったことはない。好みとかもよく分かんない。盛り上がって一晩限りのセックスをしちゃう事はあったけど。ブラジルで男に誘われたのがよかったのか悪かったのか、ゲイの自覚はなかったけど女の子を抱くことに最初から興味はあんまりなくて、するんだったらネコが気持ちよかった。触られて触ることを許してもらえるとソノ気になるし、ソノ気にさせられるのも嫌いじゃなかった。若気の至り。過去の過ち。忘れたい事って訳でもないけど侑さんに言うつもりはない。
「翔陽くん女の子で勃たんくなったんちゃう?」
気分良さそうにそーいうこと言うか?フツーに「そうですね、かわいいです」って言ったらやきもち焼く癖に。男の沽券に関わる事を平気で言うところは俺じゃなかったら訴えられるぞって思う。まぁ、本気で怒ってる訳じゃないけど、俺だって言われっぱなしは性に合わない。
「たしかに俺は侑さんにしか勃たないし俺がタチになってもいいんですよ?」
こう言うと侑さんはすごく怯んで、「ごめんやで」って謝る。だからちょっと意地悪したいときにこうやってときどき言ってやるんだ。
今回も侑さんが「ごめんやで」って謝って終わりのはずだった。なのに侑さん特有のフッフて期待するように笑ってる顔が崩れない。
「ええよぉ。俺もいつでも準備しとるし」
「え?何を」
「何って、翔陽くんの童貞もらう準備やん」
「は?」
「最初ジョーダンみたいに言うから本気にしてなかってんけど、いっつも言うやん。俺のこと抱いてもええって」
「そりゃ、言いましたけど」
「いくら図体デカいでも好きな男を勃たせられへんかったら俺の沽券に関わるやん!せやから抱かれるん怖かったけど、俺も翔陽くんの事全部もらったらなアカンやろ?やからセックスする日はいつでも俺も尻洗って準備しててん。ソノ気にさせたるで?」
何言ってんだ!この人。そんな顔立ちで、そんなこと言うの反則だ。
「せやから、いつでもええよぉ?今日俺のこと抱くん?」
「そんなの、勃つに決まってるじゃないですか」
侑さんの無神経なところ。俺のこと童貞だって決めつけてるところ。確かに再会した頃からずっと俺は童貞非処女だけど。俺をカチンとさせることが全部的外れで全くピントが合ってないところ。でもそれがいつも俺の気持ちを掬い上げて包み込む事。俺のことなにも分かってない。
でも俺もなにも分かってない。侑さんは抱かれるのなんてごめんだって思ってると思ってた。それなのに、そんな理由だったなんて。何にも、何にも分かってなかった。俺たちは俺たちのこと全然分かってない。侑さんってこんなにかっこいいんだって事まだ分かってなかった。
「侑さん、今日は俺このまま抱かれたいです」
「えー、勃つのに?決まってんのに?」
「侑さんの処女は絶対俺のものなんで。ここぞって時に大事にとっときます」
「なんやねんそれ!まぁでも俺のもんは全部あげるから俺もいつでもええけどな」
それでも俺たちは愛し合っている。それだけで充分だと思った。