概念ウォセ/歪みと自己卑下の話「オレには笛の才能がねえから」
「頼りねえな、シンオウ様の姿を見たこともねえし」
明朗快活、闊達、そんな言葉のよく似合う青年。若くして長という立場を継いだその重圧たるや、ウォロにはあまりにも無縁で、とても想像できない。
集落の人々は、交渉や決断といった面倒事を押し付け、その上でセキの判断が気に入らないと文句ばかり言っている。頼られ、一方で責められ、よく腐ることなくやっているものだと少しばかり感心していた。
そんな彼の口からは度々、酷く自虐的な言葉が紡がれる。
セキのイメージとはかけ離れた言動。あまりにも平然と言うから最初は気にも留まらなかった。豪快で溌剌とした男が自己卑下を繰り返すなど思わなくて、認識するのに時間がかかったのだ。しかし何度か顔を合わせ共に過ごす中で少しずつウォロはその違和感に気付く。
自然に溢れる、呪いにも似た言葉。しかし口にする本人はそれに気付いていない。無意識に自分を貶しているのだ。
それを理解したとき、ウォロは昏い興奮が背筋を駆けるのを感じた。
彼は自分でも気づかないところに罪を刻み込まれている。周りの暴力は目には見えない形で彼を傷つけ、ありもしない罪で雁字搦めに縛っているのだ。
純粋で強靭と言われる金剛石。表面の傷や内包物が少なく、より透明であるほど価値が高いのだという。では今現在のセキという男の価値はどうなのか。
その石を磨き光を当て初めて気付く懺悔と苦しみ。屈折し乱反射した光を見て、彼は、そして彼を虐げた人々は、何を思うのだろうか。
「ウォロ?」
口元を抑え歪んだ笑みを隠す。目の前の男は何も知らず、首を傾げてこちらを覗き込んだ。彼の相棒に似た色調の髪がさらりと流れる。どこかあどけない仕草に、澄んだ大きな瞳。化粧を施した目元が不思議そうに瞬く。
「どうかアナタはそのままでいてくださいね、セキさん」
なんて残酷なのだろう。これで自分も、彼を冒す人間どもの一員だ。哀れな人。
ウォロは一層笑みを深め、セキに笑いかけた。
この関心は、新雪を踏むような、美しいものに触れ壊してしまいたい衝動に近いだろうか。もしくは愚かな人類が終末へ至る、その予感への歓びかもしれない。