超5次ドリ2025冬 新刊準備号~ 超5次ドリ2025冬 新刊準備号 ~
【前提ここから】
■ローズブリット
・あまり治安のよくないとある地域で生まれた堅気の組織
・敵対組織と争うことが多いが、捕縛や怪しい怪しくない薬(?)等を駆使しできるだけ人も街も傷つけないことを信条としている
・所属メンバー 奏(ボス)、慎、千弦、勇人
■街の掃除屋
・表向きは飲食業、裏では捕縛を得意とする堅気の組織
・ローズブリットはお得意様
・制服はチョコレートスチームメイド
・所属メンバー 純哉(裏部隊のリーダー)、いつき、圭吾(ハウリングウルフマン。一部を除いて正体を隠している)
なんやかんやで街の掃除屋がローズブリットに吸収合併されて、
なんやかんやで圭勇が付き合ってなんやかんやする、
書きたいところだけ書いた本です(たぶん)
【前提ここまで】
■この後カーチェイスをする圭勇
「あ、来る」
助手席の風間が呟くと、運転席でハンドルを握っていた黒石が深いため息をついた。後方を確認しウィンカーを出して、近くのモーテルの駐車場に入る。広い駐車場の適当なところに車を止め、お互い車外に出た。
運転席に座る風間、助手席に座って収納スペースから酔い止めを取り出して口に含む黒石。それから黒石はスマホを取り出してある連絡先を選択し、通話ボタンをタップする。向こうが電話に出てすぐに現在地を告げると、柔らかい笑い声がした。
『安全運転でお願いしますね』
この後すぐにこの近辺の信号機の制御システムをハッキングする人間の声とは思えない。黒石は適当な返事の後通話を終了させた。
「だとよ」
「俺は安全に気を付けてはいるけど」
風間の返答に黒石はまた大きくため息をついた。
ふたりを乗せた車がゆっくり動き初め、先ほどまで走っていた道に戻る。
「二キロ後ろってところかな」
「もっと早く言え」
「仕方ないだろ。俺にも限界はある」
黒石は収納スペースからエチケット袋を一枚取り出し、握りしめた。
これから始まるカーチェイス。一般市民への影響を最低限にするため信号機は制御するが、それだけで影響をゼロにすることはできない。風間の耳や鼻……五感に頼り、相手を引き下がらせるのだ。
そしてそんなことをこなす運転がご丁寧なものであるわけもなく。助手席で黒石は毎回顔を青くするはめになる。
バックミラーに映り始めた敵組織の車体を見ながら、黒石はまた大きくため息をついた。
そういえば初めて組んだ時も吐かされたな。
黒石は窓の外を見ながら、風間圭吾と初めて組んだ日のことを思い出した。
(続きはちゃんとした本で!)(たぶん!)
■ローズブリットの制服に毛が目立つ
とある日の昼下がり。ローズブリットの拠点のある一室には天宮と佐々木がいた。
「ねえ純哉くん」
「あ? んだよ」
「制服変えようかなって思うんだけど、どう思う?」
「なに、お前らの?」
「オレら、って言うのは違くない?」
「まあそうだけどさ」
ローズブリットに街の掃除屋が吸収合併されてからもうだいぶ経つ。制服はどちらのものを使用しても構わないし、私服でも構わない。ローズブリットのボスである天宮がその旨を通達したところ、私服になる者もいれば二つの制服を日替わりにする者もいた。もちろん、天宮のように元々ローズブリット所属で今もローズブリットの制服だけを、佐々木のように元々街の掃除屋所属でそちらの制服だけを着ている者もいる。
「で? どっちの制服よ」
「こっち」
天宮は自分が着ているローズブリットの制服を指差す。
「ふーん。まあ、別にいいんじゃね? ってか何だよ急に」
「圭吾くん、最近耳とか尻尾とか出してること多いじゃん?」
「あー、だな」
元々正体を隠していた風間だが、いつからか耳や尻尾を隠さないことが増えた。
「こっちの服に圭吾くんの毛、くっつきやすいみたいでさ」
「あー……なるほどな」
街の掃除屋の頃はそもそも耳や尻尾を隠していたから起こらなかった問題だ。佐々木は天宮の案に納得した。
今の風間本人はどちらの制服も着ておらず、カジュアルな服を着ている。尻尾がある都合、制服を着るのは難しいのだろう。
「勇人くん、たまに毛だらけなんだよね」
「は!? そっちかよ!」
「え?」
「風間くんに気ィ使おうとしてるんじゃねーのかよ!」
「圭吾くんは私服で楽そうだからいいんじゃない? 制服めんどくさいって前に言ってたし」
「あっそ。まあ、本人がいいならいいけどさ」
「で、さっき勇人くんの太ももの内側が毛だらけでさ」
佐々木は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「……黙ってろよそれは!」
「仕方ないっしょ! だって見えちゃったんだもん! オレひとりで抱えるのヤだよ!」
「ふっっっざけんな!」
その後、ローズブリットの制服はデザインをそのままに生地の変更を行い、風間の毛はだいぶ付きにくくなった。
■ほのぼの圭勇
拠点の休憩室で風間が時間を潰していると、同じく暇を持て余したらしい黒石がやって来た。三人掛けのソファに座る風間の隣に座り、黒石は風間の尻尾をフワフワと撫で始める。
「勇人、すぐ気付くよな」
「あ?」
「沢村にブラッシングしてもらうと、その後すぐに勇人が寄って来る」
「へえ」
黒石は手を止めずに、ゆっくりと尻尾を撫でている。
「沢村、ふわふわだから好きなんじゃないって言って、こっちの手もケアしてくれてさ」
風間は人の状態の手を黒石に差し出した。ハウリングウルフマンという種族の風間は人間と異なる耳や尻尾、手を持っているが、自由に人の姿に変えることが出来た。手は小回りが利く分人型の方が都合良く、風間は手を人型にしてることが多い。
黒石は風間の手に鼻を近付けた。
「美味そうな匂い」
「あぁ、片桐がお菓子持ってきてくれたんだ。それの匂いだな。冷蔵庫に勇人の分あるぞ」
「なに」
「ブラウニー」
すぐに冷蔵庫に向かうかと思ったが、黒石はそのまま風間の尻尾を撫で続けた。それから風間の耳を見て、そっと撫でる。風間は耳を倒してそれを受け入れる。
「耳はブラッシングしてもらってない」
黒石は「確かにな」と笑った。それでも撫でる手は動き続ける。
「勇人……」
風間が黒石の頬に手を伸ばす。その手が触れるより先に、ふたりのスマホから通知音が鳴った。呼び出しだ。
黒石の手があっさり離れて行く。
「行くぞ」
「ブラウニーは?」
「帰ったら食う」
「じゃあさっさと片付けよう」
黒石は外していた手袋を付ける。もう風間を見ていない。風間はそれを寂しく思ったが、ことが終わったら続きをねだればいいだけだ。
陽が落ちた街にふたりで出る。
「勇人と一緒なら、どこまででも行けそうだ」
黒石は風間の言葉を完全には否定しなかった。
「あ? 車はやめろ」
「酔うから?」
「ぜってー酔うから」
黒石が本当に嫌そうな顔をしていて、風間は声を出して笑った。それから「分かった」と返事をした。