黒石勇人誕生祭2025 昼休みが終わるまであと15分。送ったメッセージは未読。風間圭吾は仕方なく、メッセージの送信先である黒石勇人の教室に向かった。が、そこに黒石の姿は見当たらなかった。
「なあ、勇人知らない?」
近くにいた黒石のクラスメイトに声をかけると、あっさり「さあ?」と返ってきてしまった。礼を言いながら風間は改めて黒石の机の辺りを見る。
「っていうかさ、勇人の机の上、なに?」
黒石の机の上には、CDが積み上げられていた。20枚はあるだろう。
「誕生日だから。見てく? いいモン揃ってるぜ!」
促されるまま風間は黒石の机に近付く。10枚ほど積まれたCDが2つの山になっている。一番上のCDは曲もアーティストも見覚えがなく、風間は手に取って「へぇ」と呟いた。遠慮なく全てのCDを眺めてみると、覚えがあるものも半分くらいあった。
「ジャンルとか、だいぶバラバラだな?」
「1人2枚まで縛りだから、そりゃな」
「あ、ちゃんとルールあるんだ…」
そして風間は、CDの下に何か紙が敷かれていることに気付いた。見覚えのある曲名が書いてあり、それも誕生日プレゼントなのだと察しがついた。紙が飛んで行ってしまわないようにCDの下に敷いてあるのだろう。
「こっちも?」
「そ。オススメ曲リスト」
クラスメイトが1枚の紙を抜いて見せてくれた。風間は思わず噴き出した。
「ははっ、レビュー書く欄用意してあんじゃん!」
「あ、それ俺」
近くの席の生徒が手を挙げた。それから挙げた手を握り込み更に突き上げた。
「これ黒石ぜってー好きだと思って! めっっちゃ自信あっから!」
「えっ、それいいな、俺もレビュー欄付け足すわ」
「えー俺CD置いちゃったよ。レビューしろって付箋貼っとくか」
「ってか俺もレビュー書くし! なあこれ再生してみていい?」
わらわらと人が集まり始めた黒石の机から離れる風間。
「じゃ、オレ勇人探してくるから」
最初に風間を案内してくれたクラスメイトは風間に雑に手を振って、流れ始めた曲に「あっこれオレ絶対好き!」と歓声を上げた。