その日は前々から計画していたお泊り会だった。片割れが留守となる106号室にて決行、勿論左京の承諾もちゃんと得ている。備え付けのロフトベッドではなく、テーブルも全部端へと寄せて作った広々としたスペースが本日の会場だ。
並べて敷いた布団に二つの枕をぽんぽんと置くとそれだけで日常とは少し違う雰囲気になって心が弾んでしまう。だけど、そこに寝転がって学校やバイト先での出来事を話しているとあっという間に時間は過ぎ去ってしまい、莇のスマホのアラームがシンデレラタイムを引き連れてきてしまった。
「えー…もうおしまい?」
「時間だしな」
「…明日は学校も休みだよ?」
「それはそれ、これはこれ」
布団から抜け出した莇が壁にある室内を照らす灯りの源をオフへと切り替えた。暗くなった室内に踵を返して枕元に置いてきたスマホの明かりを頼りに布団へと戻ると、あからさまにしょんぼりとなっている九門がそれでも大人しく自分の布団へと潜り込む所だった。可愛いかよ、と思わず出てきそうな声を飲み込むと同時に莇は拳を胸元に強く押し付けた。そうしないとその健気な姿に胸の奥はぎゅっと鷲掴まれたまま破裂してしまいそうなのだ。もう少し強めに嫌だとアピールでもしてくれたら、なんて脳裏に浮かんで顔が熱くなるのを感じた莇は自分の布団に潜り込む事すら忘れて立ち尽くしていた。
「…ねえ、莇」
布団から伸びてきた手に服の裾を引っ張られて漸く立ったままだった事に気付いた莇は、九門の方へと視線を向けた。まだこの暗さに慣れていない目からでも情報として感じ取れる熱が九門の眼差しには込められていた。いよいよ破裂するかもしれない、なんて押し付けた拳の奥で騒ぐ心臓をなんとか宥めようとゆっくりと呼吸をしてみる。気の所為だろうか、入り込んでくる酸素すら熱い気がする。
「…一緒に寝るのは、だめ…?」
「………っ………っっ…」
いい加減にしろよこの野郎。
この一言を死ぬ思いで蹴散らした自分に莇は心のなかで拍手を送った。いじらしさからの突然の強い意志表示かと思えば甘え上手な一面のトリプルアタックをぶちかまされたのだ、褒められてもいいだろうともう一度拍手を送る。反応が返ってこない事に不安そうな顔を覗かせる九門に深い深い溜め息を吐いてから、莇は膝を折って自分の枕を手繰り寄せた。
「…ほら、もっと詰めろ」
「…!うん!」
捲った布団に足を突っ込むと柔らかな暖かさが出迎えてくれた。九門の体温でじんわりと温もりを得たのだろう。片足でこれなのだから、全身をこの温もりで包まれたらどうなることか。
早まったかも、と莇が思うよりも早く腰を抱いてきた腕によって引き摺り込まれてしまった。