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    808koshiya

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    808koshiya

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    🦅におかえりなさいを言う😢

    雨の日が好きではなかった。慢性化した痺れを背負う末梢部や後頭部を這う違和感が湿気を含んで重たくなるような気がしていたから。
    不自由というほど不自由ではない。医者も看護師もリハビリの担当者も、日常生活に問題がないなら運が良い方だと同じ病気をした同年代の統計を持ち出して説明した。
    自分でもそう思う。死ぬか、重度の障害が残るか、軽度の後遺症または後遺症を残さずに社会復帰をするか。その分類で言えば真鳥の身に残るは軽度の後遺症、である。元通りではなくとも動きはする。小さな不快感に付きまとわれていても大抵のことには不自由しない。
    「また傘を持ってかなかったんですか?」
    雨天を前にすると、家の中にいるのが嫌だった。とうとう社会復帰とやらが中途半端になってしまった自身を責める人なんて誰もいなかったのに、元通り(思い通り)に動かない自身やそれを理由に怠惰な日々を揺蕩うことも、自分の尻を拭ってくれる息子が存在することも、耳と頭を痛くするのだ。
    濡れて帰ってくる真鳥を迎える海月の声は淡々と柔らかく、お風呂に入りなさいねと促す声はこの世でただ一人愛した女を思い出させた。


    「おかえりなさい」
    真鳥が買い物から帰ると、海月は封じられた手脚を引き摺って玄関の前までやってくる。
    「ただいま」
    「……濡れてるじゃないですか」
    「うん、降られちゃった」
    「そのまま入らないでくださいよ」
    真鳥が死にかけて以来彼の機能は大幅に制限されている(使えない機能を無理矢理扱ったせいで不具合を起こしている部分もあるし、念の為にと磯前による封印が強められているせいでもある)が、家の中で普通の人間程度の活動する分にはなんとかこなしているというところだ。本来とは程遠い緩慢な動きで這い、それでも人間とは異なる形の腕を長く伸ばしてタオル程度を取ることはできる。
    「はい」
    「ありがと」
    真鳥が濡れた靴と靴下を脱ぎ、髪を拭いている間にタオルと交換した買い物袋がのろのろと運ばれていく。外は雨だ。
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