最後の一つは口移しでカシャカシャと小気味良い音がキッチンに響く。少し力みすぎて薄力粉がボウルから溢れ、エプロンに白いまだら模様を作る。汚れを落とそうと指で擦るが、いつの間にか指についていたチョコレートをエプロンに塗り広げてしまいため息を吐いた。
「お兄ちゃん、もうちょっと力抜いて混ぜて。じゃないと飛び散っちゃう」
麻里がラッピングの袋を広げながら出元を覗き込み、苦笑いを浮かべた。
思っていたより生地の粘度があり泡立て器を動かしづらいが、小分けにして加えた薄力粉を今度は溢さないように慎重に混ぜていく。白色が濃い茶色に馴染むのを確認すると、麻里がクッキングシートを敷いておいてくれた耐熱容器に流し込む。溢さないように平らにならし、容器を机に軽く打ちつけ入り込んでいた気泡を抜いた。その上に麻里が使った余りのくるみやアーモンドを砕いたものを散らし、そのまま電子レンジに入れて3分セット。最近の時短テクニックは凄いなと考えついた人に感嘆の念を抱いた。
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