未来の在り方について。次の公演に向けて、足りないものを買いに行こうと類に提案され、片手に荷物、次の場所を決めようと外を歩いていた。
わあっと聞こえた歓声に目を向ける。
横にいた類も同じようで、同じ方向へ目を向けていた。
そこには、純白を身につけた男の人と女の人、そしてそれを祝うように周りの人が笑顔を向けている。
結婚式。
とても大切で、泣きたくなるほど幸せで、儚く、けれども記憶に一生残るであろう大切なイベントが綺麗な教会で行われていた。
「…きれいだな。」
綺麗だった。
とても。とても。それは言葉で表し切れない程。
空に舞う赤やピンクの花びら。
参加者たちの笑顔。
そして、嬉しさで涙を流す生涯を誓った人。
薬指に嵌められた、関係を表す指輪。
遠い未来、自分には叶わないものだったから。
司の目にはすごく綺麗に、泣きたくなる程綺麗に映っていたから、その光景から目を逸らし、道を歩く。
前を向いて。
教会から遠ざかるように。
隣の、今を共にしようと告白した類から顔を逸らすように、前を向いて歩き出した。
「司くん。」
「ああ、すまないな、類。つい足を止めてしまった。次の買い物はなんだっただろうか。」
「ねえ、待ってよ、司くん。」
「待っていたらこの量は終わらないだろう。急がなくては…」
「司くん」
被せるように、半ば強引に類は司の名前を呼ぶ。
ああ、困った。
叶わない未来を目の当たりにして、情けなく泣きそうな心が引きずり出されそうだった。
自分の体温のはずなのに冷たく感じる手を、類が掴む。
温かくて、落ち着くそれは、情けない姿を更に前へ引っ張り出し、強がっていた司の表情が今にも崩れそうだった。
「ねえ、司くん。僕の話を聞いてくれるかい?」
「聞かないと言ってもこの手は離さないだろ。」
「当たり前じゃないか。手を離したら、君は僕から離れてしまうだろう?」
唇を噛んだ。
違う。
司にとって、類は既に居ないといけない存在だった。
勿論、ショーを共にするという意味では、寧々も、えむも、類も、誰一人として掛けてはいけなかった。
これからの未来でも、最高の仲間達とショーをしたい。
それもあったが、類は特別。
こっちを見ていて欲しい。
類の演出案を独り占めしたい。
他の役者に興味を持たないで
自分と言うスターに、焦がれて欲しかった。
スターでなくても、そばにいて欲しかった。
何にも縛りを持たない自分では、死ぬほど抱えているその思いを叶えられない。
自分達の関係を、外に見せてはいけない。
世界に通ずる役者に、演出家になるのなら、独占は類も司も出来ない。
「僕たちの関係は、世間から見れば異端だ。蔑まれたり、嫌悪感を抱かれたり、快く思われない関係だよね。」
「…」
「君の幸せを、夢を応援するなら、きっとこの関係は切った方が良い。わかっているんだ、それくらい。」
類の手に包まれた司の手が震える。
司も、類の夢を叶えるのなら、この甘やかな関係は切らなくてはいけない。
女の人と結婚をして、幸せそうに笑って、。
類ならきっと結婚相手の女性を大切にできるだろう。
片付けは出来ないし、規則正しい生活は送れないし、時折頑固な時もあるが、優しい人だから。
そう思ったら、もうダメだった。
涙が溢れた。
自分の思う幸せと、大好きな類へ贈りたい幸せの差があった。
耐えきれなかった。
泣き出した司を、類は服の裾で優しく拭いとる。
大切に。大切に。
溢れた司の類への愛おしさを零さないように受け取って、涙を拭う
「ごめんね、司くん。…僕、司くんの幸せを叶えられない。君が、僕から離れて幸せになる未来なんて絶対に嫌だ。」
「ふ、……ぅっ、おれ、だって嫌だ。類が、オレから離れるのは、嫌だ…」
子供のような独占欲と、我儘を零せば、類は嬉しそうに、幸せそうに頬を弛めたんだ。
掴んだ手を引いて、身を寄せて、司よりも大きな体で、司を抱き締める。
離れないように、離さないように。
それから、遠い遠い未来へ誓うように、司にだけ聞かせるように囁いた。
「一緒だね。司くん、僕は君の事が好きだよ。これからも、ずっと。君が好きだよ。」