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    カリフラワー

    @4ntm_hns

    🐓🐺・🥴🐺
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    カリフラワー

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    マ右ワンライ/ルスマヴェ/お題「香り」
    イメージはDi○rの某香水です。香水の発売時期と願書事件が近そうだったので…。

    #TGM
    #ルスマヴェ
    rousmavet
    #roosmav
    #M右ワンドロワンライ
    mRightWandolowanRai

    This Scent この世で一つだけ、忘れられない香りがある。重く絡みつく、最も嫌いな香り。あれから二十年経ってもいまだ憎しみのような落胆のような、言葉にもできない苦しみを思い出す。知らない間に俺の夢をうんと遠くへと捨て去り、そのことに言い訳もしなかったあの人の香り。

     アナポリスへ提出した書類の不備があの人の仕業だとわかった後、俺は震える声で彼を呼び出した。家まで来させて一体何を言ってほしかったのか、今の俺にもわからない。だけどその時の俺は人生で一番の怒りと絶望を抱えていて、なのにそれを吐き出す相手は俺をそんな暗闇に突き落とした張本人だった。眩いほど白いTシャツ。青いジーンズ。その裾に隠れた派手なカウボーイブーツ。伏せた目から消えた光はどこへいったのか。
     彼は一言謝る以外には同じ言葉を繰り返すだけだった。君はまだ準備できていない。意味がわからなかった。それまで一度も俺の夢を、アビエイターになる夢を否定したことがなかった彼が、突然そんなことを言ったから。ああ、今考えればわかる、彼は否定をしない代わりに肯定もしなかった。君は大きな夢を持っているね。ただそれだけ。グースの二の舞にはさせたくない……なんて、あの人に言えるはずがなかったのだ。
     その時、彼からはある香水の香りがした。女性ものだった。当時はわからなかったけれど、後から同じ香りをした人と付き合って香水の名前を教えてもらった。彼がうちに来る前は、彼の顔を見たら何も言えなくなるのではないかと思っていた。なのにドアを開けてその香りが鼻を掠めた途端、無性に腹が立って言葉が溢れた。彼が急いで駆けつけたことは彼のTシャツが裏返っていたことからもよくわかったが、彼がそれまで誰かと親密にしていたことを身をもって感じさせられて、それがどうしても気に食わなかった。イランイラン、ローズ、ジャスミン。甘くて重い、裏切りの香り。裏切られたのは俺の夢? それとも俺の感情? この人は俺が泣くこともできなかった時、どこで誰と何をしていた?
    「もう顔も見たくない」
     そう言ってドアを閉めた後、確かにその人は二度と俺の前に姿を現さなかった。こちらから望む必要もないほど頻繁に俺に会いに来ていたのに。心の底では、本当に一度も顔を見せなかったことに驚いていた。本気だったんだ、あの人は。本気で俺を空から遠ざけたかったんだ。そのためなら願書だって抜き取ってしまう。謝罪の言葉だってたった一言、しかも一度きりだった。あの人は自分の選択を正しいと信じているから。謝るくらいなら願書を返して──そう言われるのが苦しかったから。大学へ進学した後も、彼が今どこで何をしているのかは知らないようにしていた。自分でも酷いとは思うけれど、彼の身体や服に別の香りが移るより、彼がどこか危険な場所で機密任務に参加している方がよほどましに思えた。
     四年遅れでアビエイターになった後も、時々街でその香りを纏う人とすれ違った。その香り自体は珍しくもなんともない。有名なブランドの代表的な香水だから。だけど俺が思い出すのは、その香りと同じくらい甘美な記憶なんかではない。正反対の、真っ暗でじめじめとした苦い記憶。広告を見るだけでも胸がむかむかした。何が『大好き』だ、よりによってそんな名前のついた香水だなんて。言われなくてもわかってる。嫌いなのはあの香りで、彼自身のことを嫌いになんてなれないってことは。
     ずっと憧れて好きだった人との心地良い関係が、あの香りを嗅いですべて崩れ落ちた。香水の名前を教えてくれた一人以外では、同じ香水を愛用する人とは絶対に付き合わなかった。もし相手がデートでその香りを纏って現れたら、適当かつ無難にその日を過ごして終わりにした。耐えられる気がしなかったから。年を追うごとに彼のことを想う気持ちが重く強く俺を縛りつけていたのに、あの日を思い起こすものに触れたらきっとどうにかなってしまう。だから俺は、嫌いな香りともつれた記憶を昨日のことのように思い出しながらも、いつか彼自身のことも嫌いになれることを願って生き続けた。だけど毎年あの日を迎えるたび、自分が何も変わっていないことを実感させられた。まだ俺はあの人のことが好きなのか。あの人が何をしたかわかっているのか。肝心の彼自身は俺のこの苦しみを知らないというのに。

     シーツの山がゆっくりと上下する。自分のものではない誰かの鼻息。長いまつ毛が小さく動き、やがてまぶたの奥の星が瞬く。
    「おはよ、マーヴ」
     マーヴは俺の腕の中であくびをして目を擦った。一晩中愛し合った後、シャワーを浴びたマーヴは穏やかに眠っていた。
     昨夜、マーヴをベッドへと引き込む前、俺は一つ彼に重大な頼み事をした。
    「マーヴにつけてほしい香水があるんだけど……」
     マーヴはぽかんとして何も言わなかった。俺はそんなマーヴの前に、世界一嫌いな香水のボトルを置いた。曲線が美しい、オブジェみたいなボトル。マーヴがうちに来ると決まったその日に注文し、この日のために一度も開けずに置いていた。
    「これつけたマーヴを抱きたい」
     わかってる、俺はおかしい。マーヴに憎いはずのあの香りを纏わせようとして、さらにその香りがするマーヴを抱こうとしていた。マーヴは香水のことは覚えていなかった。これって女性向けじゃなかったか?と指摘するマーヴは、あの時より優しい顔をしていた。
     結局マーヴは俺の頼みを困惑気味に承諾した。あの時と同じ香りを纏い、あの時と同じ服を着ていたマーヴは、あの時よりずいぶん大きくなった俺に身を委ねた。派手なカウボーイブーツは黒いレースアップのブーツに変わっていたけれど、靴紐をほどいてブーツを脱がせるのは特別楽しかった。本当にしてもいい? いいよ、君にすべてを任せる、なんて言葉を交わしながら。胸はむかつかなかった。俺はただ試したかった。どんな気分になるのか、どう思うのか。苦しいのか、悲しいのか、憎いのか。だけど実際は何も感じなかった。息をするたび目が眩むほどの劣情が全身で燃えていて、あの時と少しも変わらない(少し皺が増えただけの)マーヴが自分の下で顔も身体も赤くしていることに高揚した。のぼせきったマーヴが俺の名前を何度も呼んだ。ブラッドリー、ブラッド、ルースター。俺はそのたびに彼の縋るような声に応えるため繰り返しキスをした。たぶん俺も、堰を切ったようにマーヴを呼んでいたと思う。どうしてマーヴにあの香水をつけてほしかったのか、そんな難しいことを考える余裕さえなく、マーヴを傷つけるような言葉も思いつかなかった。
     俺はまだ、マーヴのことを何を差し置いても愛している。マーヴ自身の裏切り行為ですら、彼を諦めるための理由にはならない。きっと俺はそんなことを実感したかったんだろう。だから香水をつけさせるなんて真似ができたんだ。
     そしてマーヴは今、枕に顔の半分を埋めて目を閉じたり開いたりしている。瞬きしても景色が変わらないことを確かめるように。目の前から俺の姿が消えないことを喜ぶように。
    「よく眠れた?」
    「ああ」
     マーヴは微笑み、仰向けに身体を動かした。その時彼からは俺のシャワージェルの匂いがした。鼻を抜けるユーカリとミント。香水は洗い流され、すっかり消えていた。自分の匂いに塗り替えられた気分は最高だった。今目の前にいるのは、全く新しい俺だけのマーヴ。
    「マーヴ、愛してるよ」

     俺には一つ、忘れられない香りがある。それはマーヴの香りだった。誰かに移されたものだけれど、たしかにマーヴの香りだった。毎年あの日が近づくと、俺はその香りが懐かしくなるだろう。でも恋しいとは思わない。ただ嫌いなだけ。
    「僕も愛してるよ、ブラッドリー」
     そしてもうその香りは必要ない。
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    Replies from the creator

    カリフラワー

    DONEマ右ワンライ/ルスマヴェ/お題「歌声」
    わかりづらいですが、段落ごとに時間が進んでます。本当にわかりづらいです。反省してます。
    Sing for me 幸せだと感じる時、聞こえてくるのはいつも彼の歌声だった。
     ブラッドリーは歌が上手い。ピアノも弾ける。彼の父親もそうだった。二人揃って音楽の才能があった。だけどそれをブラッドリーに伝えると、彼はこう答えた。「俺が親父と違うのは、俺はマーヴを惹きつけるために歌ってるってこと。俺の歌声はマーヴのためにあるの」だから同じにしないで、と彼は笑った。

     繋ぎっぱなしのビデオ通話で、かつて僕たちは会話もせず黙って時間を過ごした。ブラッドリーは料理をして、僕は洗濯物を片付けて。お互い画面なんてあまり見ていなかったと思う。自分が映っているかどうかも気にしていなかった。ただ画面上で繋がってさえいれば、二人の時差も距離も忘れてしまった。時々思い出したように画面を見ると、ブラッドリーはナイフや缶切りを持ったまま、同じタイミングで僕の様子を確認しに来る。そして安心したように微笑み、また画面の前から消える。それを何度か繰り返していると、そのうち彼の歌声が聞こえてくる。
    4107

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    カリフラワー

    DONEマ右ワンライ/ルスマヴェ/お題「歌声」
    わかりづらいですが、段落ごとに時間が進んでます。本当にわかりづらいです。反省してます。
    Sing for me 幸せだと感じる時、聞こえてくるのはいつも彼の歌声だった。
     ブラッドリーは歌が上手い。ピアノも弾ける。彼の父親もそうだった。二人揃って音楽の才能があった。だけどそれをブラッドリーに伝えると、彼はこう答えた。「俺が親父と違うのは、俺はマーヴを惹きつけるために歌ってるってこと。俺の歌声はマーヴのためにあるの」だから同じにしないで、と彼は笑った。

     繋ぎっぱなしのビデオ通話で、かつて僕たちは会話もせず黙って時間を過ごした。ブラッドリーは料理をして、僕は洗濯物を片付けて。お互い画面なんてあまり見ていなかったと思う。自分が映っているかどうかも気にしていなかった。ただ画面上で繋がってさえいれば、二人の時差も距離も忘れてしまった。時々思い出したように画面を見ると、ブラッドリーはナイフや缶切りを持ったまま、同じタイミングで僕の様子を確認しに来る。そして安心したように微笑み、また画面の前から消える。それを何度か繰り返していると、そのうち彼の歌声が聞こえてくる。
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    カリフラワー

    DONEマ右ワンライ/お題「いい子」「悪い子」
    たまらんくらい最高のお題だったのでどちらも使いました
    帰り支度 思えばブラッドリーは、僕の知る限りずっといい子だった。
     大人の助けが必要なほど幼い頃から、ブラッドリーは他者を助けることに躊躇いがなかった。家の中では着替えを手伝ってもらっていた子が、外では道端でひっくり返った虫を草木がある場所まで戻してやり、公園では転んだ子に駆け寄り、大丈夫かと声をかけた。小さい頃は家族や僕以外には少し内気だった坊やは、転んで落ち込んだその子を控えめな態度で誘い、一緒に遊んで回った。そのうちその子は坊やの友達になり、名前と住所を教え合った。
     学校に通い始めてからも、ブラッドリーは何も変わらなかった。忙しいキャロルに代わって保護者面談に出席すると、先生からは驚くほどよく坊やを褒められた。「クラスメイト同士の喧嘩を止めて、仲直りまでさせたんですよ」また、意地悪されている子がいれば常に一緒に行動し、いじめっ子にも怯むことはなかったという。優しくて強い心を持ち、それを家族や僕以外にも分け与えられる子。先生の話を聞きながら、僕は誇らしさで胸がいっぱいだった。僕が坊やを育てたわけでもないのに、すぐにでも彼をハグしたくてたまらなかった。帰宅してキャロルに報告する間、僕の隣で話を聞いていたブラッドリーは嬉しそうに小さな鼻を膨らませていた。褒められるためにしているわけではなかっただろうが、それでも大人2人に口々に讃えられることは、彼にとっても大きな喜びだったろうと思う。
    2987

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    カリフラワー

    DONEマ右ワンライ企画のルスマヴェです🐓🐺
    お題は「バレンタイン」
    イメージは平日のバレンタインです。イベント事の話が苦手な自分なりに、自分らしく書けたかなと思います。
    サンスベリアの和名に由来する花言葉「永久」「不滅」をタイトルらしくなるようにもじってつけました🪴
    永遠に続けば 今日は何の日か知ってるか?
    目が合った途端、二言目にはこの質問をされた。ただし、質問をしたのは恋人ではなくただの同僚。答え甲斐など何もない。
    「…知ってる。けど言いたくない」
    力の無い答えになんだよそれ、と同僚が笑う。もし目の前にいるのがマーヴだったなら、これ以上ないほどの甘い声できちんと一言答えられるのに。今日はバレンタインだね、と。
    どれだけ瞬きしようが目を擦ろうが目の前の同僚がマーヴに変わることはないし、残業のためPCや書類と向き合った時間を後から取り戻せたりもしない。

    俺はバレンタインに、残業に勤しみ恋人を一人で待たせているのだ。そうか、こんなバレンタインの過ごし方もあったわけか。…当然これは嫌味だが、勤務態度の良い俺は決して口には出さなかった。その分一刻も早く仕事を終わらせ、残業仲間の同僚と別れ駐車場へと向かった。
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