ホオズキの時々の日常とある帝都付近の温泉もとい、湯船にて。
麗人とも呼べる男が一人、湯船で格闘していた……自分の尻尾の『生え変わり』の端っこを掴んで。
ホオズキ、彼の場合は、蛇の遺伝子を持つ。つまり脱皮する、たまに。
だが、普通の大きさはでは無いため毎回皮膚の生え変わりの度に苦労している次第なのである。
こんな時ばかりはすでに天に召された親父殿への文句が口の中に浮かんでくるのだろう。
「うーんう゛ーんっ あー今回はちょっと厄介だなあ。仕方ない、もう少し湯船に浸そうか、茹るから長時間の風呂はあんまり好きじゃないんだけど…」
「よっホオズキっ一人で湯浴みとは珍しいじゃね……」
「おおホオズキも風呂か!皆で背を洗い合…そんな季節だったか」
意気揚々と、先客に声をかけてきたザクロとイナヅマ。
彼らの眼下には、大昔からの付き合いでもそんなに見たことのない、ホオズキの脱皮姿があった。
困ったようにに笑うホオズキに、ザクロとイナヅマは遠慮なしににかりと歯を見せて笑った。
「あー…君たちかい…うん、手伝ってくれるかい、そろそろ剥がせそうだしね」
「いいぜ!そこはダチの為だかんな!あとで酒奢れよ!」
「応とも、友のためだからな! 酒で手を打とう!」
「…君たちそういうとこはよく似てるね、ザクロ、イナヅマ」
うっかり気持ちのまま発言して、ツッコミを受ける二人。誤魔化すようにザクロが透明な殻の端を掴んで持ち上げる。
「と、とりあえずホオズキ、さっさと取っちまおうぜ! いっちょ引っ張るぞ!せえのおっ」
「よいやさーー!!」
「え、ちょっと待……ぐっぐあーーーー!!?」
すぽんっ
思いっきりの良いイナヅマとザクロの掛け声に合わせ、ホオズキ当人が止める間も無く脱皮しかけの皮がするりと抜けた。
透明でどうみても大蛇の抜け殻が、ザクロの手の中で輝く。
「おお、綺麗な抜け殻だぞ!傷ひとつないぜ、ハナマルが見たら喜びそうだな!」
「ああ…まあハナマル君の為なら上げてもいいけどね」
「いやまてまて、占師の類に売ると高く購入してくれるそうだが、どうだ?ホオズキ」
「イナヅマ…君、酒代にしたいだけだろう?」
「うぐっ つ、つい兵糧代の計算をする癖で…」
優秀な弟に軍師を任せていたとはいえ、彼自身もそれなりには優秀だ。
将として、時に金をかき集める知識を持っているくらいには。
くすくすと揶揄うようにホオズキが笑い出す。
「いいよ、半分は酒代にしようか、お礼だしね」
「よっしゃあ!たらふく飲むぞー!ランシュタル達にも声かけようぜ!!」
「そうだな、今夜は宴会といこう!」
「ふふ、そうだね」
かぽーんと湯船から音が響く。
平和なひとときは本日も続いている。