それは小悪魔めいた 学校が終わり帰り支度をしている最中に、
『やったァかっちゃんと放課後デート成立』
突然耳に飛び込んできたセリフがインパクトあり過ぎて俺は思わず振り返ってしまう。視線の先にいたのは上鳴と爆豪、他にも爆豪と連んでいる奴らで、状況から察するに上鳴と爆豪が今から何処かに出掛けるってことなんだろう、
(デートって言ったよな)
デートってことは2人は付き合っているのか?キショい言い方すンな!と上鳴を睨み付けている爆豪を見る限り上鳴独特の軽いノリ、いわゆる冗談のようにも思える。そうだ、放課後デートってのはきっと冗談だ、頭ではそう思っても心臓のソワソワは止まらない。
(どうしてこんなに胸が騒つくんだ?爆豪が誰かとデートするってことがこんなにも嫌なことだなんて、それじゃまるで俺が爆豪のことを好きで、上鳴にヤキモチ妬いてるみてえだ)
爆豪のことは好きだ、良い友達だと思う、いや、思っていた。
(たった今友達じゃなくなった)
だって、普通友達が他のやつと仲良くしているからといってこんなふうに騒ついたりしない。俺が今イライラしているのは冗談とはいえ俺の爆豪にちょっかいを出されているから。まだ告白していねえから俺のものにはなっていねえけどもう俺のものだ。それにデートに関しちゃ俺の方がリードしている、
(だって俺は爆豪と買い食いデートするぞ)
仮免補講の帰り道、たまにスイーツを食べたり、スタバに入ったりするのだ。それは全部、爆豪が俺に付き合ってくれたもの、例えばクレープを食べたことがないといえばクレープスタンドに寄ってくれ、スタバのメニューが言い切れないといえば流暢な片仮名を一気に捲し立て、俺好みにカスタマイズされた美味いラテを選んでくれた。
(一緒に服だって買ったことある)
遠方での仮免補講の帰り道、雨に降られて着替えを買ったし、お揃いのパンツを買って履いたのだ。爆豪はスゲェ嫌そうにしていたけど俺は嬉しかったし、実は今日もそのパンツを履いている。
(ホテルだって入った)
大雨で交通機関が麻痺し、仕方なく立ち寄ったホテルで交代でシャワーを浴び、身体を暖めるためひとつしかないベッドで抱き合ったこともある。あの時は個性で爆豪を温めるという名目とはいえ危なかった、何しろ爆豪は甘くて柔らかくてとても美味しそうだったから。
(そうだ、ちゃんとデートって名前を付ければこれらはデートと言えるだろうし、なんなら多分デート以上に親密だ)
次の仮免補講の帰り道は放課後デートならぬ補講後デートを提案してそこで爆豪に好きだと告白しよう、そう決意して告白したのに、
『テメェは誰だ?』
突然縮んだ、目の前の学ランを着た爆豪は、俺のことを知らなかった。
+++
いきなり若返る個性事故に遭いましたって言われてもさっぱり実感ない。確かに俺は雄英を目指しているし、ここが雄英高校の敷地内だってことまでは納得できるけれど、
『雄英は全寮制じゃねェし、それに何でアンタと一緒にいなくちゃならねぇんだ?』
俺より頭ひとつ分はデカい、やたらとツラのいい男は本来は高校一年生で俺の同級生。つまり俺は二年時間を若返り、イケメンは二年成長したのだと担任の先生は言う。
『何のためにンなことしたんだよ、ヴィランは歳の差カップル好きですかァ?』
カ、カ、カップル…!とイケメンにあるまじきウブな反応マジウケる。だってそうだろ?さっき見せられたテメェのスマホにあった写真が物語っているじゃねーか。
そもそも一緒にクレープ食べとる写真を待ち受けにするダチが何処にいンだよ?
どう見ても隠し撮りって感じのブレブレショット、これ絶対俺気が付いてるヤツだわ。言ってくれたらもっとポーズ取ってやったのに、アンタその顔もっと活用したら?
で、極め付けはスゲー数の寝顔コレクションだ。バスん中、タクシー、ホテル。至近距離からの撮影ってことは俺はアンタの隣にいたってことだろ。ホテルで同衾してるってことはつまりアンタと俺はそーいう仲ってことだ。
…?どォした、違うのか?じゃあ何、俺達セフレってンンンっ、
『少し黙ってくれ、爆豪がそんなにお喋りだと調子が狂っちまう…!いや、お前も爆豪なんだよな、お前のことは、そうだな、勝己って呼ぶぞ。
まず、確かに俺は爆豪が好きだ。好きだと知ったのはつい最近だが好きになったのはもっと前からだ。そうだ、勝己は好きなヤツ、いるのか?』
いねーよ、興味ねェ。
『そうか、それは良かった。ともかくおれは爆豪に告白した、告白した途端に爆豪は勝己になっちまった、だから俺達はまだ付き合っていねえ。でもって本題だ。先生達が調べたところによると、この個性は両片想いの二人の年齢を引き離す作用で、年齢差はランダム、キッカケは告白らしい』
何だそのつまんねー少女漫画みてェな展開は?そんなクソ個性を授かったヤツが気の毒になるぜ、で、本題の続き、当ててやろーか?
“両片想いが両想いになりゃ個性解除”
どうだ?
『あってる…!勝己はスゲェな、さすが爆豪だ。で、両想いを証明する為の行為なんだが、ここが難題でって、ちょ、待て』
チクショウ、カッコよくキスして元に戻ってやるつもりだったのに、何だこの身長差パネェの、未来の俺って見る目あるじゃん、顔も体格も俺のド好みの男を捕まえるなんて、
『せっかく俺のファーストキスくれてやろーってんだから屈めよ』
『それはとっても魅力的なお誘いだが、個性解除の鍵はキスじゃねえんだ。あのな…』
耳元で囁かれる声までイケボとかマジヤベェのに、
“お前とセックスしねえと元に戻らねえんだ”
って、ハ?マジ?俺まだ十四歳なんだけど、処女なんデスけど、でも俺にやってやれねェことはねーし、解ったさっさとセックスして元に戻ろうぜ、
『俺も初めてなんだ、それに爆豪に悪い気がする』
俺には俺から言っといてやっから、つーかセックスして元に戻って2ラウンド目は元に戻った俺とヤりゃいいだろ?
『勝己、お前何か性格違わないか?二年前のお前はまるでー』
まるで?何だよ。
『小悪魔?みてえだ』
ふーんアンタ超絶イケメンのクセに童貞クセぇの、そーいうとこまでドタイプ過ぎて笑えるわ、安心しろよ、アンタは俺の、爆豪のドストライクだから。未来の俺はアンタにそりゃもうゾッコンだったんだろーよ。さあまずは買い物に行こうぜ、デートだよデート!ゴムとローション、どうせ持ってねェんだろ?
…何怒ってんの?怒ってない?じゃあ何でそんな顔して押し倒してくるワケ?ふーん、ちゃんと準備してあったんだ、
じゃ、前戯ってヤツしよーぜ。
『解ったから勝己、少し黙れ。黙れないならキスして塞いでやるから。
痛くしねぇ、いや、痛いかもしれねぇから時間かけて準備する。だから、そんなに怯えて震えるな』