酒の席で、彼と喧嘩をした。売り言葉に買い言葉だ。ああ、彼とは勿論アンドルー・クレスその人である。
飲酒の最中など理性が飛んでいるのだから、相手にしなければ良いと言うのに、その条件が適応されているのは私も一緒だったと言うことだ。何がきっかけだったかは忘れてしまったが、本当に憎らしいことを言うので私も虫の居所が悪く、恋人に向かって「本当に君は可愛くないな。」と吐き捨てたのだ。
その時はまだ良かった。ちびりと酒をまた一口煽ると、周囲もおいおいと笑っている程度だった。だと言うのに、アンドルーは冗談が通じず、わなわな震えたかと思うと普段は小声で囀るように喋る男が唐突に叫んだのだ。
「・・・っ!普段あんなに可愛いって言ってるだろうがっ!?」
こんな時だけ存外通る声だと思った。私は折角煽った酒をぶっと下品にも口から吹き出すと、「はぁ!?」と立ち上がる。周囲からは「あらまあ。」「やっぱり。」と言った女性陣の声と、「もっとやれ!」と持て囃す男共の声がする。私は回った酒で思考回路を焼かれ、顔をカッと赤くした。
この男は何を言っていると言うのだ。明日から荘園でどんな顔をしてゲームに参加すると言うのだ。ぐらぐらと回る視界でアンドルーを見やるが、うるうると潤んだ目ではまるで私が苛めたようではないか。私は反論する為、自分の立場を弁護するために努めて冷静を演じて立ち上がる。そして。
「だって君は可愛いだろうが。」
と、特に疑問も無く言いのけたらしい。らしい・・・。本当にか?
・・・
「・・・記憶に無いな。」
「あら、貴方本当に良い頭ね。不都合なことは消えるんだからね。その後はもう凄かったのよ。キスしろだの、部屋でやれだの大騒ぎよ。覚えてないの?」
「そ、それはすまなかったね。理性が働いていなかったとは言え、私が記憶にあるのはそこまでなんだが、それから先は・・・。」
ナイエル嬢はすっと椅子を立つ。その手には私が賄賂として貢いだ新しい薬草の入った小瓶が握られている。
「聞かない方が良いわ。」
綺麗な仕草で消えていく様を後ろ手に眺めながら、私は頭を抱えた。だって、怒る彼も可愛いから仕方ないだろうが・・・。何一つとして反省の色を見せない私の独り言は、広い食堂に空しく木霊したのだった。