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    adashi_No6

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    adashi_No6

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    反幹たいみつの二人が駆け落ちしようって話してるだけ。
    モブと三ツ谷くんがキスする表現がありますが、カップリングはたいみつだけです。あとモブが56される描写があるのでご注意ください。

    反幹_逃避行直前 カチ、と硬質な音と共に、手元で小さな火が灯る。それを使って愛飲しているタバコに火をつけて、一口だけ吸い込んだ。肺に煙が入っていく、重たい感覚。最初は肺に入れるのも一苦労だったのに、いつの間にか手慣れてしまっていた。
     フー、と白煙と共に吐き出したものは、ただの呼吸だったのか、それともため息だったのか。取り込んだニコチンで少しだけ頭がクラクラとする感覚に酔いしれながら、足元に転がっている物言わぬ肉塊に視線を落とす。血まみれで、苦痛と驚愕に染まりきった表情をした男は、つい一時間ほど前までは共に酒を飲んで陽気に笑っていた自分の手下だった。

    「なんだ、殺しちまったのか」
    「……大寿くん」
    「最近、やたらと気に入ってた部下だったじゃねぇか。目もかけてただろ?」

     気がつけば、路地裏の入り口側にいつの間にか、見慣れた青い髪を持つ男が立っていた。丁寧に髪を撫で付け、今日も隙のない格好をしている大寿くんに向かって、苦笑いをこぼす。目をかけていた、可愛がってもいた部下を自分の手で殺したことに疲労を覚えるなど、オレもまだまだ甘かったらしい。

    「……三ツ谷さん、ってずっと後ついて回って、懐こくてさぁ。教えればちゃんと一回で覚える、優秀な子だったんだよね」
    「テメェの為なら命も張るような、か? 一度、コイツの前でテメェに傷を付けた時は怒り狂ってたな」
    「ハハッ、そうそう。…でもさぁ、マイキーたちの情報を他に売って〝商売〟してたら、オレも見逃せねぇワケ」

     はぁ、と今度こそ明確にため息が出た。自分の体を支えているのも億劫で、ヒビ割れたレンガの壁に体を預けてもたれかかる。
     大量に酒を飲ませて酔わせたまま「行きつけの店、行かねぇ?」と甘い声を出せば、元部下はオレのことをすっかり信用しきっていたせいかノコノコとついてきた。店なんてろくにないこの路地裏に連れ込んでも、身の危険を察知できなかったほどだ。甘い顔でキスをしてやって、舌を絡めてきたところを後ろから拳銃で一発。悲鳴もろくにあげられないまま崩れ落ちた男の目に、オレは一体どう映っていたんだろう。
     指に挟んだままだったタバコをもう一口吸って、今日はやけに苦く感じられるそれを足元に落として踏み潰した。じゃり、と革靴の下で砂がこすれる音がする。ゆるゆると吐き出した息に混ざって薄い白煙が空中へ消えていくのを見ながら、無表情のままオレを見ている大寿くんに苦笑をこぼした。

    「あーあ、可愛かったのに。やってらんねぇ」
    「オレを放って可愛がるほどだったのになァ?」
    「なに、妬いてたの? 可愛いね、大寿くん」

     お互いにからかうような口調で話しているけれど、きっとオレも今はうまく笑えていないだろう。コツコツと靴音を鳴らして大股で大寿くんに近づいて、綺麗に整えられたシャツの胸ぐらを片手で掴み、引き寄せる。
     噛みつくようにキスをしたオレと対照的に、大寿くんは珍しく優しいキスを返してくれた。唇を食まれて、舌先で口内を宥めるように暴かれて、気がつけば太くてたくましい腕がオレの腰に回ってぴったりと体をくっつけている。外でこんなに優しい対応をされるのは初めてだ。いつだってオレたちは、「お互いを殺し合う姿」を見せなければいけなかった。

    「……ねぇ、ダーリン。秘密の話なんだけどさ」
    「ハッ、改めてどうしたんだよハニー」

     お互いの吐息が混ざり合う距離で、誰にも聞かれていないのに声を潜めて話をする。オレが死ぬ時は大寿くんが殺す時だし、大寿くんが死ぬ時はオレが殺す時だ。それは今でも変わらないし、お互いにそう思っていることは言葉にしなくても伝わっている。あれだけ情熱的な目でナイフの先を向けられたら、イヤでもわかるというものだ。
     だけど、ここ最近はそんなことも言っていられなくなってきた。ブラックドラゴンのトップである大寿くんはもちろん、トーマンで幹部をやっているオレも、他の組織から命を狙われることが増えている。この間は大寿くんが乗った自動車に天竺の下っ端が車をぶつけて襲ってきたし、オレがねぐらにしていた安アパートも火をつけられてボヤ騒ぎが起きた。
     死ぬことは怖くない。でも大寿くんをこの手で殺したいというオレの望みは、このままじゃ叶えられそうにない。だから。

    「……二人で、どっか行っちゃおうか」
    「へぇ……それに乗ったとして、オレのメリットは?」

    「ないよ。でも来るでしょ? オレがいないのに、大寿くんがここに残るワケないもん」
     確信を持ってそう告げれば、至近距離で見つめていた蜂蜜色の瞳がとろりと、甘さをもってとろけた。そのままそっと触れるだけのキスをオレの額に落としたかと思えば、ゆるゆると細く長くため息をついた大寿くんが、オレの体を両腕で抱きしめてくる。
     この距離で密着するのは、今までならセックスの時だけだった。そうじゃなければ、互いを殺そうとする時しか体温を分かち合うことはできなかった。だけど、今は腰のホルダーに手を伸ばす気になれない。それはきっと、目の前にいる大寿くんも同じで。広くてたくましい背中にそっと腕を回して抱きしめ返せば、少しだけオレを抱きしめる力が強くなった。

    「……テメェが死にたくなった時に、オレがいねぇなんて可哀想だからなァ」
    「はは、よく言うよ。大寿くんこそ、死にたくなったらすぐに言ってよね」
    「気が向いたらな。…新婚旅行はベイルートがいいか? それともモガディシュにするか?」
    「えー、どうせなら地中海の平和なトコにしない? オレたちに最高に似合わないトコ。真っ白い家買ってさー」

     死体がすぐそばに転がっているとは思えないほどの呑気な声で、二人で行く先を決めていく。オレも大寿くんも、きっとだいぶイカれているんだろう。でも、これ以上オレたちの間に無粋な人間が入り込んでくることは耐えられない。オレたちが逃げれば追っ手が来て、いずれ殺される。だけど、最期に見るのはきっと幸せそうに笑う大寿くんだ。

    「とりあえず、腹減らねぇ? オレ、今日何も食べてないんだけど」
    「仕方ねぇ、ウチに来い。たらふく食わせてやる」
    「やだ、えっち」

     大寿くんの大きな手に指を絡めて、何事もなかったかのように路地裏から出て行く。派手なネオンがギラギラ光っている夜を泳いで、オレたちはひっそりと姿を消した。


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