ある午後の肖像 オフィス街の端にある小さな公園、潅木の植え込みを木板で丸く囲んだベンチに座るスーツの男。黒と灰の変わったツートンヘアを温く吹く都会のビル風に晒しながら、ただじっと座っていた。
何をか考え込むような男が纏った物憂げな雰囲気はどこか次に来る季節にも似て、枯れ際の色気すら感じさせた。
そこへ歩いてくる男がもう一人。ツートンヘアの男よりいくらか若く、伸びた背筋と筋骨隆々とまでいかないが健康的な肉付きのある肢体をネイビーの作業着に包み、五十センチほどの距離を空けて男の隣に腰掛けた。頭に巻かれたタオルの端からのぞく瞳は深い色をして眼光も鋭い。
二人はただ座っている。目を合わせるでも会話するでもなく、ただ前を見て座っている。
ふいにツートンヘアの男が二言三言口を開いた。すると眼光鋭い男は一瞬にして相好を崩しくしゃくしゃの顔で笑った。腹を抱え前後に揺れながら苦しそうに笑う男が滲む涙を拭いつつやっと落ち着くと、二人の距離は三十センチになっていた。
ツートンヘアの男は縮んだ二十センチを横目に、この場に来て初めて微笑んだ。そのあとの二人は時折目を合わせ、どちらかが口を開けばどちらかが笑った。
しばらくすると作業着の男はツートンヘアの男の手を引いて立ち上がらせ、オフィス街の人波へと共に戻っていった。距離はさらに五センチ縮んで。
・ツートンヘアの男が考えていたこと
焼き豆腐と豆腐ステーキの境界線について
・作業着の男が考えていたこと
ワイシャツの襟にごま二粒ついてる…しょうもな…可愛い…(昼に食べたさばのごまみりん定食と思われる)取ってやるかな…可愛いからもうちょっと放っとくかな…俺今日シミ抜き持ってたっけか
・ツートンヘアの男が話したこと
「部署の若ぇ子らがトミヤマくんトミヤマくんって盛り上がってたから『うちにそんな子いたっけぇ?人気の俳優さんかなんか?』ってきいたらトムヤムクンだったわ」
こうして二人は今晩仲良くトムヤムクンを食べに行くことになりましたとさ。(おしまい)