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    medekuru

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    medekuru

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    まどめの2次小説になります。
    300年後くらい
    ザガネフィ出産前後の話になります。
    ザガン視点のみ。大半はバルバロスとの会話です。

    若干特典ネタも混じってますが知らなくても多分大丈夫なはず。

    16巻の試し読み前に書き始めたので一般人は通常寿命扱いです。もし本編で延命濃厚になったら削除します。

    命と向きあう者達「浮かない顔してるな、ボス」
    「ん……ああ、シャックスか」
     どうやら顔に出ていたらしい。もうすぐネフィの出産なのだ。万に一つもないくらい準備はしているけれど、それでも心配になってしまうのだ。
    「まぁ、心配なのはわかるけどよ……でもボスなら何があっても対処しきれるぜ?」
    「まあ、貴様のお墨付きなら間違いなのだろう」
    「そりゃ、身籠ってから出産に関する医学を魔導書も一般知識も問わず凄い勢いで覚えていったからな……もう出産に関しての知識は医療系専門の俺と同等ですぜ」
    「ネフィと我が子に関わる重大な内容だ。魔術でなくとも必要なら学ぶ」
    「むしろ人体の欠損部分すら補填できるボスの魔術なら俺以上の対応が出来ると思うんだが……それだけ知識と技術あれば心配する事ないと思うけどな」
    「貴様とて黒花の時は不安そうだったではないか」
    「そりゃ俺の場合はケット・シーに変化しながらだったから、それがどのような現象生み出すかなんて前例すらなかったんだから……」
     この男は黒花の種族を守るために自らケット・シーに変化したのだ。
     更に種族を絶やさない為に子孫の相手を変化させたり故郷の復興や守る為に力を貸したりしている。
     黒花自身はもう寿命で亡くなってしまったけれど、この男は残りの人生も黒花の為に使い続けるのだろう。
    「大して変わらん、魔術も医療もまだまだ解明されてない事などいくらでもある。生命の神秘など完全には解き明かせるものではないしな」
    「ま、それを言われちゃそうかもだけどよ……ならあとは解き明かせていないものより経験者の話聞く方が為になると思うぜ」
    「経験者か……」
    「人族とエルフの出産なら前例あるし俺の話よりは不安解消出来ると思うけどな」
    「そうだな……ネフテロスのやつにも聞いてみるか」



     ネフテロスはオリアスと共にいた。
     どうやら魔術と神霊魔法について話し合いでもしているようだ。
    「どうしたの?お兄ちゃん」
     取り込み中なら出直そうかと思った時、こちらに気づいたネフテロスから声をかけてきた。
    「その……だな。もしよければだが出産の話とか聞いてみたくてな……」
    「出産の事ならシャックスに聞いていたんじゃないの?彼、その手の知識なら誰よりも詳しいでしょ?」
    「当事者の話を聞いてみたくてな……」
    「ああ、なるほど。技術ではなく、人族とエルフの出産について、という意味だね?」
    「流石オリアスだな。その通りだ」
    「でも多分他の人と一緒じゃない?シャスティルの出産手伝ったことあるけど、別にエルフと変わらない気はするわよ?」
    「まあ、そうかもしれんが……」
    「そうね……しいていうなら特別な事をしなくとも寄り添ってくれるだけで心強いものなのかしれないわね」
    「そうだね。ただそばで共に過ごして愛してくれればそれでいいのかもしれないね」
    「うん。それに子供にとっても手本になるような父親だったし」
    「あいつは紳士だったからな……俺に同じような振る舞いは無理だぞ?」
     自分はリチャードにはなれないし、リチャードもザガンにはなれない。
    「それでも恐れて関わりにならないより、どんな形になったとしても共に過ごす方が素敵だと思うよ。きっと君の母君も同意見だと思うがね」
     オリアスはまだ赤子だったネフィを隠れ里に預けて離れて暮らしていたのだ。お袋のアルシエラもある事情で7歳のザガンと離れ離れになったのだ。
     そんなオリアスもネフィ達と共に過ごす時は幸せそうだし、自分もお袋と再会できて良かったとは思う。
     ネフィとのやり取りだって最初は何も分からず手探りだったのだ。なら上手くいかなくても子供とも精一杯向き合うのが正解なのだろう。
    「そうだな……俺なりに努力はしてみよう」
    「出産や子育てで不満とかは全くないけれど……」
    「ん?なにかあったのか?」
    「ううん、そういうのじゃないのよ。ただ、エルフは長寿だから……リチャードが亡くなった時にあの子は凄く寂しそうにしていたわ……私も……」
    「あー……まあそれはどうしようもないな」
     ハイエルフでなくとも普通のエルフでさえ300年ほど生きるのだ。ハーフエルフとはいえ、人族の平均寿命である60年よりはずっと長い。
    「まあ、それは君の努力でどうとでもなるだろう」
    「そうだな。そもそもフォルやネフィと1000年一緒にいると約束しているからな。少なくともあと700年は生きるさ」
     魔術師は、その実力に比例して寿命も長くなる。
     ベースになるのは元の寿命だから、長生きするならネフィよりも努力する必要はあるけれど人族で1000年生きた魔術師だって存在したのだ。
    「なら共に生きていく2人にも話を聞いてみてはどうかな?産まれてくる子供も一番接する機会が多いだろうし」
    「そうだな。2人にも話してみるとしよう」



     ネフィとフォルは中庭で歩いていた。
     適度な運動は安全な出産の為には必要だそうだ。なので晴れてる日はこうして2人で歩いている。フォルは何かあった時の付き添いだ。
    「身体の調子はどうだ?」
    「おかげさまで順調ですよ。お腹の子も随分動くようになってきました」
    「うん、ネフィのお腹ポコポコする。触るとなんだか不思議な感じ」
    「その、痛かったりとかはないか?」
    「大丈夫ですよ。いつも確認していただいてますから」
    「そうか、それならよい。その、上手く言えないが……産まれてくる子供とどんな家族になりたいとかあるか?」
    「そうですね……フォルと同じように大切に育てていきたいですね。もちろん間違えたりしたときは叱ったりしますけど」
    「うん、わたしも色々教えるし、お世話する。お姉さんだから頑張る」
    「ええ、頼りにしてますよフォル」
    「それと、この子がどのような選択をしてどんな人生を選んだとしても、それを受け入れて支えてあげたいと思います」
    「そうだな」
     自分たちと違って力とは無縁の平穏な人生を送ってほしいとも思う。
     反面、魔術師にならなければ恐らく自分たちよりも早く寿命をむかえることになる。それはやはり少し寂しいとも思う。
     けれど、どのような選択をしても尊重してあげるべきだと思うし必要なら力添えするつもりだ。
    「その、なにかあったら言うがよい。ただでさえ出産とは痛みがともなうものなのだからな」
    「はい、ありがとうございます」



    「やはり落ち着かないものだな……」
     ネフィ達と話したあとは一人王座に戻ってきていた。
     話をする事自体は良かったと思う。けれどそれで不安を払拭出来たかと言われるとそうでもない。
    『よお、随分落ち着かねえ様子じゃねえか』
     影から陰鬱なやつの声が聞こえる。誰かからなんて分かりきっている。
    「バルバロスか……取り乱してる様子を笑いにでもきたか?」
     返事をすると影から出てきた。笑いにきたならぶん殴ろうとしたけれど……その顔はいつもの人をからかうような表情ではなかった。
    「違えよ……別にいいんじゃねえの?そういうもんだろ?」
    「……意外だな」
    「そういうもんだろ、こればっかりはよ。……何度あったとしても慣れるもんでもねえ」
    「お前が言うと説得力というか、言葉の重さが違うな」
    「はん……そうかよ」
     昔、天使について話していた時にも同じ事を思ったけれど……あの時はシャスティルの行く末を案じたものだ。
     今回は、同じ事を思っても本当に重みが違う。
     こいつはシャスティルの出産を傍で見届けたのだ。あの頃はよくシャックスに取引を持ちかけていたから自分と同じく出産に関する知識を集めていたのだろう。
     更に自分の娘が出産する時はそばにはいなかったけれど、常に影で様子を確認していて何かあれば駆けつけるつもりでいたのだから。
     その度に何度も思ったのだろう。今の俺と同じように。
    「……何かあれば呼べ。必要な物だろうと人だろうと何でも持ってく。そんときは貸しにしてやるよ」
     余計なお世話だ……とは言えなかった。そんな必要はないほど準備はしているつもりだ。
     それでも万が一……億が一でも何かあれば力になるという悪友の言葉が不服にも有難いと思ってしまった。
    「貸しか……ふっかけられる気しかしないのだが」
    「はっ、本当に必要になる事態ならどんな物でも安いもんだろ?」
    「まあ、な……」
    「ま、てめえなら問題ねえだろうがな」
    「なら報酬は先払いだ。お前を頼るなんて天地がひっくり返るくらいの極小確率だろうがな」
     服の裏に入れておいた一冊の魔導書を悪友へと渡す。これなら極小確率でなにかあったとしても報酬として足りるだろう。
    「……随分と奮発してくれるのな」
    「たまたま手に入ったのでな」
    「なら一つだけ忠告してやる。内心はどうであれ嫁の前で不安そうな表情は見せんな。てめえがそんな表情をしたら嫁は頼りづれえだろうぜ?」
    「っ!?」
     きっとシャスティルの反応がそうだったのだろう。もしかしたらコイツも誰かに言われたのかもしれない。
     思い出してみるとこの悪友もほんの一時だけオロオロしていた時期はあったと思う。
     それが妙にシャスティルの前では自分に出来ねえことはねえ、どんな事も問題にならねえと言い出すようになったのだ。
     そのくせ、いない所では視線は影のほうに向いてばかりだったと思う。
    「どんな些細な要望だろうと難題だろうと何だってしてやるって態度だけは忘れんな。それが出来りゃなんとでもなる」
    「……わかった、覚えておく」

     ネフィに陣痛がおとずれたのは、そんな会話をした10日後の事だった。





    「ふぅ……」
     無事に出産を終えて10日目、母子共に安定している。
     赤子は数時間で目を覚ますので、ネフィとお互い支え合って世話をしている。
     先程泣いた時は排泄だったので、起きて世話をしようとするネフィを制して対応してきたところだ。
     綺麗にしたあとはしばらく抱いていたら眠ったのでそのまま寝かせ、玉座に戻って一息ついたところだ。
    「よお、ザガン」
    「……バルバロスか。何の用だ」
     今は深夜ではあるが、この男は普段から徹夜する。起きていても何ら不思議はないやつだけど、この時間に来るのは珍しい。
    「まあ何か用ってほどでもねえが……差し入れだ」
     その手には酒瓶を持っていた。こいつの持ってくる酒は美味いけれど最近は喧嘩で負かしたわけでもない。
    「珍しいな。なにかあったか?」
    「別に。あえて言うなら何もなかったからだな。報酬返せと言われねえようにな」
    「そんな事を言うつもりは無い」
    「ま、付き合えよ。ようやく一息ついたとこだろ?」
     この悪友は自分本位の性格なのにわざわざタイミングを窺っていたのか。
     お互いに魔術で椅子を手繰り寄せて席に着く。
    「まあな……子育とは大変なものなのだな」
    「はっ……そりゃ一筋縄じゃいかねえよ」
    「お前の時はどうしていたのだ?シャスティルは魔術使えんだろう?」
     魔術師という生き物は自分の身体を細胞レベルで操ることが出来る。夜中に赤子の世話が必要なら、自分の眠気を飛ばしたりできるけどあいつは違う。
    「あいつポンコツの癖にガキが泣いたらどんなに疲れてても不思議と起きんだよ。寝落ちするほどだろうと俺がベットまで運んでも起きねえくらいでもだ」
    「それは凄いな。執務モードか?」
    「いや、ポンコツだな。起きたあとぼんやりして転ぶことも何度かあったし……それでもやることはしっかりやってたな」
    「お前も手は出していたのだろう?シャスティルの産後しばらくは魔導書も読んでいられねえとかボヤいてたではないか」
    「ある程度は俺がやってやれるけど、赤子の飯はどうにもなんねえからな。ガキが夜寝ててくれるようになるまではあいつはそんな感じだったぜ」
    「そうか。なら夜寝るようになるまではネフィも大変だろうし俺も頑張らないとだな」
    「寝るようになったと思ったら今度は熱を出したりするようになる。竜とは違うんだ。気にしてねえと何が起こるか本当に分かんねえ」
    「む、確かに。人と竜では身体の作りも違うからな……更にフォルは養子になったときには既に魔術師だったからな。病なんてものは無縁だったな」
    「養子と同じだと思ってっと痛い目みるぜ?動けるようになりゃ更に目が離せなくなる。ポンコツみてえに段差がありゃ落っこちるし、すぐ転ぶからな」
     シャスティルのように転ぶ……それは確かに気をつけなければならないだろう。
     あんな柔らかい身体で予期せぬところで転び何処かにぶつかったら、それだけで大惨事になりかねない。
    「何でも触ろうとするし口に入れようとすっからな。懐に触媒入れたまま抱いてると食われっぞ。てめえのパイプの中身とかもな?」
     バルバロスの言葉にはやたらと実感がこもっているように聞こえた。この悪友は常にヘラヘラした態度ではあるけれど内心ではそうでもなかったのだろう。
    「やはり子育てとは大変なものだな」
    「《魔術師殺し》と恐れられるお前もガキ1人相手に形無しになるぜ。せいぜい振り回されるこった」
     そう語るバルバロスの表情はどこか懐かしむような慈しむような……それでいて少し寂しそうなそんな表情だった。
    「まあ、それでも基本見てるしか出来ねえ産む時と違ってこっちは手出し出来るからな。姉になって喜んでるやつもいるだろ?いくらでもこき使ってやりゃいい」
    「そうだな。フォルにも頼らせてもらうとしよう」
     昔からお姉さんというものに憧れてたフォルは本当に姉になって喜んでいたのだ。泣いてる時にもよく抱いてくれている。
    「さてと、んじゃそろそろ退散させてもらうぜ」
    「もう帰るのか?酒はまだ残っているぞ?」
    「まあ……散歩して酔いでも覚ましてくる」
    「……そうか」
     散歩……恐らくまたシャスティルの生まれ変わりを探しに行くのだろう。この悪友は時々街や村などでポンコツな奴を探しているのだから。
     ザガンもそれを知っているから先日バルバロスに渡した魔導書も魂に関係する内容のものだ。

     かつて孤独の魔術師として生きていた頃は他人の命など価値を見いだせず気に入らなければ殺したりもした。――バルバロスも自分も。
     そんな自分たちが大切な者を手に入れて、放っておくだけで死んでしまうような命を大切に守り育てていく。
     それはとても尊い事なのだろう。
    「ふぇぇぇ……」
    「もう起きたか。さて今度はなんだろうな?」

     そんな苦労と幸せを噛みしめて、かけがえのない者の元へと向かった。
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