リンゴが赤くなると医者が青くなる(やっぱり辛そうじゃねえかよ)
バルバロスは今、教会の仮眠室にいる。そばにあるベットで眠っているのはシャスティルだ。
命を脅かす危険性はないとは思うけれど……眠っている彼女は普段と比べて息も荒くグッタリとしている。
もっと早く気づいてやれたら……
そしたら、ここまで悪化しなかったかもしれないのに……そんなことを考えながら思い返す。
その日は朝から何かいつもと違うと思った。
バルバロスはいつも影をシャスティルに繋げている。影を通して常に音は拾っているし、必要になれば状況を覗いたりもする。
なので大体いつものシャスティルの雰囲気は把握しているつもりだ。
けど今日のシャスティルは、なんというか目を覚ました時から気だるそうな感じで……
着替えも起きてから終えるまでに、いつもより時間をかけていたと思う。
勿論着替えを覗いたのではなく、影越しに聞こえる音だけの判断ではあるけれど……その時は疲れでも溜まっているのかと思っていた。
「……おはようバルバロス。珍しいな、朝から顔を出すなんて」
「まあ、ちと喉渇いたしな。まだ開始まで時間あるだろ? お前の分も入れてやるよ」
「ありがとう。私もなんだか喉が渇いてるみたいだから助かるよ」
疲れてるなら紅茶でも入れてやろうくらいの気持ちだったけど……その言葉に違和感を感じる。
別に喉が渇くくらい普通だ。けれど何か見落とすべきではないと頭のどこかで危険信号のようなものがなっている。
「……ほらよ、出来たぜ」
「ありがとうバルバロス」
紅茶を飲むシャスティルを注意深く見つめる。いつも自分と紅茶を飲む時は割とゆっくり飲んでいると思う。
今もゆっくり飲んではいる……けどやっぱり何かが違う気がする。なんというか行動そのものがゆっくりしているというか……
「……お前疲れてんのか?」
「そう見えるか? ……確かに少し疲れでも溜まっているのかもしれないな」
シャスティル本人も万全じゃない自覚はあるらしい。その言葉に一層警戒心を強める。少なくとも昨日はこんなんじゃなかったはずだ。
何があった? 毒は口にさせてないし、寝ている間に魔術をかけられるようなヘマはしてないはずだが……
念の為こっそり精査魔術を走らせてみるものの、紅茶にも部屋にも特に反応は無い。
「ああ、もうこんな時間か。そろそろ準備しなくてはな」
どうやら開始時間間近になっていたようだ。いつの間にかレイチェルも部屋の隅で待機している。
「……何かあったらすぐ呼べ」
「珍しいな? あなたがそんなこと言うなんて」
「ただの気まぐれだ」
そう言い残して影に潜る。もちろん目を離すつもりはないけど見ただけじゃ分からない異常だってある。
そばで鼻血を出しているレイチェルはいるけど、ああいうのは前にもあった。特に毒ではないはずだ。
あとになってから後悔した。
この時気づけたはずだったと。
今日は何となく朝から身体は重く感じて……珍しく朝から執務室にいたバルバロスからも疲れているように見えたらしい。
それでも紅茶を飲めば少し喉も楽になり、いつも通り執務を進めていく。
「……シャスティル、あなたもしかして疲れてたりするんじゃないの?」
「ネフテロスもそう見えるか。実はバルバロスからも同じことを言われたのだ」
「ちょっと本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ。今日は量も少なく急ぎのものもないからな。いつも手伝ってくれて本当に助かってるよ」
「もし辛いようなら魔法使うけど……」
「そこまでじゃないから平気だよ。それにこの後ネフィと一緒に神霊魔法を学ぶために出かけるだろう?」
「……本当に辛いならちゃんと休むのよ?」
「大丈夫だよ、ありがとうネフテロス」
このネフテロスの発言以降、黒花さんやレイチェル、リチャードの心配そうな視線を感じるけれど、特には問題ないはずだ。
このペースなら夕方には終わるだろう。そしたら今日は早めに休めばいいのだから。
その後昼食過ぎまでは問題はなかった。
けれど、ネフテロスの外出後ぐらいからだろうか?少しだけぼーっとしてしまう瞬間がある。
「シャスティル様、本当に大丈夫ですか?」
「ああ、すまない。疲れでも出ていたのかな……少し顔を洗ってくるよ」
冷たい水で顔を洗えばスッキリするだろう。そう思い立ち上がった瞬間、頭はくらりとし、視界はぼやけて……
気づいた時にはバルバロスに支えられていた。
シャスティルの様子はエルフ女から見てもやはりいつもと違うようだ。
それなら無理やりでも魔法で治せとは思いつつも影から様子を見守っているとタイミング悪くエルフ女の外出後から段々様子がおかしくなってきた。
もう少し早ければあの女は再度治療しようとしただろう。今からでも連れ戻すか……?
悪化しているようには見える……けど今のところ執務室に怪しいヤツの出入りはない。どうするべきか……
そんな事を考えていた時、立ち上がったシャスティルの身体はふらりと揺れて……
倒れる前にすぐさま影から飛び出す。
「……あれ、バルバロス?」
「お前熱あんじゃねえかよ!」
触れてようやく気づいた。おそらく朝からずっとあったのだろう。
「そういえば最近気温の変化も激しかったからな……風邪引いたかもしれないな」
「っ! ならすぐシャックスんとこいくぞ」
別にシャスティルの風邪は初めてという訳じゃない。なのにすぐその可能性に至らなかった自分に腹が立つ。
もし朝気づくことが出来たなら半日も無理はさせなかったし、そもそも仕事なんかさせる前に治療させに行く。
真っ先に外部の仕業を疑う自分の思考につくづく魔術師と聖騎士の違いを思い知らされた気分だ。
「わわっ、そこまでじゃないから平気だよ。少し休めば良くなると思うし、これくらいの風邪で頼るほどじゃないよ」
「……」
バルバロスにとっては彼らの休みよりも優先なのはシャスティルの方だ。後半の言葉だけだったなら強制的に連れていっただろう。
〝少し休めば〟という言葉に思いとどまる。
休ませるいい機会だろうか……? 無理やりシャックス連れてきて治したとしてもシャスティルの性格上また仕事を続けかねない。
「……なら今日はもう仕事すんな、今すぐ休め。じゃねえなら無理やりでも連れていくし、抵抗すんならシャックスの野郎をこっちに連れてくる」
「流石に大袈裟だと思うが……急ぎの仕事もないし、あなたの言う通り休むことにするよ」
そうしてシャスティルを仮眠室に放り込んで今に至る。
なんとかしてやりたいとは思うけど、シャックスを連れてきたらまた仕事を始めるだろうし、こっそり治すには自分では力不足だ。
病は医療魔術の専門でなければ軽率には手出しできない。原因特定してきちんと対象出来なければ悪化させることになる。
つまり医療魔術をかじっただけのバルバロスでは下手に手出しすると逆効果になりかねないのだ。
現状ここにいても出来ることは何もない。そう思い影の中へ引き返そうとした時、
「なにか少しでも栄養あるもの食べられればいいのですが……」
「そういえば風邪と言えば、リンゴが赤くなると医者が青くなるという言葉がありまして……」
「そのような言葉があるのですね。シャスティル様もよくなるといいのですが……」
「けど今は……」
「おい、それどういう意味だ? なんか手があんのかよ?」
隣の執務室でされていた会話に割り込む。正直猫女は苦手だけど、何かやれる事があるなら手をうちたい。
「魔術師さん」「バルバロスさん」
「さっき言ってた医者が青くなるとか言ってたやつ、なんか魔術じゃなくてもよくなる方法あんのかよ」
「……リンゴが赤くなると医者が青くなる、ですね。リンゴは特に皮ごと食べると栄養価が高く、風邪を引きにくくなることから医者の仕事が減るという意味で……」
「リンゴだな? 分かった」
少しでも良くなる可能性があるならやる価値はある。街へ行くため、すぐに影に飛び込む。
「……けど、今は時期的に入手が難しいから他の栄養のあるものをシャックスさんに相談……って言おうとしたのですけど……」
続きの言葉はバルバロスに届くことはなかった。
「っかしいな……別にリンゴなんて珍しいもんじゃねえはずなんだけどな」
街へきたものの、どの店もリンゴを置いていないようだ。
もしかして誰かに買い占められたのだろうか?もしそうならそいつを見つけ出して取り引きをするか、脅迫という名の交渉で譲ってもらうか……
シャスティルの口にするものだから返り血などはつけたくはない。出来れば穏便な手段で手に入れたいけれど……
キュアノエイデスの市場を一通り見て回ったけれどやはり見つからない。
「なあ、ここ果物取り扱ってんだろ?リンゴってねえのかよ?」
「リンゴかい? 今はちょうど時期も終わりかけだからこの街にはないかもしれないな」
「……この街って事は他のところなら手に入るのか?」
「うーん……確証はないのだけれど」
「なんでもいい、場所は問わねえから情報がほしい。どこに行けば手に入る?」
「絶対とは言いきれないが、リンゴは北の方で生産が盛んだから、もしかしたらそちらに行けばまだ手に入る可能性はあるかも……」
「北だな」
すぐさまき北の方にある街や村へ移動する。
けれど行く先々で言われる言葉も似たようなもので……
「今は時期が……」
「この街にもないよ」
「先日までは手に入ったんだけど……」
いくつもの村や街へ転移したけれど見つからない。次の場所で人の住んでいる村の心当たりは最後だ。
「はぁ……もう諦めて帰るかな……無い物はどうしようもねえし……」
そもそも大人しく寝ていればよくなるはずだ。ここまで飛び回る必要はあるのだろうか。
『……ケホッ』
「……ま、ここまでやったんだ。あとひとつ村をまわるくらい別に手間は変わらねえよな」
最後の望みをかけて村をまわる。リンゴは……あるにはあった。けどちょっと萎びてて、とても元気になるようには見えない。
「なあ、リンゴこれしかねえのか?」
「ああ、これで最後だ。もう人の手で取れるところは全部収穫してるからな」
「取れるところ? まるで他にもありそうな言い方だな?」
「そりゃ、村からずっと離れた危険地帯や崖の上など入れないようなところならもっとちゃんとしたものもあるんだろうが、俺達には無理だな」
「……わかった。とりあえず人が入らなさそうな北の方に行けばいいんだな?」
「もしかして探しにいくつもりなのか? 危ないし、森の中で何処にあるか分からないぞ? リンゴひとつにそこまでする事ないと思うが……」
「まあ、そうだな」
確かにその通りなのだろう。普通果物ひとつの為にそこまではしない。
だけど……
『はあ……はあ……』
それで少しでもシャスティルの回復に繋がるなら割に合わない仕事だってやってやる。
「とりあえず人が入らねえ北側って聞いたから、ここに来たけどよ……どうやって探すかな」
今バルバロスのいる場所はノルデンの奥地だ。一般人はまず入ってこれないだろうし、この近くにあるエルフの里は既に滅ぼされている。
「流石にあてもなく1人で探すには広すぎんだろ……何かいい手は……」
そんなバルバロスの背後から襲いかかるのは1匹の魔物だ。それに振り返ることなく黒針を叩き込む。
「……ったく、人は来ねえけどコイツに喰われてたりしねえだろうな? あんま時間もかけたくねえしよ……」
影を通して見るシャスティルは相変わらず辛そうで……既に街や村をまわって結構な時間をかけているのだ。なるべく早く見つけたい。
「ナゼ……タタカワナイ……」
「お、丁度いいもんあるじゃねえか」
バルバロスの目の前にいるのはゴーストだ。それも何匹もいる。まとめて死んだ奴らかもしれない。
その姿は耳を切り落とされていたり、片目を失っていたり、髪の毛を毟られたような、何かしら身体の部位を奪われているようなものばかりだ。
「オンヲ……カエセ……」
「はっ、こんなところで未練や恨みでゴースト化してるようなら、どうせ恩とか言うほどのことしてねえんだろ?」
「ワレワレヲ……マモレ……」
「てめえらの事情なんか知らねえよ。それよかリンゴ探せ。ここにいたならありそうな場所の検討ぐらいつくだろ?」
「リンゴ……」
「どうせ生前見捨てられるような生き方してたなら、ろくな事してなかったんだろ? せめて死後くれえ役にたてよ」
「……」
「ちゃんと美味くて元気になるやつな。食われてたり毒とかあるやつは論外だ……行ってこい」
ゴーストを使役しリンゴ探しに向かわせる。場所を知っていれば話は早いし、そうでなくとも一人で探し回るよりは効率的だ。
影を使ってゴースト達の様子を探る。奴らは生前の知識でもあるのか、迷う素振りもなく進んでいく。
特定の木だけ確認してすぐ移動……おそらくそれがリンゴの木なのかもしれない。これなら自分は探し回る必要はなさそうだ。
『リンゴ』
「お、見つけたか」
その木は日当たりのよい場所にあり、沢山の実をつけている。
これ以上食い荒らされないようにリンゴをつついている小鳥を影で追い払い、空間を隔離する結界を張って侵入を拒む。
「とりあえず毒性とかはなさそうだな」
結界の中に入れたゴースト達は木に登り収穫を始めるけど、自分でとった方が早いだろう。
「おい、うまいリンゴの見分け方あんのか?」
「アカイ、オモイ、ハリツヤアルモノ……」
「チュウクライノオオキサ」
「とりあえずそれっぽいものとっていけばいいんだな? なら話は早え」
まだ鳥に食われていないリンゴから該当するものを選び影で刈り取っていく。
「こういうもんか?」
問いかけにゴースト達は頷く。いくつか取ったので試しにひとつかじってみる。
「うん、まあ悪くねえかな?」
亜空間を開き、自分で刈り取ったリンゴとついでにゴースト達に取らせていたリンゴも放り込んでいく。
「んじゃ、もう用はねえ。どっか行っていいぞ」
「ナゼマモラナイ……」
「……てめえらはそいつの為にリンゴあげたことあんのかよ?」
「リンゴ……」
悪名高い魔術師である自分ですら大切な者の為にリンゴを取りに来たのだ。
こいつらの生前なんて知らないけれど、ちゃんと向き合う気持ちさえあれば、出来ないなんてことはなかったはずだ。
「それと、相手を怒らせたときは謝るもんだ。てめえらはそういうのちゃんとしてきたのかよ?」
初の顔合わせは最悪だったし、アトラスティアでは怒らせてしまったけれど……
それでもなんとか謝って、その後も毎日紅茶を飲む仲になっている。もちろんシャスティルの人柄という部分は大きいと思うけれど。
「……」
「まあいい、俺には関係ねえしな」
「リンゴ……アヤマ、ル……」
何か呟き続けるゴースト達に振り返ることなく、そのまま影に飛び込んだ。
眠っているシャスティルに触れ、体温を確認する。どうやら探しに行く前よりは下がっているようだ。
「ん……バルバロス……?」
「起こしちまったか。調子はどうなんだよ?」
「大丈夫、休む前よりスッキリしているよ」
「そうかよ……んじゃこれやる」
「リンゴ……?」
「皮ごと食うと栄養あって風邪引きにくくなるんだとよ。ちゃんと魔術で洗浄もしてあるからそのまま食っても問題ねえ」
「そうなのか。それじゃ頂くよ」
シャスティルはリンゴを受け取り、そのまま口にはこんでいく。思ったより状態は悪くないようだ。
「っ! これすごく瑞々しい……もしかして高いリンゴだったりするのか……?」
「別に高くねえよ。その辺にあるようなものだ」
「そうなのか。でも喉も潤う感じで凄く助かるよ。ありがとうバルバロス」
そう言いながら微笑むシャスティルの様子に胸を撫で下ろす。まだいつもよりは元気はないけどこの様子なら明日には大分回復しているだろう。
亜空間から大量のリンゴをとりだす。元気になるまで食べ続けても十分な量だ。
「まだ沢山あるから食えるだけ食っちまえ」
「わわっ! 流石にそんなに沢山は食べきれないよ。あなたも一緒に食べないか? ……といってもふたりでも食べ切れるか怪しいが……」
「別に食うのは構わねえけどよ……まあ確かにちょっと多すぎたか」
「腐らせてしまうのも勿体ないし、あなたさえよければネフィ達におすそ分けするのもいいかもな」
「お、それいいな。あいつの嫁は菓子作るのうめえし、これで作らせて持ってこさせればまた食えるしな」
「いや、別に作らせるつもりでは……」
「あ? 作った余りはそのままやればいいし、いいんじゃねえの?」
「そもそも善意でするものであって見返りを求めるものでは……いや、あなたが持ってきてくれたものだから私にとやかく言う権利はないけど……」
「取引は見返りを求めるもんだぜ? ……まあ、多少は例外もあるかもだけどよ……」
話していて気づく。自分はこのリンゴを探したのは見返りを求めていただろうか……と。
「それなら私も何か返さないとな……」
「……ならさっさと風邪治すんだな。そんなんじゃ労いとかいうポンコツな紅茶が更にポンコツになるぜ?」
強いて言えば、いつも通り元気な姿を見せてくれることこそが見返りだろう。なら自分は間違ってはいないはずだ。
「そうだな。なら治ったらまた飲みに来てくれ。その時は茶菓子も何か用意しておくよ」
「はん……治ったらな」
リンゴをひとつかじる。ノルデンで味見した時と似たようなリンゴのはずなのに、なんとなく先程のものより美味しく感じた。
いつものように神霊魔法の訓練も終わり、ネフィは厨房へ向かう途中だ。そんな時、影が揺らめき人影があらわれる。
「バルバロス様、なにか御用でしょうか?」
依頼など時折ザガン様の所へは顔を出す人だけど、自分のところにくるのは珍しい。
「ポンコツが風邪引きやがった。とりあえず熱は下がってきてっけど、これでなんか作ってくれねえか?」
差し出されたのは沢山のリンゴだ。けどここ数日、市場では売ってなかったはずだ。
「風邪なら蜂蜜漬けとかも良さそうですけど、具合と食欲のほうはいかがでしょうか?」
「多分大丈夫だと思うぜ。さっき普通にリンゴ食ってたしな」
「それならリンゴを混ぜたパンなども大丈夫そうですね。明日お見舞いに行かせていただきますとお伝え出来ますか?」
「伝えておく。見舞いに来るならポンコツも大人しく仕事せず休んでるだろうしな。それと、余りはそっちで食っていいぜ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
お礼を伝えるとすぐさま影の中へ戻っていく。きっと大切な人の様子見に戻ったのだろう。
店に無いはずのリンゴ。少なくともキュアノエイデスには売ってなかった。
それがここにあるということは、きっと人を大切に思う気持ちが詰まった素敵な品なのだろう。
「美味しいものを作らないとですね」
籠の中からリンゴをひとつ手に取る。
「――――――」
何か聞こえたような、そうでもないような……
なんとなくだけど、手の中にあるリンゴは優しい気持ちを運んでくれたような、そんな気がした。