祝福の代わりに、静かな時間を(ドルオウ) オウィちゃんの誕生日だー!と騒ぐミツキを中心とした仲間達に盛大にお祝いをされまくった当人は、そろりと騒ぐ皆の輪から抜け出していた。食堂を貸し切っての大騒ぎは、いつの間にか主賓をそっちのけで盛り上がりを見せている。
皆の好意はありがたかったが、元来騒ぎ立てるのが得意では無いオウィとしては、気疲れを起こしてしまったのだ。祝いの品も、祝いの言葉も、祝いの料理も、もう十分に堪能した。これ以上は腹一杯だった。
さっさと自室に引き上げてしまおうと思ったオウィは、目の前の人影に顔を歪めた。また掴まるのかと言いたげに。
「おいおい、人の顔を見た瞬間に嫌そうな顔をするんじゃねぇよ、軍師殿」
「てっきり貴方は酒を飲んでいると思っていたんですが」
「飲んでたさ」
「なら、どうして」
「お前が出て行くのが見えたからな」
「…………」
それで何で貴方まで出てくるんですかと言いたげな顔だ。そんなオウィに、ドルフはにぃっと唇を持ち上げて笑った。
一歩距離を詰め、ドルフはオウィを見下ろす。かつて共に死線を潜り抜けた相棒とも呼べる相手に見下ろされ、オウィはじっとその瞳を見上げた。何を考えているのかと言うように。
次の瞬間、ドルフは破顔した。次いで、悪戯を思いついた子供のような顔でオウィに耳打ちをする。
「騒がしい奴らに邪魔されない静かな時間が欲しくはないか?」
「……は?」
「部屋に戻ったところで、引っ張り出されて終わりだぞ」
「……」
否定出来なかったので、オウィはそっと目を閉じた。何で自分の誕生日で疲れなければいけないんだと言いたげだ。
そして、ふと、ドルフの言葉に気づいたように顔を上げる。不思議そうに、きょとんとした顔をするオウィに、ドルフは楽しげに笑った。
「来るか?」
「……良いんですか?」
「今のお前に一番必要なのは、ゆっくりする時間だろ」
「……助かります」
その誘いに、オウィは乗った。ドルフが、オウィが疲れていることを見越して申し出てくれたことがわかっているからだ。また、親しい者達の誘いを断り切れないオウィを知っていもいるからだろう。
並んで歩きながら、オウィはほんの少しだけ表情を緩めた。ドルフと過ごす時間は嫌いではない。オウィと二人きりの時、この男は不思議なほどに静かな時間を提供してくれる。
部下達と共に騒ぎ立てる面も持っているというのに、不思議な話だ。けれど、あの頃と変わらず自分を気遣ってくれる姿に、心が温かな何かで満たされるのを感じるオウィだった。
二人きりで過ごすその時間は、数多くの贈り物の中でオウィの心を一番満たしたのだった。
FIN