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    むつき

    @mutsuki_hsm

    放サモ用文字書きアカウントです。ツイッターに上げていた小説の収納庫を兼ねます。

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    むつき

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    シロウ+主人公くん
    エビルたちを寮のお風呂に入れる話

    #東京放課後サモナーズ
    tokyoAfterSchoolSummoners
    #本居シロウ
    shirouMotoori

    お風呂 大きなスポンジを駆使して、洗面器いっぱいにボディーソープの泡を作っていく。きめ細かな泡を、めいっぱいたくさん。
     確実に、自分の体を洗う時より一生懸命になっている。何しろ、大事なシロウの大事なエビルたちを洗うんだから。
    「そろそろいいよ。お待たせ」
     カランの近くに立っている子を手招きする。他の子に比べてフットワークが軽く、よく前に出たがる好奇心旺盛なエビルだ。泡だらけの俺の手元を興味深そうに見つめていた。
    「そうだよ、君の番」
     俺が声をかけたのを受けて、待ってましたと言わんばかりに進み出てくる。椅子に腰かけた俺の前に立ち、じっとこっちを見上げた。水温設定を済ませたシャワーを優しくかけてから、横に置いた洗面器から泡をすくってエビルの体を包み込む。くすぐったいのか、小さな体をよじって楽しそうな声を上げた。
     もちもちした感触の肌はスポンジやタオルで洗ったんじゃ刺激が強そうな気がして、いつもこうして手で洗うことにしている。顔に泡がつかないようにしながら、活発に動く手足や羽根の付け根なんかを順番に洗っていった。
    「ギッ、ギィ!」
    「っと、そんなに暴れちゃだめだよ」
     くすぐったいだけじゃなく楽しんでいるとみえて、エビルは若干興奮気味だ。振り回した手足の先から泡が飛んだ。
    「たぶん、君と一緒にお風呂に入れることを喜んでいるんだよ」
     声がして振り向くと、隣の洗い場に座ったシロウがこっちをまっすぐに見つめていた。めがねを外しているから、いつもよりも目元がよく見える。教室で委員長然としている時とは違って、リラックスした表情をしていた。
    「そうかなあ」
    「うん、きっとそうだよ」
     優しい表情で俯くと、「良かったね」とエビルに声をかけている。
    「でもやっぱり一番は、シロウと一緒なのが嬉しいんじゃないの? じゃなきゃわざわざ大浴場にまで着いてこないよ」
     そもそもエビルたちは霊的な存在なんだから、体をきれいにしたりお湯に浸かったりしなくたって大丈夫なはずだ。それなのに本の中に戻らずに、みんなしてシロウのそばを離れないのは、シロウが愛されている証拠に違いない。
     俺がそう言うと、シロウは照れたように眉を八の字にする。ひと呼吸置いてからほろっと笑うのが、控えめなシロウらしいと思った。
    「そう、だといいんだけど」
    「そうに決まってるよ。だよねー」
     タイル張りの床に座り込んでご満悦そうにしているエビルに話しかけ、同意を求める。紫色をしたその子は鼻先に泡をくっつけたまま胸を張って、ギイ! と声を上げた。
     背中や足の裏といったところまでよくよく洗って、今度は隣を案内する。
    「はい、洗うのはこれで終わり。次はシロウのとこね」
    「こっちにおいで。泡を流すよ」
     弱めに出されたシャワーのお湯に、ボディーソープの泡がぐんぐん流されていく。さすがシロウは慣れた手つきだった。頬やおでこに飛んだ泡は指先で優しくぬぐい取られ、エビルはたちまち、すっきりぴかぴかの状態になっていく。
    「これで綺麗になった。さあ、あとはお湯に浸かって温まっておいで。俺たちは次の子を洗うから」
     優しく言い聞かせ、シロウはがらんとした湯船を指差した。大浴場はいろんな背格好の子が使うから、湯船には深いところもあれば浅いところもある。一番浅い辺りなら、エビルたちも溺れたりしないはずだ。
     そうやってシロウが促したのに、エビルはその場から離れない。じっとシロウを見上げたままだった。
    「どうしたんだろう、何かあるのかな」
    「うーん、シロウに遊んでほしいんじゃない?」
     俺が言うが早いか、エビルはギイ! と声を上げて頷く。
    「やっぱりそうみたい」
     エビルの考えていることがかなり分かるようになってきたと嬉しく思う俺の横で、シロウは唇をぎゅっと結んだ。
    「そうか……。遊んであげたいのはやまやまだけど、他の子たちも着いてきているだろう? まずはみんなを洗わなくちゃ」
     相手が納得できるように、ちゃんと理由を説明してくれる。それは相手がクラスメイトでもエビルたちでも一緒だ。そうやっていつも対等に理性的に接してくれるシロウを前に、エビルは元々丸っこいほっぺたをますます丸くしている。本当は分かっているはずなのに、分かりたくないみたいだった。
    「エビルの気持ちは、俺にも分かるよ」
     俺の言葉に、エビルはこっちへ顔を向ける。俺はうんうんと頷きながら、シロウ越しに身を乗り出した。
    「もっとシロウに構ってほしいよね。みんなシロウのこと大好きだもんね」
    「ギィッ!」
     小さなエビルの小さな片手が持ち上がる。まっすぐ伸ばされた手は、俺の方を指差していた。
    「こら、人を指差しちゃいけないよ。前に教えただろう?」
     しつけには厳しいシロウの注意が飛んでくる。エビルは物言いたげに、じっと俺を見つめていた。見つめ合いながら、ふと、エビルの言いたいことが分かったような気がした。
    「そうだよ、おれも君たちと一緒。シロウが好き」
     次の瞬間、シロウが弾かれたように振り向いた。瞳がこれ以上ないくらいに見開かれている。みるみるうちに頬が赤くなっていった。
    「き、君はいったい何を言い出すんだ……!」
    「何って、いつも思ってることだよ?」
    「いや、あの、君の気持ちはすごく嬉しいけれど、その」
     シロウの視線はあっちこっちと落ち着かない。可愛いなぁと思いながらわざと目を逸らさずにいると、今度はあーとかうーとか、混乱したような唸り声を上げ始める。
    「どうしたのシロウ」
    「っ、どうしたもこうしたも、君のせいじゃないか!」
     真っ赤な顔をして詰め寄ってくるのが分かっていて、ちょっとからかってみたくなる。
     表情豊かなシロウを目にして、エビルは満足したらしい。短い声を上げて回れ右をすると、とてとてと湯船に向かっていった。
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