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    むつき

    @mutsuki_hsm

    放サモ用文字書きアカウントです。ツイッターに上げていた小説の収納庫を兼ねます。

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    むつき

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    ヨリトモ+主人公くん
    甘味処に行く二人

    #東京放課後サモナーズ
    tokyoAfterSchoolSummoners
    #ヨリトモ
    oldFriend

    甘いもの 平日の夕方にも関わらずあちこちの卓に客の姿がある甘味処は、掃除が行き届き空気が澄んでいた。年月を重ねてきたと分かる机はよく拭き上げられ、唐茶色の上に飴のような艶を重ねている。
     あんみつとぜんざいの椀が揃った盆を前にして、弟は随分と機嫌が良いようだった。今回のループにおいて、彼はなかなかの甘党であるらしい。品書きを何度も眺め散々迷った挙げ句、どちらかひとつには絞れないと言って二つとも頼む辺り、余程のものだった。
    「ヨリトモのも、おいしそうだよね」
     こちらの手元へ視線をやって、じっと考え込むような仕草を見せる。
    「そうだね。良ければ君も、別の機会に味わってみるといい」
     純朴な弟は、まっすぐな瞳をして素直に頷いた。
     ここの豆大福は粒あんがさほど甘くなく、豆の塩気も効いている。甘党に付き合って入った店で小生が口にできそうなものといえば、それくらいだった。

    「そういえばさ。前に、俺がヨリトモの弟に似てるって言ってたよね。それって本当?」
     何気ない調子で持ち出された話題に、大福を摘まもうとしていた指先がこわばる。それは昔、よせばいいものを、なんとはなしに打ち明けてしまった事だ。沈黙を埋めるために話したそれを、彼はよく覚えていたらしかった。
     こちらも何ともないような素振りを装って、卓の向こうの弟を見つめ返す。
    「それは一体、どういう意味かな?」
    「だって俺はヨリトモとは全然違うでしょ? そんな俺が、ヨリトモの弟くんとほんとに似てるのかな」
     熱心に握りしめていたはずの匙から手を離し、いかにも興味深そうにこちらの顔を覗き込んでくる。
     いつもそうだ。我が弟の眼差しはあまりにも力強い。そして小生はその視線を前にして怖じ気づき、竦み上がり、恥じ入って岩のように固まる。
     目を伏せ、皿の上の菓子に気を取られているふりをした。
    「確かに君は、小生とは似ていないね。しかし兄弟というものは、必ずしも似ているわけではないよ」
    「そうなの?」
    「ああ。君は小生の弟に、とてもよく似ているとも」
     そうやって澄んだ瞳をして、嘘偽りのない調子で兄を讃えるところ。自分の方がよほど才があるというのに、そんなことはまるで分からないという顔をして熱心に小生を慕ってくれるところ。本当に、よく似ていた。
     小生には、別段何の力もないのだ。ただ、人とはいかなるものか、人とはどのように動くものなのかを知っていた。それに加えて多少弁が立つのと、いくつかの簡単な計算ができるという自負はある。それを繰り返しているうち、今の場所へ辿り着いただけだった。
    「小生の弟は、兄よりよほど優れていたよ。精神も肉体も強靭だった。他の誰も思いつかないことを考えつくのが得意でね。そして、どんな相手をも惹きつけてしまう魅力を持っていた」
     ちらと相手を確かめる。目の前の弟は表情を輝かせ、夢見るように瞳をゆるませていた。
    「ヨリトモは優しいね」
     小生と目を合わせ、にっこりと微笑む。心底感心しているといった調子だった。
    「まさか。小生は優しくなどないよ」
     返した言葉は、無論謙遜でも何でもなかった。小生が優しい兄であるわけがない。優しい兄が、どうして弟殺しなど命じるだろうか。
    「そうかなぁ?」
     彼はほんの少し不満そうに呟いて、ぜんざいの椀を覗き込む。唇をとがらせ、あずきの粒を匙の先でつついていた。
    「ああそうだ」
     何かを思い出したように呟いた声は、先ほどのものに比べて明るい調子を装っていた。
    「ヨリトモは、その弟くんに何て呼ばれてたの?」
     小生との会話を少しでも楽しい方向へと向けたかったのだろう。黒目がちな瞳を輝かせ、朗らかな笑みを浮かべてみせる。
    「お兄ちゃん? 兄貴? それとも兄上?」
     指折り数えつつ、思いつけるだけ挙げていく。
     さてなんだったかな、と応じつつ、うなじがじわじわと汗ばんでいく。いつまでも肌の上に残るような、嫌な汗だった。
    「ついでに俺は何て呼ぼうかな」
     冗談めかせて付け加える。にこやかな表情をしていた。
     どうしてそうも、安心した様子でいられるのだろう。所属している学校も違うというのに放課後わざわざ待ち合わせをして甘いものを食べているくらいの間柄なのだから、まさか苦手に思われていようとは考えてもみないのかもしれない。
     相手の懐に抱かれているものだと信じ切り、気を抜いて無邪気にはしゃいでいる。そういうところも小生の弟とそっくりだつた。
    「……君の好きに呼ぶといい」
     親しくしたところで、今回もまた結末は見えている。早いか遅いか、誰が手にかけるか、それが違うだけのことだ。
     小生の愛しい肉親だ。だから今度こそ救ってみせると、誰の手にもかけさせたりしないと。そういう決意が浮かばない辺り、小生は兄としての資格を持たないのだろう。
    「ヨリトモが兄貴かぁ。頼りがいがあるよね」
     小生にとってはおよそ信じがたい台詞を屈託なく口にして、弟は旨そうにぜんざいを平らげた。
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