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    Manatee_1123

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    Manatee_1123

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    自分の従者取られるのは嫌な主人のおはなし

    追放刑「――影光様、少し宜しいですか?」
     自宅に戻り訴状を確認していたら、強張った表情で允が部屋へやってきた。
    「急用? 仕事の区切りがもう少しでつきそうなんだけど」
    「急用といえば急用です。後回しで良いといえば後回しでも大丈夫です」
    「……結論だけ教えて」
    「以前カップルで宿泊された和合伊沙那という女性が、また宿泊の予約を入れてきました」
    「出た、和合と育和のワーワーカップル」
     この屋敷、改めホテル・アルビテルには、いくつかの禁忌ルールがある。いくつかあるうちのいくつもを破りやがったワーワー騒がしいカップルが来ていた事は、屋敷の全員が嫌な記憶として覚えているはずだ。
     ホテル内は全面禁煙。故意に部屋を汚す行為は禁止。過度なスキンシップ――口頭で説明する際には性行為と明言するよう言いつけてある――は禁止。などなど。殆どは僕が不愉快なので禁止しているが、屋敷を出ればここは獣道ばかりの山奥。守らないと危険なルールもある。
     ワーワーカップルは喫煙から始まり、用意していないサービスを要求するわ、こちらが止めても飲みすぎて吐くわ、部屋ではギャーギャー騒ぐわ、挙句掃除した允が床に落ちてる使用済みコンドームを見つけて、「あいつら追い出そうよ、ねえ、影光様、ゴーサイン出してくれたらすぐやりますから」と静かにブチ切れていた。
     決められたルールには従ってくれるモラルを理解した人が来るような値段設定にしているものの、時々あぁいう、金だけ持ってるバカが来たりする――最初にワーワーカップルの喫煙が発覚した時、樹理が苦々しい笑いを浮かべていたから、無言でほっぺを突っついてやったっけ。
     允だと不安だったので、侑臣に頼んで実力行使で早めに追い出してやった。法と格闘技を手札に持つ我々をナメてもらっては困る。
     その後の調べによれば、ワーワーカップルはチェックアウト後数ヶ月ともたず別れたそうだ。金を持っていたのは和合伊沙那の方で、育和が彼女の金に依存し堕落していったので別れた、と聞いていたのだけど、続きがあったのか。
    「和合だけならいいんじゃない? 今回は一人でしょ? 禁煙は守ってほしいけど」
    「泊まりに来る理由、侑臣さんですよ」
    「え……?」
    「……どういうこと?」
    「侑臣さんのこと調べまくってるみたいです、最近の和合。金遣い荒く派手に調べてるのですぐ情報が掴めました。三日前から、屋敷周りと法律事務所周りを興信所が張ってます。侑臣さんの情報を得て和合の娘に渡す為です」
    「気持ち悪いな。何でもっと早く教えてくれなかったの」
    「誰を何故狙っているのか調べるのに時間がかかりました。申し訳ありません」
    「なんで侑臣なの?」
    「そこまではわかりません。ただあの状態でまた一人で宿泊へ来るということは、ロックオンされているかと……六泊七日も宿泊予定ですので」
    「マジ?」
    「マジです」
    「侑臣、心当たりは?」
    「全くありません……」
    「僕に隠れて連絡先とか交換してないでしょうね?」
    「影光様を差し置いてですか? そんな暇があるのなら影光様にメールか電話をします」
    「隣にいるのにするかね」
    「します」
    「するでしょ、侑臣さんなら」
    「むう……」
     物凄く迷惑だったとはいえ客だったので、こちらが不利にならない為にそれなりの扱いをしていたが、今は違う。私人と私人なら話は別。
     一般的な家よりは広いとはいえ、山の中にあるここは密室みたいなものだ。七日も客として居座られたら何されるかわからない。正当防衛だとしても、女性相手に男性が手を出すのはあまりよろしくない。影光の指示だとでも言いくるめられたらきっと侑臣はすぐに騙される。
     そんなのダメだ。でも主人である僕の方が七日も屋敷から出なければならないのは納得がいかない。
    「侑臣は僕の従者なの」
    「はい」
    「よーく知ってます」
    「どこの馬の骨とも知れないビッチに渡したくないの」
    「影光様……」
    「そうですよね〜」
    「允、実に言って。出禁にするから予約の契約は消滅だって」
    「……俺たち小難しい文は書けませんよ……?」
    「じゃ僕が書くよ」
    「侑臣さんが靡くとは思えませんけどね」
    「そういう問題じゃないの」
     訴状のデータを開いていたアプリを閉じてメモ帳アプリを開き、とりあえず宛名を入力する。
    「大事にしてるものにベタベタ触られたくないでしょ! 侑臣は僕だけの人なの!」
    「――……ッ」
    「それはそうですねえ」
    「そんな状況なら来るのもヤ。興信所は僕の方で何とかするから、興信所そのものの情報調べるよう実に伝えといて」
    「わかりました。……よかったですね、侑臣さん」
    「うん……」
     出禁に関しては判例も出ている。証拠も証人も残っているから、最悪、裁判まで縺れても勝てるだろう。僕の得意分野だし。強気に出ても大丈夫。メールで予約を断る旨を伝えて、従わなければ内容証明を……。
     肝心の当事者である侑臣は、胸に手を当て天を仰いでいる。お前が狙われているのだから危機感を持ってほしい。
     ここは僕が世界で唯一気を抜ける場所。二十年以上この家のルールに縛られて生きてきたのだから、今は僕がルールだ。僕の安心を乱す者は誰であろうと許さない。
     ケラケラと笑っている允と、とっても幸せそうに微笑んでいる侑臣を眺めながら、今日も僕の安寧が築かれていることを実感する。ゲストはあくまで『ゲスト』なんだ。いなくたって構わない。
     強めの文面を打ち込んだメール文は、侑臣に確認させることなく手早く送信しておいた。
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