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    なつのおれんじ

    @orangesummer723

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    なつのおれんじ

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    雨の晴れ間に / マレ監
    2020-08-15
    監督生の一人称 ぼく / 性別特に決めてません / まだマレウスバレしてない頃の話

    夕方頃から降り出した雨は、闇が深まるにつれてその激しさを増し、叩きつけるような勢いでオンボロ寮の窓を濡らしている。時計の針はつい先ほど、真夜中の0時を回ったばかりであった。本来ならばこの寮の住人たちは寝静まっているはずの時間だが、監督生の部屋の窓からはうっすらと灯りが漏れている。
    「んっ……つの、たろっ……」
     雨音とは別に、監督生の部屋の中ではぴちゃぴちゃと小さな水音が響いている。2人で寝るのがやっとの大きさのベッドの上で、上半身の衣服を脱ぎ去ったマレウス・ドラゴニアが監督生をベットに押し倒し、口付けの雨を降らせていた。
    「お前はどこも柔らかいと思っていたが……ここも例外では無かったな」
     薄紅色に染まった小さな唇に、竜の君は何度も喰らい付く。その長い舌を口内に押し込めば、監督生は苦しそうにくぐもった声を出しながら、必死でそれを受け入れた。しかしその表情は次第に苦しげに変わっていき、ついに監督生はマレウスの口付けを拒んだ。
    「っ待って、くるしいっ」
    「ああ、すまない。つい夢中になってしまった」
     光を失い、濁った翡翠色の瞳が監督生をじっと見つめている。自らの口付けで乱れる様を見逃さない為か、その瞳孔は大きく開かれ、まるで夜狩りをする獣のようであった。鋭い視線に耐えられなくなったのか、監督生は思わず手で顔を覆った。
    「この期に及んで拒むつもりか?」
    「そうじゃない、けど」
     羞恥に駆られる監督生の様子を見て、マレウスは不敵な笑みを浮かべた。
    「往生際の悪い奴め。僕を部屋に招き入れたのはお前の方だぞ?」
    「それはっ……! こんなどしゃぶりの雨の中で傘もさしてなかったら、雨宿りにと思って……誘ったつもりなんて無かったのに」
     なんでこんな事に、と監督生は小声で呟いた。雨でぐっしょりと濡れたマレウスの黒髪から水が滴り、監督生の頬にポタリと落ちる。それを親指で拭うと、マレウスは監督生の右手首をシーツに押さえつけた。
    「理由はなんであれ、お前が僕を家に招いたことに変わりはない。こうなる事は予想できただろう?」
    「そんなの出来ないよ! 今日のツノ太郎おかしいよ、こんな乱暴にするなんて」
     その言葉に、マレウスはあざ笑うかのような笑みを浮かべた。
    「僕がおかしい? 違うな。おかしいのはお前の方だ、人の子よ」
     次の瞬間、マレウスの表情はひどく冷たいものに変わった。
    「僕というものがありながら、また元の世界とやらに戻る方法を探していたそうだな? あれは止めろと言ったはずだ。何故まだ続けている?」
     監督生の心臓がドキリと音を立てた。
    「どうしてそれを」
    「あいにく、顔だけは広いものでな」

     深夜の散歩仲間だった二人が、恋人の真似事をするようになって1年が経った。先に手を出してきたのはマレウスの方である。ただ星空の下で並んで語らうだけだった逢瀬が、次第に肩の触れ合う距離になり、いつしか抱擁と口付けを伴うものに変わっていった。
     監督生はマレウスと過ごす穏やかな時間が何よりも好きだった。二人とも口数が多いわけではないが、その日あった出来事やお互いの故郷の話などをぽつぽつと語れば、不思議と心が穏やかになれた。不意に触れ合った時に感じる相手のほのかな熱が、無性に愛おしかった。

     しかしお互いに好意を伝えた事は、今までに一度も無い。

    「どうした人の子よ。早く答えなければ、すぐにでも喰ってしまうぞ」
     監督生の右手首を掴む力が一層強くなった。マレウスの声は普段と変わらない静かなものだが、どこか悲しみの気配を帯びている。失望させてしまった──それに気付いた瞬間、監督生は胸を締め付けられるような感覚に陥った。
    「黙っててごめん、ツノ太郎。でももうこんなの止めようよ、君らしくないよ」
    「僕が納得出来る理由を口にさえすれば、直ぐにでも止めてやろう。しかしお前に答える気が無いのなら、その身体に直接聞くしか無いだろう?」
     マレウスが催促するかのように首筋を舐めあげると、監督生の身体がびくりと震えた。
    「あの黒い毛玉は此処には居ないようだしな。実に都合が良い事だ。しかし、身内の危機に姿を現さないとは薄情な奴だな」
    「グリムは雷を怖がって、ゴーストたちと奥の部屋に隠れてるから……普段ならきっと来てくれるに決まってる」
     監督生がそう口にした途端に窓の外が強く光り、少し遅れて窓が揺れるほどの轟音が響き渡った。突然の落雷に驚き、監督生は小さく悲鳴を上げた。しばらくして近くに落ちたわけではないと分かり、ほっと息をついた監督生の様子を見て、マレウスの表情が歪んだ。
    「僕が恐ろしいからか?」
    「……え?」
     監督生が否定の言葉を口にするよりも前に、マレウスは矢継ぎ早に言葉を紡いでいく。
    「元の世界へ帰るのは、僕から逃げる為といったところか……成る程、それなら辻褄が合うな。そうか、そう言う事だったのか」
    「待ってツノ太郎、違う」
    「いや、違わないな。僕の本性を知った人間はみな、僕を恐れ遠ざけるようになる。僕は何を勘違いしていたのか……お前は他の人間と違うなどとばかり」
    「お願いツノ太郎、話を聞いて」
     監督生は拘束されていない左手をマレウスの顔に向かってに伸ばすと、翡翠色の瞳にうっすらと滲んでいた涙を拭った。
    「万が一の時に備えようと思っただけなんだ」
     監督生は観念したのか、小さくため息をつきながら諭すように呟いた。
    「万が一とは?」
    「……ツノ太郎がぼくに飽きた時」
     その言葉に、マレウスは目を見開いた。
    「そんな事、あるはずが無いだろう!」
     監督生の答えが予想外のものだったのか、マレウスは珍しく声を荒らげた。その声に反応するかのように、オンボロ寮の周囲にいくつもの雷が轟音を伴いながら落ちていく。明らかに動揺しているマレウスの姿を見て、監督生も思わず唇を震わせた。

    「だってぼく、まだ君に好きって言ってもらってない……!」
     どちらのものかは分からないが、ひゅうと空気を飲む音が響いた。

     この世界の常識は、監督生が元いた世界のものと大きく異なる。魔法を中心とした文化・歴史、人間以外の多数の種族の存在、それに伴う生活様式──どれも監督生にとって未知のものばかりだ。
     監督生が元いた国では、恋人や夫婦──それに近しい関係でない限り、他人に口付けをする機会は無いに等しい。しかしマレウスは恋人の契りを交わすことなく、息を吸うように監督生を求めてくる。好きな相手に触れられることは嬉しかったが、監督生はマレウスの行動をどう受け止めれば良いか分からなかった。
    「ツノ太郎がぼくのこと好きでいてくれたら良いなぁって、ずっと思ってた。でもぼくの勘違いだったらと思うと怖くて……君の気持ちを確かめるのが怖かったんだ」
     ぼくは臆病だから、と監督生は消え入りそうな声で呟いた。
     監督生は、マレウスが妖精族であることは知っている。以前本人の口から聞かされたことがあり、より詳しく聞けば、妖精族の文化は人間のものとかなり隔たりがあるらしい。彼からの寵愛だと思っていたものは、妖精族にとってはただのスキンシップで、相思相愛だと信じていたのは、全て自分の勘違いなのではないか──マレウスから口付けを落とされるたびに、そんな不安が監督生の心に募っていった。
    「異世界から来たぼくが頼りにできるのはこの学園だけ。しかも4年後にはここを出て行かなくちゃならない。そしたらぼく、本当にひとりぼっちだ。だから、君とずっと一緒にいられる保証が無いのに、この世界に残る覚悟が出来なかった」
     監督生の頬を溢れ出る涙が伝っていく。本当は君と一緒にいたいのに──嗚咽に邪魔をされながらも監督生が絞り出した言葉を、マレウスは聞き逃さなかった。
    「そのような事を、お前は」
     肩を震わせながら涙を流す監督生の様子を見て、マレウスは思わず言葉を詰まらせた。監督生が"保険"をかけていた原因は自分であると、マレウスはこの時ようやく気づいた。
    「人の心を察するのは得意じゃない……が、よもやここまで不得手とはな」
     マレウスは静かに息を吐くと、監督生を掴んでいた手を解き、背中に手を回してそっと起き上がらせた。突然マレウスの態度が軟化したことに驚き、監督生は目を丸くしている。マレウスはそのまま監督生を自身の胸へ引き寄せると、両腕を回し強く抱きしめた。
    「直接的な表現は野暮だと思い、避けていたんだ。……それが裏目に出るとは思いもしなかった。ただこうしてお前に触れているだけでは、僕の想いは伝わらないのだな。すまなかった、人の子よ」
    「……うん、ぼくの方こそごめん。君に隠れて帰る方法を探したりなんかして」
    「謝るな、お前は悪くない。普段から用があるなら言葉で伝えよと言っていたのは、僕の方だった」
     マレウスは不意に抱きしめていた腕を解くと、監督生の手をそっと拾い上げた。骨ばった太い指が監督生の手を包み込み、触れ合った肌から互いの熱が伝わっていく。それは今まで触れ合った中でも、特段熱く感じられた。
    「お前の心を繫ぎ止めるには、言葉による契りが必要なのだな」
     いつの間にか監督生を見つめる翡翠色の瞳は曇りが晴れて、普段の輝きを取り戻している。それがまるで美しい宝石のように見えて、監督生は思わず息を飲んだ。

    「好きだ、人の子よ。──いや、好きという言葉だけでは足りないな。愛している、この世のなによりも」
     小さな爪先に口付けを落とすと、マレウスは氷が解けたかのような暖かい笑みを浮かべた。 

    「ツノ太郎……」
     初めてマレウスから伝えられた愛の言葉は思いのほか情熱的で、監督生は驚きのあまり思わず握りしめた手を離しそうになった。それを逃すまいと、マレウスは握りしめた手ごと、監督生を自らの胸元へ引き寄せた。普段どれだけ触れ合っても感じることのできなかった、マレウスの心臓の鼓動が伝わってくる。それにつられて、監督生の心拍数も一気に速さを増していった。
    「この世界に留まる覚悟は出来たか?」
     抱きしめられたまま耳元でそう告げられ、監督生の身体が小さく震えた。
    「うん」
    「なんだ、僕が言葉を尽くしたというのにそれだけか?」
     意地の悪い笑みを浮かべながら、マレウスは監督生の頭をそっと撫でた。
    「違う、ごめん、嬉しすぎて言葉が出なくて」
     監督生の瞳に再び涙が滲み、次第に溢れていく。それを拭おうとした手を静止し、マレウスの長い舌が監督生の涙を舐め取った。
    「ふふ、くすぐったい」
    「あまり涙を流すと干からびてしまうぞ? ゆっくり深呼吸しろ……そうだ。落ち着いてからでいい、お前の想いも聞かせてくれ」
     監督生は小さく頷き、溢れ出る涙を拭って深呼吸をした。次に顔を上げた時、監督生の表情からは不安の色は消え去っていた。
    「──好きだよ、ツノ太郎。ぼくも君が好き。ずっと前から好きだった。同じ気持ちでいてくれてありがとう」
     今まで心に縛りつけていた想いを解放するかのように、監督生はマレウスへの言葉を紡ぐ。
    「どうしようもない臆病者のぼくだけど、これからも君の隣に居てもいいかな」
    「当然だ。この先の人生を、僕と共に生きることを許そう──愛しい人の子よ」
     マレウスは監督生の頬に手を添えると、薄紅色の小さな唇にそっと口付けを落とした。それは先ほどまでの荒々しいものとは違い、ひどく優しい口付けだった。
    「ふふ、こんな時まで偉そうなんて、君らしいね」
    「実際偉いからな」
     いたずらをした子供のような笑みを浮かべるマレウスの様子を見て、監督生はため息をつきながら小さく笑った。
    「君には敵わないなぁ。いつか君の本当の名前も教えてね」
    「案ずるな、その時が来ればお前も知ることになる。なに、そう遠い未来ではない。それまでは"ツノ太郎"として、お前の隣にいると約束しよう」

     降りしきる雷雨はいつの間にか止んでいた。オンボロ寮の外には、世界を祝福しているかのような美しい星空が広がっている。窓から漏れていた小さな灯りが消えたあと、月明かりに照らされて浮かび上がった二つの影が、包み込むようにして重なった。
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