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    なつのおれんじ

    @orangesummer723

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    なつのおれんじ

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    性別不明ネームレスヒカセン / オル光
    糖度低め

    #オル光
    olLight

    背中と熱 ルビートマトを四等分に切り、用意していた皿に一つずつ盛り付けていく。コテージチーズを添えてオリーブオイルでさっと味を整えれば、シンプルなサラダが完成した。焼き具合を確認するためオーブンを開けると、チーズの焦げるなんとも香ばしい香りが周囲に漂っていく。このイイ香りはきっと上手く出来ている証拠だろう──よし、と小さく声を漏らした私は、ずり落ちてきたシャツの袖を捲ると、バゲットを食べやすい大きさに切るためパンナイフを手に取った。
    「わぁ、良い匂い!」
     その時、聞き慣れた声がして、私はバゲットを切ろうとする手を止めた。振り返ると、我が盟友がキラキラとした眼差しをこちらに向けている。慌てて外から帰ってきたのだろう──頭には微かに雪が積もっており、冷気に晒された頬が赤く染まっている。
    「おお! 戻ったのだな、我が友よ。外はまだ吹雪いていただろう。早く暖炉の前で温まるとイイ」
    「ただいま、オルシュファン。お言葉に甘えて、温まらせてもらおうかな」
     友は慣れた手つきで装備を外しながら、暖炉に向かって手のひらをかざした。
    「予定より少し戻りが早い気がするが、何かあったのか?」
     そう問いかけると、友は照れくさそうに笑いながら、自らの薄い腹に手を添えた。
    「今日はたくさん動き回ったから、お腹がペコペコで。それに今日はあなたが晩ご飯を作る日だから、待ちきれなくて急いで帰ってきたんだ」
    「そうか、楽しみにしてくれていたのだな!」
     じんわりと胸の奥から熱が広まっていく。友の飾らない言葉が、私にとっては何よりも嬉しいものだった。

     今日は月に一度の、私が夕餉作りを担当する日だ。普段はメドグイスティルをはじめ厨房担当の者たちに任せてはいるが──彼らの休日を確保するため、週に何日かは兵士たちが持ち回りで食事作りを担当している。それは、指揮官という立場にある自分も例外にはしていない。
    「今日の晩ご飯は何かな。チーズの香りがするから、もしかしてグラタン?」
    「その通りだ、よくわかったな。イシュガルドでグラタンといえばゼーメル家風が有名だが、我がキャンプのグラタンは一味違うぞ。なんとエフトの尾の代わりに、マッドパピーのもも肉を入れてある」
    「マッドパピー⁉︎ あれ、食べれるの?」
    「勿論だ。あれは鶏肉より食感が良く、安価で筋肉を育てるのに適している。言うなればこれは、フォルタン家風グラタンだな。これを食べれば、お前の筋肉もより一層輝くだろう!」
    「そ、そうなんだ……。うん、オルシュファンが作るものなら、きっと美味しいんだろうね」
    「ああ。腕によりをかけて作ったので、楽しみにしていてくれ」
     つい熱が入ってしまった私の話を、友は驚きつつも笑いながら聞いてくれた。話終わった後に、マッドパピーの見た目が潰れたカエルのようだったことを思い出し、拒否されなかったことに少しだけ安堵した。

    「友よ、完成には少しばかり時間がかかりそうだ。もう少し待てるか?」
     オーブンの中の様子を確認しながら、背後の友に声を掛ける。友は暖炉の近くに置かれた椅子に腰をかけながら、こちらを見て微笑んだ。
    「うん、大丈夫だよ。折角だし、ここで待っててもいいかな」
    「それは勿論イイが、退屈ではないか? できればお前と語り合いながら作業を進めたいものだが、私もメドグイスティルのように手慣れているわけではないのでな……構ってやれない時間があるかもしれん」
    「退屈なんかじゃないよ。オルシュファンは作業に集中してて」
    「……そうか。ならばお言葉に甘えさせてもらおう」
     せっかく友が側にいてくれるというのに、心置きなく語り合うことができないのは、少しばかり歯痒かった。気にしないでと友が再び声をかけてくれるが、残念な気持ちは抑えられない。ほとんど無意識に肩を落としながら作業に戻ろうとすると、友が弱々しい声で私を呼び止めた。
    「あの、オルシュファン、ごめん。ちょっと意地悪しちゃった」
     友の突然の告白に、私は思わず目を丸くした。
    「お前から意地悪をされた覚えはないが……?」
    「本当は一緒に手伝おうと思ったんだけど……オルシュファンの背中をじっくり眺めたくて、一人でやらせようとしちゃった」
     友が照れ臭そうに苦笑いしている。そんな表情を浮かべている友の姿を見るのは初めてのことで、私は心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚えた。
    「私の背中を、か?」
     友の発言の真意が見えず、頭の中が疑問符でいっぱいになる。それに気がついたのか、友はおろおろと慌てながら再び口を開いた。
    「オルシュファン、仕事中は大体執務室の椅子に座ってるし、戦闘中はあなたを眺めているどころじゃないでしょう? だからオルシュファンの背中をゆっくり眺める機会って、すごく貴重だと思ったんだ。こんなことを言うのは変かもしれなけど……オルシュファンの背中はとっても大きくて、暖かくすら感じて、その、好きだから」
     自分が息を呑む音が聞こえた気がした。好きだと口にした友の唇が、小さく震えている。友はあくまで私ではなく、私の背中が好きだと言った。それ以上の意味があるわけでは無いと頭では理解していても、私の心臓の鼓動は強く脈打つことを止めようとしない。
     私も好きなのだ、お前のことが。背中だけではない──その鍛え抜かれた身体が、清い精神が、お前の全てを愛して止まないのだ。口が裂けても言えない、私だけの秘めた想いだった。
    「でもオルシュファンがあんまりにも寂しそうにするから……ごめんね、やっぱり隣で手伝うよ」
    「いや、手伝わなくてイイ」
    「でも……」
    「見ていてくれ、私の背中を。お前が好きと言ってくれるのならば、鎧も纏わない無防備な姿をいくら晒しても構わない。それが私にとっての幸せでもあるのだから」
     そう口にしたところで、呆気に取られている友の姿が目に写り、なんて大胆なことを言ってしまったのだろうと我に返る。私が普段からどのような想いを抱いているのか、友は何も知らない。仲間を失い、ウルダハから堕ち伸びた友に、まだ伝えるべきでは無いと自制している。それ故に、友から好意とも取れる言葉を受け取ると、どうしようもなく舞い上がってしまうのだ。
     口角が緩み、顔がどんどん熱くなっていく感覚がする。きっと私は今、非常に腑抜けた表情をしていることだろう。その顔を見られたくなくて、普段通りの凛々しい表情を作ると、私はくるりと友に背を向けた。
    「うん、分かった。それじゃあ気が済んだら手伝うことにするよ。それまでは、あなたのことを見てるから」
     そう答える友の声は少し嬉しげで、どこか甘ったるくすら感じてしまう。背中を見られているだけなのに、これほどまでに胸が熱くなるとは思わなかった。この熱さも胸の高鳴りも、その全てが愛おしい。
     友が今どのような表情を浮かべているのか、見ることはできない。それでも友が私と同じように、胸を熱くしてくれていることを願いながら、私はオーブンの蓋を開けた。
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