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    AnnoNo_12

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    AnnoNo_12

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    沢深ワンドロライさまのお題「妄想」「そんな顔するな」をお借りしました。沢深か微妙です。すみません。人間の扱いが上手い深という夢を見てます。あと、深のプレーに周りは唸るのに、本人は難しいことを考えずに純粋に楽しんでいるだけ、という温度感がたまらなく好きです。沢北とはまた違う、似て非なる化け物(バスケIQ高男)であって欲しいです。

    #沢深
    depthsOfAMountainStream
    #沢深ワンドロライ
    #SWFK

    おほしさま『親と話した。大学出てもバスケ続ける』
     暗くてコートが見えないからと、リビングの明かりをつけに戻ろうとしていた足が止まる。そのまま腰を下ろし、「うん」だけじゃ昇華しきれなかった衝動のままに寝転がる。さっきまで真っ暗だったはずの空に急に星が瞬きだしていてびっくりした。
    持っていたボールを空に掲げ、指先で回す。釣られて他の星も回らないかな。この、俺のボールが北極点。
    『お前にも言っておこうと思って。テツさんに色々相談に乗ってもらったから』
     しゅる、動きを止めかけたボールを残りの指で再び押しまわす。満点の星空の下で、一人懸命に夜空を回す働き者の北極点。
    「テツが深津さんにバスケ辞めさせるわけないスもんね」
    『…気にかけてくれたピョン』
     俺が渡米してからもテツが山王を応援していたことは知っている。試合のビデオも送ってくれたし、俺が相談した練習メニューについて、英語が拙かった頃はテツを通して先生達に相談もしていた。頭の中で、テツと深津さんが楽しそうに話している。体育館で、試合会場で。例えば深津さんが落ち込んだり、迷ったりして、そしたらテツが大人っぽく肩を叩いたり、頭を撫でたりしながら『頑張れ』なんて言う。それが、何度も。俺にはできない仕草で、俺にはかけられない言葉で。そういえばテツは俺が山王に入る前から深津さんや河田さんについて知っていた…多分、テツの頭の中には全国区の選手ならほとんど入っているのだろう。止まりそうになる北極点を回し続ける。一番大事なのは、そういう人たちの中でもこれからも深津さんがバスケを続けるということだ。繰り返すたびに胸の内が浮かれていく。
    『おかげで、楽しみになった』
    「…そう、スか」
     暖かい風が頬を撫でた。こうして誰も知らないうちに夏が近づいてくる。ここでさんざんゲームをして、さっき見送ったばかりの深津さんの姿がちらついて、なかなか部屋に入る気になれない。
    (楽しみか、そうか)
    人生においてどこまでバスケを伴走者とするのかは人によって違う。俺は迷うことはなかったけれど、普通なら進学とか就職とか、バスケと別れるタイミングっていうのがあるんだと思う。そしてそれは遠ければ遠いほど、やれることが増える。やれることが増えたら楽しくなるし、楽しかったらやる気がでる。当然のことだけれど。自分と他の人の決定的な違いを一つ見つけた気がした。そして、深津さんと同じ世界にいられるという事実が、まだ消化しきれないほどに嬉しい。動く気配もなくそこにあって、静かに輝き続ける星たちさえ少し近づいた気がした。きっと電話の向こうで深津さんも同じ空を見ている。声が上を向いている。
    『これから、お前みたいなのにたくさん出会うと思う。』
    「俺みたいなのって、何」
    『生意気な後輩』
    「…そこはスーパーエースでしょ」
    『間違えた、生意気で可愛くない後輩』
    「バスケが上手いって付け足して」
    『生意気で、可愛くなくて、自信過剰。…お前みたいなのが、いっぱいいる世界ピョン』
     しゅる、ボールの回転が落ち、重心がぐらりと揺れた。手首を返して受け止めたけれど、目を逸らした隙に空では風が雲を連れてきていた。暗さが一段増した空に、見慣れた、けれど見覚えのない光景が浮かぶ。
     大きなコートの上、深津さんを呼ぶ歓声、針の穴を通すみたいなパス。ベンチメンバーが立ち上がるのは、ここだ。深津さんのパス受けてシュートを決めるチームメイト。そしてきっとそのシュートは相手のチームにとって重くて辛くて悔しいものになって、観ている全員が、距離関係なく理解させられる。試合の流れが作られた。実況が叫ぶ。観客も叫ぶ。黒子?そんなのいるわけない。あっちじゃ全員がスターだ。どれだけ叫ばれても深津さんは淡々としている。チームのメンバーが気合を入れ直す。勝っていても、負けていても。この人はそういうことを平然とやってのける。
    俺はそれを、どこで観ていた?星のない空は、もう近いとも遠いとも思えない。ねえ、と呼ぶ俺の声は冷たかった。
    「PG楽しいすか」
     馬鹿馬鹿しい。楽しいに決まっている。ボールに一番触れるポジションだ。アメリカでその役を任されることが増えてから、その難しさを理解した。ボールのコントロールなら自信はある。だけど試合のコントロールを任された時に、ボール一つを運べばいいだけじゃないってことを如実に理解させられた。点を入れても、流れが向こうに渡ることすらあった。
    『俺にパスを出せよ』
    『何やってんだ』
     皮膚の上を滑るイライラした雰囲気、過剰な自信、独りよがりのプレーは苛立ちしか生まなかった。そしてその、言葉にしてはいけない、そもそもできない苛立ちは腹の底に溜まっていく一方だった。
    『そっちに回るな』
    『そのくらい取れよ』
    『何してんだよ畜生』
    『そんなシュート外してんじゃねえぞ』
    なんにせよ、うまく出来なければ“俺は”早々にベンチに下げられる。代わりに入る奴らは、コミュニケーションが取れて、一人で突っ走らない。どちらが上かは聞かずともわかる。
    “自分が一番下”の世界を、俺はもう知っている。
    「楽しいすか」
     楽しいと言ってほしい。“ゲーム”そのものを作ることを意識し始めた俺の前で、その楽しさを目一杯味わって見せてほしい。
    「深津さん」
    俺の知らないバスケを教えてくれる人。俺には見えない何かを見て、読んで、動いて、掴んでいる人。この人の挙動で心を折られた人間を何人も見てきた。同時に、救われた人間だって何人も見てきた。俺はどちらも経験済みだから、わかる。
    バスケは人間のやるスポーツだ。人間の真ん中には、見えない、核みたいなのが本当にあるんだと思う。それを、ボールみたいに扱う深津さんは、同世代の誰より仕事ができる。実際にU18の代表としてもゲームメイクを託されていたし、U22でも当然のように司令塔だった。ボールを運ぶから、ドリブルもドライブも当然うまくて、代表入りするからには得点力もあって、司令塔でいるからには、チームを掌握している。それが寄せ集めのチームだったとしても、深津さんがいると、選手の動きにー時には本人の預かり知らぬところでールールが生まれる。一人一人がより精巧な一つのパーツになって、本物のチームが生まれる。まるでこの宇宙みたいに。
    「深津さん」
     すでに一番星みたいな奴らを使うことを知っているこの人が本気で望んだ時、拓かない道はないだろう。アジア大会も経て、この国以外にも深津さんの存在は気づかれ始めている。アメリカも含めた大きな世界の一角で、この人はきっとチームに勝利をもたらし続ける。“深津一成”は、自分が一番じゃない世界を、自分一人じゃない世界を、きっとずっと喜んで楽しんでいける生き物だ。それは救いだった。手本ではなく、ただ同じ時間を同じ尺度で生きる生き物として、存在してくれることが嬉しい。ただ“嬉しい”は同時にもっと曖昧な感情をもたらしもした。孤独が薄れ、喜びに満ち、遠さに焦がれ、やけになって手を伸ばしたいような、触れずに全て見ていたいような。
     抱えていたボールが一人でに転がり落ちた。指先が届かないところへ行って、止まる。春先だからって、汗が引いた後の夜はちゃんと冷える。雲間に星を探す俺に、深津さんの声が降ってきた。

    『そんな顔するな』

     スマホには、驚いた俺の顔しか写っていない。だって今は、ゴールが見えないほど暗い。…深津さんの中で俺がいま、どんな顔をしているのか教えて欲しい。気が緩んでるとか、集中力がないとか、浮かれているとか、何でもいいから。電話の向こうからは駅のホームのアナウンスが聞こえてくる。星は見えない。それでも深津さんの声は降って来た。
    『“そういう奴らに会うたびにお前を思い出すと思う”…俺が言いたかったのはそれだけピョン。じゃあおやすみ』  
    立ち込めていた雲が一気に晴れて星が再び、眼前に、いっぱいに、広がる。胸いっぱいに空気が入ってきて、視界が広がって、そして通話はこちらが二の句を告げる前に切れる。そうだ、そう、こういう人だった。俺は体験済みだった。
    「すげえな」
     『あいつはあいつで、遊んでるのさ』。 PGとしての深津先輩について、他の先輩達はよくそう言って笑っていた。しれっとした顔で、何考えてるかわからなくて、でも案外真面目な深津先輩が「遊んでいる」なんて、はじめは想像もできなかった。考えてみれば単純なことだ。楽しいやつが最強に決まっている。
    「すげえなあ…」
    そうだ、こうしていつも掴まれて、振り回されて、遊ばれている。敵も、味方も、動かされる。悔しいけれど抵抗できずにメッセージアプリを開いた。迷う指先がなんとか生み出せたのは先の『PG楽しいですか』という質問で、送ってすぐに『寝ろ馬鹿』と返ってきた。俺ならどうするかを分かりきって待ち伏せしていたに違いない速さ。
    「…楽しいに、決まってるよな」
    スマホを放り出して目を閉じる。深い呼吸をすると、宇宙と一体化したみたいな心地よさが己の全身を満たした。

    その晩俺は、綺麗な白い星を抱いて、大きくて暖かな手のひらに包まれて眠る夢を見た。ちなみに翌朝、俺がアメリカへ帰る日までの深津さんのスケジュールが送られてきて、その中に「みんなでバスケ(沢北は強制参加)」とあるのを見て笑ってしまうのだが、それはまた別の話。
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