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    桃本まゆこ

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    桃本まゆこ

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    初めて書いた沢深。ここから話を膨らませたかったけどどうにもこうにも進まなくなっちゃった。思いついたらいつか書きたい。

    #沢深
    depthsOfAMountainStream

    エースの結婚(仮題) 沢北栄治の結婚は日本でも報じられた。高校時代には日本ナンバーワンプレイヤーに輝き、今やNBA選手となり世界で活躍する若き天才。その男が結婚する。それは勿論、長年のファンたちの間で大きな話題となった。さらにそれが海外での同性婚だと分かるや否や、その報せはバスケットボールファンに留まらず広く世間を騒がせた。

    「パートナーのことはなんて呼んでるの?」
    「あー、カズナリサンっすね。もともと先輩後輩の関係なんで、その名残っていうか」
     整った鼻梁に皺を寄せ、くしゃっと相好を崩して沢北が笑う。
    国内のバスケットボール専門チャンネルで独占配信された沢北のプライベートに迫る密着取材に同行したのは、沢北にとって気心の知れた日本人の記者だった。リラックスした表情を見せ、自然体に笑う沢北の姿は珍しい。愛嬌のある振る舞いや明るい性格とは裏腹に、選手としての沢北は警戒心が強く、特にマスコミやメディア相手には心を開かないことでも有名だった。
    「……かずなり? ン……?」
     インターハイの時代から沢北と交流のある記者が何かを思い出すように声を潜める。コートの脇に腰を下ろしシューズの靴紐を結んでいた沢北は、その様子にニッと笑って顔を上げた。
    「え、もしかして」
    「そのもしかしてで当たってますよ。中村さんには昔からお世話になってるんで、ちゃんと知らせようと思ってたんすけど。カメラ回ってるとこで言ってすみません」
    「……え、えぇ!?」
     驚きに声を上げる記者を見て、沢北が屈託なく笑う。
    「本当に?」
    「はい」
     靴紐を結び終え、すっくと立ちあがった沢北は記者を振り向いた。
    「ずっとプロポーズしてたんです。やっと俺のものに出来た」
     瞳を輝かせ、一点の曇りもなく沢北が笑う。チャンネルが配信されると同時に、SNSのトレンドワードには「沢北選手」「結婚」そして同時に「かずなりさん」という文字が躍った。
     深津一成という名前は、沢北の出身校が山王工業であることを知るものならば必ず一度は耳にしたことがあると言っても良い。沢北が山王に所属していた間にキャプテンを務めていた人物であり、当時の高校バスケットボール界ナンバーワンガード。冷静沈着、不敗の山王を作り上げた選手だった。彼は大学卒業と同時に実業団選手となり、選手と会社員という二足の草鞋を履いた生活をしていた。

    ――He’s, ah, gorgeous, and so beautiful.
     画面の中の沢北は現地の記者とチームメイトに囲まれ、はにかみながら質問に答えている。
    「……『彼はゴージャスでビューティフルだ』?」
    「いや叶姉妹かよ」
     日本、東京。大の男たちが身を寄せ合って見つめる画面の中では、泣き虫の元エースが頬を緩めて恋人の惚気を語っていた。勝手知ったる松本のマンションにて、一之倉と河田は銘々に缶ビールとつまみを手に家主以上にくつろいでいる。つい先月、第一子が誕生したばかりの野辺は惜しみながらも今日の集まりを欠席した。かつて一つ屋根の下で寝食を共にし、激しい練習を乗り越えて切磋琢磨したレギュラーメンバーたちは今でも親交が深い。
    『俺が人生で出会った中で、誰よりも一番美しい人。初めて会った十代の頃からずっとそう思ってる。今も変わらない』
     記憶の中よりもずっと流暢な英語を話すようになった沢北の、デレデレと蕩けそうな笑顔の下にテロップが浮かぶ。
    「これ全世界に配信されてんだべ? 変わんねーな本当に」
     河田が呆れたように笑い、残る二人もしみじみと頷いた。十代の頃とは比べ物にならないほど有名になっても、どれだけ広い世界に羽ばたいていっても、彼を取り巻く環境がどれほど変わっても。沢北栄治という人間の真ん中にある部分はあの頃から何も変わっていない。
    「それで? 主役はいつ来んの?」
    「遅れてるみたいだなぁ。たぶんもうすぐじゃないか」
     一之倉の声に松本が答える。今日集まったのは他でもなく、先の話題の中心である深津のためだ。勤めていた会社を辞め、実業団選手を引退し、生涯の伴侶と共に暮らすために海を渡ってゆく深津の壮行会が今夜だった。幹事を引き受けた一之倉がどこか店を予約しようかと尋ねたが、結婚のニュース以来どこに行っても騒ぎになるので難しいのではないか、と返事が来た。諸々を勘案した結果、松本の自宅での宅飲み、もといホームパーティーと称して、ごく親しい人間だけで深津の門出を祝うことになった。
    「あ、深津からだ」
     一之倉がスマホを覗き込む。グループチャットに書き込まれた何時に到着するのかという質問には、よくわからないキャラクターのスタンプと、「あと20分くらいです ピョン」の文字が返ってきていた。
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