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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。昨日上げたテキストのルチ視点です。

    ##TF主ルチ

    発信器 ルチ視点 右手を宙に翳すと、目の前の時空が切り裂かれた。ゆらゆらと揺れる断面に手を伸ばすと、着地点の座標を確定させる。片足を踏み込むと、そのままの勢いで時空を越えた。
     次の瞬間には、周囲の景色がガラリと変わっている。僕が辿り着いたのは、生活感の溢れる一軒家のリビングだった。机の上にはいくつかの道具が出しっぱなしで、部屋の隅には箱が積まれている。もちろん、あの青年の自宅だった。
     夕方の六時を過ぎているというのに、彼は帰ってきていなかった。マーサの家に行くとやらで、旧サテライトエリアでもほっつき歩いているのだろう。彼がどこに向かっているのかは、僕に内蔵されたシステムでいつでも把握できる。彼のチョーカーにつけられた発信器が、居場所を教えてくれるのだ。
     ソファに腰を下ろすと、見るともなしにテレビの電源をつける。この時刻に放送されているのは、シティのニュースや最新情報を伝える、バラエティー色の強いニュース番組だ。人間がこのような番組を見ることも、彼と過ごすようになって初めて理解した。人間の生活を覗き見するのも、なかなかに興味深い。
     賑やかな音と映像を流し見していたら、玄関から音が聞こえてきた。靴を脱ぎ、フローリングへと上がった青年が、バタバタと足音を鳴らしながら歩いてくる。わざわざ靴を脱ぎ履きするなんて、日本人というものは面倒な生き物だ。僕は人間のように靴を汚したりはしないから、わざわざ靴を脱ぐこともない。
    「ただいま。待った?」
     リビングに足を踏み入れるのとほぼ同時に、彼の弾んだ声が飛んできた。何かいいことがあったのかと、一応彼の方へ視線を向ける。特別いつもと変わらない、私服姿の青年が立っているだけだ。そこまで興味もないから、僕はすぐに前へと視線を戻した。
    「別に、待ってないよ。退屈だからテレビを見てただけだ」
     僕が答えると、彼は自分の部屋へと向かった。手早く片付けを済ませると、足音を立てながら洗面所へと向かう。しばらく水の流れる音が響いたあと、彼はリビングへと戻ってきた。
     迷うことなく僕の隣に来ると、空いている椅子に腰を下ろす。近づいてきた彼の身体から、妙な機械音が聞こえてきた。低くて震動しているような、聞き慣れない傾向の音である。彼の家の家電には、こんな音を立てる機械などなかった。
     その音は、彼の服から聞こえているようだった。肩に寄り添うふりをしながら、音の発生源に耳を澄ませる。どうやら、それは上着のポケットから響いているらしい。身体に伝わる電波から、それが発信器であることが分かった。大体の目星をつけると、僕は彼の身体に手を伸ばす。
     青年の腿に手を乗せると、指先で何度かなぞった。最初から発信器に触れなかったのは、電波の受信地を解析したかったからだ。次に手のひら全体を乗せると、ズボンの表面をなぞっていく。しばらく足に触れていると、青年も手を伸ばしてきた。
     彼の大きな手のひらが、僕の足の上を滑っていく。鈍感な彼は、僕の行為をただの愛撫だと思ったようだ。僕がしているのと同じように、手のひらや指先を太腿の上で踊らせる。思考領域で解析を続けながらも、僕は指先を上へと移動した。
     上半身に指先を伸ばし、Tシャツの裾に触れる。シャツの乾いた生地を触ると、今度は上着に手を伸ばした。解析に意識を集中させているから、丁寧な愛撫を交わしている余裕などない。茶を濁すように腕を撫でていると、ようやく解析が終わった。
     発信器の受信地は、旧サテライトエリアに通じていた。地図と照らし合わせた感じでは、彼の通う孤児院と同じエリアだろう。あの家には、確か情報屋と呼ばれる男が居候していたはずだ。だとしたら、あの男が発信器をつけたのだろうか。
     もう、愛撫など交わす必要は無くなった。彼の上着に手を伸ばすと、ポケットの中に指先を突っ込む。それはポケットの上の方、正面から見て左端につけられていた。指先でつまみ上げると、ピンを外して布から剥がす。
    「なんだ、これ?」
     僕がわざとらしく呟くと、青年は僕の手元に視線を向けた。手のひらを胸の高さまで持ち上げて、外したばかりのそれを彼に見せる。彼は何も知らないようで、首を傾げながらそれを眺めた。
    「知らないよ? どこから出てきたの?」
     ぽかんと口を開ける彼に、外した発信器を見せつける。それをどういう意味で受け取ったのか、彼は黙ってつまみ上げた。手のひらの上で転がすと、まじまじと見つめている。何も分かってなさそうだから、親切に説明してやることにした。
    「君の上着のポケットにつけられてたんだよ。形状からして、小型の発信器が何かだな」
    「発信器!?」
     僕の言葉を聞くと、彼は耳が割れそうなほどの大声を上げた。知らなかったとは言っても、あまりにも驚きすぎだろう。彼は今日もマーサの家に向かっていたし、何か心当たりがあるのかもしれない。
    「なんだよ。心当たりがあるのか?」
     額がくっつきそうなほどに顔を近づけてから、僕は彼を問い詰める。やはり疚しいことがあったのか、彼は動揺した態度を見せた。僕が黙ったまま睨み付けると、おずおずといった様子で口を開く。
    「心当たりってわけじゃないけど、思い出したことがあって。…………さっき、雑賀さんに会ったんだ」
     その後一言で、僕の疑念は確信に変わった。どう考えても、この発信器をつけた犯人は情報屋の男だ。再び彼の方に詰め寄ると、怒りを込めて吐き捨てる。
    「あの情報屋か!」
     ソファから立ち上がろうとすると、彼は慌てた様子で僕を押さえた。肩を押してソファに座らせると、慌てた様子で口を開く。
    「待ってよ! まだ、そうだと決まったわけじゃないんだよ。さっき会ったってだけで、それで……」
     くどくどと言葉を並べているのは、あの男を信じているからだろうか。ここまで核心的なことをされているのに、よく信じられるものだ。阿呆としか言い様のないお人好しっぷりに、腹の底から怒りが込み上げる。
    「確信犯だろ!全く、お人好しも大概にしな。君は、人を疑うってことを知らなすぎだ!」
     彼の手を振り払うと、怒りのままに発信器を奪い取る。こんなものをつけられて、居場所を他人に晒しているなんて、どうしたって気に入らない。彼の居場所を探っていいのは、タッグパートナーである僕だけなのだから。
    「とりあえず、こいつは壊してやるからな!」
     見せつけるように宣言してから、僕は発信器に力を込める。指先で押し潰すと、それは呆気なく形を失った。粉々に砕け散った残骸が、ポロポロと地面に零れ落ちていく。手を払って残りの残骸を落とすと、呆然としている青年に視線を向けた。
    「全く、僕の所有物を監視しようなんて、怖いもの知らずもいるもんだな」
     無意識のままに鼻を鳴らすと、僕はリビングの外へと移動する。彼のことだから、鞄にも発信器をつけられているかもしれない。何か怪しいものがあれば、早いうちに片付けなければならない。
     彼の部屋に足を踏み入れると、机の上に置かれていた鞄を手に取る。顔に近づけて確かめるが、怪しい音は聞こえてこない。電波を発していないかも調べてみたが、それらしきものはひとつもなかった。
     全く、彼はなんて無防備なのだろう。僕たちはイリアステルのメンバーで、仮にも権力者から命を狙われる存在なのだ。発信器をつけようと考える相手が、必ずしも善良な市民とは限らない。
     そう考えたら、不安はどんどん押し寄せてくる。まさかとは思うが、家に盗聴器をつけられてはいないだろうか。敵だって馬鹿ではないのだ。どんな手段を使ってくるか分からない。鞄を机の上に戻すと、耳を澄ませながら室内を歩く。隅々まで検分したが、それらしきものは見当たらなかった。
     どうやら、この部屋は大丈夫らしい。後は洗面所と、廊下とリビングくらいだろう。彼の部屋から飛び出すと、残りの部屋の検分に向かう。
     やはり、彼のことは僕が守らなくてはいけないのだ。僕が気をつけていないと、彼は簡単に始末されてしまうだろう。彼を生かすも殺すも、僕の守備にかかっている。彼の命を握っているのは、僕自身だとも言えるだろう。
     そう考えたら、なんだか優越感が湧いてきた。無防備な彼への怒りも、許してやってもいいような気分になる。にやりと口角を上げながら、僕は室内に耳を澄ませた。
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