Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 45

    いなばリチウム

    ☆quiet follow

    「ひかる星々の名前を教えて2」で展示したフィガ晶です。

    両片思いのフィガ晶+シャイロック「あ、」

    (好きです)
     声に出なくてよかったと思った。好きだと、自覚すると同時に胸の奥がぎゅうと痛んだ。いつかいなくなる自分が、賢者である自分が、魔法使いに恋をするなんて。罪悪感で頭も体も重くなる感覚があって、行き場のない、あってはいけない感情を抑えるのが精一杯だった。

    (フィガロのことが、好きです)

     柔らかそうな癖っ毛に触れたいと思った。穏やかな錫色と目が合うと、微笑まれて胸が高鳴った。年長者然としておきながら迷子の子供のように見えることがあって、かと思えばやはり大人の、それも千年単位の余裕を見せつけられては彼が分からなくなることもあった。それから、それから、とフィガロのことを想う度に、ああ、だからこそ、とか、だけれども、と前置きはあっても、結局(好きだなあ)に帰着してしまう。自覚してからは特に顕著で、自分の中の想いをどうにか表に出ないよう押し込めることに必死になるしかなかった。賢者としての役目すら果たしているかどうか危うい自分だ。この感情はどう考えても余計でしかない。だから、


    ***

    「最近、賢者様に避けられてる気がするんだよね」
    「おやおや」

     バーカウンターを挟んだ向こうで、妖艶な笑みを浮かべたシャイロックは相槌にも感嘆にも聞こえるような声を漏らした。南の兄弟は任務で魔法舎を空けており、今宵何杯目になるか分からないグラスを傾ける彼――フィガロを咎めるものはいない。

    「聞いてくれる?」
    「話したいのでしょう?」
    「あはは」

     ふわふわと笑ったフィガロにわざとらしく眉を顰めて見せたシャイロックだったが、迷惑であればとっくに追い出している。そうしないのは、面倒事の予感に心惹かれたからだった。視線で先を促すと、フィガロはゆるまった口角を上げたまま話し出した。

     いつからだったかな。気付いたら、賢者様の様子がおかしかった。体調が悪いとか、知らない内に厄介なことに巻き込まれているとか、そういう悪い状態ではないんだけど。ただ、極端に目が合わない。合わないというか、合う前に逸らされているというか。随分前、賢者とその魔法使いとして出会った頃は確かにそういうこともあった。パーティでの一件は少し迫り方を間違えたっぽいな、と反省もした。けれどそれから時間も経ったし、賢者様とは良い関係性を築けているという自負があった。それどころか、目が合うと彼は照れくさそうにはにかんでさえいたのだ。声をかければ嬉しそうに応えてくれたし、他愛ない会話も楽しんでくれていたと思う。もちろん、彼は誰に対しても分け隔てなくそうだったけれど、警戒されていた時期を思えば、俺にとっては格段の変化と言って良かった。それが最近はさっぱりだ。話しかけてもそそくさと逃げられるし、食堂でも席を外していることが多い。いそうな場所に行くといないか、立ち去った後ということばかり。これはもう、気がする、を通り越して明白だった。知らない内に何か気の障ることを言ったか、してしまったか、そうならごめんねを言いたいけど、避けられてるんじゃそれも出来ない。まあ機会をうかがわなくても、何かしらの任務のタイミングで一緒に行動することもありそうだけど、そういう不可抗力じゃなくて、きちんと賢者様と話をしたいんだよね。

     そんなことを話して、ぽつりと付け加える。
     
     ――だって、あまりにも、

    「寂しいじゃない? ……あ、いま、鼻で笑った?」
    「まさか」
    「そう? 別に怒らないけどなあ。美人に鼻先で笑われるなんて、ちょっとドキドキしちゃうしね」

     空になったグラスの横に、新たな一杯を置いたシャイロックは確かに笑みを浮かべてはいた。

    「なんとも、初々しいような、甘酸っぱいような素敵な状況に置かれているようで、微笑ましく感じただけですよ」
    「それってつまり、鼻で笑っ、あれ、これお酒じゃないね」
    「そろそろ明日に響く量でしょう? 二日酔いで苦しむのは自業自得ですけれど、苦しむ貴方を見て心を痛めるのは、ミチルや、他でもない賢者様ですから」
    「はは、手厳しいなあ。いや、優しいのかな? この場合は」

     苦笑いを零しつつ新しい一杯に口を付けたフィガロは、それでもまだ饒舌な唇で続ける。

    「まあ、人間の心っていうのは移ろいやすいしね。良い関係になれたと思っていたのは俺だけで、賢者様の心はそう感じる前に変わっちゃったのかも」
    「……フィガロ」
    「なんてね。止める人がいないから飲みすぎちゃったかな。君の言う通り、明日に響きそうだし、これで最後にするよ」

     それからフィガロは言葉通り、最後の一杯を飲み干すと、少しふらつきながらもバーを後にした。それを見送った後のシャイロックは空いたグラスを片付け、カウンターを拭き、それから新たに背の低いグラスを二つ取り出す。ルージュベリーとレモンを少し入れて、作りかけの鍋を温めると、中身をゆっくりと注いだ。これもアルコールは入っていない。準備が出来ると、足元に目線をやった。
    「さ、こちらをどうぞ、今宵最後のお客様。私もご一緒しても?」
     その声で、カウンターの下で膝を抱えて縮こまっていた人物が顔を上げる。
    「シャイロック……」
     蚊の鳴くような声と共によろよろと立ち上がった彼に、シャイロックは向かいの席を示す。先程までフィガロが腰かけていた椅子の隣だ。彼――賢者は力なく頷くと、誘導されるままそこへ腰を下ろす。乾杯、とグラスを傾けると、シャイロックはしょんぼりしている賢者をあやすように優しく声をかけた。
    「だから言ったでしょう。困りますよ、と」
    「あれ、シャイロックが、って意味じゃなくて俺が、って意味だったんですか……」
     勧められるがままに腰かけた賢者がこのバーを訪れたのは、フィガロがやってくるほんの数分前だった。その時点で随分と夜は更けていて、シャイロックがいなければそのまま部屋に戻るつもりだった賢者はほっとして足を踏み入れたのだ。誰かと、もしかしたら他でもないフィガロと鉢合わせる可能性も考えないでもなかったが、魔法舎の廊下はしんと静まり返っていたし、こんな時間に他の誰かに会うこともないだろう、と高を括っていたのが運の尽きだった。ちょっと眠れなくて、おや、ではノンアルコールのホットワインでもいかがですか、などとやり取りしているところに、
    『シャイロック、いる~?』
     そんな声が聞こえて、コツコツと靴音も続いたものだから、賢者は咄嗟に「匿って下さい、少しだけ」と両手を合わせ、シャイロックは「困りますよ」と言いながらも、賢者が椅子の並んでいるカウンターから回り込んできて、狭いスペースへ滑り込んだのを止めなかった。シャイロックが立っている側のカウンターの下には空き瓶や木箱を置いてあるだけで、賢者一人であればすっぽり収まることが出来た。身動きが取りづらいとはいえ、フィガロがお酒を嗜んで立ち去るまでならその場しのぎになるだろうと踏んだのだったが、こんなことならフィガロに軽く挨拶をした後、入れ違いに出て行った方が良かったと反省する。ただ、さっきは本当にフィガロと顔を合わせるのを何としても避けたい、という気持ちが勝っていたのだ。
    「……寂しい、って、言ってましたね」
     シャイロックが準備してくれたホットワインは、冷たくなっていた指先を温めてくれた。ふう、ふう、とさましながらゆっくりと喉に流し込むと、体の内側もじんわりと温まっていき、ようやく言葉がするりと零れていく。
    「俺、フィガロを傷つけるつもりじゃなくて、ただちょっと、色々と、自分の気持ちの整理がついていないというか、それで……あー、えっと……」
     話しながらも、どんどん背中が丸くなっていく賢者の言葉に、シャイロックは沈黙で先を促す。
    「自分勝手でした……明日にはいつも通りに、って思って……どんどん先延ばしになってしまって……」
    「……それで、眠れぬ夜が続いていた?」
    「そうです……」
     賢者の様子がおかしい、と感じているのは、フィガロに限ったことではなかった。シャイロックを含め、魔法舎で彼と顔を合わせる魔法使いであれば皆、彼にどうやら悩みごとがあるらしい、それで夜もきちんと眠れていないらしい、と気にかけてはいたものの、直接声をかければ彼は決まって「大丈夫ですよ」と笑顔で隠してしまうのが分かっていたので、いわば今は見守り期間であった。どうしたって彼は自分を軽んじる傾向にあって、気にかければむしろ気を遣って益々不調を隠すことすらあるのが分かっていたので、目に余るようであれば無理にでも休みをとってもらうことにはなっていた。他でもない、フィガロの提案だ。しかし原因もフィガロであったとは、何ともまあ、とシャイロックは賢者からは見えない角度でこっそりと苦笑いを零す。
    「すみません、シャイロックにも迷惑をかけて……」
    「迷惑だなんて、そんなこと思いませんよ。賢者様には。どうか気に病まないで」
     ああ、でも、と浮かんでいた微笑が悩まし気な表情に変わった。
    「少し癪なので、お教えしてしまいましょうか」
    「え?」
    「気付いていましたよ、フィガロ」
    「……え?」
    「棚の真ん中あたり、赤いラベルの瓶が見えますか?」
     ふわり、優雅な仕草で指が賢者の視線を誘導する。カウンターからちょうど斜め向かいに並んでいる酒瓶の内、確かに注ぎ口に赤いラベルが巻いてあるものがあった。並んでいるものはどれも綺麗に磨かれているが、それは黒っぽい瓶にラベル以外のものは何も装飾がないので、特に美しく磨かれているのが分かった。瓶に、鏡のような映り込みが見える程に。
    「あっ……」
     目を凝らさなければ見えないが、気を付けてみれば、瓶にはカウンターの下に並ぶ空き箱の輪郭がしっかりと映り込んでいる。それはつまり、先程まで賢者が丸まっていた場所が、今賢者が座っている位置からは丸見えだったということだ。
    「普段は、そんなところまで気にする方はいませんが……目線から察するに、まず間違いないかと」
    「う、うわあああ……」
    「それどころか、いると分かった上であのように話されたんでしょうね。全く、意地悪な方」
     赤くなったり青くなったりする賢者に、シャイロックは(そもそも貴方を追いかけてきたのでは?)と追い打ちをかけるのはやめた。賢者を気遣うに嘘偽りはない。言葉通り、気付いたことを隠しているのは癪だと感じたのはフィガロに対してのみだった。なので、立ち上がった賢者の肩をそっと押さえた。
    「シャ、シャイロック? すみません、俺、いますぐ追いかけて……」
    「おや、グラスの中身がまだ残っているのに?」
    「あ、え?」
     空になっていたグラスには、そっと鍋から移動させたホットワインがある。誠実な賢者は、首を傾げながらもすとんと再び椅子に腰かけた。
    「どうぞ、慌てずお飲みになって、賢者様」
     シャイロックは優しく囁いた。
    「暖まったら、今夜はもう眠ってしまいましょう。二日酔いの、意地悪な男とゆっくり話すのは明日起きてからでも遅くありませんよ」
    「そうでしょうか……」
    「そうですとも。さあ、今宵最後のお客様。貴方が今夜はゆっくりと眠れることを祈って」
     乾杯、と再びグラスを持ち上げる。今頃フィガロは、賢者が追いかけてくるかもという予想が覆って首を傾げながら部屋に戻っているかもしれないが、そのくらいの意趣返しは、相談料の範囲内だろう。賢者は申し訳なさそうに眉根を下げながらも、ようやくふにゃりと微笑んだ。


    おわり
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖❤☺💖💖☺🙏💘💯👍💘💘💘💘💘💘💘💘💘💘☺☺💖☺❤🙏💖🍷😽😽😽💖💘👏👏🙏🙏🙏☺☺☺☺🙏🙏☺☺☺☺☺☺☺☺💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    いなばリチウム

    DOODLE複数の刀に手を出すタイプのクズ審神者の始まり3
    がっつり主清初夜 多分初夜
    主清初夜R18***


    「ん、んぅ、ん……っ!」
     俺がしたのとは違う、唇を合わせるだけじゃなくて、舌がねじこまれて、絡み合って、吸われる、そんな口づけだった。舌先を吸われる度、じゅる、くちゅ、といやらしい音が頭の中に直接響いて、ぼぅっとしてしまう。それだけでもういっぱいいっぱいなのに、主の手が俺の耳朶を撫でて、くにくにと触るものだから、そんなつもりないのに腰が浮いてしまう。
    「っあ、ん……やだ、それ……っ」
    「ふふ、耳よわいんだね」
     口づけの合間に、主が声を立てて笑う。顔が離れたと思ったら、今度は耳に舌がぬるりと這わされて、ぞくぞくした。
    「ひぁ……っ」
     耳の穴に舌を入れられて、舐られる。舌と唾液の音が直接聞こえてきて、舐められていない方の耳も指でいじられるからたまったもんじゃない。ぐちゅぐちゅ聞こえる音が俺の頭の中を搔き乱す。ついさっきまで俺が主を組み敷いていたのに、今はもう完全に逆転していた。暴れそうになる足は主が太股の間に体を押し込んできてもう動かせない。膝頭が足の間に入り込んできて、ぐりぐりと押される。
    3855

    いなばリチウム

    DOODLE複数の刀に手を出すタイプのクズ審神者の始まり2
    さにみか要素がほんの少しある主清です。
    答え合わせ さにみかになるまでと主清のはじまり だってさあ……悩みがあるのか、って聞かれて、実は欲求不満で、とか言えないでしょ、自分の刀に。完全にセクハラだもんな。
    「よっきゅうふまん……?」
     俺の体を跨ぐ形で覆い被さっている清光は、俺の言葉を繰り返して、ぱち、ぱち、と瞬きをした。かわいい。きょとんとしている。
     俺は簡単に説明した。清光に何度も心配されて、まずいな、とは思っていたこと。目を見たら本音を吐きそうで、ふたりきりになるのを避けていたこと。鏡を見れば、自分が思っている以上に陰鬱な顔をしていて、けれど解決策がないまま数ヶ月を過ごしていたこと。審神者になる前は恋人みたいなセフレみたいな存在が常に3~6人はいたんだけど全員にフラれて、まあなんとかなるっしょ、と思ったものの自分が思っていた以上になんともならないくらい、人肌が恋しくなってしまったこと。刀達のことはうっかり口説きそうになるくらい好きなこと。でも臣下に、それもかみさまに手を出すのはさすがにセクハラだし不敬っぽくない? まずくない? と思っていたこと。
    2337

    いなばリチウム

    DOODLE複数の刀に手を出すタイプのクズ審神者の始まり1.5
    さにみか要素がほんの少しある主清です。
    一個前の答え合わせだけど審神者メインで他の本丸の審神者との交流とかなので読み飛ばしてもいいやつです
    答え合わせ 審神者くわしくサイド 一応ね、俺も、俺がちょっとおかしいってことは分かってるんだけどね。おかしい、って分かった上で、今、ここにいる。

     審神者になる前、俺は常に最低3人、多くて6人、恋人ないしセフレがいた。
     昔から、俺はどうにも”重い”らしく、恋人が出来ても大体一ヶ月くらいでフラれるばかりだった。俺は毎日好きって言いたいし毎日キスしたいし毎日くっついていたいし毎日好きな子を抱きたいのに、それがだめらしい。体目当てみたいでいやだ、と言われたので、昼間のデートもみっちりプランを立てて楽しく過ごしてみたものの、大学に通いながらデートしてその上で夜は夜でセックスするの体力やばすぎるむり、って言われてフラれる。メンヘラも俺と付き合うと根負けするレベル、って大学の頃噂されたっけ……。非常に遺憾だった。なんでだ。幸い、縁があってフラれてもまた別の子と付き合えることが多かったけど、そんなことが続いたので遊び人と認定されちゃうし……。
    3828

    recommended works

    Norskskogkatta

    PAST主くり編/近侍のおしごと
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    主の部屋に茶色いうさぎが居座るようになった。
    「なんだこれは」
    「うさぎのぬいぐるみだって」
    「なんでここにある」
    「いや、大倶利伽羅のもあるっていうからつい買っちゃった」
    照れくさそうに頬をかく主はまたうさぎに視線を落とした。その視線が、表情が、それに向けられるのが腹立たしい。
    「やっぱ変かな」
    変とかそういう問題ではない。ここは審神者の部屋ではなく主の私室。俺以外はほとんど入ることのない部屋で、俺がいない時にもこいつは主のそばにいることになる。
    そして、俺の以内間に愛おしげな顔をただの綿がはいった動きもしない、しゃべれもしない相手に向けているのかと考えると腹の奥がごうごうと燃えさかる気分だった。
    奥歯からぎり、と音がなって気づけばうさぎをひっ掴んで投げようとしていた。
    「こら! ものは大事に扱いなさい」
    「あんたは俺を蔑ろにするのにか!」
    あんたがそれを言うのかとそのまま問い詰めたかった。けれどこれ以上なにか不興をかって遠ざけられるのは嫌で唇を噛む。
    ぽかんと間抜けな表情をする主にやり場のない衝動が綿を握りしめさせた。
    俺が必要以上な会話を好まないのは主も知っているし無理に話そうと 1308

    Norskskogkatta

    PAST主村/さにむら(男審神者×千子村正)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    なんだかよくわからないけどうさぎのぬいぐるみが気に入らない無自覚むらまさ
    「顔こわいんだけど」
    「……huhuhu、さて、なんででしょうね?」
    近侍の村正がいつも通り隣に控えてるけどいつもより笑顔が怖い。
    手の中には村正と同じ髪色のうさぎのぬいぐるみがある。休憩中の今は最近販売されたそれを手慰みにいじっていたのだった。
    「尻尾ならワタシにもありマスよ」
    ふわふわの丸い尻尾をつついていると村正が身体を捻って自分の尻尾をちょいちょいと触る。普段からそうだけど思わせぶりな言動にため息が出る。
    「そういう無防備なことしないの」
    「可笑しなことを言いますね、妖刀のワタシに向かって」
    刀剣男士には縁遠い言葉に首を傾げつつも村正はいつもの妖しげな笑いのままだ。わかってないなぁとやり場のない思いをうさぎに構うことで消化していると隣が静かだ。
    ちらっと横目で見てみると赤い瞳がじっとうさぎのぬいぐるみを見つめている。その色が戦場にある時みたいに鋭い気がするのは気のせいだろうか。
    「なに、気になるの」
    「気になると言うよりは……胸のあたりがもやもやして落ち着きません」
    少しだけ意外だった。自分の感情だったり周りの評価だったりを客観的にみているから自分の感情がよくわかっていない村正 828

    Norskskogkatta

    PAST主くり
    鍛刀下手な審神者が戦力増強のために二振り目の大倶利伽羅を顕現してからはじまる主をめぐる極と特の大倶利伽羅サンド
    大倶利伽羅さんどいっち?!


     どうもこんにちは!しがないいっぱしの審神者です!といっても霊力はよく言って中の下くらいで諸先輩方に追いつけるようにひたすら地道に頑張る毎日だ。こんな頼りがいのない自分だが自慢できることがひとつだけある。
     それは大倶利伽羅が恋びとだと言うこと!めっちゃ可愛い!
     最初はなれ合うつもりはないとか命令には及ばないとか言ってて何だこいつとっつきにくい!と思っていったのにいつしか目で追うようになっていた。
     観察していれば目つきは鋭い割に本丸内では穏やかな顔つきだし、内番とかは文句を言いながらもしっかり終わらせる。なにより伊達組と呼ばれる顔見知りの刀たちに構われまくっていることから根がとてもいい奴だってことはすぐわかった。第一印象が悪いだけで大分損しているんじゃないかな。
     好きだなって自覚してからはひたすら押した。押しまくって避けられるなんて失敗をしながらなんとか晴れて恋仲になれた。
    それからずいぶんたつけど日に日に可愛いという感情があふれてとまらない。
     そんな日々のなかで大倶利伽羅は修行に出てさらに強く格好良くなって帰ってきた。何より審神者であるオレに信 4684

    Norskskogkatta

    PASTさにちょも
    リクエスト企画でかいたもの
    霊力のあれやそれやで獣化してしまったちょもさんが部屋を抜け出してたのでそれを迎えに行く主
    白銀に包まれて


    共寝したはずの山鳥毛がいない。
    審神者は身体を起こして寝ぼけた頭を掻く。シーツはまだ暖かい。
    いつもなら山鳥毛が先に目を覚まし、なにが面白いのか寝顔を見つめる赤い瞳と目が合うはずなのにそれがない。
    「どこいったんだ……?」
    おはよう小鳥、とたおやかな手で撫でられるような声で心穏やかに目覚めることもなければ、背中の引っ掻き傷を見て口元を大きな手で覆って赤面する山鳥毛を見られないのも味気ない。
    「迎えに行くか」
    寝起きのまま部屋を後にする。向かう先は恋刀の身内の部屋だ。
    「おはよう南泉。山鳥毛はいるな」
    「あ、主……」
    自身の部屋の前で障子を背に正座をしている南泉がいた。寝起きなのか寝癖がついたまま、困惑といった表情で審神者を見上げでいた。
    「今は部屋に通せない、にゃ」
    「主たる俺の命でもか」
    うぐっと言葉を詰まらせる南泉にはぁとため息をついて後頭部を掻く。
    「俺が勝手に入るなら問題ないな」
    「え、あっちょ、主!」
    横をすり抜けてすぱんと障子を開け放つと部屋には白銀の翼が蹲っていた。
    「山鳥毛、迎えにきたぞ」
    「……小鳥」
    のそりと翼から顔を覗かせた山鳥毛は髪型を整えて 2059

    Norskskogkatta

    PAST主くり
    リクエスト企画で書いたもの
    ちいさい主に気に入られてなんだかんだいいながら面倒を見てたら、成長後押せ押せでくる主にたじたじになる大倶利伽羅
    とたとたとた、と軽い足音に微睡んでいた意識が浮上する。これから来るであろう小さな嵐を思って知らずため息が出た。
    枕がわりにしていた座布団から頭を持ち上げたのと勢いよく部屋の障子が開け放たれたのはほぼ同時で逃げ遅れたと悟ったときには腹部に衝撃が加わっていた。
    「から! りゅうみせて!」
    腹に乗り上げながらまあるい瞳を輝かせる男の子どもがこの本丸の審神者だ。
    「まず降りろ」
    「はーい」
    咎めるように低い声を出しても軽く調子で返事が返ってきた。
    狛犬のように行儀よく座った審神者に耳と尻尾の幻覚を見ながら身体を起こす。
    「勉強は終わったのか」
    「おわった! くにがからのところ行っていいっていった!」
    くにと言うのは初期刀の山姥切で、主の教育もしている。午前中は勉強の時間で午後からが審神者の仕事をするというのがこの本丸のあり方だった。
    この本丸に顕現してから何故だか懐かれ、暇があれば雛のように後を追われ、馴れ合うつもりはないと突き離してもうん!と元気よく返事をするだけでどこまでもついて来る。
    最初は隠れたりもしてみたが短刀かと言いたくなるほどの偵察であっさり見つかるのでただの徒労だった。
    大人し 1811

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    極になって柔らかくなった大倶利伽羅に宣戦布告する片想いしてる主
    ポーカーフェイスの君にキスをしよう


    「大倶利伽羅」

    ひとつ呼ぶ。それだけで君は振り向いて、こちらを見てくれる。
    それだけでどうしようもなく締め付けられる胸が煩わしくて、ずたずたに切り裂かれてしまえとも思う。

    「なんだ」

    いつもと変わらぬ表情で、そよ風のように耳馴染みの良い声がこたえる。初めて顔を合わせた時より幾分も優しい声音に勘違いをしそうになる。
    真っ直ぐ見つめる君に純真な心で対面できなくなったのはいつからだったっけ、と考えてはやめてを繰り返す。
    君はこちらのことをなんとも思っていないのだろう。一人で勝手に出て行こうとした時は愛想を尽かされたか、それとも気づかれたのかと膝から力が抜け落ちそうになったが、4日後に帰ってきた姿に安堵した。
    だから、審神者としては認めてくれているのだろう。
    年々距離が縮まっているんじゃないかと錯覚させるような台詞をくれる彼が、とうとう跪座までして挨拶をくれた。泣くかと思った。
    自分はそれに、頼りにしていると答えた。模範的な返しだろう。私情を挟まないように、審神者であることを心がけて生きてきた。

    だけど、やっぱり俺は人間で。
    生きている限り希望や 1288

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    おじさま審神者と猫耳尻尾が生えた大倶利伽羅のいちゃいちゃ
    猫の日にかいたもの
    大倶利伽羅が猫になった。
    完璧な猫ではなく、耳と尾だけを後付けしたような姿である。朝一番にその姿を見た審神者は不覚にも可愛らしいと思ってしまったのだった。

    一日も終わり、ようやっと二人の時間となった審神者の寝室。
    むっすりと感情をあらわにしているのが珍しい。苛立たしげにシーツをたたきつける濃い毛色の尾がさらに彼の不機嫌さを示しているが、どうにも異常事態だというのに微笑ましく思ってしまう。

    「……おい、いつまで笑ってる」
    「わらってないですよ」

    じろりと刺すような視線が飛んできて、あわてて体の前で手を振ってみるがどうだか、と吐き捨てられてそっぽを向かれてしまった。これは本格的に臍を曲げられてしまう前に対処をしなければならないな、と審神者は眉を下げた。
    といっても、不具合を報告した政府からは、毎年この日によくあるバグだからと真面目に取り合ってはもらえなかった。回答としては次の日になれば自然と治っているというなんとも根拠のないもので、不安になった審神者は手当たり次第に連絡の付く仲間達に聞いてみた。しかし彼ら、彼女らからの返事も政府からの回答と似たり寄ったりで心配するほどではないと言われ 2216

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    支部のシリーズに出てくるふたりのその後
    煙草じゃなくて


     昼食も終わり、午後の仕事を始める前の煙草休憩。再び癖となってしまったことに蜂須賀は顔を顰めたが、すまないとだけ言っている。
     まあ、目的は単に紫煙を揺らすだけではないのだが。
    「またここに居たのか」
    「タバコ休憩な」
     玉砂利を踏み締める音を立ててやってきたのは大倶利伽羅だ。指に挟んだ物をみせるとあからさまに機嫌が悪くなる。それがちょっと可愛く思えてどうにもやめられずにいる。
     隣に並んだ大倶利伽羅をみて刀剣男士に副流煙とか影響するのだろうかと頭の片隅で考えながらも携帯灰皿に捨ててしまう。そうするまでじっとこちらを見ているのだ。
     しっかりと見届けてふん、と鼻を鳴らすのが可愛く見える。さて今日はなにを話そうか、ぼんやりしているとがっしりと後頭部を掴まれる。覚えのある動作にひくりと頬が引きつった。
    「ちょっ、と待った」
    「なんだ」
     気づけば近距離で対面している大倶利伽羅に手のひらを翳して動きを止める。指の隙間から金色とかち合う。普段は滅多に視線を合わせやしないのに、こういうときだけまっすぐこちらを見てくる。
    「お前なにするつもりだ」
    「……嫌なのか」
     途端に子犬 910