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    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

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    POIPOI 51

    いなばリチウム

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    「ひかる星々の名前を教えて2」で展示したフィガ晶です。

    両片思いのフィガ晶+シャイロック「あ、」

    (好きです)
     声に出なくてよかったと思った。好きだと、自覚すると同時に胸の奥がぎゅうと痛んだ。いつかいなくなる自分が、賢者である自分が、魔法使いに恋をするなんて。罪悪感で頭も体も重くなる感覚があって、行き場のない、あってはいけない感情を抑えるのが精一杯だった。

    (フィガロのことが、好きです)

     柔らかそうな癖っ毛に触れたいと思った。穏やかな錫色と目が合うと、微笑まれて胸が高鳴った。年長者然としておきながら迷子の子供のように見えることがあって、かと思えばやはり大人の、それも千年単位の余裕を見せつけられては彼が分からなくなることもあった。それから、それから、とフィガロのことを想う度に、ああ、だからこそ、とか、だけれども、と前置きはあっても、結局(好きだなあ)に帰着してしまう。自覚してからは特に顕著で、自分の中の想いをどうにか表に出ないよう押し込めることに必死になるしかなかった。賢者としての役目すら果たしているかどうか危うい自分だ。この感情はどう考えても余計でしかない。だから、


    ***

    「最近、賢者様に避けられてる気がするんだよね」
    「おやおや」

     バーカウンターを挟んだ向こうで、妖艶な笑みを浮かべたシャイロックは相槌にも感嘆にも聞こえるような声を漏らした。南の兄弟は任務で魔法舎を空けており、今宵何杯目になるか分からないグラスを傾ける彼――フィガロを咎めるものはいない。

    「聞いてくれる?」
    「話したいのでしょう?」
    「あはは」

     ふわふわと笑ったフィガロにわざとらしく眉を顰めて見せたシャイロックだったが、迷惑であればとっくに追い出している。そうしないのは、面倒事の予感に心惹かれたからだった。視線で先を促すと、フィガロはゆるまった口角を上げたまま話し出した。

     いつからだったかな。気付いたら、賢者様の様子がおかしかった。体調が悪いとか、知らない内に厄介なことに巻き込まれているとか、そういう悪い状態ではないんだけど。ただ、極端に目が合わない。合わないというか、合う前に逸らされているというか。随分前、賢者とその魔法使いとして出会った頃は確かにそういうこともあった。パーティでの一件は少し迫り方を間違えたっぽいな、と反省もした。けれどそれから時間も経ったし、賢者様とは良い関係性を築けているという自負があった。それどころか、目が合うと彼は照れくさそうにはにかんでさえいたのだ。声をかければ嬉しそうに応えてくれたし、他愛ない会話も楽しんでくれていたと思う。もちろん、彼は誰に対しても分け隔てなくそうだったけれど、警戒されていた時期を思えば、俺にとっては格段の変化と言って良かった。それが最近はさっぱりだ。話しかけてもそそくさと逃げられるし、食堂でも席を外していることが多い。いそうな場所に行くといないか、立ち去った後ということばかり。これはもう、気がする、を通り越して明白だった。知らない内に何か気の障ることを言ったか、してしまったか、そうならごめんねを言いたいけど、避けられてるんじゃそれも出来ない。まあ機会をうかがわなくても、何かしらの任務のタイミングで一緒に行動することもありそうだけど、そういう不可抗力じゃなくて、きちんと賢者様と話をしたいんだよね。

     そんなことを話して、ぽつりと付け加える。
     
     ――だって、あまりにも、

    「寂しいじゃない? ……あ、いま、鼻で笑った?」
    「まさか」
    「そう? 別に怒らないけどなあ。美人に鼻先で笑われるなんて、ちょっとドキドキしちゃうしね」

     空になったグラスの横に、新たな一杯を置いたシャイロックは確かに笑みを浮かべてはいた。

    「なんとも、初々しいような、甘酸っぱいような素敵な状況に置かれているようで、微笑ましく感じただけですよ」
    「それってつまり、鼻で笑っ、あれ、これお酒じゃないね」
    「そろそろ明日に響く量でしょう? 二日酔いで苦しむのは自業自得ですけれど、苦しむ貴方を見て心を痛めるのは、ミチルや、他でもない賢者様ですから」
    「はは、手厳しいなあ。いや、優しいのかな? この場合は」

     苦笑いを零しつつ新しい一杯に口を付けたフィガロは、それでもまだ饒舌な唇で続ける。

    「まあ、人間の心っていうのは移ろいやすいしね。良い関係になれたと思っていたのは俺だけで、賢者様の心はそう感じる前に変わっちゃったのかも」
    「……フィガロ」
    「なんてね。止める人がいないから飲みすぎちゃったかな。君の言う通り、明日に響きそうだし、これで最後にするよ」

     それからフィガロは言葉通り、最後の一杯を飲み干すと、少しふらつきながらもバーを後にした。それを見送った後のシャイロックは空いたグラスを片付け、カウンターを拭き、それから新たに背の低いグラスを二つ取り出す。ルージュベリーとレモンを少し入れて、作りかけの鍋を温めると、中身をゆっくりと注いだ。これもアルコールは入っていない。準備が出来ると、足元に目線をやった。
    「さ、こちらをどうぞ、今宵最後のお客様。私もご一緒しても?」
     その声で、カウンターの下で膝を抱えて縮こまっていた人物が顔を上げる。
    「シャイロック……」
     蚊の鳴くような声と共によろよろと立ち上がった彼に、シャイロックは向かいの席を示す。先程までフィガロが腰かけていた椅子の隣だ。彼――賢者は力なく頷くと、誘導されるままそこへ腰を下ろす。乾杯、とグラスを傾けると、シャイロックはしょんぼりしている賢者をあやすように優しく声をかけた。
    「だから言ったでしょう。困りますよ、と」
    「あれ、シャイロックが、って意味じゃなくて俺が、って意味だったんですか……」
     勧められるがままに腰かけた賢者がこのバーを訪れたのは、フィガロがやってくるほんの数分前だった。その時点で随分と夜は更けていて、シャイロックがいなければそのまま部屋に戻るつもりだった賢者はほっとして足を踏み入れたのだ。誰かと、もしかしたら他でもないフィガロと鉢合わせる可能性も考えないでもなかったが、魔法舎の廊下はしんと静まり返っていたし、こんな時間に他の誰かに会うこともないだろう、と高を括っていたのが運の尽きだった。ちょっと眠れなくて、おや、ではノンアルコールのホットワインでもいかがですか、などとやり取りしているところに、
    『シャイロック、いる~?』
     そんな声が聞こえて、コツコツと靴音も続いたものだから、賢者は咄嗟に「匿って下さい、少しだけ」と両手を合わせ、シャイロックは「困りますよ」と言いながらも、賢者が椅子の並んでいるカウンターから回り込んできて、狭いスペースへ滑り込んだのを止めなかった。シャイロックが立っている側のカウンターの下には空き瓶や木箱を置いてあるだけで、賢者一人であればすっぽり収まることが出来た。身動きが取りづらいとはいえ、フィガロがお酒を嗜んで立ち去るまでならその場しのぎになるだろうと踏んだのだったが、こんなことならフィガロに軽く挨拶をした後、入れ違いに出て行った方が良かったと反省する。ただ、さっきは本当にフィガロと顔を合わせるのを何としても避けたい、という気持ちが勝っていたのだ。
    「……寂しい、って、言ってましたね」
     シャイロックが準備してくれたホットワインは、冷たくなっていた指先を温めてくれた。ふう、ふう、とさましながらゆっくりと喉に流し込むと、体の内側もじんわりと温まっていき、ようやく言葉がするりと零れていく。
    「俺、フィガロを傷つけるつもりじゃなくて、ただちょっと、色々と、自分の気持ちの整理がついていないというか、それで……あー、えっと……」
     話しながらも、どんどん背中が丸くなっていく賢者の言葉に、シャイロックは沈黙で先を促す。
    「自分勝手でした……明日にはいつも通りに、って思って……どんどん先延ばしになってしまって……」
    「……それで、眠れぬ夜が続いていた?」
    「そうです……」
     賢者の様子がおかしい、と感じているのは、フィガロに限ったことではなかった。シャイロックを含め、魔法舎で彼と顔を合わせる魔法使いであれば皆、彼にどうやら悩みごとがあるらしい、それで夜もきちんと眠れていないらしい、と気にかけてはいたものの、直接声をかければ彼は決まって「大丈夫ですよ」と笑顔で隠してしまうのが分かっていたので、いわば今は見守り期間であった。どうしたって彼は自分を軽んじる傾向にあって、気にかければむしろ気を遣って益々不調を隠すことすらあるのが分かっていたので、目に余るようであれば無理にでも休みをとってもらうことにはなっていた。他でもない、フィガロの提案だ。しかし原因もフィガロであったとは、何ともまあ、とシャイロックは賢者からは見えない角度でこっそりと苦笑いを零す。
    「すみません、シャイロックにも迷惑をかけて……」
    「迷惑だなんて、そんなこと思いませんよ。賢者様には。どうか気に病まないで」
     ああ、でも、と浮かんでいた微笑が悩まし気な表情に変わった。
    「少し癪なので、お教えしてしまいましょうか」
    「え?」
    「気付いていましたよ、フィガロ」
    「……え?」
    「棚の真ん中あたり、赤いラベルの瓶が見えますか?」
     ふわり、優雅な仕草で指が賢者の視線を誘導する。カウンターからちょうど斜め向かいに並んでいる酒瓶の内、確かに注ぎ口に赤いラベルが巻いてあるものがあった。並んでいるものはどれも綺麗に磨かれているが、それは黒っぽい瓶にラベル以外のものは何も装飾がないので、特に美しく磨かれているのが分かった。瓶に、鏡のような映り込みが見える程に。
    「あっ……」
     目を凝らさなければ見えないが、気を付けてみれば、瓶にはカウンターの下に並ぶ空き箱の輪郭がしっかりと映り込んでいる。それはつまり、先程まで賢者が丸まっていた場所が、今賢者が座っている位置からは丸見えだったということだ。
    「普段は、そんなところまで気にする方はいませんが……目線から察するに、まず間違いないかと」
    「う、うわあああ……」
    「それどころか、いると分かった上であのように話されたんでしょうね。全く、意地悪な方」
     赤くなったり青くなったりする賢者に、シャイロックは(そもそも貴方を追いかけてきたのでは?)と追い打ちをかけるのはやめた。賢者を気遣うに嘘偽りはない。言葉通り、気付いたことを隠しているのは癪だと感じたのはフィガロに対してのみだった。なので、立ち上がった賢者の肩をそっと押さえた。
    「シャ、シャイロック? すみません、俺、いますぐ追いかけて……」
    「おや、グラスの中身がまだ残っているのに?」
    「あ、え?」
     空になっていたグラスには、そっと鍋から移動させたホットワインがある。誠実な賢者は、首を傾げながらもすとんと再び椅子に腰かけた。
    「どうぞ、慌てずお飲みになって、賢者様」
     シャイロックは優しく囁いた。
    「暖まったら、今夜はもう眠ってしまいましょう。二日酔いの、意地悪な男とゆっくり話すのは明日起きてからでも遅くありませんよ」
    「そうでしょうか……」
    「そうですとも。さあ、今宵最後のお客様。貴方が今夜はゆっくりと眠れることを祈って」
     乾杯、と再びグラスを持ち上げる。今頃フィガロは、賢者が追いかけてくるかもという予想が覆って首を傾げながら部屋に戻っているかもしれないが、そのくらいの意趣返しは、相談料の範囲内だろう。賢者は申し訳なさそうに眉根を下げながらも、ようやくふにゃりと微笑んだ。


    おわり
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    いなばリチウム

    TRAININGhttps://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

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    PAST主般/さにはにゃ(男審神者×大般若)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀

    主に可愛いと言わせたくてうさぎを買ってきたはんにゃさん
    「どうだいこれ、可愛らしいだろ?」
    主に見せたのは最近巷で話題になっている俺たち刀剣男士をモチーフにしたうさぎのぬいぐるみだ。といっても髪色と同じ毛皮に戦装束の一部を身につけているだけだが、これがなかなか審神者の間で人気らしい。
    「うさぎか?」
    「そうそう、俺のモチーフなんだぜ」
    うちの主は流行に疎い男だ。知らないものを見るときの癖で眉間にシワを寄せている。やめなって言ってるんだがどうにも治らないし、自分でも自覚してるらく指摘するとむっつりと不機嫌になる。そこがこの男の可愛いところでもあるがそれを口にすると似合わんと言ってさらにシワが深くなるからあまり言わないようにはしてる。厳しい顔も好きだがね。
    そんな主だから普段から睦言めいたものはなかなか頂けなくて少しばかりつまらない。そこでちょっとこのうさぎを使って可愛いとか言わせてみようと思ったわけさ。
    主に手渡すと胴を両手で持ちながらしげしげと眺めている。耳を触ったり目元の装飾をいじったり。予想よりだいぶ興味を示してるなぁと見ているときだった。
    「ああ、可愛いな」
    主が力を抜くように息を吐く。
    あ、これは思ったより面白くないかもしれない。そ 874

    Norskskogkatta

    MOURNINGさにちょも
    桃を剥いてたべるだけのさにちょも
    厨に行くと珍しい姿があった。
    主が桃を剥いていたのだ。力加減を間違えれば潰れてしまう柔い果実を包むように持って包丁で少しだけ歯を立て慣れた手付きで剥いている。
    あっという間に白くなった桃が切り分けられていく。
    「ほれ口開けろ」
    「あ、ああ頂こう」
    意外な手際の良さに見惚れていると、桃のひとつを差し出される。促されるまま口元に持ってこられた果肉を頬張ると軽く咀嚼しただけでじゅわりと果汁が溢れ出す。
    「んっ!」
    「美味いか」
    溺れそうなほどの果汁を飲み込んでからうなづいて残りの果肉を味わう。甘く香りの濃いそれはとても美味だった。
    「ならよかった。ほら」
    「ん、」
    主も桃を頬張りながらまたひとつ差し出され、そのまま口に迎え入れる。美味い。
    「これが最後だな」
    「もうないのか」
    「一個しか買わなかったからな」
    そう言う主に今更になって本丸の若鳥たちに申し訳なくなってきた。
    「まあ共犯だ」
    「君はまたそう言うものの言い方を……」
    「でもまあ、らしくないこともしてみるもんだな」
    片端だけ口を吊り上げて笑う主に嫌な予感がする。
    「雛鳥に餌やってるみたいで楽しかったぜ」
    「…………わすれてくれ」
    差し 588

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    緑の下で昼寝する主くり
    極の彼は適度に甘やかしてくれそう
    新緑の昼寝


     今日は久々の非番だ。どこか静かに休めるところで思う存分昼寝でもするかと、赤い方の腰布を持って裏山の大桜に脚を伸ばす。
     とうに花の盛りは過ぎていて目にも鮮やかな新緑がほどよく日光を遮ってまどろむにはもってこいの場所だ。
     若草の生い茂るふかふかとした地面に寝転がり腰布を適当に身体の上に掛け、手を頭の後ろで組んでゆっくりと瞼を下ろす。
     山の中にいる鳥の鳴き声や風に吹かれてこすれる木の葉の音。自然の子守歌に本格的にうとうとしていると、その旋律に音が増えた。
    「おおくりからぁ~……」
     草葉の上を歩き慣れていない足音と情けない声にため息つき起き上がると背を丸めた主がこちらへと歩いてくる。
     のろのろと歩いてくるのを黙って見ていると、近くにしゃがみ込み頬を挟み込まれ唐突に口づけられた。かさついた唇が刺さって気分のいいものではない。
    「……おい」
    「ははは、ごめんて」
     ヘラヘラと笑いあっさりと離れていく。言動は普段と差して変わらないが覇気が無い。観察すれば顔色も悪い。目の下に隈まで作っている。
    「悪かったな、あとでずんだかなんか持って行くから」
     用は済んだとばかりに立ち上 780

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    支部のシリーズに出てくるふたりのその後
    煙草じゃなくて


     昼食も終わり、午後の仕事を始める前の煙草休憩。再び癖となってしまったことに蜂須賀は顔を顰めたが、すまないとだけ言っている。
     まあ、目的は単に紫煙を揺らすだけではないのだが。
    「またここに居たのか」
    「タバコ休憩な」
     玉砂利を踏み締める音を立ててやってきたのは大倶利伽羅だ。指に挟んだ物をみせるとあからさまに機嫌が悪くなる。それがちょっと可愛く思えてどうにもやめられずにいる。
     隣に並んだ大倶利伽羅をみて刀剣男士に副流煙とか影響するのだろうかと頭の片隅で考えながらも携帯灰皿に捨ててしまう。そうするまでじっとこちらを見ているのだ。
     しっかりと見届けてふん、と鼻を鳴らすのが可愛く見える。さて今日はなにを話そうか、ぼんやりしているとがっしりと後頭部を掴まれる。覚えのある動作にひくりと頬が引きつった。
    「ちょっ、と待った」
    「なんだ」
     気づけば近距離で対面している大倶利伽羅に手のひらを翳して動きを止める。指の隙間から金色とかち合う。普段は滅多に視線を合わせやしないのに、こういうときだけまっすぐこちらを見てくる。
    「お前なにするつもりだ」
    「……嫌なのか」
     途端に子犬 910

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    小腹が空いて厨に行ったらひとり夏蜜柑を剥いていた大倶利伽羅に出くわす話
    夏蜜柑を齧る

     まだ日が傾いて西日にもならない頃、午後の休憩にと厨に行ったら大倶利伽羅がいた。
     手のひらに美味しそうな黄色を乗せて包丁を握っている。
    「お、美味そうだな」
    「買った」
     そういえば先程唐突に万屋へ行ってくると言い出して出かけて行ったのだったか。
     スラックスにシャツ、腰布だけの格好で手袋を外している。学ランによく似た上着は作業台の側の椅子に引っ掛けられていた。
     内番着の時はそもそもしていないから物珍しいというわけでもないのだが、褐色の肌に溌剌とした柑橘の黄色が、なんだか夏の到来を知らせているような気がした。
     大倶利伽羅は皮に切り込みを入れて厚みのある外皮をばりばりとはいでいく。真っ白なワタのような塊になったそれを一房むしって薄皮を剥き始めた。
     黙々と作業するのを横目で見ながら麦茶を注いだグラスからひと口飲む。冷たい液体が喉から腹へ落ちていく感覚に、小腹が空いたなと考える。
     その間も手に汁が滴っているのに嫌な顔ひとつせずばりばりと剥いていく。何かつまめるものでも探せばいいのになんとなく眺めてしまう。
     涼やかな硝子の器につやりとした剥き身がひとつふたつと増えて 1669

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    寒くなってきたのにわざわざ主の部屋まできて布団に潜り込んできた大倶利伽羅
    秋から冬へ、熱を求めて


    ひとりで布団にくるまっていると誰かが部屋へと入ってくる。こんな時間に来るのなんて決まってる。寝たふりをしているとすぐ近くまで来た気配が止まってしまう。ここまできたんなら入ってくれば良いのに、仕方なく布団を持ちあげると潜り込んできて冷えた足をすり寄せてくる。いつも熱いくらいの足を挟んでて温めてやると、ゆっくりと身体の力が抜けていくのがわかる。じわりと同じ温度になっていく足をすり合わせながら抱きしめた。
    「……おやすみ、大倶利伽羅」
    返事は腰に回った腕だった。

    ふ、と意識が浮上する。まだ暗い。しかしからりとした喉が水を欲していた。乾燥してきたからかなと起き上がると大倶利伽羅がうっすらと目蓋を持ち上げる。戦場に身を置くからか隣で動き出すとどうしても起こしてしまう。
    「まだ暗いから寝とけ」
    「……ん、だが」
    頭を撫でれば寝ぼけ半分だったのがあっさりと夢に落ちていった。寝付きの良さにちょっと笑ってから隣の部屋へと移動して簡易的な流しの蛇口を捻る。水を適当なコップに溜めて飲むとするりと落ちていくのがわかった。
    「つめた」
    乾きはなくなったが水の冷たさに目がさえてしまっ 1160

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    赤疲労になった大倶利伽羅が限界をむかえて主に甘えてキスをねだる話
    お疲れ様のキス

    隊長を任せた大倶利伽羅に後ろから抱きつかれた。報告を聞いて端末に向き直ったら部屋を出て行くもんだと思っていた大倶利伽羅が背後にまわってそのまま座り込み腕が腹に回され今までにない行動にどうすればいいかとっさに判断が出来なかった。
    というかこれ甘えに来てるのか?もしそうならこっちが動いたらさっと離れていくやつか…?
    そう考えが巡って動けずにいると長いため息が聞こえてきた。
    滅多にない疲労をみせる様子に端末を操作すれば、ばっちり赤いマークが付いてた。
    古参になる大倶利伽羅には新入りの打刀たちに戦い方、とくに投石や脇差との連携を指導してもらっている。もとが太刀で刀種変更があってから戦い方を変えざるを得なかった大倶利伽羅だからこそ、言葉は少ないがつまづいた時に欲しい言葉をくれるから上達が早いらしい。
    だからつい大倶利伽羅に新人教育を頼んでしまうことが多かった。それがとうとう限界が来たのかもしれない。管理ができてない自分が情けないが反省は後でするとして、今は珍しく自分から甘えにきた恋びとを労うのが先だろう。
    「大倶利伽羅、ちょっと離してくれ」
    「…………」
    腹に回った腕をぽんぽん 1542