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    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

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    いなばリチウム

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    重傷進軍ボイスネタ主へし(特)
    その内極バージョンも書きたい

    #主へし
    master

    「これは何かの策ですか?」 重傷二振り、中傷一振り、自身も軽傷状態だったが、部隊を率いて身を隠すくらいの余裕はあった。重傷の大和守に肩を貸す加州も傷は浅いものの、傷そのものより疲労の方が深刻であるのが見て取れる。撤退だろうな、と半ば独り言のような呟きに皆力なく頷いた。しかし、目の前には『進軍せよ』という、部隊長にのみ可視化された電子メッセージが浮かんでいる。心臓が早鐘を打ってた。何かの間違いだ、と思う。
     本丸にいる審神者との連絡もまた、部隊長のみに許されていた。決められた手順に従えば、ノイズ混じりに審神者の声が耳を震わせる。
    「――はい、状況は見えてるよ」
     平素と変わらない声だった。普段なら安心感のある落ち着いた低音が、この場にはそぐわない。
    「こ、」
     口を開けば、存外に震えた声が零れて、慌てて部隊に背を向けた。憔悴しきった彼らがこちらを気にする素振りはなかったのが救いだった。仕切り直しても上擦ったままの声を、審神者はどんな表情で聞いているのか、こちらから確認することは出来ない。ただ、
    「何の策でもない、って言ったら、お前はどうする?」
     明らかに揶揄するような声色が耳を擽る。ここにはいないはずなのに、すぐ傍で長谷部の反応を窺っている気配すら感じた。全て、気のせいだ。けれど、長谷部から見えなくとも、審神者の方からは部隊の状態も、戦況も、長谷部の表情も見えていて、もしかしたら心境さえも見透かされているようにも思えた。
    「お、れは、俺は……」
     何と答えるべきだろう。何と答えたらいいのだろう。どんな答えが、審神者の望みだろう。ぐるぐると思考が回る。
    「長谷部、帰還ゲート開いたよ」
     加州の声で我に返る。
    「え、」
     振り返ると、身を隠していた茂みの傍に本丸への帰還ゲートが開いていた。耳元でまた、低い笑い声が反響した。
    「冗談だよ。帰っておいで。重傷者は真っ直ぐ手入れ部屋へ。部隊長は報告を。血と汚れを落としてからでいい」
     ふつりと通信が切れて、再び辺りは静寂に包まれた。
    「主、なんだって?」
     帰還ゲートへは重傷者を先に通し、殿は加州と長谷部が務めた。加州の問いに一瞬詰まったものの、指示を伝える。
    「そっか」
     加州は悔しそうに唇を引き結んだ。
    「次こそうまくやらないとな……」
     声には悔しさと焦燥の滲んでいる。審神者は『無理することはない。焦らず少しずつ』という方針で本丸を運用している。しかし、ここのところ遡行軍は勢いを増しており、撤退が続いていた。出陣すればするほど刀たちは熱くなるばかりで、一向に戦果をあげられていない現状が歯痒くて仕方ない。それは長谷部とて同じことだった。しかし、ここで折れればそれまでだ。自分も、部隊も。それは審神者の望むところでもないはずなのに。
     帰還ゲートを抜けて本丸の敷地に入ると、審神者の指示通り重傷者を手入れ部屋へ運ぶ。人数分の部屋も、手伝い札の手配も既にされていたことに安堵した。大和守についているという加州に後を託し、一通り身綺麗にしてから報告へ向かう。とはいえ、戦況は全て審神者側から把握しているはずなので、普段通りであれば情報の擦り合わせと今後の部隊編成等の簡単な確認で終わるはずだ。ただ、審神者の問いに答えられないままだったので、足取りは重い。
    「……主」
     執務室の前で声をかけると、すぐに「どうぞ」と返ってくる。聞こえぬよう、そっと深呼吸した。
    「失礼します」
    「おかえり」
     部屋の奥から届く審神者の声は優しい。いつも通りだ。今はそれが、長谷部の心をざわつかせている。
    「こっちにおいで」
     椅子から立ち上がった審神者に手招かれるまま、後ろ手に障子を閉めた。夕暮れ時だというのに部屋は灯りがついていなかった。待たせてはいけないと思いつつのろのろと歩み寄り、審神者の前に立つ。俯いていると、両手が伸びてきて長谷部の顔を包み込んだ。
    「顔を良く見せて」
     引き寄せられるまま顔を上げると、楽しそうに細まった瞳と目が合う。
    「戸惑ってるね。可愛いな」
    「ぁ、」
     咄嗟に言葉が出てこない。薄く開いた唇は、そのまま審神者の唇が重ねられてしまった。気持ちが追い付かない内に舌を差し込まれて、口の中を舐られる。
    「ん、ぅ」
     逃げる舌先を食まれ、ちゅう、と吸われ、上顎をなぞられて腰が震えた。戦闘で昂り、そして燻っていた体に火がつくようだった。崩れ落ちそうな腰を審神者が支え、ゆっくりと畳に下ろす。頬を包んだままの指先が耳を撫でた。
    「っひ、ま、待ってくださ、主、報告、を……」
    「そんなの見てたから大体分かってるよ。後でいいでしょ」
    「で、ですが」
     そのまま押し倒されて流されるのは嫌ではない。嫌ではないが、誤魔化されているようで落ち着かなかった。審神者は少し考える素振りを見せてから、「ああ、」と頷いた。
    「重傷進軍のこと? 言っただろ、冗談だって。帰還ゲートだってすぐ手配した」
    「冗談……」
    「他に何が?」
     言いながら審神者の手は既にシャツのボタンをぷちぷちと外しにかかっている。
    「お、俺を、試しているのかと……!」
     思わず声が上擦った。重傷進軍に策があったとして、なかったとして、長谷部はどうするか、どうするべきか。何が審神者にとっての最善なのか。答えを出せなかった自分は、審神者にとっての忠臣になりえないのではないか……。帰還中、ずっとそんなことを考えていた。審神者はきょとんとした表情になったが、また可笑しくてたまらないといった様子で口角を上げた。
    「ふふ、お前のそういうところなんだよなあ」
    「え、っぁ」
     審神者の声は弾んでいた。落胆されたわけではない。ではないが、長谷部には言葉の意味が分からず困惑した。はだけたシャツの隙間から手が入ってくる。熱い手に弄られながら、思考が鈍っていくのを感じた。審神者の顔が近付いて、再び唇を落とされる。間近で、黒曜石のような瞳が薄暗い部屋でもぎらぎらと輝いているのが分かった。
    「そういう顔が見たかったんだ。ああ、長谷部、俺が困らせて戸惑わせて、思いきり感情を揺さぶりたいと思うのはお前だけだよ」
     恍惚とした笑みに、ぞくりと甘い痺れが走った。ここに来るまでの不安な気持ちがなくなったわけではないが、『お前だけ』という甘美な響きに顔も体も熱くなる。審神者の目に映っているのは長谷部だけだった。眉尻は下がり、戸惑いで瞳を揺らして、情けない姿だが、それでもこの瞬間、審神者の気持ちを独占しているのだと思うと堪らなくなった。また何度も唇を吸われ、息が上がっていく。押し付けられた腰の中心が硬くなっているのが分かる。
     荒い呼吸の合間で、審神者は囁いた。
    「こんな主でごめんな」
     長谷部は答えなかった。会話はそこで途切れ、代わりに、自ら審神者の下肢に手を伸ばし、窮屈そうにしているそこに触れた。


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    いなばリチウム

    TRAININGhttps://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

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    MOURNING六年近く前(メモを見る限りだと2016年4月)に利き主へし小説企画で「初夜」をテーマに書いた話です。他にもいくつか初夜ネタを書いてたのでまとめてpixivに載せるつもりだったんですけど全然書ききれないので一旦ここに載せておきます!
    当時いつも書いてた主へしの作風とすこし雰囲気変えたので楽しかったし、性癖の一つでもあったので今読んでも好きな話です。
    CPではない二人の話です。長谷部が可哀想かも。
    夜な夜な(主へし R18) その日は朝から体がだるかった。
     目を覚ますと、頭は内側から叩かれているように錯覚するぐらい痛み、窓から差し込む朝日や鳥の囀りがひどく耳障りで、長谷部はそう感じてしまう思考と体の不調にただただ戸惑った。しかし、昨日はいつも通り出陣したはずだったし、今日もそれは変わりない。死ななければどうということはないが、あまりひどければ出陣に、ひいては主の戦績に支障が出る。長引くようであれば手入れ部屋へ入ることも検討しなければ、と考える。
     着替えてからだるい体を引きずって部屋を出ると、「長谷部、」と今まさに長谷部の部屋の戸に手を掛けようとしたらしく、手を中途半端に宙に浮かせて困ったように佇んでいる審神者がいた。無意識に背筋が伸びる。
    6533

    いなばリチウム

    DONE情けない攻めはかわいいねお題ガチャ
    https://odaibako.net/gacha/1462?share=tw
    これで出たお題ガチャは全部!微妙に消化しきれてない部分もあるけどお付き合いいただきありがとうございました!
    情けない攻めの審神者×長谷部シリーズ④・長谷部にハイキックで倒されるモブを見て自分も蹴られたくなる審神者
    ・暴漢に襲われかけた審神者と、その暴漢を正当防衛の範囲内で捻りあげ社会的死に追い込み審神者を救出する強くて怖い長谷部。


    【報道】
     
     政府施設内コンビニエンスストアで強盗 男を逮捕

     ×日、政府施設内コンビニエンスストアで店員に刃物を突き付け、現金を奪おうとしたとして無職の男が逮捕された。
     男は、施設に出入りを許可された運送会社の制服をネットオークションで購入し、施設内に侵入したと思われる。運送会社の管理の杜撰さ、政府施設のセキュリティの甘さが浮き彫りになった形だ。
     店内にはアルバイトの女性店員と審神者職男性がおり、この男性が容疑者を取り押さえたという。女性店員に怪我はなかった。この勇敢な男性は本誌の取材に対し「自分は何もしていない」「店員に怪我がなくてよかった」と答えた。なお、容疑者は取り押さえられた際に軽傷を負ったが、命に別状はないという―――
    4579

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    Norskskogkatta

    PAST主くり編/近侍のおしごと
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    主の部屋に茶色いうさぎが居座るようになった。
    「なんだこれは」
    「うさぎのぬいぐるみだって」
    「なんでここにある」
    「いや、大倶利伽羅のもあるっていうからつい買っちゃった」
    照れくさそうに頬をかく主はまたうさぎに視線を落とした。その視線が、表情が、それに向けられるのが腹立たしい。
    「やっぱ変かな」
    変とかそういう問題ではない。ここは審神者の部屋ではなく主の私室。俺以外はほとんど入ることのない部屋で、俺がいない時にもこいつは主のそばにいることになる。
    そして、俺の以内間に愛おしげな顔をただの綿がはいった動きもしない、しゃべれもしない相手に向けているのかと考えると腹の奥がごうごうと燃えさかる気分だった。
    奥歯からぎり、と音がなって気づけばうさぎをひっ掴んで投げようとしていた。
    「こら! ものは大事に扱いなさい」
    「あんたは俺を蔑ろにするのにか!」
    あんたがそれを言うのかとそのまま問い詰めたかった。けれどこれ以上なにか不興をかって遠ざけられるのは嫌で唇を噛む。
    ぽかんと間抜けな表情をする主にやり場のない衝動が綿を握りしめさせた。
    俺が必要以上な会話を好まないのは主も知っているし無理に話そうと 1308

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    PAST主くり編/支部連載シリーズのふたり
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    審神者視点で自己完結しようとする大倶利伽羅が可愛くて仕方ない話
    刺し違えんとばかりに本性と違わぬ鋭い視線で可愛らしいうさぎのぬいぐるみを睨みつけるのは側からみれば仇を目の前にした復讐者のようだと思った。
    ちょっとしたいたずら心でうさぎにキスするフリをすると一気に腹を立てた大倶利伽羅にむしりとられてしまった。
    「あんたは!」
    激昂してなにかを言いかけた大倶利伽羅はしかしそれ以上続けることはなく、押し黙ってしまう。
    それからじわ、と金色が滲んできて、嗚呼やっぱりと笑ってしまう。
    「なにがおかしい……いや、おかしいんだろうな、刀があんたが愛でようとしている物に突っかかるのは」
    またそうやって自己完結しようとする。
    手を引っ張って引き倒しても大倶利伽羅はまだうさぎを握りしめている。
    ゆらゆら揺れながら細く睨みつけてくる金色がたまらない。どれだけ俺のことが好きなんだと衝動のまま覆いかぶさって唇を押し付けても引きむすんだまま頑なだ。畳に押し付けた手でうさぎを掴んだままの大倶利伽羅の手首を引っ掻く。
    「ぅんっ! ん、んっ、ふ、ぅ…っ」
    小さく跳ねて力の抜けたところにうさぎと大倶利伽羅の手のひらの間に滑り込ませて指を絡めて握りしめる。
    それでもまだ唇は閉じたままだ 639

    Norskskogkatta

    PAST主麿(男審神者×清麿)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀

    今まで審神者の分は買ってなかったのに唐突に自分の時だけ買ってきて見せつけてくる主におこな清麿
    「ほらこれ、清麿のうさぎな」
    「買ったんだね」
    主に渡されたのは最近売り出されているという僕ら刀剣男士をモチーフにしたうさぎのぬいぐるみだ。面白がって新しい物が出るたびに本刃に買い与えているこの主はそろそろ博多藤四郎あたりからお小言を食らうと思う。
    今回は僕の番みたいで手渡された薄紫色の、光の当たり具合で白色に見える毛皮のうさぎに一度だけ視線を落としてから主の机の上にあるもうひとつの僕を模したうさぎを見やった。
    「そちらは? 水心子にかな」
    「ほんと水心子のこと好きな」
    机に頬杖を突きながらやれやれと言った感じで言う主に首をかしげる。時折本丸内で仲のよい男士同士に互いの物を送っていたからてっきりそうだと思ったのに。
    「でも残念、これは俺の」
    では何故、という疑問はこの一言ですぐに解消された。けれどもそれは僕の動きを一瞬で止めさせるものだった。
    いつも心がけている笑顔から頬を動かすことができない。ぴしりと固まった僕の反応にほほうと妙に感心する主にほんの少しだけ苛立ちが生まれた。
    「お前でもそんな顔すんのね」
    いいもん見たわーと言いながらうさぎを持ち上げ抱く主に今度こそ表情が抜け落ちるのが 506

    Norskskogkatta

    PAST主くり
    リクエスト企画で書いたもの
    ちいさい主に気に入られてなんだかんだいいながら面倒を見てたら、成長後押せ押せでくる主にたじたじになる大倶利伽羅
    とたとたとた、と軽い足音に微睡んでいた意識が浮上する。これから来るであろう小さな嵐を思って知らずため息が出た。
    枕がわりにしていた座布団から頭を持ち上げたのと勢いよく部屋の障子が開け放たれたのはほぼ同時で逃げ遅れたと悟ったときには腹部に衝撃が加わっていた。
    「から! りゅうみせて!」
    腹に乗り上げながらまあるい瞳を輝かせる男の子どもがこの本丸の審神者だ。
    「まず降りろ」
    「はーい」
    咎めるように低い声を出しても軽く調子で返事が返ってきた。
    狛犬のように行儀よく座った審神者に耳と尻尾の幻覚を見ながら身体を起こす。
    「勉強は終わったのか」
    「おわった! くにがからのところ行っていいっていった!」
    くにと言うのは初期刀の山姥切で、主の教育もしている。午前中は勉強の時間で午後からが審神者の仕事をするというのがこの本丸のあり方だった。
    この本丸に顕現してから何故だか懐かれ、暇があれば雛のように後を追われ、馴れ合うつもりはないと突き離してもうん!と元気よく返事をするだけでどこまでもついて来る。
    最初は隠れたりもしてみたが短刀かと言いたくなるほどの偵察であっさり見つかるのでただの徒労だった。
    大人し 1811

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    おじさま審神者と猫耳尻尾が生えた大倶利伽羅のいちゃいちゃ
    猫の日にかいたもの
    大倶利伽羅が猫になった。
    完璧な猫ではなく、耳と尾だけを後付けしたような姿である。朝一番にその姿を見た審神者は不覚にも可愛らしいと思ってしまったのだった。

    一日も終わり、ようやっと二人の時間となった審神者の寝室。
    むっすりと感情をあらわにしているのが珍しい。苛立たしげにシーツをたたきつける濃い毛色の尾がさらに彼の不機嫌さを示しているが、どうにも異常事態だというのに微笑ましく思ってしまう。

    「……おい、いつまで笑ってる」
    「わらってないですよ」

    じろりと刺すような視線が飛んできて、あわてて体の前で手を振ってみるがどうだか、と吐き捨てられてそっぽを向かれてしまった。これは本格的に臍を曲げられてしまう前に対処をしなければならないな、と審神者は眉を下げた。
    といっても、不具合を報告した政府からは、毎年この日によくあるバグだからと真面目に取り合ってはもらえなかった。回答としては次の日になれば自然と治っているというなんとも根拠のないもので、不安になった審神者は手当たり次第に連絡の付く仲間達に聞いてみた。しかし彼ら、彼女らからの返事も政府からの回答と似たり寄ったりで心配するほどではないと言われ 2216

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    軽装に騒ぐ主を黙らせる大倶利伽羅

    軽装に騒いだのは私です。
    「これで満足か」
     はあ、とくそでかいため息をつきながらもこちらに軽装を着て見せてくれた大倶利伽羅にぶんぶんと首を縦に振る。
     大倶利伽羅の周りをぐるぐる回りながら上から下まで眺め回す。
    「鬱陶しい」
    「んぎゃ!だからって顔つかむなよ!」
     アイアンクローで動きを止められておとなしく正面に立つ。
     ぐるぐる回ってるときに気づいたが角度によって模様が浮き出たり無くなったりしていてさりげないおしゃれとはこういうものなんだろうか。
     普段出さない足も想像よりごつごつしていて男くささがでている。
     あのほっそい腰はどこに行ったのかと思うほど完璧に着こなしていて拝むしかない。
    「ねえ拝んでいい?」
    「……医者が必要か」
     わりと辛辣なことを言われた。けちーと言いながら少し長めに思える左腕の袖をつかむとそこには柄がなかった。
    「あれ、こっちだけ無地なの?」
    「あぁ、それは」
     大倶利伽羅の左腕が持ち上がって頬に素手が触れる。一歩詰められてゼロ距離になる。肘がさがって、袖が落ちて、するりと竜がのぞいた。
    「ここにいるからな」
     ひえ、と口からもれた。至近距離でさらりと流し目を食らったらそらもう冗談で 738

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    緑の下で昼寝する主くり
    極の彼は適度に甘やかしてくれそう
    新緑の昼寝


     今日は久々の非番だ。どこか静かに休めるところで思う存分昼寝でもするかと、赤い方の腰布を持って裏山の大桜に脚を伸ばす。
     とうに花の盛りは過ぎていて目にも鮮やかな新緑がほどよく日光を遮ってまどろむにはもってこいの場所だ。
     若草の生い茂るふかふかとした地面に寝転がり腰布を適当に身体の上に掛け、手を頭の後ろで組んでゆっくりと瞼を下ろす。
     山の中にいる鳥の鳴き声や風に吹かれてこすれる木の葉の音。自然の子守歌に本格的にうとうとしていると、その旋律に音が増えた。
    「おおくりからぁ~……」
     草葉の上を歩き慣れていない足音と情けない声にため息つき起き上がると背を丸めた主がこちらへと歩いてくる。
     のろのろと歩いてくるのを黙って見ていると、近くにしゃがみ込み頬を挟み込まれ唐突に口づけられた。かさついた唇が刺さって気分のいいものではない。
    「……おい」
    「ははは、ごめんて」
     ヘラヘラと笑いあっさりと離れていく。言動は普段と差して変わらないが覇気が無い。観察すれば顔色も悪い。目の下に隈まで作っている。
    「悪かったな、あとでずんだかなんか持って行くから」
     用は済んだとばかりに立ち上 780

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    重陽の節句に菊酒を作る大倶利伽羅と、それがうれしくて酔い潰れる主
    前半は主視点、後半は大倶利伽羅視点です
    『あなたの健康を願います』

    隣で動く気配がして意識が浮上する。布団の中で体温を探すも見つからない。眠い目蓋を持ち上げると腕の中にいたはずの大倶利伽羅がいなくなっていた。
    「……起こしたか」
    「どうした、厠か……」
    「違う、あんたは寝てろ。まだ夜半を過ぎたばかりだ」
    目を擦りながら起き上がると大倶利伽羅は立ち上がって部屋を出て行こうとする。
    なんだか置いていかれるようで咄嗟に追いかけてしまった。大倶利伽羅からは胡乱な目で見られてしまったが水が飲みたいと誤魔化しておいた。
    ひたひたと廊下を進むと着いた先は厨だった。
    「なんだ、水飲みに来たのか」
    「それも違う」
    なら腹でも空いたのだろうか。他と比べると細く見えても戦うための身体をしているのでわりと食べるしなとぼんやりしているとどこから取り出したのかざるの上に黄色い花が山をなしていた。
    「どうしたんだそれ」
    「菊の花だ」
    それはわかる。こんな夜更けに厨で菊の花を用意することに疑問符を浮かべていると透明なガラス瓶を取り出してそこに洗った菊の花を詰めはじめた。さらに首を捻っていると日本酒を取り出し注いでいく。透明な瓶の中に黄色い花が浮かんで綺麗 3117