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    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

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    いなばリチウム

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    12月月刊主へし②
    モブ視点主へし

     審神者御用達の万事屋通りにある文具店で、雇われ店長をしております。
     元々は、審神者の素質がある、と言われよくわからないままに連れてこられたのですが、いざ調べてみれば本丸を維持するほどの力はないと分かり、しかし最早帰る場所はなく、ちょうど店主が亡くなったばかりの文具店に、住み込みという形で雇われることになりました。
     最初はあちら側の勝手な事情で振り回されることに多少腹も立ったものの、現世にそれほど執着も未練もなく、文具店というのも、売り物自体はほとんど決まったものが陳列されているだけで、私の仕事は在庫管理と品物の整理整頓、あとは日々の掃除くらいで、慣れれば気楽なものでした。売れ行きに関わらず給料は政府から貰えるので先々の不安もありません。人によっては単調で退屈な毎日に耐えられないかもしれませんが、私は趣味に割ける時間が増えたのでむしろありがたく思いましたし、政府の都合で連れてこられたにも関わらず、使えないからとそのへんに放り出されるところだったのですから、多くはない給料にも文句は言いませんでした。
     
     その日も、閑散とした店の入口で暇つぶしに本を読んでいると、引き戸がガラリと開き、若い男が入ってきました。
    「いらっしゃいませ」
     声をかけると、男はちらりとこちらを見て軽く会釈します。若い子だな、と思いましたが、よくよく見れば高校生か、もしかすると中学生くらいのあどけなさを残した少年でした。最近はこんなに若い子も審神者になるのか、と少し驚いたものの、お客さんに対して不躾か、と思い直し、視線を本に戻します。暇つぶしをするくらいですから、特別繁盛している店ではないのです。審神者業務も電子化が進んでいると聞きますし、この店のようなアナログな文具ばかり売っている場所は、いずれ用無しになるかもしれません。私が生きているうちは、そうならないよう、願いたいものですが。
     少年が店に入ると、後ろから黒い影が音もなく着いてきてました。私にはうっすらと輪郭くらいしか視認できませんが、視認できないということは、つまり、刀剣男士だと分かります。少年は振り返ると、顔を顰めて「長谷部は外にいて」と突き放すように言いました。影はそこでぴたりと立ち止まり、「しかし」と不服そうに返します。姿は見えなくとも、声を聞く程度の力は私にまだ残っていました。少年は通せんぼをするように影の前に立ち塞がっています。
    「狭いだろ。ついてこられたら、ゆっくり見られないよ」
    「それでは護衛としてついてきた意味がありません。主に何かあったら、俺は」
    「何もないって。こんな狭いところで、他に人もいないし」
    「ですが」
    「しつっこいな」
     狭くて人のいない文具店の、一応店主である私は苦笑いを零すしかありません。長谷部、と呼ばれた刀剣男士の方は丁寧な口調を崩さないものの譲る素振りがなく、少年にぴったりくっついていますし、少年の方は不機嫌そうにしているものの、その振舞いも言葉も反抗期の子供、といった風でなんだかおかしくなりました。とは言え、店の入口で押し問答されてはキリがありませんし、私も無視して読書を続けるわけにはいかず、「あの」とふたりに声をかけました。はっとしたように少年がこちらを向き、影も僅かにこちらへ体を傾けたようでした。
    「もしよければ、戸を開け放しておきますが、どうですか? 入口に立っていれば、外から誰か来ても分かりますし、店の中も見えるでしょう」
    「え、と、いいんですか? あけっぱなしで」
     少年がすっかり恐縮したようにこちらを窺い見るので、悪い子ではなさそうだな、と私は微笑ましく思いました。
    「いいんですよ。そろそろ換気しようと思っていましたし、その方がそちらも安心でしょう」
     長谷部さんの方は、表情は分からないものの、ぺこりと軽く頭を下げたようでした。
    「外で待ちます」
     少年にそう、小さく告げると、がらりと引き戸を開け、敷居を跨いだすぐそこに立ちました。
    「すみません。ありがとうございます」
     少年はそう言うと、同じようにぺこりと頭を下げ、店の奥へと入っていったので、私も再び暇つぶしの読書を続けることにしました。

     少年がレジの前に戻ってきたのは、それから十分も経たない頃でしょうか。メモ帳、ペンの替え芯がレジカウンターに置かれ、私がそれらを紙袋に入れている間、少年が財布から小銭を出しました。代金用のトレイに小銭を置こうとして、少年の視線がすぐ横のペン立てに向きました。そこには、ペンではなく、数枚の栞を差してあります。
    「これ……」
    「ああ、宜しければ、ひとついかがですか」
     それが、私の『趣味』でした。栞には、花や動物を簡単なタッチで描き、水彩で薄く色を付けています。最近では読書の方に没頭していてあまり数を作れていませんが、私は植物や動物の絵を描くのが好きでした。普段はスケッチブックに描いているのですが、小さな紙に描いてみるのも良い気分転換になるかも、と思い、自分なりに調べて作ったのがそれでした。レジカウンターの前に置いてみると時々彼のように気付いてくれる人がいて、買い物の御礼にと渡すと喜ばれるのが、私の密かな楽しみでもありました。
     そんなことを簡単に話し、「無理にとは言いませんが」と前置きして、
    「もし好きな柄などあれば、どれでもどうぞ。なければ、次いらっしゃる時に増やしておきますよ」
     何せ時間はたっぷりあって、趣味に割く時間さえも多くて飽きてきたところだし、とはもちろん言いませんでしたが。少年は悩むように数種類の栞を眺め、それからちらりと店の外にいる影に視線をやりました。そういえば、外の彼にも渡した方がいいかな、と思い、提案する前に、少年は一枚の栞を手に取っていました。
    「あの、じゃあこれ」
    「はい」
     トレイに置かれた小銭は釣銭がなくぴったりでした。商品の入った小物を渡そうとすると、少年は焦ったように栞を紙袋に入れようとします。ああ、まとめて持ちたいのだな、と分かったものの、せっかちな少年の指は紙袋の表面をつるりと滑ったので、私はそれを制しました。
    「ああ、封を開けますから、少し待って――」
    「主?」
    「うわあっ」
     ぬっ、と影が少年と私の間に割り込み、私もひどく驚きましたが、少年も飛び上がるくらいに驚いたようで、その拍子に紙袋と栞が床に落ちてしまいました。
     影――長谷部さんは身を屈めて両方を拾い、わなわなと震えている少年の前に栞を翳します。それは、藤を描いた栞でした。他にも向日葵だとか、猫や犬などを描いたものを置いていましたが、少年が最初に目を奪われてたのも、手に取ったのも、藤の栞だったのです。それは私が淡い紫を表現するのに苦労した末の自信作でもあったので、密かに嬉しく思っておりました。そういえば、資料でしか見たことがありませんが、へし切長谷部の瞳の色に、少し似ていたかもしれません。もしかして、それでその栞を? と、同じことを長谷部さんの方も思ったのか、翳した栞をまじまじと見て、「へえ」とか「なるほど」とか呟いています。対して、少年の方はみるみるうちに真っ赤になっていきました。
    「ち、ちがうから!」
    「何がですか? 俺はまだ何も言っていませんが」
    「顔に出てるんだよ! 全っ然違うからな! 別に、長谷部の色だとか思ったわけじゃないから! ただ、き、綺麗な色だなって、思っただけで」
     声は尻すぼみに小さくなっていきます。私も絵を褒めて貰ってなんだか嬉しいような恥ずかしいような、こそばゆい思いでした。私からはほとんどもやのようにしか見えない長谷部さんは、それでもはっきり分かるくらいに体を揺らして笑い、頭一つ分は身長差のある少年の手の届かない高さに栞を掲げてしまいました。少年はますます真っ赤になって「調子にのるな!」と怒っています。店の中であまり暴れないで欲しいのですが、微笑ましい光景でした。少年の顔を見れば、赤の他人の私からでも、本気で怒っているわけではないことが分かります。栞を取り返そうと手を伸ばす少年を、影はひらりと交わし、さっさと店の外に出てしまいます。
    「主は本当に、俺のことが好きなんですから!」
     愉快そうな声が、はっきりとそう言って、追いかける少年はもう首から耳まで真っ赤でした。追いかけるように店を出ていくと、外からは暫く楽しげに言い争う声が聞こえておりました。
    「別に、長谷部のことなんか全然好きじゃないし! それだって、別に、別に、日光とか、不動だって同じ色だし!」
    「そうですかねえ 俺には、俺の色の栞に見えますけどねえ」
    「っっお前、ほんと修行行ってから生意気だよ!」
     私は「ありがとうございました」を言うのも忘れてしばらく呆けておりましたが、外は既に夕暮れ。隙間風がつらい季節です。言い合いながらも、連れ添って歩き、遠ざかっていく二人が、また来てくれますようにと思いながら、そっと戸を閉めたのでした。


    おわり



    蛇足
    審神者:13~15歳くらい。10歳くらいで審神者になった。やや反抗期だけど長谷部とは両想い。
    長谷部:極。初期刀と一緒にまだ子供だった審神者に寄り添ってきた。
    文具店店主:審神者不足時代に連れてこられた一般人。連れてこられた後に実は本丸運営するほどの力がないと分かった。刀剣男士の姿はよく見えない。声は聞こえる。
    視認できない初期刀と一緒に暮らしているかもしれない。
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    Replies from the creator

    いなばリチウム

    TRAININGhttps://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

    recommended works

    Norskskogkatta

    PAST主くり編/支部連載シリーズのふたり
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    審神者視点で自己完結しようとする大倶利伽羅が可愛くて仕方ない話
    刺し違えんとばかりに本性と違わぬ鋭い視線で可愛らしいうさぎのぬいぐるみを睨みつけるのは側からみれば仇を目の前にした復讐者のようだと思った。
    ちょっとしたいたずら心でうさぎにキスするフリをすると一気に腹を立てた大倶利伽羅にむしりとられてしまった。
    「あんたは!」
    激昂してなにかを言いかけた大倶利伽羅はしかしそれ以上続けることはなく、押し黙ってしまう。
    それからじわ、と金色が滲んできて、嗚呼やっぱりと笑ってしまう。
    「なにがおかしい……いや、おかしいんだろうな、刀があんたが愛でようとしている物に突っかかるのは」
    またそうやって自己完結しようとする。
    手を引っ張って引き倒しても大倶利伽羅はまだうさぎを握りしめている。
    ゆらゆら揺れながら細く睨みつけてくる金色がたまらない。どれだけ俺のことが好きなんだと衝動のまま覆いかぶさって唇を押し付けても引きむすんだまま頑なだ。畳に押し付けた手でうさぎを掴んだままの大倶利伽羅の手首を引っ掻く。
    「ぅんっ! ん、んっ、ふ、ぅ…っ」
    小さく跳ねて力の抜けたところにうさぎと大倶利伽羅の手のひらの間に滑り込ませて指を絡めて握りしめる。
    それでもまだ唇は閉じたままだ 639

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    PAST主村/さにむら(男審神者×千子村正)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    なんだかよくわからないけどうさぎのぬいぐるみが気に入らない無自覚むらまさ
    「顔こわいんだけど」
    「……huhuhu、さて、なんででしょうね?」
    近侍の村正がいつも通り隣に控えてるけどいつもより笑顔が怖い。
    手の中には村正と同じ髪色のうさぎのぬいぐるみがある。休憩中の今は最近販売されたそれを手慰みにいじっていたのだった。
    「尻尾ならワタシにもありマスよ」
    ふわふわの丸い尻尾をつついていると村正が身体を捻って自分の尻尾をちょいちょいと触る。普段からそうだけど思わせぶりな言動にため息が出る。
    「そういう無防備なことしないの」
    「可笑しなことを言いますね、妖刀のワタシに向かって」
    刀剣男士には縁遠い言葉に首を傾げつつも村正はいつもの妖しげな笑いのままだ。わかってないなぁとやり場のない思いをうさぎに構うことで消化していると隣が静かだ。
    ちらっと横目で見てみると赤い瞳がじっとうさぎのぬいぐるみを見つめている。その色が戦場にある時みたいに鋭い気がするのは気のせいだろうか。
    「なに、気になるの」
    「気になると言うよりは……胸のあたりがもやもやして落ち着きません」
    少しだけ意外だった。自分の感情だったり周りの評価だったりを客観的にみているから自分の感情がよくわかっていない村正 828

    Norskskogkatta

    PAST主くり
    鍛刀下手な審神者が戦力増強のために二振り目の大倶利伽羅を顕現してからはじまる主をめぐる極と特の大倶利伽羅サンド
    大倶利伽羅さんどいっち?!


     どうもこんにちは!しがないいっぱしの審神者です!といっても霊力はよく言って中の下くらいで諸先輩方に追いつけるようにひたすら地道に頑張る毎日だ。こんな頼りがいのない自分だが自慢できることがひとつだけある。
     それは大倶利伽羅が恋びとだと言うこと!めっちゃ可愛い!
     最初はなれ合うつもりはないとか命令には及ばないとか言ってて何だこいつとっつきにくい!と思っていったのにいつしか目で追うようになっていた。
     観察していれば目つきは鋭い割に本丸内では穏やかな顔つきだし、内番とかは文句を言いながらもしっかり終わらせる。なにより伊達組と呼ばれる顔見知りの刀たちに構われまくっていることから根がとてもいい奴だってことはすぐわかった。第一印象が悪いだけで大分損しているんじゃないかな。
     好きだなって自覚してからはひたすら押した。押しまくって避けられるなんて失敗をしながらなんとか晴れて恋仲になれた。
    それからずいぶんたつけど日に日に可愛いという感情があふれてとまらない。
     そんな日々のなかで大倶利伽羅は修行に出てさらに強く格好良くなって帰ってきた。何より審神者であるオレに信 4684

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    極になって柔らかくなった大倶利伽羅に宣戦布告する片想いしてる主
    ポーカーフェイスの君にキスをしよう


    「大倶利伽羅」

    ひとつ呼ぶ。それだけで君は振り向いて、こちらを見てくれる。
    それだけでどうしようもなく締め付けられる胸が煩わしくて、ずたずたに切り裂かれてしまえとも思う。

    「なんだ」

    いつもと変わらぬ表情で、そよ風のように耳馴染みの良い声がこたえる。初めて顔を合わせた時より幾分も優しい声音に勘違いをしそうになる。
    真っ直ぐ見つめる君に純真な心で対面できなくなったのはいつからだったっけ、と考えてはやめてを繰り返す。
    君はこちらのことをなんとも思っていないのだろう。一人で勝手に出て行こうとした時は愛想を尽かされたか、それとも気づかれたのかと膝から力が抜け落ちそうになったが、4日後に帰ってきた姿に安堵した。
    だから、審神者としては認めてくれているのだろう。
    年々距離が縮まっているんじゃないかと錯覚させるような台詞をくれる彼が、とうとう跪座までして挨拶をくれた。泣くかと思った。
    自分はそれに、頼りにしていると答えた。模範的な返しだろう。私情を挟まないように、審神者であることを心がけて生きてきた。

    だけど、やっぱり俺は人間で。
    生きている限り希望や 1288

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    軽装に騒ぐ主を黙らせる大倶利伽羅

    軽装に騒いだのは私です。
    「これで満足か」
     はあ、とくそでかいため息をつきながらもこちらに軽装を着て見せてくれた大倶利伽羅にぶんぶんと首を縦に振る。
     大倶利伽羅の周りをぐるぐる回りながら上から下まで眺め回す。
    「鬱陶しい」
    「んぎゃ!だからって顔つかむなよ!」
     アイアンクローで動きを止められておとなしく正面に立つ。
     ぐるぐる回ってるときに気づいたが角度によって模様が浮き出たり無くなったりしていてさりげないおしゃれとはこういうものなんだろうか。
     普段出さない足も想像よりごつごつしていて男くささがでている。
     あのほっそい腰はどこに行ったのかと思うほど完璧に着こなしていて拝むしかない。
    「ねえ拝んでいい?」
    「……医者が必要か」
     わりと辛辣なことを言われた。けちーと言いながら少し長めに思える左腕の袖をつかむとそこには柄がなかった。
    「あれ、こっちだけ無地なの?」
    「あぁ、それは」
     大倶利伽羅の左腕が持ち上がって頬に素手が触れる。一歩詰められてゼロ距離になる。肘がさがって、袖が落ちて、するりと竜がのぞいた。
    「ここにいるからな」
     ひえ、と口からもれた。至近距離でさらりと流し目を食らったらそらもう冗談で 738

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    支部のシリーズに出てくるふたりのその後
    煙草じゃなくて


     昼食も終わり、午後の仕事を始める前の煙草休憩。再び癖となってしまったことに蜂須賀は顔を顰めたが、すまないとだけ言っている。
     まあ、目的は単に紫煙を揺らすだけではないのだが。
    「またここに居たのか」
    「タバコ休憩な」
     玉砂利を踏み締める音を立ててやってきたのは大倶利伽羅だ。指に挟んだ物をみせるとあからさまに機嫌が悪くなる。それがちょっと可愛く思えてどうにもやめられずにいる。
     隣に並んだ大倶利伽羅をみて刀剣男士に副流煙とか影響するのだろうかと頭の片隅で考えながらも携帯灰皿に捨ててしまう。そうするまでじっとこちらを見ているのだ。
     しっかりと見届けてふん、と鼻を鳴らすのが可愛く見える。さて今日はなにを話そうか、ぼんやりしているとがっしりと後頭部を掴まれる。覚えのある動作にひくりと頬が引きつった。
    「ちょっ、と待った」
    「なんだ」
     気づけば近距離で対面している大倶利伽羅に手のひらを翳して動きを止める。指の隙間から金色とかち合う。普段は滅多に視線を合わせやしないのに、こういうときだけまっすぐこちらを見てくる。
    「お前なにするつもりだ」
    「……嫌なのか」
     途端に子犬 910

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    菊酒をのんで酔い潰れた後日、大倶利伽羅が好きだなぁと自覚しなおした審神者と日を改めて飲み直し、仲良し()するまで。
    月色、金色、蜂蜜色


    急に熱さが和らいで、秋らしい涼やかな風が吹く。
    空には満月が浮かんで明るい夜だ。
    今は大倶利伽羅とふたり、自室の縁側で並んで酒をちびちびとなめている。徳利は一本しか用意しなかった。
    「あまり飲みすぎるなよ」
    「わかってるよ、昨日は運ばせて悪かったって」
    「あんたひとりを運ぶのは何でもないし、謝られるいわれもない」
    「じゃあなんだよ……」
    「昨日は生殺しだったんでね」
    言葉終わりに煽った酒を吹き出すかと思った。大倶利伽羅は気を付けろなんて言いながら徳利の酒を注いでくる。それを奪い取って大倶利伽羅の空いた杯にも酒を満たす。
    「……だから今日誘ったんだ」
    「しってる」
    静かな返答に頭をかいた。顔が熱い。
    以前に忙しいからと大倶利伽羅が望むのを遮って喧嘩紛いのことをした。それから時間が取れるようになったらと約束もしたがなかなか忙しが緩まずに秋になってしまった。
    だいぶ待たせてしまったとは思う。俺だってその間なにも感じなかったわけじゃないが、無理くり休暇を捻じ込むのも身体目的みたいで躊躇われた。
    そして昨日の、重陽の節句にと大倶利伽羅が作ってくれた酒が嬉しくて酔い潰れてし 1657