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    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

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    POIPOI 52

    いなばリチウム

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    12月月刊主へし②
    モブ視点主へし

     審神者御用達の万事屋通りにある文具店で、雇われ店長をしております。
     元々は、審神者の素質がある、と言われよくわからないままに連れてこられたのですが、いざ調べてみれば本丸を維持するほどの力はないと分かり、しかし最早帰る場所はなく、ちょうど店主が亡くなったばかりの文具店に、住み込みという形で雇われることになりました。
     最初はあちら側の勝手な事情で振り回されることに多少腹も立ったものの、現世にそれほど執着も未練もなく、文具店というのも、売り物自体はほとんど決まったものが陳列されているだけで、私の仕事は在庫管理と品物の整理整頓、あとは日々の掃除くらいで、慣れれば気楽なものでした。売れ行きに関わらず給料は政府から貰えるので先々の不安もありません。人によっては単調で退屈な毎日に耐えられないかもしれませんが、私は趣味に割ける時間が増えたのでむしろありがたく思いましたし、政府の都合で連れてこられたにも関わらず、使えないからとそのへんに放り出されるところだったのですから、多くはない給料にも文句は言いませんでした。
     
     その日も、閑散とした店の入口で暇つぶしに本を読んでいると、引き戸がガラリと開き、若い男が入ってきました。
    「いらっしゃいませ」
     声をかけると、男はちらりとこちらを見て軽く会釈します。若い子だな、と思いましたが、よくよく見れば高校生か、もしかすると中学生くらいのあどけなさを残した少年でした。最近はこんなに若い子も審神者になるのか、と少し驚いたものの、お客さんに対して不躾か、と思い直し、視線を本に戻します。暇つぶしをするくらいですから、特別繁盛している店ではないのです。審神者業務も電子化が進んでいると聞きますし、この店のようなアナログな文具ばかり売っている場所は、いずれ用無しになるかもしれません。私が生きているうちは、そうならないよう、願いたいものですが。
     少年が店に入ると、後ろから黒い影が音もなく着いてきてました。私にはうっすらと輪郭くらいしか視認できませんが、視認できないということは、つまり、刀剣男士だと分かります。少年は振り返ると、顔を顰めて「長谷部は外にいて」と突き放すように言いました。影はそこでぴたりと立ち止まり、「しかし」と不服そうに返します。姿は見えなくとも、声を聞く程度の力は私にまだ残っていました。少年は通せんぼをするように影の前に立ち塞がっています。
    「狭いだろ。ついてこられたら、ゆっくり見られないよ」
    「それでは護衛としてついてきた意味がありません。主に何かあったら、俺は」
    「何もないって。こんな狭いところで、他に人もいないし」
    「ですが」
    「しつっこいな」
     狭くて人のいない文具店の、一応店主である私は苦笑いを零すしかありません。長谷部、と呼ばれた刀剣男士の方は丁寧な口調を崩さないものの譲る素振りがなく、少年にぴったりくっついていますし、少年の方は不機嫌そうにしているものの、その振舞いも言葉も反抗期の子供、といった風でなんだかおかしくなりました。とは言え、店の入口で押し問答されてはキリがありませんし、私も無視して読書を続けるわけにはいかず、「あの」とふたりに声をかけました。はっとしたように少年がこちらを向き、影も僅かにこちらへ体を傾けたようでした。
    「もしよければ、戸を開け放しておきますが、どうですか? 入口に立っていれば、外から誰か来ても分かりますし、店の中も見えるでしょう」
    「え、と、いいんですか? あけっぱなしで」
     少年がすっかり恐縮したようにこちらを窺い見るので、悪い子ではなさそうだな、と私は微笑ましく思いました。
    「いいんですよ。そろそろ換気しようと思っていましたし、その方がそちらも安心でしょう」
     長谷部さんの方は、表情は分からないものの、ぺこりと軽く頭を下げたようでした。
    「外で待ちます」
     少年にそう、小さく告げると、がらりと引き戸を開け、敷居を跨いだすぐそこに立ちました。
    「すみません。ありがとうございます」
     少年はそう言うと、同じようにぺこりと頭を下げ、店の奥へと入っていったので、私も再び暇つぶしの読書を続けることにしました。

     少年がレジの前に戻ってきたのは、それから十分も経たない頃でしょうか。メモ帳、ペンの替え芯がレジカウンターに置かれ、私がそれらを紙袋に入れている間、少年が財布から小銭を出しました。代金用のトレイに小銭を置こうとして、少年の視線がすぐ横のペン立てに向きました。そこには、ペンではなく、数枚の栞を差してあります。
    「これ……」
    「ああ、宜しければ、ひとついかがですか」
     それが、私の『趣味』でした。栞には、花や動物を簡単なタッチで描き、水彩で薄く色を付けています。最近では読書の方に没頭していてあまり数を作れていませんが、私は植物や動物の絵を描くのが好きでした。普段はスケッチブックに描いているのですが、小さな紙に描いてみるのも良い気分転換になるかも、と思い、自分なりに調べて作ったのがそれでした。レジカウンターの前に置いてみると時々彼のように気付いてくれる人がいて、買い物の御礼にと渡すと喜ばれるのが、私の密かな楽しみでもありました。
     そんなことを簡単に話し、「無理にとは言いませんが」と前置きして、
    「もし好きな柄などあれば、どれでもどうぞ。なければ、次いらっしゃる時に増やしておきますよ」
     何せ時間はたっぷりあって、趣味に割く時間さえも多くて飽きてきたところだし、とはもちろん言いませんでしたが。少年は悩むように数種類の栞を眺め、それからちらりと店の外にいる影に視線をやりました。そういえば、外の彼にも渡した方がいいかな、と思い、提案する前に、少年は一枚の栞を手に取っていました。
    「あの、じゃあこれ」
    「はい」
     トレイに置かれた小銭は釣銭がなくぴったりでした。商品の入った小物を渡そうとすると、少年は焦ったように栞を紙袋に入れようとします。ああ、まとめて持ちたいのだな、と分かったものの、せっかちな少年の指は紙袋の表面をつるりと滑ったので、私はそれを制しました。
    「ああ、封を開けますから、少し待って――」
    「主?」
    「うわあっ」
     ぬっ、と影が少年と私の間に割り込み、私もひどく驚きましたが、少年も飛び上がるくらいに驚いたようで、その拍子に紙袋と栞が床に落ちてしまいました。
     影――長谷部さんは身を屈めて両方を拾い、わなわなと震えている少年の前に栞を翳します。それは、藤を描いた栞でした。他にも向日葵だとか、猫や犬などを描いたものを置いていましたが、少年が最初に目を奪われてたのも、手に取ったのも、藤の栞だったのです。それは私が淡い紫を表現するのに苦労した末の自信作でもあったので、密かに嬉しく思っておりました。そういえば、資料でしか見たことがありませんが、へし切長谷部の瞳の色に、少し似ていたかもしれません。もしかして、それでその栞を? と、同じことを長谷部さんの方も思ったのか、翳した栞をまじまじと見て、「へえ」とか「なるほど」とか呟いています。対して、少年の方はみるみるうちに真っ赤になっていきました。
    「ち、ちがうから!」
    「何がですか? 俺はまだ何も言っていませんが」
    「顔に出てるんだよ! 全っ然違うからな! 別に、長谷部の色だとか思ったわけじゃないから! ただ、き、綺麗な色だなって、思っただけで」
     声は尻すぼみに小さくなっていきます。私も絵を褒めて貰ってなんだか嬉しいような恥ずかしいような、こそばゆい思いでした。私からはほとんどもやのようにしか見えない長谷部さんは、それでもはっきり分かるくらいに体を揺らして笑い、頭一つ分は身長差のある少年の手の届かない高さに栞を掲げてしまいました。少年はますます真っ赤になって「調子にのるな!」と怒っています。店の中であまり暴れないで欲しいのですが、微笑ましい光景でした。少年の顔を見れば、赤の他人の私からでも、本気で怒っているわけではないことが分かります。栞を取り返そうと手を伸ばす少年を、影はひらりと交わし、さっさと店の外に出てしまいます。
    「主は本当に、俺のことが好きなんですから!」
     愉快そうな声が、はっきりとそう言って、追いかける少年はもう首から耳まで真っ赤でした。追いかけるように店を出ていくと、外からは暫く楽しげに言い争う声が聞こえておりました。
    「別に、長谷部のことなんか全然好きじゃないし! それだって、別に、別に、日光とか、不動だって同じ色だし!」
    「そうですかねえ 俺には、俺の色の栞に見えますけどねえ」
    「っっお前、ほんと修行行ってから生意気だよ!」
     私は「ありがとうございました」を言うのも忘れてしばらく呆けておりましたが、外は既に夕暮れ。隙間風がつらい季節です。言い合いながらも、連れ添って歩き、遠ざかっていく二人が、また来てくれますようにと思いながら、そっと戸を閉めたのでした。


    おわり



    蛇足
    審神者:13~15歳くらい。10歳くらいで審神者になった。やや反抗期だけど長谷部とは両想い。
    長谷部:極。初期刀と一緒にまだ子供だった審神者に寄り添ってきた。
    文具店店主:審神者不足時代に連れてこられた一般人。連れてこられた後に実は本丸運営するほどの力がないと分かった。刀剣男士の姿はよく見えない。声は聞こえる。
    視認できない初期刀と一緒に暮らしているかもしれない。
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    Replies from the creator

    いなばリチウム

    TRAININGhttps://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

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    PAST主くり編/近侍のおしごと
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    主の部屋に茶色いうさぎが居座るようになった。
    「なんだこれは」
    「うさぎのぬいぐるみだって」
    「なんでここにある」
    「いや、大倶利伽羅のもあるっていうからつい買っちゃった」
    照れくさそうに頬をかく主はまたうさぎに視線を落とした。その視線が、表情が、それに向けられるのが腹立たしい。
    「やっぱ変かな」
    変とかそういう問題ではない。ここは審神者の部屋ではなく主の私室。俺以外はほとんど入ることのない部屋で、俺がいない時にもこいつは主のそばにいることになる。
    そして、俺の以内間に愛おしげな顔をただの綿がはいった動きもしない、しゃべれもしない相手に向けているのかと考えると腹の奥がごうごうと燃えさかる気分だった。
    奥歯からぎり、と音がなって気づけばうさぎをひっ掴んで投げようとしていた。
    「こら! ものは大事に扱いなさい」
    「あんたは俺を蔑ろにするのにか!」
    あんたがそれを言うのかとそのまま問い詰めたかった。けれどこれ以上なにか不興をかって遠ざけられるのは嫌で唇を噛む。
    ぽかんと間抜けな表情をする主にやり場のない衝動が綿を握りしめさせた。
    俺が必要以上な会話を好まないのは主も知っているし無理に話そうと 1308

    Norskskogkatta

    PAST主くり
    鍛刀下手な審神者が戦力増強のために二振り目の大倶利伽羅を顕現してからはじまる主をめぐる極と特の大倶利伽羅サンド
    大倶利伽羅さんどいっち?!


     どうもこんにちは!しがないいっぱしの審神者です!といっても霊力はよく言って中の下くらいで諸先輩方に追いつけるようにひたすら地道に頑張る毎日だ。こんな頼りがいのない自分だが自慢できることがひとつだけある。
     それは大倶利伽羅が恋びとだと言うこと!めっちゃ可愛い!
     最初はなれ合うつもりはないとか命令には及ばないとか言ってて何だこいつとっつきにくい!と思っていったのにいつしか目で追うようになっていた。
     観察していれば目つきは鋭い割に本丸内では穏やかな顔つきだし、内番とかは文句を言いながらもしっかり終わらせる。なにより伊達組と呼ばれる顔見知りの刀たちに構われまくっていることから根がとてもいい奴だってことはすぐわかった。第一印象が悪いだけで大分損しているんじゃないかな。
     好きだなって自覚してからはひたすら押した。押しまくって避けられるなんて失敗をしながらなんとか晴れて恋仲になれた。
    それからずいぶんたつけど日に日に可愛いという感情があふれてとまらない。
     そんな日々のなかで大倶利伽羅は修行に出てさらに強く格好良くなって帰ってきた。何より審神者であるオレに信 4684

    Norskskogkatta

    PAST主くり
    リクエスト企画で書いたもの
    ちいさい主に気に入られてなんだかんだいいながら面倒を見てたら、成長後押せ押せでくる主にたじたじになる大倶利伽羅
    とたとたとた、と軽い足音に微睡んでいた意識が浮上する。これから来るであろう小さな嵐を思って知らずため息が出た。
    枕がわりにしていた座布団から頭を持ち上げたのと勢いよく部屋の障子が開け放たれたのはほぼ同時で逃げ遅れたと悟ったときには腹部に衝撃が加わっていた。
    「から! りゅうみせて!」
    腹に乗り上げながらまあるい瞳を輝かせる男の子どもがこの本丸の審神者だ。
    「まず降りろ」
    「はーい」
    咎めるように低い声を出しても軽く調子で返事が返ってきた。
    狛犬のように行儀よく座った審神者に耳と尻尾の幻覚を見ながら身体を起こす。
    「勉強は終わったのか」
    「おわった! くにがからのところ行っていいっていった!」
    くにと言うのは初期刀の山姥切で、主の教育もしている。午前中は勉強の時間で午後からが審神者の仕事をするというのがこの本丸のあり方だった。
    この本丸に顕現してから何故だか懐かれ、暇があれば雛のように後を追われ、馴れ合うつもりはないと突き離してもうん!と元気よく返事をするだけでどこまでもついて来る。
    最初は隠れたりもしてみたが短刀かと言いたくなるほどの偵察であっさり見つかるのでただの徒労だった。
    大人し 1811

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    おじさま審神者と猫耳尻尾が生えた大倶利伽羅のいちゃいちゃ
    猫の日にかいたもの
    大倶利伽羅が猫になった。
    完璧な猫ではなく、耳と尾だけを後付けしたような姿である。朝一番にその姿を見た審神者は不覚にも可愛らしいと思ってしまったのだった。

    一日も終わり、ようやっと二人の時間となった審神者の寝室。
    むっすりと感情をあらわにしているのが珍しい。苛立たしげにシーツをたたきつける濃い毛色の尾がさらに彼の不機嫌さを示しているが、どうにも異常事態だというのに微笑ましく思ってしまう。

    「……おい、いつまで笑ってる」
    「わらってないですよ」

    じろりと刺すような視線が飛んできて、あわてて体の前で手を振ってみるがどうだか、と吐き捨てられてそっぽを向かれてしまった。これは本格的に臍を曲げられてしまう前に対処をしなければならないな、と審神者は眉を下げた。
    といっても、不具合を報告した政府からは、毎年この日によくあるバグだからと真面目に取り合ってはもらえなかった。回答としては次の日になれば自然と治っているというなんとも根拠のないもので、不安になった審神者は手当たり次第に連絡の付く仲間達に聞いてみた。しかし彼ら、彼女らからの返事も政府からの回答と似たり寄ったりで心配するほどではないと言われ 2216

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    花火景趣出たときにハイになってかいた。
    花火見ながら軽装姿の嫁といちゃつくだけ
    いつもの執務室とは違う、高い場所から夜空を見上げる。
    遠くでひゅるる、と音がしたあと心臓を叩かれたような衝撃とともに豪快な花が咲く。
    真っ暗だった部屋が花の明かりで色とりどりに輝く。それはとても一瞬でまた暗闇に戻るがまたひゅるる、と花の芽が音をなし、どんと花開く。
    「おお、綺麗だな」
    「悪くない」
    隣で一緒に胡座をかく大倶利伽羅は軽装だ。特に指定はしていなかったのだが、今夜一緒にどうだと言ったら渡したとき以来見ていなかったそれを着て来てくれた。
    普段の穏やかな表情がことさら緩んでいるようにも見える。
    横顔を眺めているとまたひゅる、どんと花の咲く音ときらきらと色があたりを染めては消える。
    大倶利伽羅の金色がそれを反射して瞳の中にも咲いたように見える。ああ。
    「綺麗だな」
    「そうだな、見事だ」
    夜空に視線を向けたままの大倶利伽羅がゆるりと口角を上げた。それもあるんだが、俺の心の中を占めたのは花火ではないんだけどな。
    「大倶利伽羅」
    「なんだ」
    呼び掛ければすっとこちらを見てくれる。
    ぶっきらぼうに聞こえる言葉よりも瞳のほうが雄弁だと気づいたのは付き合い始めてからだったかなと懐かしみながら、 843

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    たまには大倶利伽羅と遊ぼうと思ったら返り討ちにあう主
    とりっくおあとりーと


    今日はハロウィンだ。いつのまにか現世の知識をつけた刀たちによって朝から賑やかで飾り付けやら甘い匂いやらが本丸中にちらばっていた。
    いつもよりちょっと豪華な夕飯も終えて、たまには大倶利伽羅と遊ぶのもいいかと思ってあいつの部屋に行くと文机に向かっている黒い背中があった。
    「と、トリックオアトリート!菓子くれなきゃいたずらするぞ」
    「……あんたもはしゃぐことがあるんだな」
    「真面目に返すのやめてくれよ……」
    振り返った大倶利伽羅はいつもの穏やかな顔だった。出鼻を挫かれがっくりと膝をついてしまう。
    「それで、菓子はいるのか」
    「え? ああ、あるならそれもらってもいいか」
    「……そうしたらあんたはどうするんだ」
    「うーん、部屋戻るかお前が許してくれるなら少し話していこうかと思ってるけど」
    ちょっとだけ不服そうな顔をした大倶利伽羅は文机に向き直るとがさがさと音を立てて包みを取り出した。
    「お、クッキーか。小豆とか燭台切とか大量に作ってたな」
    「そうだな」
    そう言いながらリボンを解いてオレンジ色の一枚を取り出す。俺がもらったやつと同じならジャックオランタンのクッキーだ。
    877

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    徹夜してたら大倶利伽羅が部屋にきた話
    眠気覚ましの生姜葛湯


     徹夜続きでそろそろ眠気覚ましにコーヒーでもいれるかと伸びをしたのと開くはずのない障子が空いたのは同時だった。
    「まだ起きていたのか」
     こんな夜更けに現れたのは呆れたような、怒ったような顔の大倶利伽羅だった。
    「あー、はは……なんで起きてるってわかったんだ」
    「灯りが付いていれば誰だってわかる」
     我が物顔ですたすた入ってきた暗がりに紛れがちな手に湯呑みが乗った盆がある。
    「終わったのか」
    「いやまだ。飲み物でも淹れようかなって」
    「またこーひー、とか言うやつか」
     どうにも刀剣男士には馴染みがなくて受け入れられていないのか、飲もうとすると止められることが多い。
     それもこれも仕事が忙しい時や徹夜をするときに飲むのが多くなるからなのだが審神者は気づかない。
    「あれは胃が荒れるんだろ、これにしておけ」
     湯呑みを審神者の前に置いた。ほわほわと立ち上る湯気に混じってほのかな甘味とじんとする香りがする。
    「これなんだ?」
    「生姜の葛湯だ」
     これまた身体が温まりそうだ、と一口飲むとびりりとした辛味が舌をさした。
    「うお、辛い」
    「眠気覚ましだからな」
     しれっと言 764