ありがと、秋声くん!「はい、これも署名が必要だってさ」
「ええ~!? まだあんの!? 無理~~~!」
机に追加で置かれた書類、書類、書類の束。減ったと思ったら追加されて仕事のわんこそば状態。駄々っ子のように両手を上げて降参ポーズの俺に、秋声君はいつものやれやれ顔をする。
「そんなこと、僕に言われても困るよ。大体、サボっていた司書さんが悪いんじゃないか」
「そうだけどさ~」
確かに、調査任務の報告書を3、4回分溜めていたり、金貨や道具の整理をうっかり数か月程怠ってネコの手と金のネコの手がごっちゃごちゃに混ざっちゃって整理に手間取ったりしたけど。いや本当に俺が悪いな。しかし、自業自得とは言え、朝からトイレ以外は座りっぱなし、食事も秋声くんが食堂から持ってきてくれたサンドイッチを片手間に食べただけで、体力的にも精神的にも疲れきっているのが分かる。窓の外はとっくのとうに真っ暗で、談話室の方から明かりが漏れているのが分かる。時折わっと笑い声があがったりして、今日もなんとなく集まった面子で酒盛りなり談義なりしているのだろう。いいなあ。俺も一杯やりたいなあと思いながら正面を向くと、処理が終わった書類を秋声くんが回収しているところだった。署名済みの書類を集めて、「え、これだけ?」と失礼なことを言っている。効率なんてとっくに落ちてるんだから仕方ない。これでもたまっていた仕事の八割くらいは数か月遅れで処理したり隠ぺいしたりして片付けたんだ。あと残ってるものも明日普通にサボらずやれば間に合うくらいの量だし。さて、残っているものといえば。
「……秋声くん、溜まってるの、手伝って欲しいなあ」
「僕が? いやだよ。大体、書類の類は司書さんの署名なしじゃ、」
「あー、そうじゃなくてさあ」
こっち来て、と手招くと、怪訝な表情を浮かべながらも書類を置いてくれる。なんてちょろくて優しい子だろう。これが太宰くんあたりだと「は? 嫌だけど」とか言ってくるので俺は普通に傷つく。しかし秋声くんは俺に手招かれるまま、机の横から回り込んで椅子の隣まで来てくれた。
「溜まってるのはこっち」
「っ、な」
ずっと座っていたし、机越しに向き合ったままじゃ気付かなかっただろう。俺の股間事情には。秋声くんが目線を落としてすぐ赤くなるくらい分かりやすく、ズボンの布が持ち上がってパツパツになっている。
「あ~あ、どうしようかな~ 仕事の続きしたいけど、めちゃくちゃ溜まってるんだよな~」
「そ、そんな、こと、僕に言われてもっ」
「困る?」
「当たり前じゃないかっ」
「秋声くんなら手伝えるのに?」
ちらっ、ちらっ、と見上げると、ぐぬぬ、みたいな顔をしていて可愛い。
「雑務を何でも処理してくれる秋声くんなら、手伝ってくれると思ったんだけどな~」
他の子呼んじゃおうかな? なんてわざとらしく溜息を吐くと、秋声くんはやっと俺の目を真っすぐに見た。決心と、戸惑いと、ほんの少しの悲しみが見える。
「なんて、冗談だよ。こんなこと言うの、秋声くんだけだって」
「……本当かなあ」
君だけだよ、と言うと秋声くんは分かりやすくほっとしている。横の髪を耳に掛ける動きはもう慣れたものだ。
「口でしてくれるの? 珍しいじゃん」
「……手だけだと、司書さん中々イかないから……」
露わになった耳が真っ赤になってる。本当は秋声くんだって、手でするより喉の奥を突かれる方が好きなんだよな。俺は優しくしたいんだけど。
「ありがと。秋声くんは本当にやさしいなあ」
「っ、こんなの、僕だって、きみだけなのに」
「ん?」
「何でもない……」
もそもそ言いながら、秋声くんは俺の足の間に座り込むと、たどたどしい手つきでスラックスに手を掛け、ゆっくりとチャックを下ろしていく。下着に指がかかり、ずらされると勃起しきった性器が顔を出す。限界だったそれは勢い良く反り返って秋声くんの鼻先をぺちんと叩いた。眉を顰めて俺を睨み上げてくる顔にはじわりと涙が滲んでいて全くこわくない。
「変態……」
「そうだね。変態だから、秋声くんが慰めてくれて助かるよ」
こんなやりとりも別に初めてじゃないので、秋声くんはそれ以上文句を言わず、勃ちあがったペニスに顔を寄せる。片手で根本を支えながら、先端をぱくりとくわえた。生暖かい粘膜に包まれると、それだけで腰が跳ねそうになる。気持ちいい。
「ん、んむ……」
秋声くんが唾液を絡ませながら頭を上下させる度、じゅぶ、じゅぶ、と水音が響いて、それが段々派手になっていく。 小さな唇から自分のものが出入りしているのを見ると、なんとも言えない気分になった。ああ、一生懸命でかわいいなあって思うし、優しくて真面目な子に卑猥なことをさせているっていう背徳感もある。
「ふっ……ぅ、んう……」
「っ、あ、あー…いい、いいよ……秋声くん……ッ」
たまに歯が当たるけど、それも刺激になるくらいだ。下手ではないけどうまいわけでもなく、それを秋声くんがしているという事実に堪らなくなる。唾液でてらてらと光る性器と唇。濡れそぼった先端から秋声くんの唇が竿に滑り、裏筋のところまで丁寧に舐め始める。
「んぁ、はふ、ん、ンぅ」
頬を上気させながら一生懸命な秋声くんの柔らかい髪に手を伸ばす。撫でてみると、ちょっかいかけるなとばかりに眉根を寄せられた。べたべたになった唇が開いて、赤い舌が覗く。また先端が口に含まれ、今度は口をすぼめてじゅる、と吸われて、竿の部分は手で扱かれた。
「うぁ、それ、やばい……っ」
じゅる、じゅるる、と下品な音が鳴って、窓ちゃんと締めてたかな? と少し不安になる。でも性器が喉で扱かれる快感で、そんな些細なことはどうでもよくなった。腰の奥がぞくぞくして、性器に熱が集まるのが分かる。
「秋声く、ごめ…っ、ちょっと、我慢できない…かも」
「ん、ぐッ!?」
撫でていた秋声くんの後頭部を押さえつけ、ペニスを喉奥に押し込んだ。苦しそうな悲鳴が上がるが、そのまま腰を揺らして何度も突き上げる。椅子の軋む音と俺の荒い息、それから秋声くんの苦悶の声が部屋に響く。
「っは、すご、秋声くんの喉、きもちい……っ」
喉奥で扱くように腰を動かす。ぬるくてきつくて心地良い。でも秋声くんの目からはぼろぼろ涙が零れていて、手は俺のスラックスをきつく掴んでる。可哀想だけど止められなかった。
「んぐ、ぇ、うぶ」
「あー……イキそう、出すよ、秋声くん…っ」
「っぐ、ん、ン~~っ!!」
ペニスを収めたまま、腰がびくびくと震える。震える度、精液が秋声くんの喉に流れ込んでいく。全部出し切ってずるりと引き抜くと、秋声くんはげほげほと派手に咽せ返った。
「うえっ、 げほっ、っう、おぇ……!」
「はあっ……はは、いっぱい出しちゃったな。ごめんね」
咳き込みながら白濁をぼたぼたと吐く秋声くんの頬を軽く撫でる。涙目で睨まれた。
「ひどい……窒息するかと、思った……」
「ごめんってば。でも、秋声くんだって気持ち良かったでしょ?」
「…………」
まだ睨んではくるけれど、素直に無言になってしまうところがやっぱり可愛い。俺はティッシュを何枚かとって、俺の出したものでべたついた秋声くんの口元を拭いてやると、大人しくされるがままだ。
「あと掃除しとくからさ、今日はもう部屋に戻っていいよ。仕事も後は俺が署名しないとだし」
「え、」
スラックスを履き直しながら言うと、秋声くんは分かりやすく狼狽えた。膝に置いた手がぎゅうと袴の布を握っている。僅かに衣擦れの音がしたのは、袴の中で内腿を擦り合わせたからじゃないだろうか。本当に可愛い。可愛いけど、苛めすぎるのは可哀想かな、と思い直して、一向に立ち上がらない秋声くんの、少し乱れてしまった髪をくしゃりと撫でつける。
「待っててくれるでしょ? 続き、したいもんな」
「っ! 僕は、別に……」
「したくない?」
「……司書さんって、ほんと、意地悪だよね」
おっと、やっぱり苛めるのはやめられなかった。だって俺の一挙一動に振り回される秋声くんはやっぱり可愛い。
「秋声くんにだけだよ」
「もう……調子いいんだから」
拗ねた顔は満更でもなさそうだ。もう一押し、と髪を撫でていた手を下ろして、柔らかい耳朶を軽く撫でる。びく、と秋声くんの肩が揺れた。
「待っててよ、ね? 秋声くんが待っててくれるって思うと、残りの仕事すぐ片付けられそうだし」
「……本当に?」
「ほんとほんと」
にっこりと笑いかければ、秋声くんは少しよろめきながらも漸く立ち上がった。
「……遅かったら、寝ちゃうからね」
「はーい」
ひらりと軽く手を振って見送ると、窓を開けて籠った空気を外に追い出す。部屋に備え付けの用具で軽く床を掃除して、手元の書類に手を付けることにした。本当は、今すぐに向かったっていいくらいの量の書類ではあるけれど、やっぱり俺は秋声くんに意地悪するのをやめられない。可愛い恋人を一人寝させるつもりはもちろんないが、一方で、心細くなる手前くらいまで待たせたら、秋声くんは怒るかな、また拗ねるかな、ああ、待ちくたびれて寝てしまったところに悪戯するのもいいかもなあ、と考えてしまう。
「……早く終わらせるか」
考えているとせっかく落ち着いたところがまた昂ってしまいそうだ。
俺は気を取り直し、部屋で待っている秋声くんに程々に思いを馳せながら、書類に集中することにしたのだった。
終